闇の書にウタネも取り込まれてコレと繋げて、みたいのも考えてたんですけどなんかボツにしてました。
やっぱり型月成分多めなので分かりづらいかも……というか私が間違ってるかもですけど。
揺らめく夕陽に晒された無の荒野で、二人は対峙した。
ふー、と息を吐き、目の前に立つ男を見る。
眼鏡をかけた中肉中背。至って『普通』と形容される男は、しっかりオレの知識に刻まれていた。
ゴドーワード・メイデイ。神が言語を乱す前、メディアの神言より数ランク上の言語。世界に意味を決定させる、相手が話せないからこそという前提があれど、抵抗不可能の能力者。
そんな奴が、何故かオレの能力にある固有結界の一つ、『偽・無限の剣製』に入りこんでいる。
「オレでは分が悪いな……」
首に左手を当て、7回人差し指でつつき、手のひらを添え、目を閉じて首を左に傾ける。
「……はじめまして、ゴドーワード。
自分自身へのバトンタッチとも言える動作は、これ以上無く速やかに私の意識を切り替える。
私にも分かる、異形の魔術師。魔術を用いず、魔術の最終点に辿り着いた男。
「ええ。貴女を
偽神の書は静かに告げる。
互いに仁王立ちのまま動かない。
「あら……まぁ。できるならどうぞ」
鎌を取り出し、無造作に降ろす。視線は男の口。彼の言葉が発せられる前に切る。
「──」
今!
【縛れ】
「⁉︎」
男の頭の周りを丸々固定。話すどころか呼吸すら不可能なはずだ。
「甘いんじゃない? 下位だからってナメてるよ」
箭疾歩で距離を詰め、全力で鎌を振る。狙いは当然、即死を狙える首。
視線をズラし、ノーモーションから加速できる歩法からの一撃は、吸い込まれるように男の首に滑り込み……
バキ、という音と共に止まる。
「……え?」
男の指が刃に食い込み、今にも砕かんばかりに亀裂を入れている。
更には刃だけで数キロはある鎌のフルスイングを片手で受けきった事になる……
ゴドーワードは絶対言語だけで、身体能力は一般以下のはずじゃ……
「ふむ……想定以上、ですね。驚いている様ですが、なに、私も神から頂いただけです。神の特典……更なる能力を」
私の能力の中で平気で話す男。
鎌を掴んでいた指は離されたのに少しも動けない。少しでも『今』から外れれば……男の言葉に呑まれる予感が止まらない。勝てない……
でも、いや、まだ。
【全て、止まれ】
後ろに跳びながら言葉を使う。
この世界全体、全ての気体をダイヤモンドと同等以上の硬度に固定する。厚さ数キロメートル以上のダイヤの壁。何をどうしても不能なはずだ。
「無駄ですよ。あなたの能力では私の言葉を超えられない」
痙攣すら不可能なはずの中で簡単に歩いてみせる男。
確かに固定してるはずなのに平気な顔を……!
なにより、私の手の内は全てバレてるのに、相手が一切分からない……
「ああ、教えてあげます。私の特典は『対終末』という……まぁ、サーヴァントで言うクラススキルの様なものです。終末をもたらす存在への絶対的アドバンテージ。子供向けヒーローのようで少し恥ずかしい気もしますが、私への終末は私を超えられず、全ての終末を私は上回る。私を終わらせる鎌は私が止め、世界を終わらせる能力は私を透過する。私に対して、『殲滅者』であるあなたが上回ることはない」
感情があるかの様に笑う男。恐怖するのはその言動より能力だ……「対〇〇」はある属性に対して有利を得ることのできる特性。体感するとマジに絶望を感じる。
聖ジョージことゲオルギウスは、竜殺しとして竜を持つ相手に対し有利を得る。その攻撃は竜の心臓を持つとされる……直接的なものではない、言うなら『弱い』竜属性を持つ騎士王アルトリアに対してでさえ、擦り傷が致命傷になり得る程のものだ。概念能力に対し物理的な防御は無意味だ。確かに攻撃自体を防ぐのなら効果はあるが、今私が相手をしている人間は私の攻撃を全て無効化し、上位互換とも言える能力を持つ。それが今私を殺しに来ているのなら。一つのミスどころではない。一秒ごとに生かすか死ぬかを決められているようなもの。生殺与奪の奪い合いは既に無い。水槽に置かれた一匹の蟻。見下ろす人間の手には殺虫剤と多量の水。今の私はそれに似る。この状況は私の反撃は無く、私が如何に死から遠ざかれるか、それだけだ。
「今の内に聞いとく……次は、どこかな」
「無いそうですよ。あなた達にはもう満足したとの事で、あなたの望み通り、死へ」
「……そう」
単調に答える相手に、少しばかり落胆する。
神と私。互いの暇をつぶすだけの生活で、とても良いとは思わなかったけど、関係の無い世界で生きていくのは悪くなかった。私が自分の世界について考え過ぎだったんじゃないかと少しは考えられるようになった。でももう次は無い……そうだ、私達の生涯。間違いだらけの人生を、今までの全てを後悔して、それを良しとして笑って死ぬんだって。
「では、お別れです」
死の宣告。
「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「「⁉︎」」
「オラァ!」
「ぐ……」
男が飛ぶ。圧倒的破壊力は男の頰を確実に捉え、力の限り振り抜かれた。
「させない! ウタネを殺すなんて……させるもんか!」
「ソラ⁉︎」
ここは私の世界……私か、神の送ったこの男以外は居られないはずなのに……
「おや、ソラさん。ウタネさんはあなたの敵なのでは?」
「そうだけど! 殺す必要は無い! 私たちが何もしなければ今まで通り仲良くできるんだよ! なんで簡単に殺そうとするの!」
「ですが、いずれ世界の敵となります。現に二つ、物語半ばで潰えた世界がある。次が来てからでは遅いのです。分かりますね?」
「わかんないね! 転生させるならまだしも、完全に殺すのは見過ごせないから!」
「……その結果として、あなたも死んでしまうとしても?」
「そうだよ! 私の手の届く範囲で誰かが死ぬのは許せない! 特異点でだって、私はぐだにもえっちゃんにも殺させてない!」
人類史を護る抑止力とは言え、誰一人として殺さない心情は特異なことだ。それも、生きながらにして抑止力となり、『死ぬ事無く』転生しているソラだからこそかもしれない。
決して終わりを認めないソラと、決して存続を許さない私たち。正反対であるからこそ分かること、信用できることもある。私がどんな才能、聖人であろうと構わず殺そうとするように、ソラはそんな私でさえ救おうとしてるんだ。
「……では仕方ありませんね。貴女の死、初体験は貴女自身──」
「っ!」
根源の死神が足を運び、ソラが構えを取る。ソラの全力の突きは確かに命中した……自身の終わりに対しては、傷の回復も早くなるのか……
「ではなく、ウタネさんです。ソラさん。抑止の仕事です。彼女を、あの十字架へ」
「断る! なら私を殺せ!」
対終末の対象外である為、私より少しだけ勝機はあるものの、ソラでさえ不利と言える相手だ。それでも、ソラは退こうとしない。
無理だ……彼に逆らうことは……
【責務」「を」「果たせ】
「……⁉︎」
くるりと彼に背を向け、壊れた扇風機のような歪な動作で私へ向き直るソラ。その表情には困惑のみ。自分の身体が動かせないのが理解できないのだろう。
「ウタネ……」
「ソラさん。あなたは、ただその責務を果たすだけ。抑止力としての働きは、人類を脅かすものを排除すること」
「ウタネ……私を、殺して……」
今の彼の言葉で理解したのか、一瞬の無表情の後、怒られた小学生の様な……拗ねたような、落ち込んでいるような表情を浮かべた。
「無理だよ……」
「殺せ! じゃないと! 私が……あなたを……!」
「それでいい。それが、正しいんだよ。きっと」
「嫌だ! 私はあなたを殺したくない!」
「いいえ、大丈夫です。あなたはウタネさんを殺さない。ただ、十字にかけるだけです」
♢♢♢
「ごめんね……ごめん……ごめんなさい……!」
足元から親友の泣き声が聞こえる。私は簀巻きのまま十字架に磔られ、首すら動かせないから姿は見えない。
「なんで貴女が泣くのかなぁ……」
「だって……あんなに仲良くしてきたのに……もっといっしょに居たかったのに……!」
すすり泣く友。しかしその体は任務を遂行すべく、十字架へ薪を積んでいく。それは本人の意思であれ、できればしたくなかったという矛盾したものだ。感情とは本当に不思議なものだと、他人事を考える。
「……私は貴女たち生命体にとって、絶対的な脅威であり、敵対するもの。そして、それほどの脅威を無くすには、それ相応の力を持つものでなければならない。それに該当するのは、あらゆる抑止力の中でも貴女しかいない」
どんな時代の英霊も、私の前では脅威とならない。終わってしまっている英霊では、ただの木偶。英霊という縛りから出られない存在では、限界は知れている。今生きて、それを貫き通す意思のある者にしか私を打倒し得ないだろう。その例外は、近くにいるが。
「でも……!」
「どうしようもないんだ。できる人がすべき時にやるしかない。私が数回繰り返した短い人生で学んだ事は、どんな世界であっても私の望む世界ではないという事だよ。私と同じ思想に出逢う事も、私の理想を叶える手段も無い。そして、そこの封印指定によって私は今この状況に限り完全に無力化されている。ショタロリコンの権能からすら隔離されてるから、今死ねば転生もなく死ぬ」
抑止力をものともしないのなら磔にもされない筈、と思う人は多いだろう。だけどこの封印指定に限れば別だ。私の能力、シオンの体術を上回る能力に加え、能力を封印する簀巻きセット……シオンも私の能力と判定されるらしく、シオンの力で抜ける事も出来ない。
そして、私に唯一発揮される抑止力、ソラ。しかし私……ウタネではなく、シオンを気に入り、ソラは私をカルデアへ、私はカルデアをこちら側へ、誘い誘われでよく分からない、とても不安定な立ち位置のまま友好を深めてきた。けれどこれで終わり。私の全てがここで終わる。
「封印指定……そうですね。貴女たち……いえ、私が元いた世界ではそういう扱いでしたね。ですがこの世界に時計塔はありません。なので私は単なる一般人……貴女は、違いますがね」
単調な、無感動な声が聞こえる。
ゴドーワード・メイデイ。神が言葉を乱す前に使用されていた、言葉で物事を表すのでは無く、世界に意味を決定させる統一言語を話す。それは二つある私の能力のオリジナルの一つらしい。
「現に私はこうやって死の間際にいるんだからね……というより、貴方がそうさせたんだろうけども」
「あなたには多少なり……いえ、程度で言えば荒耶より期待していたのですがね」
「何に……?」
自身の感情を持たないはずの男が何やら深い言葉を使う。
「キーワードは『永遠』です。頭の早いキミなら分かるでしょう」
永遠。
「いいや。さっぱり」
数瞬置いて出た答えがこれだ。
私は永遠など考えたこともなかった。いや、永遠なんて無いから、終わりある全てを無くしてしまいたいと──
「……そうか」
「分かりましたか?」
「終わりが無いのなら、それこそが永遠──」
「え……?」
呟くそれは、正に私の全てを示すに相応しい響きがあった。
「そうです。キミ自身に自覚は無くとも、その片鱗は覗かせていた。いずれ死ぬのだから意味が無い、終わりある生命は不要なものだ、それはつまり、生きとし生ける──常に変化するもの全てを切り捨て、変化しない世界……観測者も、観測される対象もない。それはつまり、永遠なんです」
我が意を得たり、とばかりに言葉を重ねる偽神の書。
私はそれを否定できず、受け入れる。
何故、いなくなって欲しいのに一緒にいたいと思うのか。
何故、価値の無いものを失う事が怖いのか。
何故、いつか終わるものを伸ばそうとしているのか。
それは、ただただ変わっていくことを恐れただけだ。私はそれから逃げていただけだ。
「いずれ終わる進化は尊くなど無い。無駄な足掻きだ。いずれ終わる人生に勝ちも負けもない。全てが失敗だ。いずれ終わる未来に希望など無い。虚無だけだ。そうだ、私は、オレは……僕はいつだってそうだった」
もう、躊躇わない。
弱肉強食のルールがある様に。ヒトが自然破壊をやめない様に。
同じ様に、やる事だけをする。
「ウタネ……?」
──今日も楽しかったね!
──そう、それは良かったね。
──◯◯は、楽しくないの?
──僕はダメだ。理想が遠い。楽しいと、良いと思う理想が遠い。
──遠いと、楽しくない?
──その場限りなら楽しいよ、それなりに。でも夜には辛くなる。なんであんなもので楽しんでたんだ、所詮そんなものか、って。理想が遠過ぎて、今が嫌になる。理想は必ず今じゃないから、今が嫌になる。
──でも、今しかないよ?
──今じゃなくて良い。でもきっと僕はいつか手にする。理想を手にする。その時まで、僕は……私は、オレは理想を望まない。
「もうダメだ、ゴドーワード。起こしてしまったぞ……この僕を」
十字架を抉り切り、全ての拘束を解除する。
ソラの両足だけ固定して、ゴドーワードに歩み寄る。その距離は六メートル。
「ええ。それこそが神の望みですから。ホントウのキミが見たいと」
まるで自分もそうだ、と言う様な、ピエロの様な歪んだ笑顔。自身を持たない人が見せるこんな顔は、正しく自覚していない本心。同類にこそ理解できる、ヒトならざる愉悦。
「やっぱりそうか。でも感謝しておこうかな。これでやっと、僕は僕のやりたい事をやれる。それが、僕の理想だ」
「それも無意味なのでは?」
「そうだよ無意味だ。でも他がするより価値はある。僕一人で何十億という無駄を消せるんだから」
能力対象は数を選ばず、射程の概念も無い。いるのなら殺す。それだけの能力。
それを、刀という一点に集中させる。世界全てを破壊できるエネルギーを、概念を、ただ一振りに。
「それでは私の永遠が果たせない」
「だからこそ、敵対しかない」
在るモノを保存する、それはソラとこの男に共通する考え方。
そういう意味では、僕はずっとこの男を前にしていたのかもだ。
「良いのですか? 貴女の能力のオリジナルは私と、別世界の天人でしょう? 材質の変化という唯一性こそ手に入れたものの対象制限を受けている。それでは私に届かない」
「確かに、能力では勝てないさ。多少の互換性こそあれど基本的にはこちらが下位だ。だけど総合的に下位という訳ではない。貴方自身には何一つ強さは無い。ウタネにすら劣りかねないフィジカル、圧倒的技術の差。これらから見ても、貴方の口を封じる可能性はなくもない」
「……成る程、確かにそれはそうです。何も能力のみを競う試合では無い。私とキミの、その全てを賭けた勝負なのだから。確かにそれならば。私の言葉よりキミの速度が速ければ。私を上回りうるかもしれない」
「開始の合図なんてないよ、ソレを話そうとしたら斬る」
能力では勝てない以上、使わない。男は僕に直接言葉を使えるのに対し、僕は無機物を挟まないといけない。一瞬の勝負で、その隙は致命的だ。
だが対終末は根源により近い僕には効かない。
だからこそ、話す前に切る。その口さえ閉じれば男に脅威は無い。
「かつての式君を思い出しますね。実質的な速さに関しては彼女すら上回りそうだ」
偽神の書の口が微かに揺れる。明らかにこの現在に存在しないはずの動作だ。
有無を言わせず跳ぶ。視線はソラへ誘導し、少しでも『言葉』を遅らせる……
【死ね】
唯一。現在で唯一、この能力、この言葉に影響を受けた能力を保有する僕だからこそかもしれない。今まで聞いたことのない絶対的な命令が全身に響く。
「……っ」
「ウタネェ!」
残り二歩、時間にして百分の一秒も要るまい。その距離を残し、僕は膝をつく。
「なんだ……そんな簡単な命令でいいのか……」
全身から力が抜け、体温が急速に下がっていくのを感じる。
ゴドーワードは『場所、人物』『接続詞』『動詞』の三つからなる命令文だと思ってた。【あなた」は「死ぬ】、最速でもこうだと……だけど違う。封印指定はこうなんだ。どこまでも底が見えない。撫でれば殺せる相手が、二歩先に仁王立ちしているのに……これ以上、近付けない……
「嘆くことはありませんよ、双神さん。あなたは間違いなく、今まで私が出会った中で最強だ。だからこそ。私は全力を尽くした」
全力、か……確かにそうだろう。最速最短にして最高最強の言葉だ。
この世界に僕がいる以上、彼の言葉には逆らえないし、回避もできない。見誤ったのはこちらだ。武器も射程も無意味だった。
「……封印指定、ゴドーワード・メイデイ。玄霧皐月。有り難う、これで世界は平和だ。どんな悪逆な組織でも、僕や『』に比べれば優しいもの。彼ら全てを束ねても届かない脅威を今、あなたは排除した」
「キミ、いえ、君達は勇敢だ。自分の思うままに世界に立ち向かったのだから。もし私が、僕がいない時にキミが目覚めていたら。想像するに易い」
「僕じゃなくても私ならするさ。現に二つは消えてるはずだからね」
「それでもキミ無しにはあり得ない。ソラ君達を助ける為に使った空間跳躍、それは能力によるものと、キミの力も必要だったはずだ」
「僕があっての能力、僕があっての私だ。それは僕がなくても成立し得る。結果は何も変わらない」
勝負は付いた。
後は気の済むまで問答を続けるだけ。
「そうですか。ではそうしておきましょう。最後に何か、ありますか?」
「……では聞こう、ゴドーワード。何故そこまで気づいて、無視しているんだ?」
「……」
男は無表情のまま、何も話さない。
「空間跳躍が僕の領分と気付いていながら、なぜ僕をウタネだと思っている?」
「……」
男は、何もしない。
「僕の勝算は絶対だ。僕を相手にしているつもりなら、舐め過ぎているとしか言えないな」
お望みの空間跳躍により上空、左右から能力によるカマイタチを飛ばす。
「……」
男は、表情を変える事なく膝をつく。
「……引き分け、ですかね……」
両腕は肩から落ち、膝裏がパックリ切れているゴドーワードが、現実を理解するのに二十秒を超え、ようやく呟く。
「何故ウタネは右目が見えないのか、何故ウタネとシオンの思考と能力が食い違っていたのか、それは簡単。単に僕の付属でしかないから。ウタネの右目は僕の右目。ウタネには見えてなくても、僕はちゃんと観ていたよ。表に出なくとも、外界から一番遠く、一番近くで観察するにはこうするのが最適だった」
僕の能力の世界。ウタネには赤く、無機物のみを映すものだったはず。
映らないものは僕の方へ流れていたから。能力は目がないと制御できないから、使う時は半分だけ視界を譲っていた。
「ウタネのフィジカルが僕より弱かったのは、僕とウタネを同時に維持する必要があったから。二つの精神を維持する為に、肉体は消耗していたんだ。シオンはその逆。シオンは両目ともシオンだ。僕は一切干渉しないからこそ、僕のフィジカルそのままを使える。けれど僕の影響を受けていないから、能力が使えない。なら僕はどうか? 僕から流れたものだから当然、どちらも使える。シオンの剣術や空間転移。距離なんて関係ない。どこにいても関係ない。どう防御しても関係ない。僕がやるといえば成る」
「アナタは二人のオリジナル……長所を合わせただけでなく、本来の空間転移すら所有している……ウタネさんの戦闘時、口癖のように口にした『できないはずはない』という言葉。これは貴女の、現実改変のキーワードですか」
「その通り。頭が早くて助かるよ。と言っても、僕も死ぬ事に変わりはないが。そこの拘束から出た以上は次があるだろ?」
「安心して下さい。実の所、アナタを殺す気など無かったのです。ああいえ、この時点では死にますが、どう転んでも転生させるつもり、という事です」
「はぁ?」
「これも単なる暇つぶし、という訳です。アナタ程のオモチャは、彼には中々無いものなのでしょう」
根源を捕まえてオモチャとは、随分と傲慢なものだ。
両儀だったら即キレてるはずだ。
「……神さまだっけ。僕はまだ会ったことはないけど……一度手合わせ願おうかな」
「それも良いでしょう」
「だが、僕はまだ死ぬ気は無い」
「それは不可能です。私の言葉の力、君は完全に理解しているのでしょう?」
完全に根源では無い……あくまでかなり近いだけの僕は、バベルを無力化はできない。それを改変してしまうと、あらゆる現在が改変される。バタフライエフェクトまで対処出来ないのが難点だ。
「分かってる。今更どんな治癒も蘇生も無意味だと。その上で言う、まだ僕は死なない。『キラークイーン・バイツァダスト』……時間は1時間程巻き戻り、僕以外の死すべき定めの者は死ぬ。後1時間だけいてあげる。そこで僕はあなたの言葉から逃れ、ちゃんと死ぬよ」
シオンの能力も、しっかり使える。
負荷なんてのは改変で無くす。わざわざ能力で戻すのは、運命の死を作る為。
「……いいでしょう。私は君を起こすという目的を達成しましたから」
「起こすだけ無駄だったけどね。次の転生ってのがあるとしても、僕が出たのはこの世界。別の世界ではまた起こしてね。この世界は僕が死ぬ前に殺すから」
「……さぁ、どうでしょうね。私には次があるかわかりませんので」
僕だけに優しいなんて、ご都合な神もいるもんだ。
「その神に言えばいい。ウタネと次の世界で暮らさせてくれって。ウタネは多分オーケーするよ」
「……冗談を。仮にも元教員です。教え子と同年代の子と暮らすなどあり得ない」
「残念。じゃあもういいかな。何せ僕も十数年振りだ、疲れてきた」
「そうですか。ですが良い運動だったのではありませんか」
「そうかもね。でもまた暫くは控えるよ。神の概念さえ変えてしまうと根源に怒られるからね」
「結局、アナタでも人類を消す事はないのですね」
「……まぁ、ソラがいるしね。ソラが死んだ時が、真に僕が解放される時だ。それまでは生きていくよ」
「そうですか……」
「じゃあね。報われない天才さん」
時間を巻き戻す。
一通りを同じく行った後、僕はまた、ウタネの底に引っ込んでいくだろう。
次に体を使う時、ソラが生きている事を信じて。