死の宣告。
「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「「⁉︎」」
「オラァ!」
「ぐ……」
男が飛ぶ。圧倒的破壊力は男の頰を確実に捉え、力の限り振り抜かれた。
「させない!ウタネを殺すなんて……させるもんか!」
「ソラ⁉︎」
ここは私の世界……私か、神の送ったこの男以外は居られないはずなのに……
「おや、ソラさん。ウタネさんはあなたの敵なのでは?」
「そうだけど!殺す必要は無い!私たちが何もしなければ今まで通り仲良くできるんだよ!なんで簡単に殺そうとするの!」
来たるクリスマス。
豪華絢爛にして煌びやかな聖夜。
キリストを讃える訳でも無く、神聖なる復活を祝うわけでも無く。
ある個人は片想いを伝えるべく。ある個人は子供へプレゼントを配るべく。ある個人はこの機を逃さんばかりに商売をするべく。
個人個人が個人の目的の為だけに、その聖夜という日を利用している。
……別にそれが、悪い事だとは言わない。キリスト教徒からすれば、ある種不敬に、不快なものに映るかもしれない。だが、ここは有象無象の集合体、日本。あらゆるものから都合の良いものを都合の良い様に取り入れ、都合の悪いものを極端なまでに排除してきた東の果て。
それはそれで良いのだろう。人の命とは結局のところ、どれだけ幸福になるかという程度のものだ。その頭が中身の無い花畑だったとしても、幸福であるならそれが正解だ。どれだけ緻密な能力を持ち、正に未来を知るまでになったとしても。幸福でないなら不正解、失敗の人生だ。
……個人の価値観だが、自分は失敗だ。自己利益の為に世界を破壊していく人間が許せなかった。不快だと言うだけの理由で物事を否定する人間が許せなかった。感情と理論を分離できない人間が許せなかった。
以前は抑止された行動も、この世界、この能力であれば自由にできる。やろうと思えば、次の瞬間にも人類史を無にする事も……
♢♢♢
「ホラシオン。さっさと動いてよ。いつまで家具組み立てんの」
「うるせぇな。オレが存在を表に出せないんだから一からするしかねぇだろう」
「特典使えないの? 何も山から木を持ってくる事ないじゃない。木くず凄いんだけど」
両手にノコギリを持って二ヶ所を同時に切断するシオンと、それにより生み出される大量の木くずを眺めながらため息を零す。木くずは全て金色の揺らめきの中に吸われてるとはいえ、せめて外でやってほしい。
「業者に来られても怪しまれるだけだし、今日ははやてにプレゼント渡して戦闘だ。無駄に体力使えねぇ」
「……八神さんに?」
「ああ。バカ四人と見舞いだ」
「ちょっ! なんでそんなの許可したの! シグナム達に言ってるの⁉︎」
「言うわけ無いだろ。鉢合わせないと意味ねぇんだから」
「……それ、シオンが行くの?」
何が狙いなんだろう。鉢合わせして乱闘……なんてはずはないし。
「いや、お前が行く。オレは物作りだ。まぁ細かい事は任せる。殺意に晒されながらクリスマスを楽しめばいいさ……そうだ、コレもだ」
「……あれ、交換してなかったっけ?」
「模擬戦で使ったままだったからな。ホラ、お前の寄越せ」
「ん。やっぱこっちだよね」
「だな。鎌はデカイから使いにくいんだよ。ま、行ってこい」
そんな感じでプレゼントらしい包みを渡されて追い出される。
闇の書に関係するとなれば逃すわけにもいかないので学校へ行く事に。
「ウタネー! プレゼントは持ってきたんでしょうね⁉︎」
シオンの見る未来を想像しながら歩いていると、高級そうな黒い車……リムジンだっけ? ……の窓から金髪お嬢様が顔を出す。
「あ、うん。これ」
「オッケー! じゃあ学校終わるまで預かっておくわ。いいでしょ?」
「うん。みんなもそうしてるなら」
金髪お嬢様にプレゼントを手渡し、そのまま車に乗せてもらう。車の中にはほかのみんなのプレゼントらしいものも積んであり、シオンだけ別に用意したようだというのが推測できる。
「喜んでくれるかしらね?」
「きっと喜んでくれるよ。それにしても、テンション高いね」
「それはそうよ! 五人揃って初めてのクリスマスだもの。それに新しいメンバーが加わるかもなんだから!」
実際六人だけどね。ん? 八神さん入れるなら七人か。でもそれなら守護騎士入れて十一人。去年が金と紫お嬢様、高町さんの3人だとしたら四倍近く……人の繋がりは変化が速いねぇ。
「そんなに楽しみにしてくれてるって知ったらもう泣いちゃうんじゃないかな」
「泣きたければ泣けばいいのよ。それに、すずかの友達だもの。絶対いい子よ」
「うん……そうだね」
多分今日絶望する事になるだろうけど。一応知らない体で話しておこう。
「お嬢様、到着致しました」
「ありがと。行くわよウタネ!」
「ありがとうございました」
「いえいえ。では放課後、お待ちしております」
「お願いします」
初老の運転手さんにお礼を言って飛び出したお嬢様を追う。
放課後は全員送ってもらう感じみたいだね。その方が楽でいい。
♢♢♢
「終わり! さぁ行くわよ!」
「張り切り過ぎぃ……」
「アンタはダラけすぎなのよ! ねぇすずか!」
「えっ、あ、そうだね……?」
お見舞いに行くだけなのにまるで遠足の様なハイテンションに呆れてると何故か私が責められた。なんで?
ジュエルシードや闇の書の為に結構アクティブな事してたつもりだったんだけど……反動かな。
そういえば課題いっぱい出されてた。サボったんだろうね。
「うん、行こうなのは。今日くらい、ゆっくり楽しもう」
「……うん、そうだね」
「高町さん?」
「何?」
「……いいや、何でも」
いつのまにか消えた金髪お嬢様を追うように出て行くフェイトと高町さん。少し違和感を覚えたのだけど、多分気のせい。
放課後で浮かれた教室と比べ、名家出身四人と
クリスマスという事もあって、通り過ぎる街並みや病院は赤や緑を基調としたイルミネーションに彩られ、盛大で無価値な何かを表現していたけど、それも普通に暮らす人間には当たり前のようで、お嬢様達はもちろん、高町さんとフェイトも何も触れなかった。
それに、気になる違和感は他にもある。聞いたところでは紫お嬢様は八神さんとはそこそこ長い付き合いだそうだ。それこそ、実家に招く程に。そんな存在である八神さんについて、他の三人はほとんど知らない様だった。いくつか写真を見た程度という、本当に他人の様な。
学校に行っていないという理由だろうか。足に障害があるから? いいや、そんなことで軽蔑したり差別する人間はこの三人にはいない。それは紫お嬢様も分かってるはずだ。隠したかったのだろうか。なら何故今になってお見舞いに誘う?
いや、そもそもだ。紫お嬢様と八神さんの関係だけじゃない。紫お嬢様自体、何かおかしい。確か以前、何かがあったような……
♢♢♢
「さて……そろそろ病院に着く頃か」
家具を作り続ける事八時間。取り敢えずタンスと机、多少の小物が出来上がった。形だけつくるなら昼前に終わったんだが、バリだったり木の模様だったりをこだわり初めて作り直しを繰り返していたり色々やってたりとこんな時間になってしまった。
これから闇の書の覚醒まではなるようになってくれて構わない。誰と誰が戦闘して誰がリタイアしようとな。
原作を原作のまま、という目標はほぼ達成不可能だと認識した。
人は真実を知った時に変化する……オレが管理局に協力する理由、オレが蒐集させた理由。
何事も知ること、確認すること、実践することは大切だ。姉さんやなのは達天才と違うオレは地盤を固めていかないとな。
♢♢♢
「「「メリークリスマス!」」」
「……!」
「な……」
多種多様、そして、予想通りの感情の揺らめき。
鉢合わせなければ意味が無いというシオンの言葉通り、よりにもよって八神さんの病室で鉢合わせる。紫お嬢様が連絡してたはずなのにこうなるのは、八神さんを守ろうとした故か、シオンの言う……ここが物語の世界だから、だろうか。
「どしたん?」
「あ……すみません、お邪魔でした?」
「い、いえ……ご友人でしたか」
「い、いらっしゃい、みなさん」
警戒態勢を取ったシグナムがそれを表面だけとは言え取り除く。
見たところ、この時間にくる様な話は無くて、って感じかな。
困惑は五人と一人。三人は追い詰められた故に対処法を。二人は衝撃の事実に戸惑いを。全てを殆ど聞かされていた私はどう取り持つべきかと。
「あ、みんなは初めましてだよね、はやてちゃん。手前からアリサちゃん、なのはちゃん、フェイトちゃん、ウタネちゃんだよ」
「はじめまして。アリサ・バニングスです。いきなりお邪魔してごめんなさい。せっかくクリスマスだし、すずかの友達だっていうからサプライズだって」
アリサが頭を下げ、いかにもお嬢様らしい……ようで、小学生並の思考をのぞかせる。
「ええんよ、来てくれてありがとな。なぁみんな?」
対して八神さんは笑顔で守護騎士に振る。悪意は無い。
「……」
「ええ、こうして時間を取って頂いたようで。むしろ感謝します。大したおもてなしはできませんが、寛いでください」
「なんやシグナム、そんな事言うんやな?」
「い、いえ……私どもからすれば客人であるので」
「それに、ウタネちゃんは久しぶりやもんな? この前はありがとうな」
「「⁉︎」」
高町さんとフェイトが首の骨を折らんばかりに振り返って私を見る。守護騎士と蒐集活動してたんだしそりゃ知ってるよ。その辺考慮が足りなくない? でもまぁ、私が話してないって言うのが伝わったかな。
「うん、久しぶり。ごめんね、学校とか色々あって中々来れなくて」
「モンブラン、美味しかった〜! 今度良かったらレシピ教えてくれへん?」
「あ、口に合って良かった。でも作り方は……わかんないんだよね」
「わからへん?」
「忘れちゃって……でもまた作ってくるよ。私も作り方知りたいから」
「???」
私の不思議な言い方に疑問符を浮かべる八神さん、とその他。
そりゃあそうだろう。作り方を忘れたと言いながら同じものを作ってくると言い、終いには自分も知りたいなどのたまっている。
知ったら料理の概念が崩れるだろうな……モンブラン(栗なし)に肉や魚、野菜を含めふんだんに使っているなんて……しかも栗の味や香りがする。意味が分からない。
「あ、そうそう、はやてちゃん」
「ん?」
せーの、と息を合わせ、金紫お嬢様が手にしたコートをめくる。
その中には車に乗っていたプレゼント。それに続いて高町さんとフェイトもプレゼントを差し出す。
「お〜! これ私に?」
「もちろん!」
「ありがと〜」
笑顔で渡すお嬢様方と、部屋に入ってからヴィータに一生睨み付けられてる高町さんとその影にいるフェイト。
「あ、私もこれ。多分大したものじゃないけども」
思い出した様にシオンに渡されたプレゼントを渡す。
「え、ウタネちゃんも? この前あんな立派なもんもろたのに」
「いいのいいの。要らなかったら捨てる。私との関係はそんな感じでいいでしょ」
「嫌や。もっと仲良くしよーや」
「じゃあ受け取って。断られたら帰るから」
「む……じゃあしゃあないな」
「はやてちゃん……その言い方だと失礼になりますよ……」
「あ」
シャマルが見兼ねたように割り込んでくる。
八神さんはハッとして口を押さえるが、日本語弱者の私には何が何だか。
「シャマル、そう言った口出しをするな」
「ええよシグナム。間違いは直してかないかんからな。ごめんなウタネちゃん」
「……? いい、よ? 私も別に気にならなかったし」
どこが間違ってたんだろ……ダメだな、シオンがいないとその辺も分からないや。
「あ、じゃあみなさん、コートを預かるわ」
「「「はーい」」」
シャマルがみんなのコートをハンガーにかけていく。
ヴィータは動かず、こちらを睨んだまま。
「……通信阻害を?」
「……シャマルはバックアップのエキスパートだ。この程度、造作も無い」
「……それに、ウタネは知ってたんだ。闇の書の主を」
「……そりゃあね」
「……なんで教えてくれなかったの?」
「……八神さんの生活を崩す訳にはいかない。その点に関しては必死だった」
「……でも、闇の書を解決しないと」
「……その為に管理局は八神さんを殺す。それは望む所じゃない」
小声でシグナム、フェイトと話す。
戦闘も出来ず、管理局に連絡も取れない以上、情報を得ようという判断だろう。
……五対ニの状況下だというのに。
八神さんとお嬢様は楽しそうに話しているが、ヴィータは高町さんを睨みまくり、高町さんはそれに怖気付いている。
「あ、そうだ紫お嬢様」
「なに?」
「何かするの? プレゼント渡すだけ?」
「んー、別に何か考えてたわけじゃないけど……少しはお話していこうかなって」
「じゃあ、飲み物買ってくるよ。ヴィータ、一緒に行こう?」
「なんでアタシが」
「ええやんヴィータ。モンブランのお礼やで」
「はやてが言うんなら……仕方ねぇ」
嫌がっていたけど八神さんの後押しもあってヴィータと病室を出る。
「……何のつもりだよ」
開口一番。ほかの人に気を使う事なく話してくるヴィータ。
管理局の高町さん達にバレた以上、どこで聞かれても知った事じゃないって感じかな。
「別に。高町さんが萎縮してたから」
「違う。管理局を引き連れてどーしよーって聞いてんだ」
「……偶然だったと言っても信用できないよね」
「当然。アンタは本当に闇の書の為に動いてくれてた。多少なり信用してんだ。だからこそ聞きてぇ」
「……シオンに言われたんだ」
「あ? シオンってあの……アンタにそっくりの?」
「うん。なんでも、今日高町さん達と守護騎士が鉢合わせるのは必然だったんだって。シオンがどこまで考えてるかわからないけど、解決法を知ってる。シオンの予定をズラすわけにもいかなかったんだ」
「なんだよそれ……昨日今日で出てきた奴に動かされんのかよ」
「シオンはねー、高町さん達より古い知り合いなんだよ。私の頭脳、参謀みたいな。だからさ、信じて欲しい。この事件、辛い事や苦しい事もあるけど、絶対に救われるって。管理局以上に根拠無いけども」
「……管理局にバレて、アンタもそっち側だ。そんな話は信用できない」
「高町さん達は貴女達が思ってる以上に平和的解決を願ってるよ。まぁでも、情熱だけで方法は全くだけど。それにね、私はまだ、管理局側じゃない」
これだけは絶対。頑として言う。私は如何なる組織にも付く気は無い。
例え親を殺した犯人を捕まえてくれても、娘を殺すと脅されても、全世界に狙われる事になっても。人が作る世界に入って行く気は無い。今はあくまで、人として生きていく以上、仕方のない事で。
正しい、間違いでの秤には無い。そんなのはどうでもいい。
私が知りたいのは、意味が、価値があるのかどうか。人が生きていく意味はあるのか。人間が存在する価値はあるのか。
私はノー。だからこそシオンに任せてきた。だからこそ、この世界で人として生きることを選んだ。その答えを確信するまでは、人として生きてやろうと。その答えが見つかるまでは、人でいてやろうと。
「まぁ、そんなのはどうでもいい。はやてを攻撃はしないんだろ?」
「うん、絶対では無いけどね。高町さんやフェイトはこの集まりが終わってから戦う気だと思う。管理局のお偉いさんが八神さんを知れば直接攻撃もあり得るけど……通信阻害が十分なら大丈夫だと思う。というか、私がガードしてるから物理や魔法じゃ傷一つつけられない」
「分かった。一応警戒はするけど、それは信用する。はやての楽しみを邪魔したくねーからな」
「だよね。八神さんには元気になって貰わなきゃ」
「ああ」
「じゃあそういう訳で、ジュース買って楽しもう。何飲みたい?」
「んーそうだなぁ……」
自販機に着いた私たちは、お札を数枚入れ、交互にボタンを押していく。
部屋に戻ってジュースを配り、また2時間ほど遊んで解散、という流れになった。
♢♢♢
「よークロノ。順調か?」
病院に行くのを後回しにし、クロノ邸……ハラオウン邸? わかんねぇけど、クロノに会いに。
「っ! シオンか……何の用だ。帰ってくれ」
何か作業をしていたらしく、そそくさとモニターを閉じ、資料を纏めるクロノ。
チラッと見た感じ闇の書のデータだな。原作より遥かに情報収集が遅れているようだ。そのくせ闇の書は原作と比べられないくらいパワーアップしてんだから笑えねぇ。オレのせいだが。
「そう邪険にすんなよ。
「おい!」
「なんだよ、殺してほしいのか?」
「言い方だ! 読み方か? ……どっちでもいい!」
「……はぁ? ナニイテンダ?」
クロノの隣に腰を下ろす。
何もせず座らせたところを見るとそう嫌われては無いのかもしれない。
「もういい! で、本当はなんだ」
「状況確認だ。ユーノは?」
「……君の情報を信じて僕の師匠とは会わないようにして、単独で無限書庫で調べてもらってる。君が来てからの話だから、殆ど何も出てきてないけどな」
「そうか。まぁいい。で? リーゼ達には何か言ったのか?」
「……いいや。向こうも別にバレてる様な感じじゃ無い。まだ尻尾も見せてないつもりだろう」
「お前としては信じたくねぇよなぁ」
「……だが、仮面の男の能力などを考えると辻褄が合う。取り敢えず、今フェイト達に通信が通らない。何かあるのか?」
クロノが聞く様な感じで苦情を訴えてくる。大方オレが何かしてると思っているのだろう。確かシャマルなんだけどな。まぁだが、病院内……無関係な人間がいる間は互いに何もしないだろ。ほっとけばいい。
「さぁ? オレの見る限り重要事項からは外れてる。今は師匠さんの対策を講じる方が優先だ。なんなら、オレがやるが」
「それならもう出来ている。一切不要だ」
「ほう?」
「精進しろ、それが師匠の言葉だからな」
クロノが愛機であるS2Uを握る。クロノほど情に厚い人間が師匠を敵に回した感情は理解できないが……何かしらの葛藤があるんだろう。
「それは変わらねぇんだな」
「ん? なんだ?」
「いいや。そろそろ日が沈むな……そろそろだ」
辺りはもう暗く、小学生の集まりにしても病院の面会時間にしても丁度良い。この後数分後……オレのひとまずの目標が達成される。
「……?」
「いいかクロノ。やるか、やらないかだ。変な加減をするくらいならオレがやる。師匠だからと躊躇うな。敵は敵だ」
「……ああ。法の番人は反逆者を許さない」
決意を新たにしたクロノ。
それを聞くとハラオウン邸を出て、病院へ足を向ける。もう戦闘は始まっているだろうか。いいや、クロノが待機という事はまだだが、急いだ方がいいな……
♢♢♢
「……主を知られたからには、覚悟する必要がある」
「はやてちゃんのお友達でも……」
ヤバめ。
病院の屋上。ひたすらに高いこの建物は多少何かあった程度では周囲の目に止まらない、絶好の戦場と言える。
「待って! 私たちは……はっ!」
「てやぁぁぁぁぁぁ!」
説得しようと前に出た高町さんがヴィータに弾き飛ばされ、フェンスに激突する。
「なのは!」
「……何を待てというのだ。我らの悲願はあと少し」
「テメーらに何の策もねぇのは知ってる。誰も殺しやしねーんだ」
「闇の書を完成させればいいだけなんです。その後は何もしませんから……」
「……!」
守護騎士が戦闘装束を纏う。先程までの柔らかさは無く、ただ此方を殺す事のみを目的としてる。もちろん、私もその対象だろう。
「ウタネは約束を守ってくれていたようだが……もはやそうも言っていられん」
「私の通信妨害エリアから、もう出す訳にはいかない」
全力の守護騎士三人相手に、魔法の使えない弱者一人と実力的には劣る二人。
此方が平和的……互いの生存を目的とするのに対し、向こうはこちらを消す気でいる。さてさて、どうしたものか……
「もうウタネにも頼らない。だからもう、管理局は完全に敵だ」
「はやてのために手を汚したくは無かったけど。はやての命には変えられない……変えられないんだ!」
ヴィータがカートリッジをロード、炎熱変換の魔力付与で高町さんを叩く。
爆発と共にフェンスごと焼け、煙が上がる。
……コンクリートと鉄が、焼けてる。ヤバい。
「シグナム! 管理局の闇の書のデータは、その結果を示してる! 闇の書はただの兵器なんだ!」
「……テスタロッサ。私がウタネとやる前にお前と出会っていたならば、容易くその首を落とせただろう。お前たちと私たちの差は、カートリッジだけのものではない」
「埋めてみせます。はやてを助けたいのは、私たちも同じだから!」
「ぽっと出が……知った風な口を!」
シグナムが炎を散らす。デバイスは連結刃。やはり、剣を使う事に抵抗があるようだ。
ぽっと出は……シオンの事も含んでるかな。
「ザフィーラ! 私たちでウタネちゃんを止めるわよ!」
「ああ!」
援護系の二人は私を狙うようだ……面倒だな……ザフィーラはいつ来たんだよ。
負けないまでも、こちらの火力も足りてない。やっぱり私は引き伸ばし役か。
「ふぅ……いいよ、じゃあ……やろうか」
今朝手にしたばかりの鎌。私の体格や筋力に不釣り合い過ぎるコレは、結果的には私の力不足を補ってくれる。
……!
「違う! 高町さん!」
「えっ!」
「……えっ! バインド⁉︎」
高町さんに警戒をと叫んだ直後、薄い紫のバインドが高町さんを拘束する。
「なのは……くっ!」
それを見たフェイトはシグナムと距離を取り、周囲警戒に入る。
「……そこ!」
フェイトがある空間へ斬りかかり、歪んだ空間から数ヶ所斬られた仮面の男が出てくる。
でもダメだ。
「フェイト! 二人目!」
「分かってる!」
フェイトの背後から蹴りかかった二人目を十分な余裕を持って回避した。
……シオンの言う通り、私が見た通り、仮面の男は二人組。
遠近を互いに補い合うことで完璧なコンビネーションを確立していた。
「う……っ」
遠距離の方の男が指を弾くと、この場にいる全員が高町さんと同じようにバインドされる。
「何を……」
「っ、いつのまに⁉︎」
近距離の方の男は闇の書を取り出し、蒐集を始める。
……シオンの言う通り、守護騎士を。
「そんな……」
「……闇の書の足りないページは、用済みとなった守護騎士自らが埋める……過去にも幾度かあったはぶっ……!」
蒐集途中で近距離の方の男が吹き飛ばされる。
「出しゃばんなっつったよなぁ。代わりはしてやるってよ」
「シオン……」
「ああ、勘違いすんなよ、ヴォルケンリッター。お前らを助ける気は無い。気に入らねぇだけなんだよな、コイツらのやり方がなぁ……クロノ」
「「ぐ……うわぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎」」
仮面の男二人がバインドされ変身時の様な光を放つ。
そこには猫耳の女性が二人いた。
「やはり君たちか……リーゼロッテ、アリア」
「ク、クロノ……!」
「いつから気付いて……」
「正直僕だけじゃ難しかっただろうな。だが、復讐の連鎖は断たなきゃならない……例え、実の親を殺されていてもな」
「「……!」」
女性二人が恨めしそうにクロノを睨む。
しかし抵抗は無駄と判断したようで、特に何か反撃をする様子も無い。
「じゃあ死ね。お前らはオレの忠告を無視した。闇の書のページを埋めてくれ」
「「……ぅあああああああああああ!!!」」
先程の再現……バインドされたまま蒐集される体験をさせられる女性二人。
数秒の蒐集の後、二人はがっくりと意識を失ったようだった。
「……シオン、後は大丈夫なんだろうな」
「ああ」
「では任せる。ここまで大きな事件の主導権を握る条件だ。人的被害を出せば指名手配は免れんと知れ」
「硬いねぇ」
クロノは二人を連れて移動し、それ以降はシオンに任せる様子。
「く、この!」
「動くな」
「……!」
バインドブレイクした守護騎士、高町さん、フェイトを瞬時に再度拘束するシオン。その強度は仮面の男以上のようで、シャマルやザフィーラでさえ苦戦していた。
「さて……じゃあお前らもだ。闇の書完成のために……おっと、そうだそうだ」
「……?」
守護騎士に闇の書を向けたシオンが何かを思い出した様に本を閉じ、魔法陣を展開する。
白く輝くそれは、私の勘にアラートを鳴らすには十分な悪意を感じさせた。
「ダメだ!」
「ダメじゃねぇ。こうしないと意味が無い」
「シャマル! 早くバインドブレイク! あなた達は逃げて!」
「え……」
「もう遅い……よう。クリスマスは楽しかったか」
「ウタネ……ちゃん?」
「はやて⁉︎」
「はやてちゃん⁉︎」
魔法陣には八神さんが座ったまま召喚された。
ヴィータとシャマルが叫び、周囲の状況に八神さんが理解し始める。
守護騎士が蒐集活動をしていたこと、高町さん達が魔法関係者であったこと、私が……二人いること。そして、これから起こること。
どこまで理解できるかはわからない。この場の全員が理解できるはずもない。
それでも、仮面の男の代わりをするという事は、守護騎士の蒐集。
「このクリスマスは忘れられないクリスマスになる。お前の人生を一変する日だ」
混乱する場を置いてきぼりにして、闇の書を再び開くシオン。
「ちょっ! 何してん⁉︎ウタネちゃん⁉︎」
「ヴォルケンリッターの蒐集だ。これで闇の書のページは埋まる。クソ猫の分が無ければ危なかったな……良かった良かった」
「何も良くない! 苦しんでる! やめて!」
「断る。ほら、もう現界していられない。この場にヴォルケンリッターは不要だ」
「……!」
蒐集終了。守護騎士は跡形も無く消えてしまった。つまるところ……死んでしまった、のだろう。
「う……ぁ……ああ……うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「はやてちゃん!」
「はやて!」
八神さんの足元にあった白の魔法陣が闇に染まる。
「おめでとう、闇の書。ようやく死ねるぞ」
法外な魔力が爆発する。
闇色の柱の中に八神さんが放心状態で浮かんでる。
「われは闇の書のあるじなり……われにちからを。ふういん、解放」
八神さんの手に闇の書が握られる。
闇の書から魔力が通い、八神さんの体格が変わっていく。
手足は伸び、それ相応以上に絞られた筋肉。髪は白く伸び、手足にはベルトや謎のライン。
鋭く開かれた目は紅く。背には黒い羽。
「あぁ……また、全てが終わってしまった……一体幾たび、こんな悲しみを繰り返せばいい……」
超近距離で見ていた私は……他の三人がどう思ったかは知らないけど……それを、綺麗だと思った。
「はやてちゃん!」
「はやて……!」
「おい! なのは、フェイト! 退避だ! 回避距離を取れ!」
「「……!」」
頑なに悪役ヅラしてたシオンがバインドを解き、退避を指示する。
その矛盾した行動に理解が及ばないのか、二人は留まったままだ。
「我は闇の書……我が力の全てを……」
闇の書のページがめくられ、魔力の収束が始まる。