『スタート!』
モニターから合図が飛ぶ。
同時に空へ白の魔力弾──恐らくフォワードに合わせた程度の、軽いシューターが二十ほど上がる。
「接近三、移動一……」
ビルの隙間にそれを目視しつつ、シオンが状況を呟いて把握する。
当然、その未来についても。
その未来通り、シオンの背後から正面に向かうウイングロードが敷かれる。
「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
シオンがいる高架道路の正面からスバルが、ビルの屋上からエリオが同時に攻撃を仕掛ける。
狙いは魔導師試験と同じく、とにかく初撃を当てる事。
ティアナの事前の戦略分析はほぼ正確で、スバルとエリオの二人でも正面からの突破は不可能と判断した結果の、攻撃方向をズラした同時攻撃。
しかもカートリッジ使用による火力とスピードの上乗せで、エリオには更にキャロの援護もある。
スバルがシオンの左から回り込んだことで、その側への行動はしない。そしてエリオが上と右後ろ側を封殺。避けるなら、右前方しかない。
ティアナの読みでは──両方とも避けて回避するか、どちらかは当たるだろう──という予測。そして避けたのなら、回避に合わせて先撃ちする自身の射撃が命中するだろう、とも。
結果から見れば、それはシオンを過小評価し過ぎである、という事になるが。
「……!」
ビルの合間から覗いていたティアナも、攻撃を止められた二人も言葉が出なかった。
ただ信じられない、という思いだけが先行する。
「ふぅ……どうした、そのくらいではなのはも落とせんぞ」
エリオの攻撃を鎌の峰で、スバルの拳をヤクザキックで相殺する。
シオンのステータスでは拳での反撃は不能だったため蹴りに行ったのだが、それでは片足になるため普通はしない。それを防いだとしても次、また次と次第に遅れることが確実だからだ。
だがシオンはその常識を覆す。
魔力放出により加速した、慣性を伴わない機械的動作によってティアナの射撃を鎌で切り裂く。
シオンの目は『先』を見る。
この事をフォワード及び機動六課、及びシオンに近しい者以外は知らない。
更には、その真の実力……その『能力』の存在さえ、外に漏れた例は無い。
そしてその能力の片鱗さえ、訓練如きで覗かせるレベルにはいない。
「エリオ、キャロ! プランB!」
「「はい!」」
スバルの声でエリオとキャロが高架道路を飛び降りる。
シオンはそれを追わない。
「この前のリベンジ、させて貰います!」
「……ふん、できるといいな」
「必ず!」
スバルを見つめ、それでも構えを取らないシオン。
四方に注意を払っているとも取れ、どれも脅威に感じていないとも取れる。
「不意打ちは、効かないんですよね!」
「……そうだな」
上空と道路下からのティアナの射撃。
軽く身を躱すだけで避けたシオンは、それを機にスバルへ走る。
「お前らの戦術、見せて貰うぞ!」
シオンがスバルの首目掛けて鎌を振る。
スピードに合わせた必中の一閃。
「っとと……! ティア!」
「……⁉︎」
それをスバルは迎え撃つでもカウンターでも無く、背を向けて逃げる。
ティアナの射撃も威嚇だけで、直撃コースには一発も入っていない。
それをシオンはただ不可思議な視線で見つめるだけで、追うことはしなかった。
あくまで模擬戦の条件は、シオンへのクリーンヒットなのだから、去るものを追って罠にハマるより十分に余裕が持てるとの判断からだ。
その予想は的中し、スバルが途中で慌ててビルの隙間へ身を隠す。
「ふむ……」
四人が視界から消えた事でシオンは思考を巡らせる。
見えていなければシオンの予知は使えない。
知ってか知らずか、シオンの弱点へと踏み込むことができたフォワード四人。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ティアナのシルエットで隠した完全なる不意打ち、背後からのスバルの特攻。
通常では防御に頼るしかない攻撃だが、それでもシオンはその先を行く。
「わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっと!」
すれ違いに拳を躱し、スピードを加速する様に威力を抑えた蹴りをスバルの背中へ。
自身の想定以上に加速したスバルはバランスを崩すが別のウイングロードへ飛び移ることでバランスを整える。
「ふぅ……なんだ、まだやれるじゃないか」
「今度は勝ちたいので!」
「無理だけどな」
「勝ちます!」
「まぁなのはが幻滅しない程度には頑張れ」
「はい!」
勢いを殺しきらずそのまま逃げるようにビルの隙間へ消えていくスバル。
シオンはそのまま動かない。
構えも取らず、周囲を見回すでもなく、ただ突っ立っているだけ。
敵意も無く、殺意も無い。
ただ、訓練のためだけ。勝ちさえ目標に無い、ただ負けないためだけの戦い。
「行きます、フタガミさん!」
「シオンでいい。さんもいらねぇ」
エリオの背後からの不意打ちを軽く弾き、初めて感情を表現する。
「……はい! シオン!」
「そうだ、それでいい」
初めてエリオに見せた、承認の笑み。
それはより闘志となって、エリオからフォワード四人に繋がった。
「……リイン、楽しめそうだ、援護はしてる風だけでいい」
《……了解です。フォワードの計画通りに撃つようにします》
「……ああ、お前でもそれくらいは視えるだろ」
《……十分に。3分ほどなら先打ちできます》
「……最大30秒、3発までだ。ま、そんなにかからないが」
《……了解……あ》
シオンとリインフォースの念話が終わる。
なのはが見ている手前、完全に止めるわけではないが、フォワードからしても止まっているも同然の手抜き。
フォワードの意気込みを買ったシオンが計らう、全力勝負。
「さぁ……なのはに見せてやれ、お前らの強さを」
構えは無くともやる気を見せるシオン。
しかし、確かに鎌を握る手に力を込めて。
「……次がラストだ。アタッカー前衛二人はな」
シオンが鎌を打ち付け、二つの小さな傷を道路に作る。
今こそ無いが、楽しみの証ではあった。
「……2……1……」
「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」
♢♢♢
「はい、そこまで」
全員の目の前にモニターが表示され、行動を中止する。
「……」
「う……」
必殺を狙った拳と槍は空を切り、それぞれに足刀と鎌が首元に迫る。
そして退路を断つはずだった射撃二者は、次の動作でどちらかがやられるという確信を強制された。
「何故止める?」
「そりゃあそうだよ、リインフォースは私の隣にいたんだよ、通信丸聞こえ」
「……そういえばそうだな」
分かってはいたが失念していた、という微妙な感情を示すシオン。
「しかし高町隊長、これはシオンが四人を認めたということでもあってでな」
「それとこれとは話が別。引き伸ばして欲しかったの。でもそれはいいよ。四人の動きやコンビネーションも短い間だけど悪くなかったし」
リインフォースのフォローも聞く耳持たず。
「じゃあいいだろ」
「四人には、シオンの動きを通じて実戦を感じて欲しかったの。それをこんなすぐ終わらせて……」
「悪かったよ、思ったより面白かったもんでな」
悪びれないシオンに怒る気も失せたのか、ため息をついてモニターを閉じる。
「フォワードがいいならもうそれはいいよ。後で謝っておいてね」
「……ああ」
「この模擬戦のデータは後で解析して、明日からの訓練に活かします。今日は初日だし、ここまで。フィールドはそのままにしとくから、自由に動き回ったりしてもいいし、すぐシャワー浴びて休んでもいいよ。シオンとリインフォースは相手してあげて」
「「「「はい!」」」」
「「えー……」」
「じゃあ、明日からみんな頑張ろう!」
「「「「ありがとうございました!」」」」
「「お疲れ様ー……」」
「二人はやる気出そうか……!」
吐息に殺意を混ぜる高等技術を披露したエース・オブ・エースに対し、殺せるものなら殺してみろと言わんばかりに二人は態度を反転させる。
「「ぅぇい!」」
「もう……! みんな、上官とか気にしなくていいからね。解散!」
「「「「はい!」」」」
高町なのは一等空尉。
その高い火力と射程と耐久、箭疾歩による短距離だが捉えられない移動法を持ち、レイジングハートを槍に見立てた近距離戦闘も可能であるオールラウンダー。その全てを真っ向から上回ってくる
彼女の真面目な職場と二人の戦力の底を見る時はまだ遠い。