「「「──はい?」」」
「うん、やっぱりそうだよね。えーっと、ゴメンなさいね? その、なんていうか、成り行きでね……?」
はい? って。予想はしてたけど、そうだよねー……
「シグナム副隊長!」
オレンジの子……ティアナ? がシグナムに叫ぶ。
「すまない。企みは無いが、騙していたのは事実だ。コイツはシオンで無く、ウタネだ」
「さっぱり分かりません!」
だよね。それは分かるけども。
「どこから話せばいいかな。あらすじ……取り敢えず座ろっか?」
取り敢えず武装解除してもらい、先程のように座ってもらう。デバイスを置くかどうかは任せた。こっちは置いたまま。
「でも、納得しました。最初の訓練の時、女性のような気がしてたので」
「あ、そう言えばエリオ、リインフォースさんから代わってたよね」
赤い子は薄々勘付いてはいた様子。
「んー? そうなんだ? で、どうだった?」
「お姉さんがいたのは予想外でした……すみません、今まで」
「んじゃなくて。色々触れた? 柔らかかったかな」
真面目だねぇ。見た感じ普段から男一人っぽいのに。一応シオンいたけども。
「えっ⁉︎あの、そんな事は……!」
「あっはっは、いーよ、ごめんごめん。そーゆーの気にしないからね、軽いジョーク。仲良くしよう。それに多分、胸潰してたし硬かったと思うよ」
そもそもそんなに大きくないしね。ささやかだよ。
男だったら胸は盛れるとしてあっちは潰せるのかな? 潰すっていうか……なんて言うの? まぁいいけど。
「え? じゃあウタネさん、シオンの時は触って無かったんです? ずっとだと蒸れたりしてません? 治しましょうか?」
「あー、それはリインフォースに言って毎晩直してもらってたはず。これからもそーしたいけど、戻ったからにはケアくらい自分でやろっか。というか潰さなくていいか」
シャマルが申し出るけど取り敢えず却下。
今触った感じ違和感無いし多分ちゃんとやってくれてる。このホルモンバランスガタガタの身体をよく直せるよね。直してるからか。
さぁすっかり話題がズレたぞ。誰のせいでしょうかねー。
「さてどーしよ。私が話そうか?」
「高町なのは。彼女が魔法と出会ったのは、実に9歳の時。魔法文化の無い世界で、ただ平凡な、平和で幸せな人生を送るはずだった。それが才能だけを理由に魔法に触れ、ただの人助けとして魔法戦を繰り返した」
座ったままどころか私の問いを聞いたそぶりすら見せず語り始めたシグナム。お? ケンカしますか? こちとら夜天の書の全権握ってますんやぞ?
そんな私の心中を誰も察する事はできず、シャマルがモニターを映し、いつ撮ったのかさっぱりの映像が流される。
……管理局か。クロノだね。
「シオン⁉︎」
「コイツ……ウタネがなのはと出会ったのも、ほぼ同じ時だ。魔法の扱いに慣れないなのはを、時に助け、導いた」
時にというかなんだかんだずっとな気がする……気のせい?
「これ……フェイトさん?」
「フェイトも、あの頃は色々あってね。なんとかって言うのを集める為に、私やなのはと敵対した。二人は才能的に拮抗して、限界まで競り合った」
折角だから話に混ざってみる。
そういえば私二人の対決殆ど知らないや。腕落とされた時以外は殆ど見てない気がする。
「そして、殊更無茶をしたのがこのウタネだ」
「腕が……⁉︎」
どこぞでフェイトに落とされた時や、台風? かなんか……あ、竜巻か。それで腕とか指とか落ちた時とかが映される。
グロッキーだなぁ……服とか真っ赤だよ。バカかな。
「生身で魔法に挑めば、当然こうなる。コイツの両腕は一度は切り刻まれている」
「まー、後でもっと凄い事したのよ」
「え……」
「自分から、首を……⁉︎」
赤とピンクの顔が青くなる。
フェイトに拘束された時。クロノとユーノを信じて身を投げた。
死ぬ前に治してくれると信じて、死んでも次があると慢心して。
「当然私だけじゃない。この後も私たちが大きく関わった闇の書事件が起きた」
闇の書事件の時だとまだ私たち、じゃないね。シグナムたち? かな。
「なのはの撃墜とリンカーコアの蒐集、安全性の低いカートリッジシステムの使用……ウタネとシオンの訓練があったとはいえ、途方も無い無茶だ」
「……」
「大きな変化があったのは、これ。なのはちゃんが嘱託として働いていたシオンと、遠征に行っていた時……」
「不意に出現した未確認物体によって、瀕死の重傷」
「……!」
「シオンもなのはだからって任せてたんだろうね。溜まった疲労とダメージは、その不意打ちをまともに受ける事になった」
これは後から八神さんに聞いたこと。
当時は地球の家でニート三昧だった私がたまにお見舞いに行くくらいのことだった。だけど、私にさえ正直に辛さを吐き出すことはなかった。目はこれ以上なく泣き叫んでいたのに、それを抑え込んでいた。
「その不意打ち直後、一通りの処置をなのはに施し、シオンは姿を消した」
「罪悪感はあったんだろうね。自分がいたのにって。シオンのお陰でなのはは二年のリハビリで済んだけど、それ以降、私にさえ連絡が無い」
「その二年のリハビリも、これ」
モニターには包帯でぐるぐる巻き、何本も管を繋がれて立つのもやっとのなのは。
「私やリインフォースも診たんだけど、もう飛べなくなるかも……って状態で」
シャマルとリインフォースの治療魔法は当時としては破格なものではあったけど、それでも完治は望めなかった。
当然のことながら、落ちた腕を即座に修復したりできるシオンの……リインフォースの能力なら、そんな事は治せるはずだ。でもシオンはそうしなかった。できたはずをしなかったのには理由がある。そう思って、私もリインフォースもなのはの治療を本人と現代医療に任せた。
……どうしようもない状況で、本人が望めば治すつもりではあったけど。
「確かに、意志を通す為に、守る為に強くある必要はある。だがそれは全て実戦での話だ。しかしお前は、お前たちは、あの場面で命を懸ける必要はあったか? 不安定な技を使う必要はあったか?」
「「……」」
「模擬戦の事は、ゴメンね。あの場面は本当は無茶してよかったんだ。でもシオンは不器用だから……それを許さなかったし、酷いことも言った」
「え……? あれはウタネさんが」
青い子が首を傾げる。
んー? ああ……説明は面倒なんだけどねぇ。
「あー、うん。あれは私だけどシオンなんだ……って言ってもわからないよね。武器や能力こそ違ってもシオンはシオンだったんだよ。まぁ……シオンが見つかったら改めて紹介するよ。私のことは今まで通りシオンでもいいし、ウタネでもいいから。もちろん敬語も無くていいよ。何にもしてないニートだし」
この子達の歳とか知らないけど、絶対なのは達より若いよね。それで一緒に戦うっていうんだから……
それでもやはり理解ができないのか、反応はそれぞれながらパッとしない四人。
「えっとさ、つまりなのはが墜とされた時まで、このポジションにシオンがいたんだ。だけどその件で抜けちゃってね? 私が代理に連れてこられたの」
「つまり、これまで見ていたシオンは、本人ではなく……」
「うーん、そうだね。本人は鎌じゃなくて刀を使うから……」
「そこではありません! 全体の事を言ってるんです!」
だん、とオレンジの子が机を叩く。
シグナムさんや、部下が無礼じゃないのかな。怒りなよ。
そんな願いは届かず、シグナムはいつもの無表情を貫いていた。
「ごめん、怒んないで……武器以外はシオンだよ。それこそ、言動も全部」
「えと、それはどういう……?」
「うーん……シグナム、言っていいかな?」
「貴女についての権限は持ち合わせていない。好きにすればいいかと」
はやてに何を言われても私は知らんぞ、と言うシグナムの了承を受け、できる限りを話す。
「それじゃあ。さっきもシグナムがちょっと言っちゃってたけど。私、ウタネはシオンの性格、口調、仕草や癖、思想においてまで、全く同じを再現できる。シグナム達の話から、向こうも同じ。どっちがどっち、っていう判断は武器や能力を見るまでは判別できないものと認識しておいてね」
顔とか違うと思ってたんだけどじっくり見ても分からないらしい。体型とかも一緒だから……ホントに中身だけしか違わない。確か指紋も一緒みたいな事言ってた気がするし。
「全く同じ……」
「そ。だから、確証が無い時に私と会ったら、必ず確認を取って」
「同じ仕草なら、確認のしようがないと思いますが……」
「それは大丈夫。私もシオンも、それぞれ別の能力を持ってる。互いに再現できないのは分かってるから……リインフォースに判断をお願いして。リインフォースなら心を読むこともできる。シオンだったらすぐにわかる……っても、多分殺されない。スカリエッティの側にいてもね」
「何故ですか? どのような企みがあるか分からないんですよね?」
「私は自由に生きてると同時に、誰かを束縛したりしない。だから、リインフォースやシオンにも何も言わない。例え私を殺そうとしてもそれは自由。シオンは知っての通り荒いし、必要なら殺しだってする。けど何よりも信用してる。シオンの企みは、全部私のためだって」
なんだかんだ言いつつも、結局は闇の書を、八神さんを助けるために動いてくれたシオン。生前もそうだった……今回も、きっとそう。シオンは悪だけど、決して私の敵じゃない。
「……確証は、無いんですよね?」
「うん。リインフォースも同じ」
「なら、どうしようもないのでは?」
「そう? シオンもリインフォースも、一人で機動六課を相手にするくらいは訳ないよ。なのに何もしない。どう? 根拠になるかな」
私たちから見れば魔法なんて、管理局なんて相手にさえならない。
けど各々が全力を出す時は
「……根拠としては受け取れません。が、一つ」
「うん」
「ガジェットは主力じゃない、という話、ウタネさんは認識していますか?」
「んーん? あぁ、ホテルの時だっけ」
ホテルの時……は秘密にしよう、って流れじゃなかったかな? 覚えてないからどうでもいいけども。
「はい。シオンでないなら、話してもらえるかと思って」
「んー、それはわかんないかなぁ……なんていうか……シオンの予知? 計算? みたいな感じだし」
「それは知ることができないのか? 我々にとっても重要な情報だ」
シグナムも知らないって事はやっぱり秘密だったんだろね。
「シオンのと合ってるかわかんないけども。シオンが手を貸してるならガジェットが主力は有り得ない、って感じかな」
「確かにそうね」
「んー、でも。カンだけど。割と近いかも。主力は」
「どういう意味だ? 六課にいるのか?」
「んーん。なんていうか……なんか。あれ。私とシオン的な感じ?」
「なんだそれは」
「まーわかんない、ごめん」
「まぁいい。レリックの蒐集と共に明らかになるだろう」
「総力戦?」
「うん。シャマル、映像ある?」
「あります……けど。え、映します?」
「え、なんで?」
「あっ、はい。分かってます、そういう人でしたね」
「んーん?」
シャマルが映像を……シオンがクロノ達と守護騎士を同時に相手に無傷で立ち回る映像が映される。
なんでそんな渋って……あ。
「うーん、なるほどね。部下にこんなトコ見せるのはダメだったね。あっはっは。許してよ」
「ヴィータがいればキレていただろうな」
「シグナムは怒んないの?」
「私とてそこまで幼稚ではない。できん事はできん」
「おほー! 優しい! 初見で足首切り刻んだ人とは思えない発言だ!」
「切ってはいないだろう! そもそもお前が切れと言ったんだ!」
「んー、そうだっけ。記憶力壊滅してて改竄癖までできたかぁ……もうそろそろホントに人でいられなくなるな」
「ヴィーナスを人とは見てないぞ」
「ヴィーナス?」
「お前……シオンの部隊だ。お前に縁ある名前と思っていたのだが、違うのか?」
「んー? ヴィーナス……知らないかも」
「そうか。では認識しておけ。隊員はリインフォースのみ、役割は全部隊兼任だ」
「えー……」
それ一番多忙な気がする……めんど。
にしても人じゃないのかー……全身切り刻まれて即復帰したり……闇の書とうんぬん……転生……能力……うん。そう言う捉え方もできるかも。
もう新人さん達を完全に置き去りにしてるけど気にしない。
戦いにおいての命の張り方だとか、なのはが横槍入れた理由だとかはもう過去の話になってるけども、まぁそんな後でもできる……この話も後でできるね。じゃあどうでもいいね。両方終わってるしね。
『こちらスターズ1、例の事件の犯人と思しき人物と接触、任意同行の運びとなりました。対応をお願いします』
「例の犯罪組織壊滅事件か。了解、待機しておく」
シグナムが短く返事をし、通信を切る。
「犯罪組織壊滅事件?」
「お前は知らなかったか。シオンは調査にまで行ったのだが」
「んー……さぁ? 戻る直前とかならわかるけど……」
「そうか。まぁいい。要は指名手配の犯罪組織が何者かによって次々と壊滅させられている事件だ」
「ん? それって良いんじゃないの?」
「誰がしたのかが分からないから問題になっていた。さっきのはその犯人らしい人物が捕まったということだ」
「ふーん……」
わざわざそんな事するなんて、物好きもいるもんだねぇ。
「ウタネさん、シオンの時? はその犯人に心当たりがあると言っていました。ウタネさんにはありませんか?」
「さぁ……? 多分無いよ。私、二ヶ月も会ってないと忘れちゃうから」
「……」
えっ、なんで黙るの。
守護騎士二人までなんか気まずく顔逸らしてるし。えぇ?
「もうすぐ来るんでしょ。会った方が早いよ」
「そうだな。知っていれば対応を頼む」
「うんー」
♢♢♢
『へいよー! 隊長方、お疲れ様でした!』
「「「お疲れ様です!」」」
「はい、ただいま。ティアナ、スバル……? 何かあった?」
ヘリから降りたなのはが二人を見ると、何か違和感を覚えたようだけど。多分さっきの話で見方が変わってるからかな。
「「へ?」」
「ううん。なんでも。じゃあ、シオン。彼女をお願い」
そう言って……ヴィータが拘束してる彼女をヘリから降ろす。
「ほらよ。アンタの処遇はアイツ次第だ」
「はいー」
ヴィータの後から降りてきた少女? は……凄く見覚えがあった。
「ん? え? さっきシオンって言いました?」
「……久しぶり、ソラ」
「シオン! 久しぶり! 前はウタネと双神詩音だけだったから、スゴイ嬉しい!」
ヴィータのバインドを引きちぎり、私に抱きついてくるソレ。
「え……はぁっ⁉︎」
あまりに簡単に壊されたもんだからヴィータが絶句してる。
当たり前だよね。力だけで魔法破るとかね。うん。
「ちょっ──! 待って! 私! ウタネ!」
「……なんだ。ウタネか。シオンって言うから期待しちゃったじゃない」
「……それより不自然なの聞こえたんだけど。ウタネと双神詩音?」
一瞬で冷める黒髪の、今の私と大差ない背丈の少女。
私の身体を気遣ってかこちらに一切力が加わらないように離れた。つま先立ちからどうしたらそんな事ができるかな。
「ん? え……あ、ごめん。それより前って事なのね」
「は?」
「あなた達が経験する未来を通って来た? みたいな? ほら、私はあなたと時間軸とかちょっと違うし?」
「……大体理解したよ。知らなくていい事ってことね」
「うん! まぁいいけどね。それより、探し物は見つかった?」
「いいや。答えはまだだよ」
「……うん。まぁいいや」
サッパリだけど概要だけわかる。知らなくて良くて、損得ではない事が。
「おい、やはり知り合いなのか?」
「うん。そう。ごめん、さっきは知らないとか言って」
「いや、謝られる事では……」
シグナムはやっぱりなんか、私に遠慮してる?
「って! ウタネちゃん⁉︎いつから⁉︎」
なのフェイが叫ぶ。
「あなた達が出撃してからちょっとして……っと……ソラ、ごめんけど体支えてて」
「うん? うん」
一瞬身体の力が抜けたようにフラついたからソラに身体を任せる。
ソラは状態を把握すると素直に支えてくれた。
「取り敢えず久しぶり。この子は大丈夫だから安心して。それより、二年ぶりだっけ、そのせいで身体がちょっとね。動かせない」
「知り合いらしいのは良かったけど……」
「名前はソラちゃんでいいのかな。年とか、生まれとか、聞いていい?」
なのフェイがソラに話しかける。
優しげだけど職質のそれだ。完全に警戒してるね。
「ソラでいいですよ、ウタネと元同窓なので。生まれも一緒」
「ん? 同窓なの? 初めて知ったけど」
「うん、らしいよ。私も記憶トンでた」
「ふーん……」
「ホントに知り合い? あやふやすぎない……?」
まさかの会話になのはが引きながら疑ってる。
私がそういう人だって……分かってないか。そりゃそうだ。
「んー、じゃあ紹介するよ。この子はソラ。簡単に言うと抑止力。分かってると思うけど怪力」
「抑止とか言っていいの?」
「今いるのだとフォワードは知らないけど他はシオンが信用してたし大丈夫」
「ふーん。ならいっか」
「疑うなら模擬戦でもすればいいよ、多分誰にも負けないけど」
抑止は良いけどロリコンはダメ。
ロリコンのは共通認識だったけどそれぞれのはまた別だった。魔術とか言っちゃってるから多分セーフなはず。
「じゃあアタシだな。バインド簡単に壊しやがって」
模擬戦の単語にヴィータが即反応する。
「怪力ってんならタイプも同じだし、いいだろ」
「うん。ちょうどいいかもね。ソラ、どうかな」
「うん? 別にいいよ。ウチのトップの命令なら聞いちゃうし。他はいない? パワータイプなら比較がしやすいかな」
「……じゃあ、明日の午後。訓練の一環として認めます。ウタネちゃん、それでいい?」
「そっちがいいならいいよ。手間取らせてごめんね」
まぁこれも総力戦みたいに戦力アップのためと思えば……楽な方だと思う。誰かが死ぬことは無いからね。