「じゃあ確認だよ。スターズは先頭から、ライトニングは後方から、それぞれ中央に向かって制圧。取りこぼしのないように確認してね」
輸送ヘリでの最終確認。
移動するリニアレールを前後から挟んで制圧、レリックを回収。それが基本目標。他の指示追加はあれば追って指示、という形になった。
「あったら取りこぼした奴が取りこぼしと一緒になのはに撃たれるからな」
「撃たないよ⁉︎」
「まぁ、一緒にではないがフォローはある。なのはとフェイトが無理でもオレがいる。だからと言って取りこぼしていいワケでは無い。これに失敗するようではまだまだだという自覚を持て。まぁでも初任務だ、八神の顔に泥塗らなきゃセーフだ」
現場指揮はなのはの立場なのだが、歯に衣着せぬシオンの言い方はより緊張感を高め、かつ必要な情報を無駄なく伝えられるという点からなのはもこういった場面でのシオンの忠言は自分を抑え教わる立場として真摯に聞く姿勢を持つ。
かつてのそれが、自分の意思を貫ける足掛かりとなったこと、リインフォースというはやての無二の愛機を救った恩師であることから、シオンの価値観には異論は唱えないというある種宗教的な価値観がなのはにはあった。
「「「「はい!」」」」
「シオン! 偵察隊から報告だ! 空から多数、ガジェット反応!」
操縦席から報告。
受けたシオンはそう考える事もなく提案する。
「ふむ、じゃあそっちはなのはとフェイトだ。こいつら飛べねぇしな。行けるだろ」
「うん。フォワードは任せるよ」
価値観は価値観、立場は立場。
シオンが対等な立場を望むなら自分たちもそうしよう。それがなのは、フェイト、はやて、リインフォースの間での共通理解だった。ついでに言うのなら、守護騎士は名目上はやての管理下であるが、恩人たるシオンには一切頭が上がらない。それでも表向き対等に接してはいるが。
「ああ」
「みんな、心配しないで、思いっきりやってみよう。私も全力でやるから。フェイトちゃん!」
『あと少しでパーキングに到着する。先に出……っ!』
「「「⁉︎」」」
「フェイトちゃん⁉︎」
フェイトからの通信が突然途絶える。
管制からは通信妨害である可能性が高いとのこと。
「……リインフォース、お前はフェイトの所へ向かえ。場合によっては使っていい。こっちはこのままいく」
『……わかりました。フェイトを回収して撤退する』
「なのは、一人で行けるか?」
「うん。こっちのフォローまで手が回らないけど」
「なら大丈夫だ。行ってこい」
「了解! 高町なのは、行きます!」
フォワード達の初任務は、隊長達の助け無し。自力での達成が必須のスタート。
「あの、シオン」
なのはが完全に接敵したのを見ると、キャロがシオンに声をかける。
「なんだ?」
「私は……どうすればいいのでしょうか」
「……どう、とは? 指示が理解できてないわけではあるまい」
モニターを見たまま、キャロの話を半分に聞くシオン。
「怖いんです。全力で、というのが」
下を向き、ボソボソと呟くキャロ。
「キャロ?」
「……そうか」
エリオが首を傾げても、キャロはそのまま話続ける。
「私が全力を出せば、どうなるのでしょうか」
「別に。部隊からの期待が大きくなる。それだけだが」
「シオンは、私の生まれを知っていますか」
「知らない。聞いてたとしても覚えてない」
「じゃあ、私の能力は」
「竜召喚だろ」
「はい。では、その限界は」
「想定しようと思えばでき……ああ、そんな心配してんのか」
ここで初めてキャロにシオンが向きを変え、キャロの目を覗く。
虚無を思わせるハイライトの無い赤い目は、十分にキャロに恐怖を思わせた。
「え」
「お前の力はイイモンだよ。恐ろしい、って恐怖の感情は無知故だ。まぁでも、アレだろ、『強大すぎる力』って言ったんだろ、その村は。なら良いじゃねぇか。ソレが力なら制御できる。その村では扱えないだけで、力なんだ。災害じゃねぇ。だから安心しろ。この部隊はお前を忌み嫌ったりしないし、無理に追い出したりなんかしねぇよ」
「……!」
シオンは否定しない。
生まれを読み取ったシオンはそれでもなお肯定する。
「それにな、枠から外れてるだけで追放する、なんてのは田舎者のする事だ。追い出されて正解だぜ。ハハハハハハハハ!」
「シオン、それ言うとクロノ提督に怒られますぜ!」
「あー、すまん。まぁそんな感じだ。だが……お前ら、全力は出すな」
高笑いから一変、真剣な表情で切り出すシオン。
「「「……え?」」」
「出して六分だ。それ以上必要なら死なない程度に劣勢になれ。フォローに行く」
「な、何故ですか⁉︎特訓の成果を見せる時じゃ……!」
意気込むティアナに対して、あくまで冷静に返す。
「そうさせてやりたいのは山々だがな。フェイトに妨害があった以上、もっと警戒するべきものがある。だから、出すな。これは命令だ」
「心当たりが、あるんですか」
「……隠してもバレるから言うが、ある。が、何処の誰とは言えん。フェイトやお前らも少なからず関係があるからな……尚更だ」
「フェイトさんも……?」
「それは今気にするな。リインフォースが向かってる。今はこっち、レリックの回収だ」
「でもフェイトさん……」
「黙れ。この任務が終わっても十分悩む時間はある。手遅れには絶対ならない。なったらこの首くれてやる。だから、黙って終わらせろ」
「シオンー、どうせしくじったらクロノ提督に首飛ばされんでしょーが。どっちに転んでも無理ッスよ」
「じゃあお前の首も賭けるか、操縦士。名前は……なんだったか。まぁいいか」
あくまでフォワードの方を見ながら、言葉だけでのコミュニケーション。
「ヴァイスっすよ! リイン姉さんといい、いい加減覚えてくれないっすかね!」
「すまんな、オレ達は頭が悪いんだ」
感情も交えない淡々とした返答はヴァイスを諦めさせるに十分だった。
「へーへー! それでいいっすよもう! っと、フォワードたち、無事到着だぜ、覚悟はいいか!」
「「「はい!」」」
「まずはスターズ! 行ってこい!」
「スターズ3、スバル・ナカジマ!」
「スターズ4、ティアナ・ランスター!」
「「行きます!」」
それぞれが降下しながらセットアップ、無事目標に着地する。
「次! ライトニング!」
「……」
「大丈夫だよ。僕たちがついてる」
「……うんっ!」
「ライトニング3、エリオ・モンディアル!」
「ライトニング4、キャロ・ル・ルシエとフリードリヒ!」
「「行きます!」」
♢♢♢
「どーゆーつもりですかい?」
「あん?」
フォワードがいなくなり、二人残ったヘリで操縦士が口を開く。
「まだフォワードはひよっこだ、この任務だって決して雑務じゃねぇ。なのに六分? そんなんじゃ、下手すりゃ全滅っすよ」
実際の訓練に関わってはいないものの、ヴァイスはフォワードの訓練を時たま覗き見ていた。
それは管理局の中でも直接でしか見ることのできないシオンの戦闘を見たかった好奇心もだが、フォワードの身を案じての事だった。
ヴァイスの知る、機動六課以前のシオンの風評。それは敵に寝返り、幹部にのし上がった上で組織を崩壊させる非道。味方を盾に弾幕を超え、銃弾より速く命を刈り取っていく超戦士。無関係な敵の身内などを人質に取り、精神的に痛ぶった後人質ごと惨殺……そういった正義とは思えない外道を想像していたために、フォワードが心配でならなかったからだ。
「そうならないようにオレが行く」
「だから、なんでそこまでする必要があるんですかって聞いてんですよ」
しかし、もうその疑いは無い。
シオンは明らかに覗き見に勘付いている。それでもその事を理由に何か言ってくるわけでも、対応を変えてくるわけでもない。訓練にしても、模擬戦ではなのはに劣らず厳しいところがあるが、基礎の部分には誠実な教官として動いていた。
「理由はさっき言った」
座席に寝転がり、スターズとライトニングのそれぞれのモニターを眺め、ダルそうな返答でシオンは口を閉じた。
「……」
「……」
「……フェイトさんと、フォワード達に関係ある人物が犯人ね……その犯人が誰か、ってのも教えてくれないんでしょうね」
「ああ」
「そのへんマジにクールですよねぇ、じゃあ、この任務はどうなると思います?」
「別に。終わってみないと何も言えん」
「予想とかねぇんですかい?」
「無いな。オレ達はそういうのも苦手だ」
「ふーん? シオンは戦力分析も正確だし、得意かと」
「……要らないからな。戦術や策略なんて無くても負けないから、そういうのは考えたこともなかった」
「あ〜……そういえば、前にフェイトさんが言ってましたよ、シオンは私たちとは違う、って。単に嘱託だとかそんなんだと思ってたが、戦力の話か」
「どうだろうな。ん、デカいの出てきたな。じゃあ行ってくる」
「へい……って! 生身でか⁉︎」
「他に何がある。それ以外は禁止されてる。じゃあな」
「……マジかよ」
躊躇い無く飛び降りたシオンを尻目に、ドン引きしたヴァイスが呟いた。