無気力転生者で暇つぶし   作:もやし

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第70話 残飯

「じゃあ前言った通り、模擬戦しよっか」

「「「はい!」」」

「「へーい……」」

「そこ! 練習で体力使い切らない!」

 元気良く返事をするフォワードに対し、リインフォースに支えられてやっと立っているシオン。

「無理だっつってんだろーが! オレの体力分かってんだろ⁉︎なんで三時間だ! 五分だっつってんだろ!」

 息も絶え絶えのまま、もはや全ての運動を否定するように吠えるシオン。

「五分の訓練はこの世に存在しないよ⁉︎」

「じゃあ作れよな、エース・オブ・エースさんよ」

「無理だよ⁉︎シオンに合わせてたら誰も何もできないよ!」

 実際五分も動けない人間は歩くところから始めなければならないレベルなのだが、この嘱託に関しては例外中の例外なので議論するだけ無駄な事はなのは達は当然、フォワードも数日で理解していた。

「まぁ、どうせ動くからいいよ。まずはスターズからやろうか」

「「はい!」」

「エリオとキャロは私となのはと見学だな」

「「はい」」

 エリオとキャロが返事をし、なのはもバリアジャケットを解除する。

 すると当然、疑問を持つ当事者が現れる。

「ん? 模擬戦スターズと誰がやんの?」

「お前に決まってんだろ。超実戦主義だろ。やれよ」

「教える専門じゃねーんだけどな」

「教える気もねーくせによ」

「お前も口悪くなったよな……」

「誰かさんのせいでな」

 悪態をついても全く意に介さず反撃してくるヴィータにシオンが折れる。

「オレか……」

「はは、下手に関わるんじゃなかったな」

「はは、夜天の書ぶっ壊してやろうかな」

「はは、それだけはホントにやめてくれ」

「……よし、模擬戦だな」

 面倒になったのか話題を切り替え、リインフォースを一切無視するシオン。

「おい⁉︎冗談ではないぞ⁉︎壊すなよ⁉︎呪うぞ⁉︎」

「なのは、場所はここのままでいいんだよな」

「うん」

「おい!」

「私らって確かシステム自体からは切り離されてんだよなー」

「おいヴィータ⁉︎」

 ノリにノってなのはやヴィータでさえ無視。しかも極秘扱いの夜天の書について軽く口にしている始末。

 普段怖いもの無しとダラけきっているリインフォースも自身の存在がかかれば必死になるようだ。明らかに涙ぐむほどに。

「泣くなら殺すぞ。それにお前、自力で再生する癖に何言ってんだ」

「即死しなくても夜天の書が無くなれば相応に制限がかかるんだぞ。宝具の類が使えなくなったりな」

「じゃあ再生不可なのか?」

「いいや? キングストーンでもなんでも使いまくって残留する」

「残留て。怨霊かよ。てかなんだそれ」

「うん、キングストーンはスタンドや宝具とも違うものでな、出典はわからなかったんだが0フレームで粒子化できたり無限リジェネだったり何度でも蘇ったり不思議なことが起こったりするんだ」

「おう、もう喋らなくていいぞ。理解できん。じゃあスターズ、準備しな」

「「はい!」」

「スルーしないでくれ……」

 

 ♢♢♢

 

「ふぅ……ガッツリやるのは三度目か」

 全体の見渡せるビルの屋上で、鎌を支えにため息を吐くシオン。

「うおぉぉぉぉぉぉ!」

 以前の二度と変わらない、構えのない徹底した待ちのシオンにスバルが突撃する。

「多少は速くなったな。パワーは……オレじゃ無理だな」

 シオンはそれを鎌でいなし、撃ち合いを避ける。

「しかし……」

 シオンの眉間にしわが寄る。

 所詮はいい子ちゃんの形式訓練と思っていた二人の動きが、想定より荒い。

 より正確に言うのなら、ワザと『綺麗な』形から外している。

 実戦での不確定さ、一瞬先の闇の恐怖を、未来を感じるシオンにさえ覗かせる何か。今の二人にはソレが感じられる。

「……」

 今までの二戦ではフェイントと威嚇だけだったティアナの射撃も、より致命を狙っている。首か足を三発に一度、もしくはそれ以上。

 しかし、いかなる不意打ちであろうともシオンはそれを察知し回避する。スバルの突撃もウイングロードかビルの天井を破ってくるしか無い以上、そう警戒にも値しない。

「何がしたい……?」

 

 ♢♢♢

 

「随分と荒れてんな」

「スバルはともかく、ティアナは特に、だね」

 ティアナの射撃目標は隊長達にも察知されていた。

「ごめん、もう始まっちゃってる⁉︎」

「フェイトか。まぁうん。結果は今までと変わらないだろうがな」

 バン、と音を立ててあたかも急いで来た風に見せて本当にあらゆる業務を普段の五割増し程の速度で片付けて駆けつけたフェイトに、リインフォースが手遅れだぞと言わんばかりによう、と手をあげる。

「模擬戦は私がやろうと思ってたんだけど……」

「まぁアイツら三回目だしな。流石にもうやらせねーけど」

「そうだね。手を抜く余裕が無くなってきたと思うから尚更だし、次からは私とフェイトちゃんでやろうか」

「……? あの、回数とか余裕とか、何かあるんですか?」

「ああ、今なら何でもないと思うが……ティアナが仕掛けるな」

 エリオの疑問に答える前に模擬戦の様子が変わる。

 四発の誘導弾を、そう意識を割かないであろう程度の操作性でシオンの周囲を旋回、牽制し動きを封じ、その隙をスバルが何度も狙い、躱される。

 そしてティアナは離れたビルの屋上に姿を晒し、両手での構えから魔法陣を展開。

「収束⁉︎ティアナが⁉︎」

「……」

 驚くフェイトに対し無言で見つめるなのは。

 訓練では殆ど手を付けていない収束砲撃。

 それも当然、なのかが無意識ながらに収束砲撃の訓練メニューを除外していたからだ。ポジションが同じでもタイプが違う、スバルやエリオの火力があれば必要無い、とそれらしい理由をつけて、訓練構成前に外していたもの。フォワードは訓練中、収束という単語すらなのはの口から聞くことは無かっただろう。

「違う」

「あっちのティアさんは、幻影⁉︎」

「本物は⁉︎」

「あっちだ」

 リインフォースの呟きと共に幻影が消失、本物は既にシオンの死角から頭上へ周るようにしてウイングロードを走っている。

「マズい……!」

 リインフォースが歯を噛みしめる。

 未来視でも使ったのだろう、必殺を狙える型から見た二人とシオンの実力差、そしてそこからくる冷酷な結果。

「いいよ、私が行く」

「なのは……」

 跳ぼうとしたリインフォースを制し、バリアジャケットを展開するなのは。

 その声はどこか冷たいものだった。

 

 ♢♢♢

 

「てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 頭上からティアナ。

 正面には誘導弾により避けられなかったスバルを鎌で。

 今の状態では確実にどちらかを受ける事になる。それはシオンもはっきり分かっていた。

「……」

 行動に起こさなければならないまでの数瞬、考える。

 このまま受ければ少なくとも無事では済まない。スバルを受ければ受けた部位の粉砕骨折は確実。ティアナは受けた部位の切断。

 リインフォースがすぐに治せるとはいえ、流石に訓練程度でそれは割りに合わない。であればギアを上げて対処するしかない。

 そしてその対処は状況と反応速度からただ一つしかない。

「残念だ」

「……⁉︎っ!」

 やると決めたシオンが呟いた言葉に怯んだスバルが、更に回避行動を取る。

「っ、そう来たか」

「なのはさん⁉︎」

 なのはがビルから撃ったシューターはスバルに回避を促し、ティアナの突撃を回避する時間をシオンに作った。

「えっと……」

「続けろ、何も言われてねぇ!」

「っ! はい!」

 棒立ちするスバルに鎌を振り、再開を促したシオン。

 

 ♢♢♢

 

「リインフォースさん、私、合ってたのかな……」

「うん? いいと思うぞ。ティアナを助けるという点においてだが」

「うん……」

 再開を確認したなのはの目は沈んでいた。

「別に訓練だ、シオンもそれは分かっている。お前の言いたいことも分からんではないが、役割を超えかけている」

「……」

「話がしたいなら終わってからにしてやれ」

「はい……」

 

 ♢♢♢

 

「「ありがとうございました!」」

「うん、お疲れ様。エリオとキャロもコンビネーションがちゃんと取れてたよ」

「「ありがとうございます!」」

 ライトニングとフェイトの模擬戦も終わり、午前の訓練は終了。

「じゃあ午前はこれで終わり。みんな、お疲れ様」

「「「お疲れ様でした!」」」

「反省点とかはまた午後にまとめておくから、お昼食べてきてね」

「「「はい!」」」

「オレもフリーでいいのか?」

「うん。フォワードと一緒にいてくれれば」

「おーけー」

「あー、シオンは午後お休みでいいよ。お昼終わったらリインフォースと戻ってて」

「……? ああ」

 なのはが思い出したように付け加えたのに疑問を覚えるも、特に意味は無く自分を気遣ったものと判断して追及はしなかった。

「じゃあ行こうか。そうだな、今日の模擬戦について話そう。私が奢るぞ」

「「「ありがとうございます!」」」

「毎日奢れよ」

「できるからする、ではないぞ。自分の事は自分でするという前提が無ければ信頼は生まれない」

「お前デスクワークしないから追い出されたんだろ」

「……今週は私が出そう。なんでも好きなだけ食べると良い」

「おー、気前いいねぇ! よかったな!」

 若干表情が硬まりつつも期間を延ばすリインフォース。

 それを無邪気に喜ぶシオンと違い罪悪感はあるようだ。

「えと、いいんですか?」

「えーやんえーやん。リイン、私も奢ってな」

 リインフォースの肩にいるはずのない人の腕がかけられる。

「はやて⁉︎いつから⁉︎」

「んー? 奢るーってとこから」

 フォワードから見ても上官とは思えない程の屈託の無い笑顔でたかりに来る部隊長。フォワードだけでなくシオンもそれを批難する。

「流石エロ狸、金にも煩いのか」

「んーん。お金はいっぱいあんで。わかっとるやろ?」

「そりゃそうだ。なぁ、フォワード」

「「「???」」」

「「人の金で食うメシは美味い!」」

 困惑するフォワードに向けてこの上無いドヤ顔のはやてとシオンが言い放つ。

「私の主たちがこんなのだったのか……いや、割と昔からだな。うん。知ってたさ、ははは……」

 もはや自分が堕落している故、主に対して言葉を持たないリインフォースが乾いた笑いを漏らす。

 もうどうにでもなれ、という程に疲れ切った顔でリインフォースはその場にいた全員にお昼を奢ることになる。通りがかった局員に「おいお前、今からメシか? 出してやるから食える限界まで頼め」という八つ当たりまで行う始末。

 はやてが急用で呼び出されるまでその八つ当たりは続いた。

「んー、じゃあ本題か。模擬戦、どうだった?」

「どーってなんだよ。やりたかったのか?」

 ある程度食が進んだ所で、リインフォースが話を切り出す。

「いや。感想だよ。特にお前の」

「オレぇ?」

「あ、私も聞きたいです。その、無茶した部分もあったので……」

 段々と声が小さくなるティアナ。

 スバル達も興味津々で聴きたがっていた。

「あーうん。取り敢えずお前は死んでたよ」

「え」

「正確に言うとなのはが撃たなきゃオレが二人とも殺してた、だな」

「やはりか」

「あー」

 リインフォースのため息に同意するように声だけ出して食事を続けるシオン。

「えっと、それは……どうして?」

「どうしてもあるかよ。それが実戦だ。そうしたかったんじゃなかったのか?」

「勝つつもりではいました。けど、そこまでは……」

「訓練では想定していない動きだった。当然、無茶や無謀な動きは多かった」

「それでアレだ。なのはが撃たずにスバルがそのままだったら、オレはスバルの拳を蹴りで弾いて刺し殺し、そのままティアナを躱し様に両断。上下だ」

「「……」」

「シオン、そこまで」

「なんだよ。一番キレたいのはお前だろ。そーでもねぇか。教導隊だもんな、毎年毎年別の世代を教えてくんだ、出来の悪い奴の一人や二人、気にしてらんねぇよな」

「シオン!」

「そりゃあ言い過ぎだろ! なのはがどれだけ頑張ってると思ってんだ!」

「その頑張りでさっき二人が死んだ」

「……! なんだよ……組織にゃやっぱりいられねぇってか」

 ヴィータ強く突っかかる。

 なのはを認めている故か、その全てを否定されているような物言いには我慢ならない様子。

「方向が違うっつってんだ。上っ面の組織が嫌いなの、言ってなかったか?」

「聞いてねー」

「なら初めて言うが。上っ面だけで仲良しごっこしてる女どもは嫌いだ。理解したか?」

「できねぇ!」

 ヴィータがシオンの胸ぐらを掴み上げる。

「……立場が分かってるのか?」

「分かってる上でやってんだ! 大人しくしてると思ったらテメェ、私らバカにしたかっただけかよ!」

「……口と数しか勝機が無いからそういった事になる。自分の保身しか考えないから周りが見えない。そのくせ努力することは自分より上を引きずり下ろすことだけ。楽しそうだな、女ってよ」

「〜〜〜〜〜!」

「ヴィータちゃん、もういいよ」

「なのは……」

「みんな、空気悪くしてごめん。午後の訓練はお休みにしよう。また明日、いつもの時間で」

 そう言い残すとなのはが、それについて行くようにフェイトが去っていく。

「はあ……やはり私か。シオンもヴィータもその辺にしろ。フォワードも……特にスターズ、お前たちは悪くない。考え方が違うだけだ。今日は部屋でいろ」

「「「はい……」」」

「シオンは私の部屋だ。すこし頭を冷やせ。ヴィータもなのはと話してこい」

「く……お前ら、悪かったな」

 リインフォースに引き離され冷静さを取り戻したヴィータは目線を合わせず謝罪をし、背を向けて歩き出す。

「……で、オレを連れてって終わりかい」

「そうだ。フォワードも私たちを気にする事はないぞ。また明日から訓練は再開だからな。忘れろとは言わないが、過度に受け取って気に病むなという事だ」

「「「はい……」」」

 そういうとシオンの襟を掴み上げ無理矢理引きずっていく。

 残されたフォワードは誰も話せず、しばらく沈黙していた。

「ね、ねぇティア、これどうしよっか」

「食べてもいいんじゃない。気にしないでって言われたんだから」

「うん……」

 スバルが残された料理を取り敢えずは集めるが、それ以上手が進まない。

 機動六課一番の大喰らいが食欲を無くす程の出来事だったという事だ。

 自分達は勝つためにと努力したつもりだった。それがシオンが相手でも変わらない姿勢だった。けれどそれは大きな間違いで、あの場面が実戦なら死んでいたと聞かされれば意欲も失せる。

「どうした、食わないのか?」

「シグナム副隊長……」

「リインフォースから話は聞いた。無茶をして死にかけたんだとな」

「……はい」

 シグナムがテーブルに座る。

「まぁ、お前たちが食わないなら残りは貰うぞ。私はこれから昼だが、私だけ自腹は不公平だからな」

 そう言ってシグナムはスバルの一食分の半分程度残った料理を前に一瞬顔をしかめ、端から取って口にした。


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