「……なんでオレが……こんな事を……」
いつか来た、ジュエルシード因縁の地。
福引き旅行で来た旅館の一室で、シオンがいつもの殺意を交えた目でため息をつく。
シオンは知らないけど、闇の書戦の際に魔法を説明する、と言ってしまった故に、無理矢理連れてこられた訳。尚お嬢様二人の家の力で貸切。
「えーやんえーやん」
「ていうか、アンタそもそも誰なのよ⁉︎結局ウタネのそっくりさんって事しか分からないんだけど!」
「あ、それ私も聞きたい! ウタネちゃんも信用してるからって聞かなかったけど」
「私も、いいかな?」
シオンの部屋で、シオンが隅に追いやられている。
背の低い円形の……ちゃぶ台? みたいな机にお嬢様方、中庭側の窓際に車椅子の八神さんとリインフォース、私は入り口ドアの反対側のすみっこ。
魔導師三人と金髪お嬢様に迫られ、本題に思い当たったのか嫌悪を消す。
「……説明、しなかったっけか?」
「私を見ないで。覚えてるわけないでしょ」
「だよなぁ……つってもな、そっくりさんでいいんだけどなぁ……」
私からの返答は期待してなかったのか、説明を組み立てている様子のシオン。
「フルネーム、年齢! 性別! あと魔法とか能力とか! 喋りなさい!」
「なんでお前はそう暑苦しいんだ? バーニングスだからか?」
「なんで伸ばすのよ! 分かってて言ってるわね⁉︎」
段々とヒートアップする金髪お嬢様。
私は話を進めるようシオンにサインする。
「当たり前だバカ。話すから黙れ……さて、フルネーム、ねぇ……」
「なんでそこで考えるのよ。偽名は無しよ」
「安心しぃやアリサちゃん。今では心を読めるのはシオンだけやないんや」
「……能力の負荷も考えて欲しい」
キラン、と顎に手を当て目を光らせる八神さんに、苦労人の表情を浮かべるリインフォース。
八神さんの足は思いの外回復が早く、杖があれば自力で立つことができ、他の人の介助があれば歩く事が可能な程になっている。リインフォースや守護騎士は、大変だろうその役目を嬉々として行なっている。
八神さん側に回る事は契約時に許可してるしそれを咎める気は私もシオンも無い。リインフォースは八神さんの家族なんだから。
「シオンでフルなんだよ。付けるならフタガミしかねぇけどな」
「ウタネの家族じゃないの?」
「家族っちゃ家族だが。違うといえば違う」
この辺、とても難しい問題になる。
この事件まで私はシオンを見たことが無かったし、向こうもそう。
けど長い時間を共に過ごして、誰よりも理解し信用してる。
「リインフォース、判断」
「嘘ではない。私の目から見ても、その関係は家族であり、そうで無いと言える」
「そか、じゃあ見た内容全部言って。本人が喋る必要は無いしな」
「しかし、許されているとはいえ主の個人情報を勝手に話すのは……」
家主に命令され、所有者との板挟みになり、こちらに答えを求めるリインフォース。
「別に……いい、よね?」
「ああ……分かりやすく話してくれるならそれでいい《だが、ロリコンについては伏せろ。最悪全員死ぬぞ》」
「……では。主……ウタネ様とシオン様は、元々一つの肉体を共有していた二重人格に分類されるものだ」
「……え?」
「嘘やろ?」
「本当だ。そしてそれが、なのはやユーノの前に姿を表すほぼ直前、ある事故で分離した、という事だ」
「多重人格……本でしかありえんモンやと思てたけど、実在するんやなぁ……」
「知らなかった……ウタネちゃんにそんな素振りもなかったし……」
「当たり前だ。厨二病じゃあるめぇし、言いふらしたりはしねぇよ。海鳴は頭湧いてんのか」
シオンがナチュラルに煽りに行く。
これでもまださわり、息をする様なものだから恐ろしい。
「……! っで? なんで多重人格になったんや?」
怒りを噛み殺した八神さんが更なる質問を加える。怒らせると情報を得られなくなると考えたのだろう。
「それはオレからも言えん。姉さん、どうだ?」
「うーん、私の弱さになるんだけど、いいかな。確か前に高町さんとフェイトには少し話したし」
「話してもらったっけ?」
「覚えてないけど……」
話した気がするけど覚えがない様子。
話してなかったっけ。
「私、生物が嫌いなの。だから逃げるためにシオンに代わって貰ってたんだ」
「簡単過ぎるだろ……もっと環境含めて話せ……いや、いいか。すまん」
「いいよ、金髪お嬢様にも言ったもん、今後の関係をどうするかを考える良い機会だ。いっそ全部話すよ」
紫お嬢様もシオンもいる。時間逆行の逃げ場も無い。
この世界に来て初めて、ここまで追い詰められたのも初めてかもしれない。
「……いや、聞いといてなんやけど、無理して話さんでええで……?」
「面倒だから端折るけど、生命のいじらしさとか無価値さとか、そう言うのに嫌気が刺したんだよ。個人が何かを成しても結局死ぬ。集団で何かを成しても追い抜かれ忘れられる。社会で何かを成しても同じ。国も、世界も同じ。結局無くなってしまうのに、なんでそんなに何かをしたいのか、生きていたいのか分からない。だから、私は嫌いなの。それに耐えられなくて、シオンっていう殻に逃げた」
八神さんの心配する声を無視して、話す。
無価値、無意味を、問う。生きてる意味を、知りたい。
「……」
とても簡単に、けど齟齬が起きない程度だと思う独白。
そんな私を見るシオンの目は、申し訳無さとか、哀れみが滲んでいた。
「……反論は、無かったの? 思い出したよ、反論が欲しいって言ってたの」
シオンと同じ様な目をする高町さんが、静かに口にする。
言ったかな。分かんない。私しか知らなかった事実もある様に、紫お嬢様の能力で知らない私の発言もあるのかもしれない。
……けど、それも私の意見。答えるだけは答えよう。
「反論は有ったよ。けど私の求める答えじゃない。生きてる価値を問うてるのに、生きてると楽しい事があるだの死んだら悲しむだの……」
「無いなら無いで、なんで生きてんのか、だろ。そこまで言うなら飲み込むな」
シオンが私に付け足す。
「シオンは、どう思うの? ウタネちゃんとずっと一緒にいたんでしょ?」
「オレもそれは間違っちゃいねぇと思う。何にせよ全て死ぬんだ、最終的な価値なんて何もない」
「の割には違う方針っぽいよなぁ。というか、それが普通なんやろうけど」
「はやてちゃん、どういうこと?」
「多重人格の多くは、心の負荷に耐えられなくなり現れるものだ。生まれつきでないなら尚更……ですよね。すみません、勝手に」
八神さんにはリインフォースが付け足す。
「……構わん。主従関係でも気を使うな。オレ達はそういうのに慣れてない」
「はい……」
シオンの厳しいような、優しい一言。
「そうだな、間違っては無いと思うが、一番じゃねぇ。オレはどうにか価値を探したい。カスしかいねぇ人間界で、その中で生きていく事の価値を。ま、それは独裁的なもんだ。人間は嫌いだしな」
シオンは価値あるもの、つまり、学力腕力技術など、能力あるものだけを残した世界を望む。言うなれば洗練された世界を。
「ウタネちゃんはそれについては?」
「言ったよね、私は生物が嫌いなの。シオンは劣った人間がきらい。私は全ての生物が嫌い。シオンは好き嫌いがあるから分かりやすいだろうけど、私はずっと嫌ってるよ」
私が望むのは、何も無い、生命活動の無い世界。言うなれば、完成された世界。
「その割には優しいやんか。自分で思ってる事とやってる事が矛盾しとるで」
「優しい……かな? わかんない。それも。シオンが嫌ってる人と違う行動を覚えてるからかもしれないけど、多分元から。八神さんを助けた事を言ってるなら、また別。高町さんとフェイトには言ったかな?」
全能の神だって気まぐれを起こす。
なら私だって気まぐれで動くことだって許されるはずだ。
というか、あのロリコンが私を転生なんてさせなけりゃこんな面倒を被る必要も無かったんだ。ホント私に不利益な事しかしないな。
「えーと……海の水を、だったかな」
「そうだね」
この発言はあったようで、思い出すように高町さんが答えてくれる。
「うーん? リインフォース、通訳」
「ウタネ様の生物を消すという目的を、海を干上がらせることに置き換える場合の話で、もし海の水を一瞬にして蒸発させる力があるのなら、自分で水溜りを作るのも、誰かが池を埋め立てるのも変わらない、ということだ」
「……ほー。それなら何か、ウタネちゃんは全生命体を一瞬で消す事ができると? 魔法も使えんのに?」
リインフォースの説明を聞いて、八神さんが何かに思い当たる。
私を見るその目は、罪人を拷問するなんてレベルでは無いものを放っていた。
「……」
ヤバいかも。より面倒になりそう。
それを聞いて他のメンツも根本的なところに行き着いてしまった様子。
「そういえばそうだよね。シオンは能力があっても負荷が大きいって言うけど……」
高町さん……
「ウタネはそんな事言って無かったし」
フェイト……
「それに魔法無しで空中戦しよったしな」
八神さん……
「そう言えば、私と戦った時は地面に潜ってたりした」
フェイト……
「私とユーノ君を拘束したり」
高町さん……
「母さんの魔法を消したり」
フェイト……
「……なぁウタネちゃん。なんか、隠してるやろ」
十分な疑問の証拠を持って、改めて問われる。
部屋の視線は、シオンを除いて私に向けられていた。
「シオン、どう思う?」
答えそうもない私に変わり、八神さんの矛がシオンに向く。
「オレに聞くな。お前らの問題だ。姉さんが良いと言えば良い。悪いと言えば悪い」
「だそうや、ウタネちゃん。もう話さんなんか言わへんよな?」
「……シオン〜」
「知るかよ。というかオレも知らねぇんだ。判断できん」
「うー……分かったよ。話す。でもその前に、リインフォース」
「はい」
「クロノに連絡取って。モニターで」
「……? はい」
リインフォースがモニターを開き、エイミィと数度やり取りして切り替わる。
『なんだ、事件か?』
「ううん。あのさ、私の能力について話そうと思うんだ」
『……そうか。それはいいんだが……いいのか?』
「うーん、今はシオンもいるし逃げられるかなぁと思って」
『まぁ……そうだな。そこのメンツは管理局に染まってはいないから大丈夫だろうが……モニター越しに僕に話すからには、何処かには漏れるぞ』
「そーゆーのは良いんだ、ちょっとだからね」
『分かった。それなら僕もしっかり聞かせてもらおう』
現状、シオンが知らないとすれば唯一の理解者であるクロノも入った。
闇の書に関わった主要な人物は揃った。
おそらく今回が最後。あの闇の書事件以上の能力行使は無いと踏んでの告白になる。
「なんや? そんな恐ろしいもんなんか?」
「……私の能力は、生物以外の全ての物質の形状、性質などを自由にすることができる」
「……」
沈黙。一切の音さえ許さないという雰囲気の中、私は続ける。
「これはクロノには話してる。私の平穏の引き換えに、信用してもらう為に」
『ああ』
「そして、この能力は私の右目を通して見る世界でのみ確認できる」
『それは初耳だな』
「うん。でもこれはそう問題じゃない。見てるだけだから。能力の発動についてなんだけど、これは意思を伝える言語である、ということ」
それっぽい意味で話してるけど、意思は私の意思って事だから話す内容はぶっちゃけ何でもいい。
燃えろって言っても凍れって思ってれば凍らせることもできる。でも命令形の方が強い気がする。気がするだけだと思うけども。
「……あ、それ聞いた」
「そうだっけ?」
「特訓の時聞いたと思うの。聞こえなかったけど」
「だっけ。まぁそう。この言葉は他人に聞こえないらしいの」
「ちょっと喋ってみなさいよ。あ、何するか言ってからしなさいよ」
「じゃあ、ドアを開ける。いい?」
【開け】
空気を操りドアノブを捻り、ドアを押す。
まるで透明人間が開けた様に、すんなりと開く。当然、ドアに近付いた人間は外にも居ない。
「……リインフォース、アレなんや」
視線をドアに向けたまま、会議が始まった。
「……分からない。1人でにドアが開いた様にしか」
「じゃあすずかちゃんは」
「私もできるけど違うかな……」
「できるんかいな。ほんなら魔導師組は」
「撃って開けるなら……」
「一瞬で開けて戻ってくるなら……」
「ダメやな。ほんならシオン」
「できるがオレの能力には無い」
「あかんな。じゃあダメや。次コレ」
諦めたように机の上に何かを出す八神さん。
「……これは?」
「鉄」
「うん……それで?」
鉄の球。野球ボール程度のそれが、何故八神さんの手に……?
「これをどうにかできるか?」
「どうにか……とは?」
「材質変化とか言ってたやろ? なんかできへんの? 柔らかくとか」
「あぁ……こんな感じ?」
【溶けろ】
材質をスライム状に。
球の形はたちまち崩れ、小さな水溜りのような状態はになる。
「うお⁉︎」
「……ウタネ様、触っても……?」
「いいよ。鉄だし」
「か、硬い……?」
リインフォースがそれを触り、驚いて手を引っ込める。
「そりゃそうだよ、鉄なんだから」
鉄が硬いのは当たり前。リインフォースの時代からそうだと思うんだけど。
「じゃあコレはなんやねん! なんで溶けたみたいになってんや!」
「なんでって……柔らかくしろって言うから」
「硬いやんけ!」
「うん……鉄だからね」
「わからへん! ウタネちゃんの言ってる意味がわからへん!」
『ウタネ、物質を消したりだとかじゃなかったのか? 実物が無いから少し解りづらいんだが……』
「ん、じゃあちょっと触ってみる?」
『いや、だから物が無いと……』
「はい」
「……??????」
『???』
溶けた鉄球を持ってモニターからクロノの前へ差し出す。
ただそれだけなのに、顔に出るほど疑問符を浮かべる周囲。
「どうしたの? 触らない?」
『違う! なんだこの腕は⁉︎』
「……私のだけど。触りたい?」
『違う! どうやってる⁉︎』
「私もあなたの身体に触れてるからおあいこでいいかなと思うんだけども」
死んでたとは言え生だったし。男の子はそうでもないのかな?
『聞いてるか⁉︎』
「別に、普通にモニターを通してるだけだよ」
『それが異常なんだよ! これも能力か⁉︎』
クロノが虫でも見るかのような嫌悪感で拒絶している……ケアはしてるつもりなんだけどな。
「ん、そうだよ。私が認識した世界は繋げられるから。モニターみたいに映像? がリアルタイムで繋がってるなら自由に抜けられる」
「……リインフォース、アレは魔法でできるんか?」
「……魔法だけを、画面の向こうへ飛ばす事はできる。空間跳躍という類だ。が、そう簡単な物ではないし、肉体を飛ばす事はできない……」
ひそひそと魔導師組が話してる。
半分くらい聞こえてるからねそれ。
「なぁ姉さん、オレからいいか?」
「うん」
意外なことにシオンから発言が。
「その能力、オレと分かれてから発現したはずだ。どうやってそう精密に使える? 特訓なんてしないだろう?」
「あー、皇帝特権だよ」
「……なるほど。それでそう使いたがらねぇわけか」
「どういうこと?」
「姉さんの技術は全部偽物……オレの能力に似たようなモンって事だ。お前らの特訓でそういった節は無かったか? 実戦とは違う戦法だとか」
「……あ! 純粋に強い剣術使ってた!」
「あー、アレはランスロットだね。そうじゃないと勝てそうになかったし、高町さん潰すわけにもいかなかったから」
「……ランスロット?」
「アーサー王伝説の登場人物や。顔半分が整い、半分が乱れている不思議な顔立ちをした円卓最強の騎士」
「顔? そんな特徴的なものでは無かったと思うが……」
「あれ? 本はそう書いてたで? 違う伝説なんかな」
伝説は不確定なようで、顔について食い違い。
私が知ってるのもシオンと同じだから、整ってると思うんだけど……
「……いや、いい。円卓最強は間違ってないからな。その能力にも制限があって、せいぜい数分なんだよ」
「だから五分で区切ってるの?」
「いや、能力はもっと持つんだけど、体力が持たなくて」
「……まぁ、大方は分かった。物質だけを対象にした何でもありって事やな」
「うんまぁ、そんな解釈でもいいかな」
明らかに特典と能力に振り回されてるんだよね。
シオンがいなければ、何もかもが劣っている人間だというのにね。
「なら、あと一つ……ええかな?」
「うん」
「ウタネちゃんの過去について……聞いてええか?」
いつかの高町さんの様に、少し怯えた質問。
私がまだ殺すだとか言う存在だと思ってるんだろうか。
「過去?」
「なのはちゃん達には予め聞いてたんやけど、分からん。双神なんて苗字は聞いた事あらへんし、なのはちゃんと初めて会った時は空から落ちてきたらしいやんか。それに二人が分かれた理由とか、能力。聞かせてくれへんかな」
「……」
「やめろはやて。それ以上聞くとお前らの首を飛ばす」
答えかねる私の代わりに答える。
でも、私はやっぱり、信用という言葉を重く見てみたい。
「いいよ」
「……!」
時間が止まる。
動いているのは、シオンとリインフォースのみ。
「ウタネ⁉︎正気か⁉︎」
何かを恐れるような剣幕で突っかかってくる。
「……大丈夫。話しても良い。今生きてるなら、多分」
「……まぁそうか……だが……」
そこでようやくシオンが何を考えていたかに至り、それでも現状は大丈夫だと教えてくれる。
「すみません、どういうことでしょうか?」
動ける中で唯一の例外が疑問符を浮かべる。当然だけども。
「今となればお前も同類だな。アインス」
「……アインス?」
リインフォースが首を傾げる。
八神さんも私も、そんな名前は付けた覚えがないけど……
「ああ。お前、オレ達について仮説は立ててるんじゃないのか?」
「え⁉︎」
「コイツはオレの能力を十分に使って見せた。分かるはずだ」
「……主達は、この世界の人間では無い。と言うことでしょうか」
「……うん」
具体性に欠くけど、的は得ている。
「隠すつもりだ。下手にバラせばロリコンに殺される」
「あ、やっぱりそうなんだ」
「確証は無いけどな。本来の筋からもうかなり離れてる。その上主役どもがそれを知ればこの世界はこの世界たり得ない」
「ふーん?」
首を傾げたところで、時間だ、と呟き、一瞬だけ時間が動く。
「シオン様? この能力は連続して使えないのでは?」
「さっきのがワールドで今はスタプラだ。別能力なら連続して使える。なんなら無限に止める能力もある」
「はぁ……私には、まだ分かりませんが……」
「とにかくだ。お前はもう、オレ達の主従という関係だけでは済まない存在ってことだ」
「……つまり?」
「私は、本来存在しないはず、という事ですね」
「はい?」
「アインスは本来、闇の書と共に消えるはずだった。それをお前が妨害したんだ、ウタネ。そして、後継機としてリインフォース・ツヴァイが開発される予定だった」
オレにも責任が無いとは言わないと付け加え、ツヴァイの性能を説明するシオン。
ツヴァイは手のひらサイズで氷属性を得意とするユニゾンデバイス。アインス……リインフォースの後継機として八神家に受け継がれる想いの具現。
「アインスっていうのは、死んだ上での名前?」
「そう。生き延びたアインスがある以上ツヴァイは不要だ。そして、何が言いたいか、分かるな?」
「私は主達と同じ、本来の世界では有り得ない存在、でしょうか」
「ああ。オレが夜天の存続を渋ったのはお前を残すのを躊躇ったからだ。姉さんならなんとでもするが、他人となると保証できないからな」
「構いません。二人が良いと言うのなら、捨て置いて貰っても一切恨みは残しません」
「待って待って! シオンもそんな言い方しなくていいでしょ! リインフォースも負い目を感じる必要はないんだってば!」
「こんな言い方しねぇとお前が理解しないだろ。元を知らねぇお前がこの世界の異常を認識するには、オレから言うしかねぇんだ。お前のせいで死ぬべき奴が死んでねぇ。人の生死は、随分な問題になるぞ」
「……それで、誰が困ったのよ」
「オレだ」
「なら良いよ。問題無いじゃない」
「大アリだ。お前に支配されてねぇんだぞ、今のオレは。不満が募れば隙を見て裏切りをかけるかもしれん」
「ふん、勝手にすればいいよ。そんな負荷だらけの能力で私に勝てるなんて思わないことね。もう割としんどいんでしょ。痩せ我慢だって分かってるからね」
「は、お前の能力が何度この能力に破られてるよ。自分が無敵だと勘違いするのは甘過ぎるぜ」
「お、おやめ下さい! 二人が争っては世界が滅びます!」
「……そうだよ。私もシオンもどうせ人類は滅ぼすんだ。変わらない」
「オレは別に人類が改心するならいいんだがな」
「二人とも……」
「ち、時間だ……さっき何話してたっけか」
「……さぁ?」
時間は動き出す。
けれども話の流れを忘れた私達は話す事ができず……数秒、沈黙が場を包む。
「……」
「なぁウタネちゃん。怒らへんから、正直に答えてな?」
そして沈黙を理解した八神さんが口を開く。
静かな怒りと静かな殺意を持って。
「……うん」
「なんか能力使こたやろ」
「……はい。時間停止を、はい」
「なんでそんな事するん? やっぱ私らの……クロノ君の言う管理局の敵か?」
「いや……そういうわけでは無いんだけど……むしろその、今回の場合は全面的に味方というか、ねぇ?」
「まぁ、能力を使ったのはオレだが、お前らのためだった、とは言わせてもらう」
「私も理由は話せないが、はやて達のための行動だった」
「むー、リインフォースがそういうなら……」
なんとか納得してもらえた様子。
紫お嬢様は、なんか分かってた風だったけども。時間遡行できるなら見えてたのかな。
「それで、なんの話だっけ?」
「ウタネちゃんの過去」
「あーはい。ちょっと話し易く整理するから時間ちょうだい……」