──コンコン
『はい、どうぞー』
「邪魔するぞ」
「わぁ……」
「すごい……」
「ほんと……」
ズカズカと上官の前に出る嘱託としてあるまじき行為にお咎めは無く、ただ感嘆が漏れた。
「「「凄い違和感」」」
「うるせぇ黙れ。自分でも分かってんだよ」
声を揃える三人娘に嫌な顔を隠さないシオン。
「ふっふっふ、シオンもそれを着たって事は、名実ともに私の部下ってことやんねぇ」
「そうだな。爆弾を抱えた気で震えてるといいさ、八神部隊長」
「まぁまぁ、四人で同じ制服なんて、もう随分と久しぶりやん?」
「だったかね。二日以上前のことは覚えてねぇ」
「ふふふふ……ほらほら、はよう入隊挨拶しいや。上官待たせたらアカンで?」
「八神ぃ……」
自分の権限を持っていようと、殺意は隠さない。それがシオンの性格。
「ふふ」
それを微笑みで返すはやてに、諦めた様に身を正して敬礼をするシオン。
「チッ、フタガミシオン嘱託、本日より機動六課へ出向となります。クロノ提督から聞いているかと思いますが、嘱託である自分の管理権限は八神部隊長へ譲渡される事になりました。今後、その点をより意識して下さい……これでいいかよ」
「ええよ〜十分や。それにしても、譲渡って……くれるん?」
「ああ、貸すんじゃなくてな。だから機動六課から出ても権限はお前だ。提督権限を失ったんだ、対価は相応に要求するぞ」
簡単に渡される人の権利。リインフォース同様、扱いたくないランキング上位に入るであろうシオンの扱いに、提督の仕事量から持て余し始めたクロノの厄介払いだった。
「枕?」
「一人でやってろ」
「ヒドイ⁉︎」
「お前らにんなもん要求してどうするよ。三人で百合百合してろ」
「せえへんよ⁉︎せえへん……よな⁉︎」
「え、あ、うん」
「そう……だね」
「えっ、ええ⁉︎なんやソレ⁉︎私だけ除け者か⁉︎七光りは邪魔モンかぁ⁉︎」
気まずそうに目を逸らす二人に、何かを察したはやてが動揺する。
実際は単にその手の話に慣れず照れているだけなのだが、性欲マシマシのはやてにはそんな発想自体が無い。
「うるさいぞ売れ残り。さっさと部隊挨拶の準備でもするんだな」
「売れ残りィ⁉︎ええ度胸しとるやんけぇ! シオンも人のこと言えへんやろーに!」
自尊心がものの数秒で抉られたはやてが爆発する。
地位も名誉もかなぐり捨ててシオンに一矢報いようと掴みかかる。
「……オレに? そんな話をするのか? 八神……お前、世界に勝てるか?」
「あ……! ストップ! 素が出てる! 管理局ではあかん! ここでは魔法以外禁止や!」
殺意の底……何があってもお前を殺すという絶対の意思表示に正気を取り戻し、シオンを制止する。
自分の欲望より管理局、親友二人の命をはやては選ぶことができた。
「……だったな」
管理局内及び、管理世界では必要に応じた外部戦闘以外での能力使用を禁ずる……それが、クロノが嘱託として雇っている内に出来たルール。そして、魔法が使えない以上、訓練等では生身の戦闘しか叶わない。
──コンコン
「はい、どうぞー」
「失礼します……あっ、高町一等空尉、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官。ご無沙汰してます。そして……フタガミ嘱託員、お初にお目にかかります。グリフィス・ロウランと申します」
ドアの向こうから、眼鏡をかけた青年が敬礼をする。
それを見た二人はハッとし、一人は不快感を表す。
「グリフィス君⁉︎」
「前会った時は、あんなにちっちゃかったのに……」
「その節は、色々お世話になりました」
「おいおいおいおい? イチャイチャタイムに悪いが、誰だ?」
まるで知った仲であるかの様な対応に、全く知らない一人が喧嘩腰で尋ねる。
「グリフィス君は私の副官で、指揮官補佐とか務めてるんよ」
「よろしくお願いします!」
「違う違う違う……現役職なんてどうでもいいんだよ、嘱託のオレからすりゃ全員上なんだからな。それ以前だ、いつから知り合いだ? どういう繋がりだ? それを聞いてんだよ」
「なんや、仲ええからって嫉妬か? 意外に可愛いとこあるやん」
その言葉の終わりと同時にはやての髪の一部が消し飛び、左前髪が短くなったと同時に、シオンの手には鎌が握られていた。
「うるせぇ、オレが知らない知識だ」
そしてはやての目からハイライトが消えた。
「えと、そうだね、簡単に言えば、親同士が知り合いで……?」
「嘱託で採用してくれた時にもちょっと」
「──……そんな前で、知らなかったなんて……?」
魂が抜けた様に倒れ込んだ部隊長を引き気味で見ながら、ザックリと説明する二人。
そしてシオンは下を向きぶつぶつと独り言を始めた。
「えと、どうかされましたか?」
「いや、すまん。十分だ。悪かったな、別に敵意があった訳じゃない。コイツら口説こうとオレの知ったことじゃねぇから好きにしてくれ」
「い、いえ! とんでもない!」
グリフィスの声かけに意識を戻し、興味を失ったシオン。
──シオンの局員担当にも彼の母、レティが関係しているのだが、『魔法以外は専門外。知ってる仲なら、いざって時にも制御できるでしょ』とクロノが丸投げされる形で引き受け、本人には何も伝えていないためにこの様な事態が出来上がってしまった。
そのクロノさえ、『闇の書事件以降、より深く付き合った者がいる。今となっては自分より適任だ』とはやてに押し付けたのだが。
「あ、報告してもよろしいでしょうか」
「うん」
はやての代わりにフェイトが答え、なのはがはやてを揺すって現世に戻す。
「機動六課総名、既にロビーに集合、待機させてあります。宜しければ」
「あ、もうそんな時間か。じゃあ、なのはちゃん、フェイトちゃん、シオン、行こか」
「「うん!」」
「オレもかよ……」
「当たり前や。全部隊兼任やで? ちゃんと挨拶しとかな」
「嘱託だぞ」
「その辺の局員より権限あるくせに何言うてんねん」
「ねぇよ。お前が指示した時だけだ」
「えぇ? クロノ君の時もそうやったん?」
「実際何もしてねぇからな。せいぜい部隊指揮権限だ。やらなかったが」
「できへんの間違いやろ?」
「そうだな……お前、メンタル強過ぎるだろ」
♢♢♢
「お久しぶりです我が……失礼、フタガミ嘱託局員。機動六課『
銀髪の女性が、制服を着て礼をする。
他の者の前で見せるようなだらしなさは無く、主従としての立場を弁えている様ね態度を完璧にこなす。
しかし自分の肩書きにはやはり無頓着な様で、ハッキリ分かっている部分しか示す事はできなかった。
「確かランクダウンで……いや、いい。局で会うのは久しぶりだな。はやてとのユニゾンはどうだ?」
その態度に少し苛立ちを滲ませながらも、それがリインフォースなりの誠意だと納得し、話を進める。
「至極すんなりと。数度実行、試行しましたが未だ誤差すら出てません」
「そうか。ならいい」
「はい。それで、これから何か?」
「なのはの教導の手伝いだ。フェイトが自分の部隊を押し付けるからな」
「ふふ……でも引き受けたんでしょう?」
そこからは態度が砕け、微笑みながらの会話になる。
「メニューは貰ったし、お前もいるからな」
「ああ。任せてくれ。少なくともお前達よりは教導上手なつもりだ」
大きな胸を大きく張り、自己主張するが、それを気に留める者はこの場には一人もいない。
「その辺はマジに任せるよ、オレ達は戦略とかに向いてない」
「一人で全てできてしまう故の……社会性の欠如か。しかしシオンはそれを克服する為の人格ではなかったか?」
人類嫌悪、生物撲滅を変えられなかったウタネは、社会には居られない。
自分を曲げて社会に入るか、社会を否定するしかなかった。けれど、それはウタネの周囲が望まない。ウタネは聡明であったが故に、客観的視点から自分が異常である事を知っていた。どちらが多数で、どちらが少数なのかを。
自分を殺す事が正解だと理解しつつ、自分を殺しきれなかった甘さ。その結果としてシオンがいた。その矛盾を、板挟みを解決する為に。
「社会に適応はできる。だからこそ今もまだ嘱託として働いていられる。が、戦闘となると別だ。他人が……仲間が邪魔になる。オレの専門は
「それは、シオンの未来予知故か?」
「さぁ。それは分からん。性格だろうな。それに、一人じゃ無理だ。二人で全部って話なんだからな」
自分一人でできることも、他人が加わることでできなくなる。
逆もまた、十分に考えられることなのだが、シオンの経験上考えられないことだった。
「……そうか。無駄に詮索も良くないが……私で出来ることがあれば言えよ。お前達は、言わないだろうがな」
「……ふん」
♢♢♢
「あー、やっと来た!」
「すまん、オレ抜きで始めてるもんだと」
なのはとフォワード四人、他局員一人が既に待機している場に二人が到着、訓練開始のため二人を待っていたようだ。
「最初はみんなのステータスチェックだって言ったでしょ!」
教導隊制服のなのはがシオンとリインフォースを叱る。
普段の緩さは無く、教官としての役割演技が真剣だ。
「そうだったか……すまんな、フォワード四人」
「「「「いえ! 大丈夫です!」」」」
「むー……じゃあ、始めるよ。今日はみんなの基礎能力の確認。基本的な項目をこなして、それをデータ化するから」
「ここで?」
「うん。シャーリー!」
「はいはーい」
シャーリーと呼ばれた局員がモニターをいじると、何もなかった平地にビルなど……スバルとティアナの試験会場の様な廃屋街が出来上がる。
「おぉ……」
「これが機動六課自慢の訓練スペース。なのはさんリインフォースさん監修の、超実戦的訓練場です!」
「いつの間に作ってたんだ? こんなの」
シオンとフォワード達が驚いていると、リインフォースが製作図のようなモニターを開く。
「うん。これは機動六課フォワード……この四人の勧誘が決まってからだな。二徹くらいだったか?」
「リインフォース! それ内緒!」
「あ、すまない……記憶力に難有りだな」
なのはに怒られて落ち込むリインフォースだが、管理局全体を見回してもリインフォース以上に魔法の種類がある魔導師はいない。記憶力とはまた別かもだが。
「それじゃあ、さっそく始めようか。模擬戦!」
「は?」
「「「「はい!」」」」
「あれ、リインフォースに聞いてなかった? クロスからミドルレンジのシオンとフィールド外の超遠距離のリインフォースの援護射撃で模擬戦するって」
「聞いてないが」
「言ってませんね」
「言えよ」
「気にしないか忘れるかと思ったんだが」
「間違ってねぇけどな」
リインフォースとシオンの互いが目線を合わせず投げやりに会話する。
「だそうだ、高町一等空尉」
「あー……まぁ、了承してくれるなら、今回は大目に見ようかな」
「模擬戦て……あの試験とは違うのか?」
「大体一緒だよ。2対4で、クリーンヒットか時間まで」
呆れて説明するなのはに対し、ふーん、と気のない返答を返すシオン。
「あの……試験とは?」
エリオから手が上がる。
試験を受けたのはスバルとティアナ。その試験を他の二人、エリアとキャロは知らない。その質問にリインフォースが答える。
「うん、機動六課の後見人、クロノ・ハラオウン提督が冗談で口にした魔導師試験だ。まさかシオンに挑むバカがいる訳ないとクロノ提督やその周囲で笑い話にしていたのだが……そこの二人が受けてくれてしまってな。見事不合格を得た訳だ」
「「……」」
「まぁ、その後クロノ提督から直々に再試験を受け合格。シオンと事前に戦えたのは大きな収穫だったと私は思っているが、どうだろう」
「はい……戦い方については、多くを得られたと思います」
「まぁ、シオンにコンビ程度で勝てる魔導師は局でも多くない。むしろ撃墜されなかっただけ頑張ったと思う」
「はい……」
褒められてはいるのだが、腑に落ちないようなティアナ。
「はい、そこまで。模擬戦始めるよ。初期配置から決めるからね」
文句を言いつつモニターにフィールドマップと配置を表示するなのは。
「スターズはA地点、ライトニングはC地点。ヴィーナスの二人はBとZ。ABCはそれぞれ二十メートルくらい離してて、Zはここから動かないこと。制限時間十五分でシオンへのクリーンヒットでクリア。それ以外はアウト。いい?」
「「「「はい!」」」」
「へい」
「了解だ」
「じゃあ配置について。カウントダウンからスタートだよ」
シオン&リインフォースvsフォワード四名、スバルとティアナにとってはリベンジとなる模擬戦が始まる。