「エリオくんッ!」
屋根の上から、無力と分かっていながらも叫ばずにはいられない。
指示された六割の出力。小型のガジェット相手であればAMFを持ってしても問題無く処理できた。しかし、この大型は違う。
訓練では想定されていない程のパワー、広いAMF。純粋な攻撃力では防御も抜けない。
そんな球体の大型ガジェットに、相棒たるエリオが磔にされ締め上げられている。
自分では、何も出来ない。六割の制限が無かったとして、全力を出せただろうか。
自分の力に対し、非難しない、怖がらない、歓迎すると彼らは言った。
──本当にそうか?
切迫した状況の中、任務に関係の無い事柄が頭を巡り思考を妨げる。
こんな時、何をすればいい? 自分は何ができる? 仮初でも優しく微笑んでくれた、フェイトに助けられた同士の大切な人。何をすれば助けられる?
──なにも、できないのではないか?
なのはとシオンの訓練も、フォワード四人だったからやってこれた。
隣で誰かが、同じ辛さと喜びを共有していたから挫けずにいられた。
シオンは、力なら制御できると言った。だが六割では召喚にすら不備が出る。
──自分は、またしてもお荷物なのではないか?
「やだ……! エリオくん……!」
ガジェットのアームが屋根を突き破り、エリオを今まさに放り投げんばかりに掲げられる。
「エリオくんっ!」
「──紫電、一閃!」
「え……」
瞬間、そのガジェットが両断される。
「オーケーだ。よく言いつけを守った」
「シオン……」
いつもと変わらない態度のシオンがそばに立つ。
「もういいぞ。それで十分」
「私は……なにも、できなくて……」
「無闇に力を使わなかっただろ。その制御ができたのはお前の強さだ。まぁだが、使おうとしたのは少しマイナスだな」
キャロを認めた少し優しさを覗かせた赤い瞳は、すぐさま目標へと移された。
「えと、あの……」
「いいよ、後で。今は任務を終える。エリオを守ってやれ。落ちないように抱いておくくらいはできるだろ」
「……はい!」
♢♢♢
「さて……スターズ、聞こえるか?」
ライトニング周辺のガジェットを数体両断した後、スターズへ連絡を取るシオン。
『……はい! こちらスターズ4!』
「戦況は」
『少し……苦戦しています。スバルが頑張ってくれてますが、流石に限度です』
銃撃音の混じった声。
爆発が視認できることからまだ距離は遠い。
「わかった。こっちの片付けて行くから後一分待たせろ。潰せるのは潰していいが、現状維持で十分だ」
『一分⁉︎そんな短時間で……り、了解!』
「ふぅ……」
モニターを切り、戦闘を再開する。
ただガジェットへ近づき、一振り。ただそれを繰り返す。
もはや戦闘ではなく殲滅の類に入るほど圧倒的で、瞬間的。リニアレールの半分を埋め尽くしていた三十を数えるガジェットは、同じ秒数程度で全滅していた。
そのままレリックのある車両を飛び越え、スターズを視認する。
「ふぅ……すまん、半分くらいで済んだ」
ティアナに対峙していたガジェットを両断し、軽い謝罪を述べるシオン。
「い、いえ! ありがとうございます!」
「気を使うなってんだろ。この状況にさせたのはオレだ。お前らはオレを非難するべきなんだぞ」
「と、とんでもない!」
「だから……くそ、取り敢えず後だ。お前らはオレの合図があるまでここで待機。レリックの確保を頼むからな」
「はい! スバル! こっち来て!」
シオンが車内へ突入すると、ティアナはスバルを呼び戻し現状維持、車外のガジェットの破壊に集中する。
「わぁああああああ⁉︎ういん……ダメだ! とぉー!」
「きゃあっ!」
中央に近い車両にいたスバルがガジェットを殴り飛ばしながら飛び出す。
スバルは六割の制限を使用魔法にも当てはめていたので、スバルの六割以下=そんなに本気じゃない=ウイングロードは使わないはず、という式が成立し、その使用を発動前に中断。結果として崖に飛び出た形になったが、ガジェットの残骸を蹴る事でなんとか車両上に着地することができた。
「こら! なにすんのよ!」
「たはー、ゴメンゴメン! シオンが突撃してくると思うと怖くて」
「あー、なら、いいわ」
「?」
「もうガジェットは全滅したみたい。たった一人で、生身で、あの体力で……はぁーあ! 行くわよ!」
明らかに怒りを示し、ティアナが車内に入る。
「そんな走らなくても! ティアー!」
「……!」
「どうしたの? ティ……!」
次の車両に入る事なく立ち尽くした親友を不思議に思いつつもその背中から覗き込み、同様に言葉を失うスバル。
そこには無残にも十字に斬られ、四等分されたガジェットが転がっていた。
ガジェットが侵入するために空けたと思われる壁の損傷以外、綺麗なまま。
「ガジェットの……抵抗さえ……?」
「ティア!」
「……!」
踏み出したティアナが止まる。
息を飲んで見つめる自身の頭上には、訓練で幾度と無く目にした白い鎌。
「……なんだ、お前らか。合図するっつったろ。あやうく殺すとこだったぞ」
ゆっくりと鎌を下ろし、短くため息を吐くシオン。
「す、すみません!」
「スバルには支持してないな。お前はいいよ。聞いてない指示なんて守れるわけないもんな」
「いやでも、あの」
「命令違反は、すみませんでした。ですが、なら何故殺さなかったのですか」
ミスを認め頭を下げる。そしてその後、シオンを睨んで問い質す。
自動迎撃のガジェットが反撃できない程の速度で斬り回っていたのなら、何故使えない自分ごと切らなかったのかと。
「ティア⁉︎」
「んー? 死にたいのか?」
「いいえ。死んでも叶えたい夢はありますが、死にたくはありません」
「ふーん? ならいいじゃねぇか。お前みたいな目標を持つヤツはな、こんなロクデナシに殺されるべきじゃないんだよ」
喜ぶ様にシオンが笑う。ニヤつく、という表現が適切かもしれないが。
「それにお前らはなのはの仲間だからな。殺したら怒られるだろ」
バツが悪そうに言い捨てるシオン。
「シオンって、そういうの気にする人だったんですね」
「そりゃあ気にするさ。なのはの選んだ部下だぜ? その内成長してオレらの仕事を減らしてくれることを期待してる」
「いや……それはなのはさんと関係無いです……」
「あるだろ、お前だってなのはみたいに強くなりたい、ティアナはなんか、叶えたい夢? があるんだろ。そんだけ意欲があればオレの仕事なんて減るさ」
「本気でそう思ってますか?」
「……?」
「この任務だって、六割、たしかに制限はありました。ですが、全力でやっても『こう』はできない自信があります。あのガジェット達相手に、反撃さえ許さないなんてこと、できるようになるとも思えません」
「……なんなんだ? さっきから。オレに反抗ってワケでもねぇだろ」
「いいえ、これは反抗に値する無礼と思って言います」
「ティア……そのへんで……」
スバルがオドオドしながらも止めに入るが、二人は意に介さない。
シオンの目を真っ直ぐに睨みつけたまま、ティアナはその口を開く。
「あなた達隊長達は、私に価値があるとでも思っているのですか?」
「ああ」
即答。そして肯定。
「お前の価値はねぇ……なんつーか、結構なモンだと思うぜ? 他のメンバーと比べて卑下してるみたいだが、お前と同じ射撃ができる奴が何人いる? お前と同じ指揮ができる奴が何人いる? 少なくともフォワードではお前だけだ。魔力を持たない局員だって大勢いる。確かになのはやフェイトのように超一流のブランドは無いかも知れん。でもな、そこに向かう意志があるのなら辿り着ける。八神はその点、お前と同じような心境だっただろうよ」
「あなたや……リインフォースさんは、どうなんですか」
「オレ達は……違うな。強くなってしまった類だ」
「……」
「生きてる世界が酷過ぎて、それでも生きてみようとしたらこうなった。リインフォースは……触れてやるな。あいつも望んであそこまでの力を得たわけじゃない」
「……はい」
「取り敢えず任務だ。愚痴くらい後で聞いてやるよ。ほら、さっさと回収しな」
「はい……」
その日のレリック回収任務は無事終了。
フォワードが怪我を負うことも、大きな魔法を使う事もなく、ただなのはとシオンによって場が蹂躙された。