「あんな、シオン」
「ん?」
「勝手に動いてへん?」
「はぁ?」
仕事へ向かうヘリの中、はやてがシオンへ疑問を投げる。
今日の仕事内容とも普段の行動とも関連が取れなかった問いに眉を潜めながら聞き返した。
「最近な、変な事件が増えてんのや」
「常日頃から監視しといて何言ってんだ。最近はずっと六課にいただろう。これからも仕事だってのに」
「やんなぁ。せやからな? 心当たりはないかなーって」
「無い。どんな事件だよ。関係無いならほっとけよ」
ダメ元で当たったようなはやてに、興味が無い事を示してから詳細を聞く。
本当にどうでもいい事、管理局の魔導師で解決できることならはやてはシオンへ事件の話はあまりしない。それが仕事中にも関わらず話したと言うことは、そうなのだと察した。
「まぁ……ホテルに着くまで、ちょっと見といてよ」
「ん……」
「あの、八神部隊長、私にも見せてもらっていいですか?」
重要性を感じてかティアナが申し出る。
それを受けてはやては全員に見えるようにモニターを開く。
「うん。フォワードもちょっと頭の隅に入れといて」
「えーと……基本的に、犯罪組織の壊滅ですね。それも指名手配されるほどの」
「そうなんよ。それ自体は管轄じゃないしまぁええねんけど、それやなくて、下のとこ」
「?」
「あー……」
「そう、このリストの痕跡鑑定は全部、民間人によって行われたもんなんや」
「魔法使用の痕跡無し……なるほどね、それでオレか」
管理局を持ってして逮捕、解散を狙えない、狙いづらい、危険性が高い、と言った理由がある指名手配の犯罪組織。
当然、彼らも魔導師である以上、この世界で対抗するには魔法で上回らなければならないはずなのだ。それが、犯罪組織関係者以外の魔法使用の痕跡が全く発見されていない。また、仲間割れの可能性も考えづらい状況であった。
「そう、魔法が使えへん一般人、って点だけやけど、犯罪組織潰せるんならアンタしかおらん」
「心当たりねぇ……」
「ホンマに無いならええんよ、また別の課が捜査するやろしな」
「んー、まぁ現場見ねぇとな。こんな写真じゃサッパリだ」
「現場も残してるには残してるけど……そんなアッサリ?」
「めんどくせぇんだよ。今日はホテル警備だろ。終わってからにしてくれ」
「んー、まーそーやな。それはゴメン」
「今日はユーノも来るから、シオン、変なことしないでね」
「ユーノ……?」
フェイトが注意を促すが、シオンは疑問符を浮かべる。
「忘れたの⁉︎なのはに魔法を教えた子だよ⁉︎」
「ん……? すまん、二週間くらい会ってない奴は記憶に残らないんだ。まぁ、会えば思い出す……と思う」
「えぇ……」
あまりに薄情な言いようにフェイトは呆れて追及を諦める。
それを聞いたなのはもどこか顔が引きつっている様子。
「そう言うなよ、オレだって色々考えてんだから。人の半分くらいしか容量無いからな。どうでもいいのは忘れるんだ」
「要らないデータ八割くらいありそうやな……」
「そうだろうな。お前のエロくらいは割いてるだろうな」
「じゃあ控えめやんな」
「ほぼ全部だよバカ」
「はいはい、もう着くから。シオン、よろしくね」
シャー! と牙を向いたはやてをリインフォースが、追撃しようとするシオンをなのはが止め、本日の本題へ入る。
「ん? オレ何処の警備?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「知らねぇ」
「地下駐車場とか、地下全般」
「広過ぎねぇか?」
「できるかなーと思って。リインフォースもいるし」
「あー、ならいいよ。了解」
敷地全ての地下ともなると相当の面積があるのだが、二人にはそう関係の無い問題であった。
♢♢♢
「それで、どうなんだ?」
担当の地下へ入り、二人きりになったところてリインフォースが口を開く。
「ん?」
「さっきの事件。本当に心当たりは無いのか?」
「あー……まぁ、魔法無しで魔導師を、しかもロストロギア関連の犯罪組織を潰すなんてのは普通無理だ。質量兵器の痕跡も無いみたいだし、本当に生身か近接武器でやったんだろうな」
ふぁあ、と欠伸をし、面倒そうに髪を指でいじるシオンの話の続きをリインフォースはただただ待つ。
「まぁ……できる奴は知ってる。見た感じはソイツが最有力候補だ」
「なら何故言わない? 今後事が運び易くなるだろう」
「接触する気は無いよ、面倒なだけだ」
「お前たち……いや、私たちか。その一人か」
「まぁな。ぶっちゃけた話、敵だ」
「敵でもカウントするのか?」
「ああ。そういうのは関係無いからな。必要なのは在り方と、戦力だ」
「在り方か。私はどのような?」
「まぁ簡単だ、が……おい、どう視える」
何かを察知したシオンがリインフォースに能力使用を促す。
「ん?」
「敵だ。事件のな。どうなりそうだ?」
「未来視……エピタフでは、表……正面から。だが陽動だな。本命はここの運搬物だ」
リインフォースが地下の地図をモニターに写し、場所を示す。
表の敵戦力も踏まえた上でシオンは戦略を立てる。
「ならお前は表に出て援護だ。戦況に影響が無いくらいで立ち回って、抜かれそうなら一度知らせろ」
「シオンは?」
「オレは本命ってのを止める。尻尾くらい掴みたいもんだ」
「了解」
要は邪魔なんだな、と言い残し、リインフォースは姿を消す。
「邪魔?」
それを聞いたシオンは、そう取れるのか、と呟き、それ以降は気にする事なく周囲の警戒へ移った。
♢♢♢
「む、ティアナか。これは……」
表に出る前、リインフォースは常に未来視を発動させて表の様子を見ていた。
戦力的にはそう急ぐ必要も無いと考えシオンの視界から出た後はかなりマイペースに歩いていたのだが、十数秒後の未来はあまり良い状況では無かった。
「止めるべきか。うん、ヴィータが止めるなら私が行っていいはずだ」
キング・クリムゾン。
時間を消し飛ばし、物質を透過する。これによってリインフォースは建物や木々を全て無視して最短で問題の場へと向かった。
「リインフォースさん⁉︎」
「うん、防げたかもしれないが一応止めに来た」
スバルの背後に迫るティアナの弾丸を素手で握り潰したリインフォースが気楽に言う。
「ち、違うんです! これもコンビネーションの内で……!」
「ん? そうだったのか。それはすまない」
「えっ、は……はい!」
拍子抜けしたスバルが事を終わらせようとするが、現実はそう上手くはいかない。
「なワケねーだろ! 完全にティアナの誤射じゃねーか!」
彼女らの上官かつ鬼コーチ、ヴィータは先の状況を重く見ていた。
部隊として、チームとしての現場では、その連携が絶対必須であり、誰かの勝手な思惑でそれを乱すことなど論外であること。それは何もヴィータだけではなく、ティアナも十分に理解できているはずだった。だからこそ、ヴィータはそれが許せず吠えた。
「そう言うなヴィータ。本人がこう言うんだ、私が介入してしまった以上、その主張は空想だ」
「ならあそこからどうしてたっつーんだよ!」
対して先の誤射を全く意に介していないリインフォースとの言い争いになる。
「それこそいくらでもできるだろう。取り敢えず残りを始末しよう。五秒程飛ばしてる。シオンに影響があるかもしれない」
「あ……? 能力か」
「うん。まぁスバルもティアナも続きだ。このペースならあと少しで終わる」
「は、はい……」
リインフォース
「ダメに決まってんだろ! フォワードは全員引っ込んでろ!」
結局はヴィータに押され、リインフォースと二人で残りの殲滅に当たることになった。
♢♢♢
「よう、どうだった」
ガジェットの殲滅後、事後処理をしている中にシオンが顔を出した。
「お前なら見てわかるだろう。ヴィータがキレた」
「お前がキレさせたわけじゃないよな?」
「当たり前だ。流石にそこまで無神経じゃないぞ。それより、そっちはどうだった?」
どうだかな、とシオンは目を逸らし、ため息を吐いてから答える。
「ああ、なんか変なの来たから追い返した」
「やったのか?」
「いいや、未遂。片腕落としたくらいだな。ただその腕ごと転送されたから多分元通りだろうけど」
「そうか。まぁ何も盗られてないならいいだろう」
フォワードや他職員に指示をしながらリインフォースが相槌を打つ。
「……その事で、後でまた二人で話そう」
「盗られたのか?」
「いいや。この建物の物は何一つ取られていない。オークションには一切不備が無いはずだ」
「……なるほど。了解です」
珍しく濁した話し方だと疑問に思うリインフォースだが、その意図することを察し、人目の多いここで話すことを控えた。
「……ああ」
「なら、シオンは休んでいてくれ。現場検証が終わり次第撤退だ」
「そうだな。そういうのは専門外だ……ん、ティアナはどうした」
「ん? ああ、少し席を外してる。なのはが現場にいなかったからと処遇は私が言い渡した。ヴィータもそれでいいらしい」
「何した?」
「うん? 別に。なんだろうな。誤射?」
「なんでわかんねぇんだよ……」
「うーん、別に……そう咎めることでは無いと思うからな」
「まぁ、いいよ。後で現場見せてくれ。何かしらあるだろ、能力」
「うん。紙芝居してやろう」
「なんでそうなる……普通に映像で見せろよ」
「はは、冗談だ。ではまた後で」
「ああ。ご苦労さ……ん?」
雑談を終え、ホテル内へ向かおうとしたシオンに向かって手を挙げる、優しげな雰囲気の男性が一人。
「やぁ、シオン、リインフォース。久しぶり。全然変わらないね、はは」
「はは……すまん、誰だっけ。知り合いか?」
「……なのはから聞いてはいたけど、ホントに忘れてるんだ……ユーノだよ。ユーノ・スクライア」
苦笑いを浮かべながらも自己紹介するユーノ。
「ああ、なのはに魔法を教えてたらしいやつか」
「完全に忘れてるね。リインフォースはどうかな。覚えてる?」
「ああ、私は大丈夫だ。私たちの中でも記憶力が壊滅してるのは一人しかいないからな」
「皮肉は結構。その内思い出すよ、悪かったな」
「いいや。むしろこちらが謝るべきだ。まだなのは達を助けてくれて。その、本当に巻き込んでごめん。初めは普通の生活をしたいって言ってたのに」
ユーノは闇の書事件以降、完全に無限書庫に引き籠るようになり、半年程重装備で書庫篭り、1週間ほど表で冬眠した後、また篭り始めるという書庫の幽霊、妖精の類と化していた。
初め数回はなのは達も止めていたのだが、何かと籠る姿勢を守り続け、クロノがヒマを見て声をかける程度になっていたのだが、何年目かに無理があると判断したクロノが管理局の仕事と関連した内容の調査を依頼、数日ペースで表に復帰するよう仕向けるなどを繰り返し、何故か今回イベント参加となった。ユーノ自身、オークションは仕事だけで興味は一切無い。
「……」
「え、どうかした?」
「いいや。思い出したよ、ユーノ。やっぱりお前、大したもんだ」
「ん?」
「そうだな。もう無限書庫はいいのか?」
「ああうん、また来週から行こうと思う。ついでに何か調べようか?」
「いいや。私たちからは何も」
「分かった。また何かあったら……そうだな、どこぞの提督にでも言っといて。できるだけ早めに調べるよ」
「ありがとう。無茶はするなよ」
「リインフォースもどう? 無限書庫」
今では数少なくなった労いの言葉に、ついテンションの上がるユーノだが、リインフォースはその探索内容を知っているために顔を引きつらせる。
過労死寸前の人間には何気ない労いとあっさりした高カロリー食がよく染みる。
「無茶したくないからな。遠慮しておく」
「そっか。じゃあ、なのは達と話してくるよ。これからも、できれば頼む」
「……改めて言われてもな。この事件中はやるが」
「うん。また今度、ご飯でも行こう。奢るから」
「ああ」
ユーノが立ち去り、ふぅ、と息を吐いたシオン。
「で、どうする」
「ロビーで寝てる。帰り起こしてくれ」
「了解」
シオンが様々な関係者を無視してロビーへ入り、隅のソファで寝ようとすると一人が歩み寄ってくる。
「あの」
「……他人行儀だな。ティアナ」
ソファに寝転び、目を開ける事なく対応するシオン。
ティアナの声は、どことなく弱々しい震えを含んでいる。
「リインフォースさんから」
「ああ。ミスショットだってな」
「はい。ヴィータ副隊長の言う通り、私の重大なミスです」
「まだ見ちゃいないが。で、なんだ?」
「はい?」
「は?」
「ペナルティはシオンから、とリインフォースさんには言われたのですが」
「……二秒待て」
そう言ってシオンは一度深呼吸をして、目を開けた。
「理解した。ペナルティは無しでいい」
「え⁉︎」
「ミスショット。としても未遂だ。リインフォースが止めたらしいし、ヴィータもいたんだろ。ならどう転んでも未遂だ」
「指示を無視したミスですよ。それでいいんですか」
「不満か?」
「はい。それとも、そのくらいのミスは想定内ですか」
眠たそうなシオンに対し、苛立ちを募らせるティアナ。
それを見てまた二秒ほど考え、それでも正解が思いつかなかったのか頭を掻きながら答える。
「んー、正規の隊長どもがどう考えてんのかは知らないけどな。オレとリインフォースはお前らを戦力としては見ていない。だから、死んでねぇならヨシ」
「お前ら、って……スバル達も同じに見てるんですか。あの才能を」
「フォワードだけじゃ無い。管理局の事を言ってる」
見当違いだと言わんばかりのシオン。
しかし事実、フォワード四人がかりでもシオン一人に手も足も出ず、なのは達でさえ必死に訓練と実戦を越えて得た実力と地位を、普段怠けきっているリインフォースが簡単に上回っている。もし同じ様に取り組めば、より差が開く事は確実と想像できる。
「……まさか、なのはさんまで戦力にならないと?」
「ああ。普段見てるなのははな」
「どういう事ですか」
「別に」
「説明して下さい」
「機動六課の目的は?」
「話を逸らすつもりですか。ロストロギア、レリックの回収と封印保護です」
「その障害は?」
「レリックの探知と、敵対組織でしょうか」
「そうだな」
「それが何か?」
「その敵対組織に、お前ら管理局は勝てない」
「……ガジェットは私たちフォワードでも対処可能ですし、今日あった有人操作にも対応できます」
自身が積み上げた実力だけでなく、仲間や上官、誇りを持つ組織自体も馬鹿にするような言い分に、ティアナは敵意さえ持って反論する。
その敵意すら意に介さないシオンは、再び目を閉じる。
「あんなモン相手にしてるんじゃ無理だって言ってんだよ」
「敵は、アレを使ってレリックを発見、回収しているのではないのですか」
「それは間違ってないが。アレはただの雑用係みたいなもんで主戦力じゃない」
「何故ですか? そんな話は聞いていません」
「話は終わりだ。他に喋るなよ。リインフォースにはいいが」
「シオン!」
「終わりだ。休んでろ」
「……いずれ、話して貰いますからね」
「必要があればな」
「現場検証へ合流します。お疲れ様でした」
「ああ」
立ち去るティアナの足音は苛立ちを表現するようにキツく響いた。