「断る!なら私を殺せ!」
対終末の対象外である為、私より少しだけ勝機はあるものの、ソラでさえ不利と言える相手だ。それでも、ソラは退こうとしない。
無理だ……彼に逆らうことは……
【責務」「を」「果たせ】
「……⁉︎」
くるりと彼に背を向け、壊れた扇風機のような歪な動作で私へ向き直るソラ。その表情には困惑のみ。自分の身体が動かせないのが理解できないのだろう。
「ウタネ……」
「ソラさん。あなたは、ただその責務を果たすだけ。抑止力としての働きは、人類を脅かすものを排除すること」
「二人とも、そこでじっとしてて!」
二人を簡易防御陣へ、その前でシールドを張り、さらにその前でなのはが。シオン達次第だけど、少なくともアリサ達へのダメージは無かったはず。
「四人とも! もっと遠くに離れて!」
「ウタネ⁉︎アンタまで⁉︎」
ウタネが必死な様子で走ってきた。
「取り敢えず防御は諦めて! ここは私に任せてもっと遠くへ!」
「シオン一人残してきたの⁉︎」
「どう対策する気だったのか知らないけど、そんなのいいから早く!」
ウタネはフェイト以上に警戒しているのか、より遠くへの退避を指示。
「ウタネちゃんも……」
それを見たすずかは複雑な表情で三人とピンク色を見る。
「紫お嬢様……黙っててゴメン。私はまた別のだけど、この二人は魔法ってやつを使ってる……って、言わな……?」
「ウタネ! それ言っちゃ……?」
「いや、まぁいいや。広めたら殺すだけだし」
秘密主義、他人任せが基本スタイルのウタネがここまで自分から動いたことは今までになかった。あくまでもその場の流れの延長で動く事はあっても、周りを否定してまで自我を押し通す事は。
「じゃなくて! 高町さんでもアレは防げない! アレはシオンが止めてくれるだろうけど、その後が怖い! 確実な射程外に逃げて!」
「その後……?」
ウタネの言に困惑を示した直後。ついにリミットを迎えた収束はこちらに向かって放たれる。
それは真っ直ぐに向かうのではなく、発射から少しした場所から放射状に散っている。散ったそれぞれがディバインバスターを超える火力を持つだろう事は容易に想像できた。そして、それを至近で防御しているであろうシオンの現状についても。
「シオン……」
ウタネが声を漏らす。
いかに信頼が厚いとはいえ、アレを任せてきた事が気にかかるのだろう。
たっぷり10秒程の時間をかけて消費された魔力は結界内に充満していた。他の魔力を隠すように。
「次じゃない! 上!」
「「……⁉︎」」
ウタネの声に反応して上を見る。そこには既に大量の、赤黒いクナイの様なものが大量に展開されていた。
この数はもはや対処不能。込められた魔力は容易に防御を貫通するだろう。
「いいよ。私がやる。はぁっ!」
「すずかちゃん⁉︎」
「すずか⁉︎」
しかしそれを覆す人物が存在した。
防御陣から飛び上がり、片腕一振りで全てのクナイを爆散し、実質的にダメージをゼロにした人物が。
「紫お嬢様、やっぱり……」
最前にいたなのはより前に着地したすずか。
場が困惑する中で、唯一答えに辿り着いた事のあるウタネが声を漏らす。
「ごめん、ウタネちゃん。ちゃんと話すのが怖くって、前は逃げちゃったの。でも覚悟できた。みんなが話してくれたから、私もちゃんと話そうって、思えたんだ」
優しい笑顔を浮かべたまま、薄い金の瞳を見せるすずか。
「おい! ウタネ! 何がどうなってる⁉︎さっきのは何だ⁉︎」
「シオン⁉︎闇の書は⁉︎」
遠くからシオンの叫び声。それに対しありえない、という叫びで返すウタネ。
「今はデアボリックのチャージタイムだ! 誰か近付けば即発動だろうが、勝手に撃つまでもそう時間は無い!」
「ウタネが二人⁉︎」
「うるさい、終わったら話すから黙ってろ。必要な話だけ話したい……ほう、すずか……吸血種か」
飛んできたシオンがアリサを一蹴、すずかに青い視線を向ける。
「……うん。多分、そうなんだと思う」
「濃いのか薄いのか分からんな。濃いには濃いが凝縮されてる。参拝スキルか。人ではないがまだこの世界のヒトの範疇だ」
「……?」
「能力を使っていても死が視える。人より長いだろうが普通に死ねる……じゃない。さっきのは何だ。時間を戻したのか? 記憶干渉か?」
「……え?」
「時間を戻したの。多分数分、数秒の事だけど」
周囲の困惑をよそに、すずかが面と向かって答える。
「だな、そう長い時間じゃないが……そうか、そんな事までできるのか……惜しい」
シオンがチッ、と舌打ちする。
何に対してのイラつきなのか、本人以外には理解が及ばなかった。
「でもそう易々とは使えないというか……その、疲労が……」
「分かった。お前は予定通りアリサと結界外に退避させる。一度全滅を救ってくれたらしいだけで十分だ」
闇の書の方を見て、シオンが決断する。
議論を待たないところを見るにそう時間は無いらしい。
「私も、戦えたら良かったんだけど……」
「血が濃ければな。今のお前だとなのは達より弱い」
「シオン! そんな言い方!」
なのはがシオンに叫ぶ。戦力云々ではなく、扱いを非難しているのだろう。
「とにかく、クロノ達もこの事態に気付いてる。奴らに転移を頼む。それまではお前ら三人で何とか守れ」
「シオンは?」
「オレはアイツとやる。それが目的だったしな」
かちゃり、と刀を握るシオン。ふぅ、と細く息を吐くその仕草は、ウタネに近い雰囲気を醸し出している。
「負けるよ」
先ほどのブレイカー、魔力、それらを総合した判断の結果として、これ以上明確な言葉は無い。
「……どうだかな」
しかしそれを否定する。自身の能力を持ち、魔法と魔力量に絶対的な差がある以上、勝機は無いはずなのだ。それを否定できる根拠が、無い。
「私の能力は」
「3%以上は必要が無い、と言えば安心か?」
「……そんなものなの?」
拍子抜け、という体のウタネ。先程のスターライトブレイカーを体感したが故に、それなりの評価はしていたのだが……
「今はまだな。オレと戦う内、ヤツは更に強くなる。それが、オレが管理局に肩入れした理由。オレが蒐集させた理由」
「……?」
「言ったろ、この事件は無事に終わる。死ぬとしてもオレだけだって。それより、クロノとユーノに夜天の書と教えてやれ。闇の書では進まん」
返事を待たず、シオンは再び闇の書の元へ飛ぶ。
♢♢♢
「デアボリック・エミッション」
「無駄ァ!」
射程距離に入るや否や放たれた空間範囲攻撃。
無論受けるわけにはいかない。直死を用いて攻撃そのものを殺す。
「まだ、邪魔をするのか」
「やる事があるからな」
「……ブラッディダガー」
百を数える無数のダガー。球状にオレを囲うそれは、一切の逃げ場を許さない。
「オレが見たいのはそんなんじゃねぇ」
時間を跳ばす。十数秒での出来事は無意味となり、攻撃を躱し切った事実だけが残る。
「……⁉︎」
「分かるだろう。分かるはずだ。オレの能力が。魔法じゃない、オレ達だけが持つ能力が」
「……使い道がわからない無用なものという認識だったが。そうか、そう、使うのか」
「やはり認識できてたな」
「お前はまだ理解していない。この力は、強大過ぎる」
「……!」
気が付けば背後に闇の書を感じる。恐らく時を跳ばした。
そして初回特典よろしく、忠告だけに留めてくれたのだ。
……やはり、能力を知らなければ使えないらしい。
「ザ・ワールド!」
瞬間、振り向きながら闇の書から離れるように跳び、時を跳ばすのではなく、止める。この静止した四秒間、存分に使ってやる。
「見えているか? 動けるか? どちらも不可だろう。だが認識できている筈だ。オレの能力をそっくりそのまま使えるのなら、一度体験すれば使えるはずだ」
三秒前。
「さて……どうしてやろうか。一度に使える能力は二つ。ガオンは取り返しがつかないからな……
一秒前。
封印された初期能力、精神だけが暴走し、全てがゆっくりになる。
止まった闇の書に一発だけそれを叩き込む。
そして、時は動き始める。
「……⁉︎」
「遅いか? 動かないか? オレが何をしたか見えたか? 闇の書という偽りの名で忌み嫌われし魔導書よ。お前はこれを手にしている。時間停止と、精神暴走だ。よく覚えておけ」
自分の体を確認するように動かす闇の書。
それを効果があると判断してエピタフを発動。ワールドはともかくキンクリは認識できないからな。即対応が必須だ。
「っと……」
「これが、時間停止だな。ブラッディダガー」
世界が止まる。しかし、同じ世界を使えるオレはその中を自由に動くことができる。
そして、再び無数のブラッディダガー。今度はオレに集中させるのではなく、乱雑に打ちっ放しの乱反射。ダガー同士が弾き合いながら不規則な軌道で飛び続ける。静止時間の挙動を試しているのか、意図は不明。
……完成された闇の書がそんな事をするとは思えない。
エピタフには、オレが……拘束されている未来が見られる。手段は不明。ただ動けなくなっているだけだ。
蒐集されている魔法であれば問題無く防げる。見せた能力で拘束に分類できるのは、かなり広義に解釈してゴールドエクスペリエンス。
だが、そんなのでは……
「っと……」
乱反射の中、たまにオレに向かってくるダガーを落とす。
闇の書は位置を少し移動したくらいで、特に何かする様子は無い。
なんのつもりだ? こんな攻撃が意味を持つことが無いのはわかる筈だが……
「っ……と⁉︎」
二発目。ギン、と弾いたはずの刀から、シルシルシルという音がした。
「なんだと……」
無限の回転。まだ見せていない能力がオレを襲っている。しかも必殺のソレだ。打ち消す手段は……逆の回転か、オーバーヘブン……ACT4を撃つ余裕は無い、オーバーヘブンは負担がデカ過ぎる……!
「……マンダム」
時間を六秒きっかり戻す。これで当たっていない時間まで戻り、回転も当たっていない状態になる。
まだ乱反射してはいるが、これはもう当たらないように避ける。
……知らないはずのスタンドまで持ち出してきた。ある程度から想定してくるのか? だがそれはそれで良い。過去数百年以上を、最優の魔導書として生きてきた闇の書がどれ程の次元にあろうと問題無い。
もっと使え。オレの力を。そして見せてくれ。その能力の使い方を。
「スタンド、と言うのだな。こういった能力は。そして……宝具、か」
「……ほう」
「ある程度は理解した。そしてもう一度言おう。この力は、強大過ぎる。使いこなせば歴代の闇の書全てを同時に相手して尚、無傷で勝利するだろう」
「……お前が言うんならそうなんだろうよ。そんな勝負には一切興味ねぇけどな! レグラムカエロラム・エトジェヘナ! 築かれよ彼の摩天! 志向の光をここに示せ!
「!」
黄金劇場を創造。二人のいる場所だけを劇場が囲う。
固有結界は大勢持ってるからな……これは結界じゃねぇな。まぁでもそんな感じだしな。負荷が少ないから何でもいい。
黄金劇場の効果は範囲内の敵の弱体化と自身の強化。これで魔法有り無しの差は多少埋められるはず……
「……無駄だ。お前も、もう眠れ」
「寝るのはお前だけだ。ナハトヴァール。夜天の書とはやてを起こすのはオレの役割じゃないが……結果としてそうなるかも、というだけ。オレがしたかったのはオレの能力の使い方を知りたかった。お前なら手本を見せてくれると信じての事だ。魔法との併用、悪くは無いが思った程では無かった。手が出せなくなるかも、という可能性も想定していたが無駄だった。お前では……競り合いにはなるがオレ達を圧倒はしない」
ただ能力を使うだけ。ただ魔法を使うだけ。
他者からすれば無限にも思える魔力量と種類は、それらを単に使えば他を圧倒するレベルだったのだろう。吹けば飛ぶような塵芥に戦闘法など必要無かったのだろう。
だからこそ。それはオレ達の参考にならない。
オレ達とコイツは、どこか似ている。絶対的能力を持ち、ただそれを使うだけ。弱い力を使ってどう相手を上回ろうなんて考えもしない。ただ相手の上をいくだけ。もし自分より強い相手がいたら、という想定を全くしていない、する必要が無い。
……要らない。そんな事は誰でもできる。戦術を考えると言うことすら思い付かない強さは、それはそれで孤立と言えるだろうが……オレの求めた闇の書はそんなのじゃあない。
「直死──もう終わらせる。はやてを叩き起こして終わりだ」
「そうか。覚悟はできたか」
「黙れ。聞く価値もない」
♢♢♢
「……じゃあ、また。後で必ず、ちゃんと話すから」
結界から出してもらって、五人で輪を作る。
初めに話したのは高町さんだった。
「でも信じて欲しい。私もなのはも、ウタネも、嘘をついたり、悪巧みをしてるわけじゃ無いって」
魔法について。高町さんとフェイトが、必ず話す、と。
「……私も、黙っててごめん。私も同じだから、その……虫がいいようだけど、信じて欲しい」
吸血種と明言された紫お嬢様は、自分も何も知らないからただ信じてくれと。
「……」
そして、誰よりも深い秘密を持つ私は、ただ気まずそうに沈黙を。
「……信じるわよ」
「え」
金色お嬢様の呟きに、意外とばかりに声を漏らす紫お嬢様。
「信じるわよ! アンタ達がどんな能力持ってようが! いいわよ! なのはが悪巧みとかすると思えないし、アンタ達二人もその、魔法の件で知り合って……って感じでしょ⁉︎すずかだって、色々あったけど仲良くしてきたじゃない! この場合、むしろ何にも無いアタシが責められるべきなのよ! 避けられるべきなのよ! それが何よ! 後で言うだの信じてだの! 私に言いふらされると思わないワケ⁉︎それだけで信用するわよ! バカ!」
今持つであろう感情を爆発させた金色お嬢様。
その目に溢れんばかりの涙を溜めて、ひたすらに申し訳ない気持ちにさせる。
「……人は、真実を知った時に変化する生き物」
「何のことよ」
「シオン……さっきいた私のそっくりさんの言葉。多分借り物だろうけど、今がそれ。あなたは私達が、同じでないにせよ普通じゃないことを知った。私たちは、紫お嬢様が普通の人間じゃないことを知った。この上で、これからどうするのか。もう今までと同じ関係は望めない。全てを受け入れて、これまでの様にするも良し、全てを否定して、これまでを破棄するも良し。どうするかは、あなたに選択権がある」
「……だから、いいって、言ってるじゃない」
これからの在り方を考えておく必要はある。知ってしまった以上、それを踏まえた関係でしかいられない。
でもお嬢様は、それを邪魔だとばかりに否定する。知ったとしても、これまでと同じにできると。
「……そう。ちゃんと話を聞いてからでも遅くない。不安や不満もあるだろうけど、今日はゆっくりしておいて。紫お嬢様も。シオンの言い方だと、夜でも結構疲れるんでしょ。それに……ちゃんと私、見えてる?」
「え?」
「……分かってたの?」
「前もおかしいとは思ってたんだ。どこ見てんのかなって。認識して分かったよ。吸血鬼由来の血の匂いってやつかな」
「うん……」
「ちょっ、ちょっと! どういうことよ! すずかはどうなってるの⁉︎」
お嬢様が会話を止める。やはり私の言っている意味が分からない様だ。他二人も同様に。
「今は……」
「ウタネちゃん。私が話す。私が、話したいの」
「分かった……」
説明しようとした私を紫お嬢様が止める。自分から話す、という言葉は嘘ではない様子。けれど不安もある。
「私は今、目が見えてないの。人の気配や空気の流れだけで感じてる」
「「「……!」」」
「あ、でも安心して、一時的なものだから。時間を戻したりだとかはやっぱり、さっきの……シオンの言う、ヒトの範疇。力を使った分、ヒトとしての機能を前借りするの」
絶句した三人に対し取り繕う様に付け足す紫お嬢様。
恐らくは視覚、聴覚、触覚。思考や行動にも制限がかかるかもしれない。時間を数秒戻すというだけで、それだけの負荷がかかっている。
だとしたら。何秒も時間を止め、飛ばし、それと同等の能力を使うシオンにかかる負荷は、どれ程のものだろうか。
「……シオン」
生前ではあり得なかった、誰かを心配する声が漏れる。
シオンはあの闇の書を相手にどうしているだろう。もう戦闘としては十分な時間が経った。クロノからの観測も来てない。よほど強い結界だと見るべきだ。
……やるしか無いのかもしれない。