無気力転生者で暇つぶし   作:プラスマイナス裏表

71 / 114
第69話 疑念

「シオン。今、時間ありますか」

「……またお前か。話は終わったってんだろ」

 解散後、日が暮れる頃に再びシオンの前に顔を出したティアナ。

「いえ、あの話は諦めました。また別のお願いです」

「あ?」

「私に、稽古をつけて貰えませんか」

「……なのはの許可は」

 シオンの自室であるため、ベッドに寝たまま話すシオン。

「話してません。それにシオンの都合もあると思います。なので、五分だけ」

「……なんで急に」

 面倒だからやめてくれ、と言わんばかりの口調。

 シオンの傾向からして、黙って手を貸して貰えるとはティアナも思っていない。

「あの後、なのはさんとも話しました。スバル達にも、申し訳ない思いで一杯です。今は、なんとしてもより強くなりたい。そう思います」

「ほーん」

 虚空を見つめ、読めない無表情のまま何も考えていない様な風を装いつつ、事実何も考えず相槌を返したシオン。

 説得は容易で無い、と覚悟してきたティアナはめげずに言葉を続ける。

「その為に、何が最善かを考えました。一人で練習も考えましたが、もっと効率が良いと思って」

「オレの迷惑を無視してかー」

「はい」

「いいよ。強くなりたい理由だとか聞く気も無いし、なのは達にも言わない。ただし日に五分だけだ。他は自分でやれ」

「……! ありがとうございますっ!」

 ダルそうにベッドから起きるシオンに、ティアナは勢いよく頭を下げる。

「そういうのが嫌いなんだ。頭下げる必要ねぇだろ。で、内容は? 決めてんの?」

「すみません……はい。中近距離の平地で模擬戦を」

「了解」

「……あの」

「ん?」

「ホントにいいんですか?」

「何で?」

「いえ、昨日の今日どころか、半日も経たない事で……」

「無茶して仲間に迷惑かけて、凡ミスして、ロクな奴じゃねぇと、マトモにできるようになってから出直してこいと一蹴されると思ってたか」

「……はい」

「シグナムやヴィータならそうだろうな。なのはやフェイトも断ってただろう。けどな、昼に言った通りオレらは違う。目的なんて勝手だからな。できる範囲で協力はする。組織内の御託並べて表面だけの話なんざしたくねぇ。結果として敵対したらそれはそれだ」

「はぁ……」

「そうだな。力を求める姿勢は認めてやるよ。だから、一つ良い事を教えてやろう」

「はい」

「頼れるなら、頼っていいんだ」

 ティアナを指差し、ただそれだけを告げる。

「……それだけ、ですか?」

 その瞬間だけは、いつものシオンとは違う優しさを含んでいるように感じられた。

「ああ。お前は迷惑とわかって頼みに来た。だがそれで正解だ。その迷惑は後で返せばいい。それに……そうだな。お前に今必要なのは正確な理解だ。シャーリーが言ってた事、覚えてるか?」

「えと……」

「お前らは何かしらの理由があってここに誘われたし、その中で入隊以前より遥かに強くなる」

「はい……長過ぎたあれですね」

「ああ。その成果はもう出始めてる事を認識しろ。できないなら以前できた事、今できる事を書き起こせ。当たり前にできる事は認識し辛いが、そうなるには相当の壁がある。お前は上を見過ぎてその壁すら見えてない」

「……はい。一度やってみます」

「模擬戦始める前に軽く言っといてやるよ。お前は入隊前、今日の……弾数覚えてるか? その半分も撃つことすらできなかった筈だ」

「……!」

「それが、ミスショット一つで済んでるんだ。成長だろう?」

「言われてみれば……その通りです。その点だけでも、私は……かなりハイペースで、成長している……」

 ティアナは自分の訓練データなどをしきりにめくり、何度も繰り返し確認している。

 以前の自分と今の自分、以前までの訓練と成長と、今の訓練の成長。決して楽では無く、決して楽しく無い。決して分かりやすい目安があるわけでは無い。

 けれど、確かな成長はそこにあった。スバル達の才能が優れている故に、彼女達の成長が速く、自分は置いていかれている、置いていかれるはずだと思っていた。けれどそれは間違いで、そう思えるほどの成長を見せていた仲間達と同じように、自分も成長していたのだと。

「それが分かれば良い。なのは達はかなり努力してるし、それなりの失敗もしてる。オレからは言わないけどな。行くぞ。寒いのは嫌だからな」

「……すみません。やはり大丈夫です」

「ん?」

「今日の昼、なんならつい今まで、機動六課に……なのはさんの教導に……あなた方の立ち振る舞いに、少なからず反感を覚えていました。こんな場所で、こんな毎日で、ここに居ていいのかって、自分は強くなれるのかって。でももう大丈夫です。もうなのはさんを信じられます。心から尊敬し、ついて行けます」

 手を上げてシオンに敬礼、これまでで一番の笑顔と共に改めて意志を示したティアナ。

 その目は、シオンが一瞬ではあるが任務を忘れて奪いたくなる程の輝きが見えた。

 その心境の変化をシオンは全てを察することはしなかったが、自分が動かなくて良くなった事実だけで良しとした。

「……そうか。ならそれでいい」

《ゴメンシオン! 今平気か⁉︎》

「あ?」

 直後、動かざるを得なくなるような通信が入り、緩みかけていたシオンの顔が険しい殺意を持つ。

《ティアナ? まぁええ、今朝言うてた事件、発生直後で発見された! リインとすぐ向かって欲しい!》

「……了解。ティアナはどうする」

《んー、もう本人に任せる。ヴィーナスの案件やから別にどうこう言わん》

「だそうだ。どうする?」

「行きます。行かせてください」

「わかった。リインフォース。来い」

 声色を殺した命令に、リインフォースが数秒もしない内に隣に立つ。

「こちらに」

「よし。ティアナ、掴まれ。行くぞ」

 ティアナがリインフォースの出現に反応する前にティアナの腕を掴み、リインフォースがなんらかの詠唱を行う。

「へっ? 行くって、掴まってどう──」

 

 ♢♢♢

 

「──⁉︎」

「ここは?」

「どこかの管理外世界らしい。詳しくは私も覚えてない」

「だろうな。まぁオレも聞いても分からんからどうでもいい」

 そう言ってシオンは転移した……およそ人の手が入っているとは思えない密林地帯の一部にある人工物だったものを眺める。

「で、どうだ。現場を見た感想は」

「そうだな。予想通りだ」

「ではほぼ確定という事でいいか?」

「ああ。捕まえればこっちのもんだな」

 リインフォースが建物に空いた穴や、そこに残る血痕などを触っているのを見ただけで断定するシオン。

「凄い破壊の跡……これが、本当に魔法無しで……」

「魔法の痕跡はやはり無いな。私が見ても間違いない」

 資料とは比べ物にならない迫力を持つ破壊痕に、ティアナとリインフォースはただ驚くことしかできなかった。

「何か猛獣ではないかと考えられませんか?」

「ないな。そのへんの傷跡を見ればいい。サイズ的にオレに近い人間の拳だ」「たしかに……とても鋭く、圧倒的ですが……動物の四肢では、この様な指の跡は付かない……」

「よし、もういいだろ。帰るぞ」

「え⁉︎もうですか⁉︎犯人の追跡とかは……!」

「意味ねぇよ。管理局で追えない上に素手で別の管理外世界を行き来してんだから」

「その手段は……」

「それがわからねぇから引くんだよ。でも安心しろ、襲われるのは犯罪組織だけだ」

「何故そう言い切れるんですか?」

「コイツが勝手に動けるのは悪にだけ。お前らみたいな善には勝手に襲わない。まぁ、オレやリインフォースは悪だから、割と不意打ち受けると辛いな」

「リインフォースさんが、悪?」

「ああ。コイツは悪だよ。お前みたいに、兄の目標を達成するなんてヌルいことは考えない」

「おい、それ以上言うな。ティアナ、掴まれ。もう終わりだ」

 

 ♢♢♢

 

「八神部隊長、よろしかったのですか? ヴィーナスを自由にして」

 シオン達が現場へ向かったのを確認した後、一人の局員がはやてに話しかける。

「なんでや?」

「いえ、彼らは管理局の中でも特異中の特異なので」

「なんかする思てん?」

「いえ、まあ……はい」

「せぇへんよ。今は特にな」

「はぁ……そう仰るのであれば、疑いはしませんが……」

 自信満々の部隊長を前に、やはり納得しきれないのか、渋々と引き下がる局員。

 それを見たはやてはやっぱりかー、と小さく呟き、失言と認識する前に死を覚悟した。

「よう。なにがやっぱりなんだ? ん?」

「よ、よぉ……早かったんやな……どおやった?」

「別に資料の通りだったよ。見るまでもなかったな」

「そ、そかー……ティアナとお休み中ごめんやったなー……」

「おう、誤解を招く言い方をやめようか。ティアナとリインフォースも赤くなるな。他局員もだ。それ以上余計な事をすると部隊長の首が飛ぶぞ」

 はやての頭を鷲掴みにし、鎌を首に添えるシオン。

 当然刃物でありバリアジャケットも無いので皮膚は切れ、少し血が流れる。

「「「…………」」」

 この状況からではティアナを含めた一般局員に手出しはできず、リインフォースでさえ確実に救い出せる能力は少ない。

 それを確認した上でシオンは話を続け、はやては至極冷静に答える。

「で、だ。オレ達の信用に疑問があるらしいな?」

「まーそんな感じや。みんな優秀なんやけどそれ故にって言うか。まともなルートを一つとして通ってないヴィーナスはいつか裏切るんやないかって」

「ほぉ……」

「ひっ……」

 シオンが先ほどはやてと話していた局員を睨む。

「そう怯えんなよ。裏切る気なんてサラサラ無いし、面倒事を起こす気はもっと無いんだからな。そうだな……この際だからリインフォース、お前も誓え。セルフギアススクロール」

「ん……何を?」

「なにすん?」

「行動の制限。取り敢えず……そうだな、お前」

「はい!」

 はやての疑問に答え、少し思案したシオンが先ほどはやてと話していた局員を指す。

「この中の誰か指名しろ。全く無関係なのがいい。オレとリインフォース、八神を除いた他の局員だ」

「え、えっと……えっと……」

 この場、管制室には戦闘を主としない局員の殆どがデータ処理や仮眠を取っていたりとで在室している。その中で一人指名、となると何かあってからの責任やヘイトは想像に容易い。

 当然夜であるが当然残業である。万年人手不足は変わらない。

「殺すんは無しやで」

「しねーよ。ただ五秒ほど行動の制限をするだけだ」

「らしいわ。貴重な経験にはなると思うで」

「えー……っと……じゃあ、彼で」

 はやての後押しもあって、一番暇そうにしていた局員を指名する。

 興味があったのか事の運びを見ていたため、あっさりと近寄って来る。

「俺か」

「ん、じゃあリインフォースに名前を教えてくれ」

「ああ」

「誓約は契約後五秒間、右腕を上げておくこと。条件はオレの腕を落とすこと」

「「「⁉︎」」」

「なんやて⁉︎」

「それはいいが……いや、言うまい。トレース……ほら、これだ」

「よし。じゃあこの文面を読み上げて確認しろ。オレが言った通りかどうか」

「『束縛術式……契約成立後五秒間、いかなる手段を持ってしても右腕を下ろす事を禁ずる……条件、双神の名を持つ者の片腕を切り落とす』」

「じゃあそれに血でサインを」

「何のためにそこまでする?」

「別に? この事件解決のため、部隊から信用を得たいだけだが。ほれ、鎌だ。動かない相手を殺すにはもってこいだ」

「そのために腕を?」

「どうせすぐ治せるんだ。いいだろ別に。落とす度胸が無い……ああ、反撃を恐れてるのか?」

「それもある」

「しない。それは嘱託の縛りで不可能だ。すればオレは管理局から指名手配」

「分かった。貸してくれ、サインする」

「ああ」

 局員はリインフォースから文書を受け取ると、鎌の先で指を切りサインをする。

「これでいいのか?」

「ああ。魔力もちゃんと通ってる。あとはオレの腕を落とせば面白くなる」

「腕が下せなくなるんだろ? 本当か?」

「やってみろ」

 右腕を水平に掲げ、切りやすく差し出すシオン。

「恨むなよ」

「当たり前だ」

「「「…………ッ!」」」

 他の局員が息を呑み、目を瞑る人もいる中で一瞬で事は行われた。

「……ぷっ! あはははははは!」

「笑ってる場合か……?」

 右腕は肩から数センチの所で切断され、噴水よろしく血を撒き散らしている状態で爆笑するシオン。

 その視線の先には鎌を持った右腕を聖火ランナーのように高く掲げ、不動の姿勢を保つ局員。

 呆れるリインフォースと、シオンにつられて笑い始めるはやて。感情の整理のつかない局員大勢。

「ぶっふ! おい、下ろしてみろよ、それ……っ!」

「うーむ、私がしても降ろせないな。君、ちょっと手伝ってみてくれ」

「あ、はい……あれ⁉︎ちょっと⁉︎力入れてる⁉︎」

「ぶははははは! 後二秒、体験するならすぐだぜ、あははははは!」

 五秒の間、リインフォースと複数の局員が必死に腕を下ろそうとするも失敗。五秒が経つと鎌が重力に従い勢いよく地面を抉る。

「はー……っ、どうだった? この文書。効果は確かだろ?」

「みたいだな。下ろす気すら起きなかった……」

「そりゃそうだ。制約で縛った事に関してはする気さえ限りなく発生させられないようにする程強力なんだ。五秒じゃなくて一生だったらお前はもう右腕を落とすしか無かったな。さて、じゃあ本題だ。リインフォース」

「ああ」

 リインフォースが新たな文書をシオンに渡す。

 それを一通り見て確認すると、先ほどの局員にまた渡す。

「ほれ、読んでみな」

「はい……『束縛術式……対象:フタガミシオン……フタガミの血を持って命ず。各条件の成就を前提とし、制約は戒律となりて、例外無く対象を縛るものなり……制約:フタガミシオンに対し、機動六課、並びに管理局職員への殺害、傷害、謀反の意図、及び行為を機動六課の管轄下にある限り禁止する……条件:八神部隊長による夜食の奢り』……?」

「で、リインフォース自身」

「これだ」

 今度はリインフォースが直接局員へ渡す。

「『束縛術式……対象:リインフォース……夜天の名の下に命ず。各条件の成就を前提とし、制約は戒律となりて、例外無く対象を縛るものなり……制約:リインフォースに対し、機動六課各隊長の指示または単独かつ管理外世界での敵勢力との戦闘以外での能力使用を機動六課の管轄下にある限り禁止する……条件:フタガミシオンのセルフギアススクロールの条件達成』」

「ん? そんなんでいいのか?」

「うん。私はもうご飯食べたからな」

「ふーん。せっかくなんだから奢って貰えよ」

「そうは言ってもな。普段から割と奢って貰ってるんだ、こんなのでまた出させるのも気が引ける」

「なんだ、オレにも奢ってくれよ」

「なんでや」

「半人前くらいしか食わねぇからほぼ一緒だろ。まぁいい。取り敢えずサイン……よし」

「じゃあ私も。よし、これで契約は完了だな」

「で、私から夜食かいな。んー、これでええか? ビスケット」

 サインを終えたシオンにはやてが机にあった二枚セットで包装されているビスケットを差し出す。

「……まぁ、夜食として認識できないこたぁねぇから……いいだろ」

「それが夜食でいいのか……?」

「さーて、文句ある奴は出てこい。反撃は無いぞー」

「「「……」」」

 契約成立後もさして変わった様子の無い二人を前に反論など出る筈も無く、沈黙が続く。

「無い。それより腕、治した方がいいんじゃないか」

 シオンの腕を落とした局員が沈黙を破り、シオンの落ちた腕を指す。

「ん……そうだな。忘れてた。リインフォース、頼む。ついでに八神の首も治してやれ」

「ああ……あ、はやて。治癒の許可を」

「ん? あ、手間かかるようになってんな。ええよ」

 シオンは大したことでも無いように腕を拾い上げ、肩に押し当てる。

 リインフォースがそこに手を添えると、数秒と経たず指先を動かせる状態まで回復する。

「まー、変わったトコが無いって事は表立っては何もしてへんかったってことや。疑いが晴れてよかったな、二人とも」

「治癒にさえ許可がいるのは面倒だけどな」

「うん、その点に関しては同意だ。疑ったことに関しては何も言わない。そうしておくのが正しい事だからな」

「じゃあ二人は戻ってくれてええよ。おやすみ」

「ああ」

「おやすみ。私はまだ起きてるから、必要があれば呼んでくれ」

「うん。ありがとなー」

 二人が部屋を出ると、一気に空気が緩む。

「やー、殺されるかと思たな」

「全くです……が、シオンさんの血、どうしましょう」

 盛大に落としたせいで盛大に巻き散らかされたシオンの血。

 重要書類もある場で撒き散った血となれば、問題に発展する可能性も考えられるため……

「……リインー」

 退出したばかりのリインフォースを呼び戻すのも当然の流れと言えるだろう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。