「えっと……昨日はごめんね? あの……色々あって……」
「いえ……フェイトさんが話したくないのであれば、詮索はしませんが……」
翌日。いつも通りの早朝訓練前に昨日の事について謝罪をとフェイトが参加する。
フェイトはリインフォースがしっかりと回収していた。任務への合流は『
「おいリインフォース。何があった」
ティアナが流そうとするが、シオンは単調なままで話を聞き出そうとする。
「シオン!」
「うん、話そうにもな。簡単に言えば何も無かったんだ。だからまぁ、取り敢えずスルーでいいと思う」
「はぁ?」
シオンが眉を潜める。
「私とフェイトを検査してもいい。別に損傷があるわけでもなく、何かあるわけでもない。本当に何もなかったんだ。細かく話すのは面倒というかな。いやホントに。ほら、何かあったというニュースも無かっただろう?」
「……クソ、めんどくせぇ。なのは、それでいいか?」
「うーん。二人がそうまでして隠したい事があったとして、それがレリックに関係するものなら隠すだけ損なはずだし……私は二人を信用してるから、それでいいと思う。フォワードはどうかな」
「わ、私もなのはさんがいいなら大丈夫です!」
「私は……少し疑いたいですが。他がいいなら大丈夫です」
「僕はフェイトさんに助けてもらった身ですし……」
「私もです」
「甘いねぇ……まぁいい。コトがコトだからな。怪しけりゃ即斬るぞ」
「殺すな、と言っても聞いてくれないんだろうな。フェイト、後で不死身にしてやろう。殺されてからでは遅い」
「死ぬのはお前だけだぞリインフォース」
「む、私は割と本気で不死身だぞ。なんなら究極生命体にもなれる」
「じゃあ細切れにするぞ。子宮だけエリオにくれてやる」
「えぇ⁉︎なんでですか⁉︎」
「そりゃあ……生」
「シオン! エリオにヘンな事言わないで!」
「……ああ、うん。じゃあ胸は八神かキャロに」
「それもだよ!」
「……そうか。じゃあ目……」
「はいシオン。暴走しない。もういいよ、昨日のことはただの不具合。みんなもそれでいい?」
「「「「はい」」」」
「よし、じゃあ今日からの訓練は更にハードになるよ。それぞれのポジションに合わせた訓練だからね。ヴィータちゃんにも今日からは参加してもらうことになるから」
「「「「はい!」」」」
♢♢♢
「エリオとキャロは、なのはやリインフォースみたいに頑丈じゃないし、ティアナやなのはみたいな、相手の射撃を相殺していく事も難しい。だから、まずは撃墜されないように攻撃を回避する能力を身に付けよう」
「「はい!」」
「まずはこうやって……」
宙に浮くスフィアからゆっくりした射撃が二発、フェイトへ向けて発射される。
それを、ステップ二回で余裕を持って、かつ確実に回避するフェイト。
「こんな風に……動き回って、狙わせない。狙われやすいところに、長居しない」
乱雑に立てられた柱のようなものの間をジグザグに走り攻撃を躱していく。
そしてある程度避けると一度足を止め、攻撃を集中させる。
「あ……!」
着弾と共にエリオ達が小さく声を出す。
「ね、こんな風に」
しかしその時にはフェイトは二人の後ろに回り込んでいた。
「え……」
「すご……」
「今のも誰でもできる動きを早回ししてるだけなんだよ。高速になるほどカンやセンスに頼るのは……この人みたいな、とんでもない例外を除いては危ないんだよ。だから、二人はしっかり基礎から身に付けていこう」
「「はい!」」
「この、とんでもない、とはまた……」
やれやれ、とシオンがため息を吐いた。それが、終わりだった。
「じゃあシオン、ちょっとやってみて」
「ヤだよ」
「高速と低速で二回」
「やだって」
「シオンはスピードじゃなくて時間で終わるんだ。本当に五分。訓練より筋力とか使うから、そうなるんだろうけど」
フェイトがシオンを無視してスフィアを増やす。数にしてフェイトの倍、30。
「訓練は魔力放出で手抜きだからな。使わないとホントに五分だ」
「はい、じゃあスタート」
どん、とフェイトがシオンを押す。
すると当然、フェイトが増やしたスフィアが問答無用でシオンへ攻撃する。
「っざけんな!」
「とは言いつつやるんですね……」
先程フェイトが説明した、動き回り狙わせない基本を全て無視したその場での連続回避をさも当たり前のようにこなすシオンを呆れながら見る。
「根はマジメだからね。裏切ったりも、ホントはしない。そう信じてる」
「……?」
「ううん、何でもない。シオンは口が悪いだけなんだよって」
「はぁ……」
それ以上フェイトは口を開かず五分が経過。
次第にスピードを上げていく五分を無被弾で超えたシオンの息は絶え絶えだった。
「あー……無理」
「じゃあ次、低速でおねがい」
「無理だっつってんだろ」
「フェイトさん、いいですよ、シオンが無理なのは今までの訓練で分かってますし……」
「お? オレを煽ったな? いいぞフェイト、やる」
自分がバカにされていると感じたのか、震える脚に鞭打って再び五分を開始するシオン。
「えぇ⁉︎すみません! ホントにいいですって! 大丈夫なんですか⁉︎」
「煽られたらその発言を上回るのがオレの信条だ。魔力放出は使うけどな」
「うん。じゃあ、スタート」
「お前らも後でやれよ! クソ!」
呪いを含む叫びを上げてから、シオンは倒れるまで一言も話さなかった。
♢♢♢
「全く……自分の事くらい把握しているだろうに。また調子に乗ってやらかしたのか」
「うるせぇ……」
医務室。事件のデータ収集で席を外しているシャマルの代わりにリインフォースが治療(熱中症)を施している。内容は点滴と各部を冷やす氷を適宜替えるだけ。
「普段冷静なクセしてテンションが上がると止まらないのがお前たちの欠点だな。反省しろよ」
「たち、って……オレらがそう見えるのか?」
「二人ともそう変わらない様に思うがな。とにかく、今は寝ていろ。午後の訓練だって放ってきたんだぞ、私は」
「お前、午前何してたっけか」
「うん、私はヴィータと共にスバルの相手だな。より強く、より硬い防御の訓練だ」
「……お前のバリア抜ける奴がいるか?」
リインフォースの実力を認めつつ、それを計るように問うシオンに、リインフォースは恐らく能力も含めて考察したのだろう、少し長く間を置いて答えた。
「直死なら」
「じゃあ管理局じゃ無理じゃねぇか」
「そう言うな、私だって一応リミッターもかかってるんだ、どうにかなるさ」
「オレらとあいつらは違うからな……適度に合わせてやれよ」
「ふふ、たまにはシオンはそんな事を言うのか?」
「言うだろ、優しいんだから」
間を置かず、当たり前だと言わんばかりに答える。
「うん、そうだな。そうでなければ私やはやて達を助けたりはしまい」
「その話はすんなって……単にウタネの気まぐれだ」
「そうだとしてもだ。お前たちがいなければ少なくとも私はいなかった。それに……私は、お前たちに正式な入隊で良いのだろう?」
「んまぁ……そうだな。考えとけ。五人目だからな」
「夢物語です。本当に」
「だろうな。オレ達も想定すらしてなかった」
「……私にも、次はあるのでしょうか」
「さぁな。頼んでやろうか?」
「いえ、できれば私は、はやて達と普通の人生を終えてみたいです。その上でまた考えさせてください」
「なら頼んどくよ。八神や騎士は無理だが……まぁ、そうなるのもまだまだ先だろ。ゆっくりでいい」
「……本当にすみません。もしかしたら私は、みんなの邪魔になっているのだと思います」
「あ?」
「あなた達がいなければ死んでいた私です。最近は能力の傲慢も過ぎて怠けているのも分かってはいます。決して少なくない代償を払って生かされている私がこんなでは、良く思うはずもないでしょう」
「それでいいじゃねぇか。なのは達やフォワードよりかなり人らしいぞ?」
「それは……夜天の主としてですか? シオンとして?」
「シオンとして、だ。アイツらを見てみろ、何においても仕事、仕事、仕事だ。まぁ……価値観的に言うからなんだが、アイツらは『時空管理局が保有する犯罪者を捕まえるための手段』だ。あくまでシオンとしての価値観だがな。アイツらは人じゃなくて人材、人財だ。あくまで管理局に使われるモノに過ぎない。その点お前はより人らしい。それじゃ不満か?」
「……作り物の私は、あの生真面目な天才達より人らしいと?」
「ああ。アイツらは自ら進んでこの道を選んだ。今になって思うよ、リンディは実に先見の明に長けていた。もしかしたら、今の様になる事が分かってたのかも知れない。もう暫く会ってはいないが……やめさせておくべきだったか聞いてみたいもんだ」
「リンディさん……私も暫くです。何度か見かける事はありましたが、軽い挨拶くらいで。それで、何とおっしゃっていたのですか?」
「んー、よく覚えて無いんだがな。才能で道を決めるのではなく、苦労と試練を超えて道を進む資格を示せ、みたいな感じだったと思う。今のフォワードと同じくらいだ。奴らは才能故に八神に選ばれ、管理局機動六課の目的達成の為の手段として育成されている。別に否定するわけじゃねぇけどな。個人でやるウタネとシオンとは別の在り方ってだけだ」
「良いか悪いかで言えば、どうなりますか」
「だから、そんなんじゃねぇ。地球で一般企業に入っても同じことだ。それが今の普通なんだよ」
「はぁ……その、そのような事を考えた事が無かったもので……戦乱を生きてきた私には、少し理解が」
「オレも、お前も、本来なら無かった筈の命、存在だ。まぁ、そういう集まりなんだけどな。お前がそうなると決めた以上、そういう価値観は持っとくべきだ。お前が知らないのもいるが……その内会えるだろ」
「その人も同じように強いのですか」
「強い。オレ達に無い強さだ。シオンとウタネ、リインフォースがそれぞれの能力による絡め手の強さだとするなら、本人の……純粋な強さだ。オレ達は希少性での絶対的強さだが、他と同じ土俵でありながら規格外に立った……ズバ抜けた強さ」
「私の能力でも再現不可能なほどに?」
「いいや、できるだろうな。それ相応の神秘だが再現は可能だ。お前はしないだろうが」
「なぜ?」
「……お前が、女だから、かなぁ」
全てを諦めてリインフォースを眺めるシオン。
「は? 女?」
なぜ強さから性別の話? というような、全く意表を突かれた表情を見せるリインフォース。
「いや……なんつーか、割とショッキングなんだよな……思い出したくもないが」
珍しいほどに歯切れの悪い上、これ以上無いほどに悩んでいるのか言葉が続かない。
「???」
「いや、多分……エリオでも嫌だと思うし、クロノやユーノも嫌がる……」
「具体的に言ってくれませんか? なんでしょう、ヒトの形を取らないのでしょうか」
「ヒトだよ。具体的に? は無理だね。自分で確認しな」
「ですから、言っていただけなければ」
「ほぼ雑談だし……長くなるぞ?」
「まぁ、まだ昼間ですし、明日までに終わるのであれば」
「……電話、持ってるか?」
「唐突に何ですか……? モニター通信が当たり前の局では持ち歩いていませんが……はい、作る事は可能です」
「サンキュ。さて……」
体を起こし、リインフォースの手のひらに現れた携帯電話を受け取り、特に操作する事なく耳に当てるシオン。
「?」
「ああそうだ、固有結界開いてくれ。人がいなけりゃなんでもいい」
「え、はい」
疑問に首を傾げながらも淡々と詠唱を行い、無限の剣製を展開する。
「お前が開いても景色違うんだな」
「心象風景の具現らしいからな。シオンは確か何も
「とぅるるるるるるるるるる……」
「は?」
続け様に起こるシオンの奇行に開いた方が塞がらなくなったリインフォースだが、それを無視してとぅるるるるるるるしている。
「もしもし?」
《あ……? ん? 誰だ?》
出るはずのない電話に出る、リインフォースの聞いたことのない声。
「リインフォースだ。解るだろ」
「え? なに? は?」
シオンの前に現れた、魔法では無い空間モニター。
映っているのはひたすらに白であり、向こう側の様子は把握できない。
《……ん、まぁいい。なんだ?》
「コイツもオレら入りしたから。次用意してやってくれ」
《あのなぁ……なんでそう年増ばっかり勧誘するんだ? 年近いからか?》
落胆するような、呆れるような、責めるような、それでいて無感情な声が聞こえる。モニターから発せられる音声では、性別、年齢、体格などの想定は一切できない。
「全面戦争か? 単に能力的なモンだよ。お前もちったぁ歳重ねりゃどうだ」
《こう見えてお前の数百倍は存在してんだぞ》
「聞きたくなかったなぁソレ」
《趣味の話はどうでもいいだろ。で、なんだ? もう終わらせる気なのか?》
「いいや。知らん。ただ死ぬ前に言っとこうと思っただけだ」
《まぁ……ダメという訳ではないが……多いな……お前らを移すのにすら苦労したんだが》
「そうなのか? 気楽に廃棄処分したと思ってたが」
《空中落下はくぐる時に宙に浮いてたからだな》
「足擦りながら越えろってか」
《ああ。門の下にちょっと段差付けとくから次からは足を軟化してからやるといい》
「できるかバカ。ソコじゃ生身じゃねぇか」
《じゃあ諦めてダイブしろ。死にゃせんだろ》
「あのなぁ、ウタネさんはそりゃあ死なないけどな、シオンさんはお前の気分次第で生身なんだよ。どんな技術でも4桁キロメートルの落下に耐えることはできねぇよ!」
《……そうか、なら》
「シオンさんは能力を永続させる?」
《何度も死ね。生きてる世界線も存在するだろ》
「つれないねぇ」
「その……あの? どちら様……? ですか」
意味不明な会話に耐えかねたリインフォースが疑問を投げる。
それにシオンは迷いなく意味不明な解答を示した。
「ん? ああ、ショタロリコン」
「はい? ショタ?」
「いや、ショタのロリコン」
「普通……では?」
「……そういやそうだわ。いや違う、こいつはオレらの数百倍生きてて、JKを年増呼ばわりするゴミクズなんだよ」
「はぁ……」
《黙ってろ。もうJKですらねぇ癖に。それに初見でもJDだったろ》
「ああ! テメェに色欲向けられんのは嫌だからなぁ! 良い成長してやったぜ!」
《……はぁ、まぁいい。リインフォース・アインス》
「はい? アインス?」
《ん? なんだ、ツヴァイはいないのか?》
「あー? 知らないが……? 色々やったんだが……お前、見てたんじゃないのか」
《仕事合間に覗くくらいだ。一々全部把握しちゃいない》
「ふーん? 見られてた気配はあったのに……まぁいいが。死ぬはずだったらしいコイツも救ってしまった。だから……言っていいだろ、コイツも転生させれやれ」
「転生なら経験あります」
「……そういやそうだわ。なんで異常なヤツしかいねぇの?」
《お前が異常だからだろ》
「異常じゃねぇよ、普通の一般人になってるだろ」
《普通の一般人を装わなきゃいけない時点で普通でも一般人でもねぇよ》
「……そういやそうだわ。で、いいんだろ、グダグダすんな」
《お前がいいならいいぞ。なんで無駄話したんだよ》
「わからん。久しぶりだからかな」
《似合わねぇ。まぁいい。じゃあな》
「ああ。時間取って悪かった」
《もしまだ増やすとしても若いのにしろよ!》
「もう増えねぇよ。多分。じゃあもう次まで関わらないからな」
《ああ。こっちで不都合が起きた時だけ繋げる》
「そうしてくれ」
ブツン、と機械音でもない無機質な重い音と共にモニターが消える。
シオンは緊張を解くかのようにいつもより長く息を吐く。
「ふぅー……」
「あの、結局のところ、どちら様で?」
「神」
「……はい?」
ベッドに寝転びながらダルそうに答えた言葉にリインフォースが固まる。
「ロリコン。闇の書事件後の旅行で言ってたやつ」
「……あ、はい。思い出しました。それがさっきの……」
「ああ。あと旅行ん時にも言ったと思うけど誰にも言うなよ。オレ達だけが知っていい存在だ」
「いえ、もちろんですが……」
「ショタでロリコンで暇つぶしに人の命救ってみたり能力プレゼントなんてするおちゃらけだが、力は本物だ。人一人どころかこの世界丸々潰しかねん」
「……はい」
「やっぱり気楽に、ってワケにいかねぇなぁ……すまん、一人にしてくれ。なのは達には言うなよ」
「はい。知るべきでもないでしょう」
「さっき言ってた他のヤツについてはまたいずれな。次かも知れねぇけど」
「……大体分かりました。私と同レベル以上、ということは。それでは、失礼します」
そして静かにリインフォースが退室すると、また深く息を吐いた。
なんか、もうちょっと……巧く構成したいなぁ……という感じ。