感情があるかの様に笑う男。恐怖するのはその言動より能力だ……「対〇〇」はある属性に対して有利を得ることのできる特性。体感するとマジに絶望を感じる。
聖ジョージことゲオルギウスは、竜殺しとして竜を持つ相手に対し有利を得る。その攻撃は竜の心臓を持つとされる……直接的なものではない、言うなら『弱い』竜属性を持つ騎士王アルトリアに対してでさえ、擦り傷が致命傷になり得る程のものだ。概念能力に対し物理的な防御は無意味だ。確かに攻撃自体を防ぐのなら効果はあるが、今私が相手をしている人間は私の攻撃を全て無効化し、上位互換とも言える能力を持つ。それが今私を殺しに来ているのなら。一つのミスどころではない。一秒ごとに生かすか死ぬかを決められているようなもの。生殺与奪の奪い合いは既に無い。水槽に置かれた一匹の蟻。見下ろす人間の手には殺虫剤と多量の水。今の私はそれに似る。この状況は私の反撃は無く、私が如何に死から遠ざかれるか、それだけだ。
「……さて、クロノ。この二人を殺人現行犯で訴える。被害者はシオンで、使い魔を使い拘束した上で純魔力砲を叩き込んだ。どうせ見てたんでしょ。ほら、裁判だよ」
《……見ていたのはいたが。あれだけ君を擁護してくれた二人をそう簡単に訴えるか?》
呆れたような顔と声で返答が返ってきた。
擁護したのはクロノでしょうに。
「いや、人死んでるし。原型どころかモノが無いよ。私の冤罪とは訳が違くない?」
《む……君からすればそうだろうが、今二人を失うと闇の書の事件解決に支障が……》
私から手元の資料に目を逸らし、パラパラとめくるだけの動作をするクロノ。
人手不足は相変わらずの様で、事件真っ最中に主戦力を失うのは流石に厳しい……と言ったところだろう。私もそう思う。だからこそするんだけども。
「法の番人さん。闇の書は私と守護騎士で解決する。だから放っておいて。シオンがヒントを握ってたけどそれが無くなった今、私が管理局に味方するメリットは無くて、シオンを殺されたっていう敵対する理由ができたよ」
闇の書の蒐集は結構な所まで進んでる。
このまま管理局が手をこまねいたままであればそう遠くない未来に闇の書は完成する。シオンやクロノの言ってた仮面の男の正体が私に分かってない以上、守護騎士の護衛が優先になる。
《く……しかし》
「しかしだ。オレが死ぬ訳にはいかないんだよなぁ」
「うーわキンモチワルウ……」
ズゥゥゥン、という耳障りな音と共に私の隣に着地するシオン。着地、というよりは召喚の方が近いかも。
闇の書完成がなんだか遠のいた気分だ。解決役め。
「うるせぇ黙れ。本気で死ぬかと思ったぞ」
「完全に消し飛んでたのに」
「時を飛ばしても良かったんだがな。なるべく色々な能力を使いたかった。当たる直前から今まで暗黒空間に逃げてただけだ」
シオンの能力。まだ見えない部分が多いけど、闇の書の解決になるならまだいいか……また今度見せてもらおう。
「色々使いたいってのはわかるよ。だけど暗黒空間って何?」
「オレも知らない。この世界でだと虚数空間でいいんじゃないか。使い勝手がいいわけじゃねぇからもう使わない」
「ふーん……まぁいいや。じゃあ帰ろっか」
シオンの紹介、模擬戦。多分やる事は全部終わった。じゃあ帰ろう。居続けるのも面倒くさい。
《……訴訟は取り下げる、でいいんだな?》
「うんいいよ。ごめんね」
《いや……僕としては良かったよ》
管理局が抑えられない戦力が戻ってきて何が良かったのか。あぁ二人の保身か。別に実刑取る気は無かったんだけどね。闇の書が完成するまで拘束できれば。
「それはそうと家あんのか?」
「あるよ」
「アパートか? なんなら建てるか?」
「一軒家。ちゃんとシオンの部屋は空けてるよ」
「ほー」
そりゃ楽しみだ、とシオンが零してトレーニングルームを出る。
私もまだ固まってる四人に手を振ってその後を追う。
特に待ったがかかるわけでもなかったのでしばらく転移などもせず歩く。流石管理局というか結構な広さがある。特に、誰もいない中こうやって黙って歩いてると異様に長く感じる。
「……なのはに近接を教えたのはお前か?」
先を歩きながら、振り向く事なくシオンが話し始める。
「うん」
「はぁ……まぁいいが」
「なにが?」
「お前も知ってるだろうが、この世界はオレ達の元の世界で言えば漫画やアニメの世界だって事」
「うんまぁ、そんな感じとは思ってた」
「何で干渉した? お前がそんな事を好むとは思えない」
咎めるような、意外そうな、複雑なニュアンスの問い。
今となってはシオンに隠し事をするのも容易い事だけど、そうはしない。それは前に進まない選択だから。
私の思考を肩代わりしてくれるシオンには正直に。
「……殆どはなりゆき。八神さんを助けたいのは個人的」
「はぁ……まぁいい。お前がそうしたいならそうするさ」
ため息をつきながらも、私と同じ指針を取ってくれる。
この姿勢とそれに見合う能力。このシオンなくして私はいられない。改めてそう感じさせるシオンには、感謝しかありえない。
「うん……ありがとう」
「で、だ。何が知りたい」
「アナタの能力について。何ができる? どこまでできる?」
「オレの能力は言った通り。何が不満だ」
「あらゆる能力、ってさ。なんでもできるの?」
「……意図が分からない。存在する……オレが知る能力ならなんでも、でいいか?」
私の質問の意図が読めないのか、実に曖昧な返事をしてくる。
私の行動は何かシオンの知る原作と違うのだろうか。
「戦闘以外で。私の貰った皇帝特権みたいに料理とか、そういうのも?」
「……ああ。料理だろうと裁縫だろうと可能だな。制限を見なければ万能と言って過言じゃない」
「ありがとう。帰ったらまた見せてよ、色々」
「ん。オレもこれまでを聞きたいからな。どれだけ関わったのかを」
「……ジュエルシードから、って言うなら全部かな……」
「だろうよ。ロリコンもその辺の時期に落とすだろう事はわかってる」
「別に私は。この世界を物語として見ては無いし、自分から変えようとも思ってないよ」
「だとしてもお前は。既にこの時期のなのはに近接を習得させてしまってる上、闇の書の蒐集に加担している。いいか、お前だけに言うぞ。闇の書の完成は12月24日、クリスマスの夜だ。その時点で守護騎士は闇の書に蒐集される。足りなければお前も蒐集させてもらう」
「……え?」
クリスマス? 騎士も蒐集?
「ちょっと待って。守護騎士を蒐集なんてしたら……」
「ああ。魔力体である奴らは死ぬ」
「……何それ。なによ、それ」
聞いてない。巨万の富と不治の病を同時に手に入れた気分だ。
全てを知って、それを解決出来うるシオンが、その解決を放棄する。別に私の蒐集なんてどうでもいい。そんなので八神さんが助かるならそれが優先だ。蒐集とは言え高町さんがそうだった様に時間が経てば回復はする。けどプログラムから魔力で形作られた守護騎士は文字通り全てを失う。
「それがあるべき世界だ」
「認められない。他の手段を」
「あるにはあるが、ダメだ。奴らの蒐集で持って、その絶望から闇の書は完成する」
「……結局、管理局が正しいと」
「そうだな。実際を体験した奴らの方が客観的事実を知ってる。プログラムの一部でしかないヴォルケンリッターが忘却しているんだ。奴らに聞いてみたか? 闇の書の完成はどんなものか? 誰一人として答えられない筈だ。奴らの動機だって治るかも、という憶測だろ?」
「……」
確かに、聞いた事は無かった。確かに、明確な正解として彼女らが示したことは無かった。
八神さんの足が闇の書によるものという事は確かだ。けれど、闇の書を完成させて、八神さんが真に主として覚醒すればそれが治る、というのは憶測。治るかもしれない、治すにはそれしか考えられない、という憶測。
闇の書が何代も転生を繰り返してきた事、魔力を蒐集する魔導書であり、周囲を破壊する兵器である事。
管理局と守護騎士で矛盾や食い違いはあった。違う意見で後がないと、どうしても希望的な方に寄ってしまう。当事者がそれで治ると言うのなら、それが正しいと思ってしまう。
「お前はその辺の判断が緩いからな。難問を放置したり感情だけで動くからだ。まぁ今後は安心しろ。今まで通りオレが変わってやる」
「そうだよね……うん。だからシオンに頼ってるんだから……」
「一人になって何か変わったか? オレが要らないなら別に何もしないが」
「いいや、要るよ。これからもよろしく」
「あー。そんじゃあ、後は頼む」
シオンが顔だけで振り向くと、薄い笑いを浮かべて身体を投げた。
「えっ」
ちょっとなにこれ。
「えっと……ごめんクロノ」
取り敢えず私に人を運ぶ力は無いのでモニターを開く。
《……なんだ》
「いや、シオン倒れたから私の家まで送ってくれない?」
《何があった? まさか君がやったんじゃないだろうな》
「まさか。分かんないけど急に倒れたんだよ」
《ふむ……分かった》
承諾と共に魔法陣が展開、淡い光と共に景色が変わり、自宅前にいる事を認識する。
シオンも倒れたまま送られている。すんなり送ってくれたって事は帰宅も特に問題無し、と取って良いという事だろう。
能力でシオンを運び、ベッドだけが置かれた部屋に放置。家具は起きた時に勝手に揃えてもらおう。面倒だし何がいいか分かんないから。
「ふぁ〜あ」
私も色々動いたし、問題解決の目処がついて気が抜けたのか疲れてきた。
片付けもせずベッドに入り、一切のストレス無く意識を手放した。
ボックス周回の合間なのでちょっと雑ですが……今更ですね。