無気力転生者で暇つぶし   作:もやし

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デバイスって他人が持っても使え……ますよね?
使えないとしても皇帝特権で、という事で。


第5話 結合

「ふぅ……」

 私の意識を空へ向け、その隙に魔法でフェイトを離脱させる……やった事自体は簡単だけど、速さが尋常じゃない。一瞬視線を外した間に転移させるなんて、私の知る魔術のレベルで考えるのならかなり高度な……封印指定かそれに近いものになる。実際に封印指定を見た事はないけど……とても厄介だ。

 頭を掻こうとすると頭に感触が無くて、左腕が無い事を思い出す。

「おっと……腕忘れてた」

 落ちた腕を拾い、軽く土を払い、能力を解除。途端に止まっていた血が流れ出すけど、肩の方も解除して強めにあてがい、血管等を能力で細かく固定し、取り敢えず血が流れる様にする。一応これで腐敗はしないけど、実際はまだ切れたままなので後は自然治癒に任せる。というか他に手が無い。

 さて……これからどうしようか……

「ウタネちゃん!」

「ん?」

 高町さんの声で思い出したけど、二人もいたね、そういえば。

「ごめんごめん、忘れてた。でもまぁ……今回は流して欲しい。私はフェイトを仕留められなかった、けれど彼女の目的も果たせていない。多分あなた達では奪われてただろうから、結果として何もなかったという事で……さっきの頼みはまたの機会にするよ。それじゃ」

「まっ、待って!」

「ん?」

「これ解いてから行くの!これ何⁉︎」

「バインドブレイクできないし魔力も感じない……僕達じゃお手上げだ」

「あ」

 そういえば縛ってた。変な体勢で止まってると思ったらそういう事ね。

(ほど)け】

「にゃっ!」

「わーっと!」

 走っていた姿勢のままだったので前のめりに倒れる二人。

 まだ私の能力にも謎が多いな……運動エネルギーは保存されるのか、二人が鈍臭いだけなのか……多分後者かな。

「はい、もういいでしょ。学校に荷物置いたままだし、早めに取りに行きたいんだけど」

「あっ、私もなの!」

 思い出したかのように便乗してくる高町さん。これは絶対私が言わなかったら家帰るまで忘れてた感じだね。

「え、じゃあいい。私は明日早めに学校行くから」

「なんで⁉︎」

「一緒にいたくないから?」

 そんなに驚かなくても……

「なんで⁉︎」

「一緒にいたくないから?」

「なんで⁉︎」

「同じ質問を繰り返すのはバカって証拠だよ。私はそういう無駄な所が嫌いなんだ、どいつもこいつも……」

 下らないことばかり気にかけて、本質を後回し……無関係なソレを見るならともかく、私に関係あることでソレをされると投げ出したくなる。

「ご、ごめんなさいなの……」

「んあ?あーいや、そんなに強く言ったつもりじゃないんだ……今のは気にしないで。でも同行したくないのは嘘じゃないからせめて時間をズラしてくれると嬉しい。もちろん私が後でいい」

「……」

 高町さんが何故かボーっと私を見てくる……すごく気持ち悪い。

「……何?」

 はっきりしない行動に少し嫌味を含めて聞いてみる。何も考えてないとかなら切り捨てる。

「いや、ウタネちゃんって優しいんだなぁって」

 にへっ、と笑う高町さん。

「はぁ……?」

 何を言ってるんだろう?

「だって、成り行きとは言え私たちのジュエルシード集めを手伝ってくれたり、さっきだって私たちを守ってくれたりしたの。ひどい人だったら、私たちを見捨ててたと思うの」

「私が優しい?まさか。それは本当に成り行きだよ。前回は私の身の安全を優先した結果、今回は相手が正体不明だったから。ほら、何一つあなた達の事は考えてない」

 嬉しそうにしてる高町さんには悪いけど、本心から思い付きで行動した結果だと断言する。自分を殺そうとしてた人間をそう簡単に信じるってのもどちらかと言えば狂ってるよね。それとも平和ボケの為せる性格なのか……

「ま、いいや。私の考えはあなた達のイメージに影響しないからね」

 他人から見た私は、私の思考と無関係に構成される。そして、一度持たれたソレを覆すのは、中々に難しい。

 その構成は特に、その他人の都合に良い方向に捉えられる。

「でもウタネ。一つ質問したいんだけど」

「ん?」

「さっきの戦闘、前回とも合わせてかなり手慣れてる様に見えた。その年齢で、しかも魔法文化圏外でそこまでの技術、経験を得られるとは思えない」

「だから?」

「君の経歴、能力を教えて欲しい。協力を申し出ておいて勝手だが、次元犯罪者とすれば見逃せない」

「次元犯罪者?」

「地球で言うと指名手配、それも国際的に取り締まられている者がそれに近い」

 要するにどこに逃げても捕まるほどの極悪人と。犯罪ではないけどやっぱり封印指定が近いかな。

「経歴……ねぇ。普通の家庭に生まれて、普通に育って、普通に暮らしてこれだよ」

「普通って……」

 意図したものとはいえ、あまりに抽象的な経歴に呆れるユーノ。

「文句は言わせない。普通なんて概念を作り出したのはお前達だ」

「……!」

「あ……ごめん、ついクセで……ほんと、ごめん……」

 その反応が許せなくて、つい言葉に出てしまった。普通の概念を作りながら、普通を肯定しながら、普通を拒否する人間。まるで意味の無い、価値の無い無駄な……いや、それは今掘り下げるべきじゃない。

「まぁ……そこまで怪しまれる事はしてないかなー……とは思うよ。そうだね……日常的に自分とその身内で殺し合いをしてた、でいいかな」

 うん……間違ってない。誤解を招き易く嘘はついていない最高の説明。だって殺し合いしてたし。

「うん……ちょっと管理局呼びたくなってきた」

「お縄に着く気はないんだけども……呼びたいなら呼べばいい。魔法機関が魔力も無い一般人をどうこうするとは思えないけど」

「え?」

「え?」

 何故に疑問系?無いよ。無いよね?

「魔力が無い?」

「え?気づいてなかった?ないよそんなの。私は魔法なんてない世界で生まれ育った訳だし」

「いや、あるはずだ。少なくとも念話が聞こえたということは才能がある証拠だ」

「えっマジ?」

「うん。自分で実感できてないだけで、ちゃんと使おうと思えば使えるはずだ。表に出てないから感じ難いけど、魔力を感じるよ」

「ということは、私も魔法ってのが使える?」

「完全な初心者だから、なのはのレイジングハートみたいなデバイスと呼ばれるものを通さないと難しいだろうけど、自分のデバイスさえ設定すれば難しくはないはずだ」

「デバイスってどう入手するの?」

「基本的には魔法文化のある次元世界で作って貰うんだけど……」

「行けないのよね?」

「残念ながら……今のところ手段が無い。ジュエルシードを集め終えれば、ミッドチルダに戻るんだけど……」

「二人では難しいかもしれないから、魔法が使いたいなら手伝え、と」

「うん」

「……参ったなぁ」

 興味はある。価値有りとされたもの全てを一通り体験してはいるけれど、どれも大したことはなかった。私のいた世界基準での魔法は、それこそ世界に数人、下手をすればいないレベルの希少能力。それが使えるのなら、少しの時間は捨ててもお釣りが返ってくるどころか宝くじ当てるレベル……そう思う。

「……分かった。一応協力する。けどそれは最終的なフォローとしてだ。私も今は色々やる事があるの。しばらくは貴女達で頑張る事。無理なら念話?でもなんでも良いから呼んで。死なれても後味悪いし……」

「ほんと⁉︎ありがとう!えと、これからよろしくお願いします!ウタネちゃん!」

「う……」

 本人からすれば好意の表現なのだろうけど……私はこういうテンションが苦手だ……乗れない事もないけど疲れ過ぎる……

「あ、ありがとう。万一にも、という感じだったから、何度か掛け合うつもりだったんだけど……お礼は大したものは出せないよ?」

「うーん……そうね。別に魔法に触れたいなと思っただけなんだけど……お礼っていうなら、そうね……いや、いいや。人に頼るものなんて無かった」

 精々街の案内程度だけど、スーパーならもう見つけてるし他はどうでもいいや。生活用品さえ買えれば問題無い。

「ま、そういう訳で。何かあったら一応知らせてね。ばいばーい」

 振り返り、返事を待たず歩き出す。

 魔法かぁ……夢が広がるね。




ウタネの能力は生物を挟むと効果範囲外となります。つまり生物の体内には本来干渉できません。切るなりするとその部分のみ干渉可能になります。

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