「わかんないね!転生させるならまだしも、完全に殺すのは見過ごせないから!」
「……その結果として、あなたも死んでしまうとしても?」
「そうだよ!私の手の届く範囲で誰かが死ぬのは許せない!特異点でだって、私はぐだにもえっちゃんにも、カルデアの誰にも、敵にだって殺させてない!」
人類史を護る抑止力とは言え、誰一人として殺さない心情は特異なことだ。それも、生きながらにして抑止力となり、『死ぬ事無く』転生しているソラだからこそかもしれない。
決して終わりを認めないソラと、決して存続を許さない私たち。正反対であるからこそ分かること、信用できることもある。私がどんな才能、聖人であろうと構わず殺そうとするように、ソラはそんな私でさえ救おうとしてるんだ。
「……では仕方ありませんね。貴女の死、初体験は貴女自身ーー」
「っ!」
根源の死神が足を運び、ソラが構えを取る。ソラの全力の突きは確かに命中した……自身の終わりに対しては、傷の回復も早くなるのか……
「我が力の全てを……」
法外なまでの魔力収束。
異常な魔力の放出はそれ自体で異質であり、結界を構築していった。
掲げた右手の先には色彩を失った世界でなお巨大化していくピンク色。
「フェイト! さっさとしろ! なのはを連れて距離を取れ!」
「……! なのは!」
「でも!」
自身で直接受けたフェイトはシオンの警告を確かなものと感じたようで、嫌がる高町さんを無理矢理連れて離れていく。フェイトの速度でもアレを避けきるには足りない。
「シオン! 私は⁉︎」
「お前もだ! オレがガードする! 奴らと安全圏まで退避してろ!」
「一人で戦うってこと⁉︎」
「行け!」
シオンが議論する暇はないとばかりに突き放す。
確かに闇の書の収束魔力は高町さんのそれを遥かに上回る破壊力を感じさせる。魔力量で言えばまさに桁が違う、と表現できる。
私の勘では何故か高町さん達が倒れてる。私でもシオンでもない。シオンがまさか二人に攻撃を向けるなんてないし、防ぎきれなかったならシオンも私もアウトなはずだ。
なら、この攻撃の後に何かある。そしてそれを変えられるのは私。
今は……闇の書に敵対しよう。
言葉はいらない。私の行動ならシオンはそれを汲み取ってくれる。今はただ二人を守りに行こう。
♢♢♢
「フェイトちゃん⁉︎こんなに離れなくても!」
「なのはが思ってるより強力なんだ! しかもなのはの何倍かはある! もっと離れなきゃ……」
太陽とも見まごうほどの輝きを背後に、フェイトは全力で飛ぶ。
かつて自身で受けた魔法。その火力は目視だけで絶望する。
「あれだけの魔力、海鳴全体が射程になっててもおかしくない……」
「そんなっ!」
自分の予想は恐らく正しい。フェイトはそう確信しながらも自分が勝つ未来を予想できない。敵を理解した上で、勝機が見出せない。
《前方、150ヤード程に一般市民》
「「!」」
バルディッシュからの警告。
恐らく結界に取り残されたのだろう、この場合、早めに探知できて良かったと言うべきか、自分たち含め全滅を覚悟しなければならないか。
恐らくはシオン達が防いではくれる。しかしどこまでできるか分からない。アレを半分まで減衰させたとしても、カートリッジマガジン一本分でようやく防げるかどうかというレベルだ。
「……なのは、このあたり」
「うん」
なのはを降ろし、一般市民の探索を始める。
急がないと防御に回る暇すら無くなる。クロノではないけど、人的被害だけは避けなければならない。
「っ、あのー! すみませーん! 危ないですから、そこでじっとしててくださーい!」
なのはが一般市民を見つけたようで、声を上げる。
その先には二人、逃げる様に走っていたようだった。
「なのは……?」
「フェイトちゃん……?」
取り残されていたのは、よりにもよってアリサとすずかだったようだ。
見られてしまった……と言っている場合ではない。収束時間から考えてもう時間が無い。この場で一度攻撃を受けるしかない。
「なのは!」
「うん!」
「二人とも、そこでじっとしてて!」
二人を簡易防御陣へ、その前でシールドを張り、さらにその前でなのはが。シオン達次第だけど、少なくともアリサ達へのダメージは防げるはず。
「二人とも! もっと逃げ……お嬢様⁉︎」
「ウタネ⁉︎アンタまで⁉︎」
ウタネが必死な様子で走ってきた。
「取り敢えずここは私に任せてもっと遠くへ!」
「シオン一人残してきたの⁉︎」
「それが狙いらしかったし、そんなのいいから早く!」
ウタネはフェイト以上に警戒しているのか、より遠くへの退避を指示。
「ウタネちゃんも……」
それを見たすずかは複雑な表情で三人とピンク色を見る。
「紫お嬢様……黙っててゴメン。私はまた別のだけど、この二人は魔法ってやつを使ってる」
「ウタネ! それ言っちゃ……」
「いいの。二人は信用していいと思ってるし、隠して問い詰められるの方が面倒だ」
秘密主義、他人任せが基本スタイルのウタネがここまで自分から動いたことは今までになかった。あくまでもその場の流れの延長で動く事はあっても、周りを否定してまで自我を押し通す事は。
「高町さんでもアレは防げない! シオンが止めてくれるだろうけど、その後が怖い! 確実な射程外に逃げて!」
「その後……?」
ウタネの言に困惑を示した直後。ついにリミットを迎えた収束はこちらに向かって放たれる。
それは真っ直ぐに向かうのではなく、発射から少しした場所から放射状に散っている。散ったそれぞれがディバインバスターを超える火力を持つだろう事は容易に想像できた。そして、それをしているであろうシオンの現状についても。
「シオン……」
ウタネが声を漏らす。
いかに信頼が厚いとはいえ、アレを任せてきた事が気にかかるのだろう。
たっぷり10秒程の時間をかけて消費された魔力は結界内に充満していた。第二弾をすぐにでも、という程に。
「次じゃない! 上!」
「「……⁉︎」」
ウタネの声に反応して上を見る。そこには既に大量の、赤黒いクナイの様なものが大量に展開されていた。
この数はもはや対処不能。込められた魔力は容易に防御を貫通するだろう。
なのはを見ても、焦りより絶望が勝っているという感じだ。
ウタネはもちろん、この場で一番堅いなのはですら持たないだろうという中、魔導師二人の判断は同じ行動を起こしていた。
一般市民二人、アリサとすずかを守っていた防御陣を更に強化する、という事。覚悟していた自分たちとは違う、ただ巻き込まれただけの二人は守り抜こうとした結果だった。その行動はクロノの信念に沿うものであり、リンディの言う管理局員としての覚悟を十分に満たしたものだった。
「ちょっ! 何してるのよ!」
「後はウタネに。無事生き残ってね……」
「フェイト⁉︎なのは⁉︎」
アリサの悲鳴も、クナイによる絨毯爆撃の中にかき消された。
「「きゃぁぁぁぁぁぁあ!」」
防御陣で防御されているとは言えその衝撃や爆破音は容赦無く少女二人の身を叩く。
そして、攻撃が終わり、爆炎が残るまでになると周囲を見回す余裕ができる。
「うそ……」
傷だらけになったなのはとフェイトが地面に倒れ、ウタネは身体の一部が欠損し血を流している。
ほんの少し前まで談笑していた思い出は遥か昔のように、心を絶望が覆い尽くしていく。
「三人は……私たちの為に、力を使ってくれたんだよね……」
「すずか⁉︎」
「魔法なんていう力と、その秘密を守りながら……それでも最後は、教えてくれたよね……ウタネちゃんは、私の正体にまで迫っていたのに、信用できるって……普通に接してくれてたよね……」
すずかが防御陣の外へ出る。流れる涙も、全てが無意味と拭い去る。
先程まであったピンクの球体、それがあった場所を殺意を込めて睨む。
薄く、薄く。月の姫より遥かにヒトに近付いたとはいえど。同系統に似たその能力。意味を持つ夜であれば、何でもない昼間より力を発揮できる。即ち、時間逆行の魔法。
自分の為ではなく、傷付いた友人の為、この街の為。巻き込まれてしまった自分の責めて。
「……消えろ」
冷たい呟きと共に、世界は再び繰り返す。
前回長めだったので短く。