「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「せぇっ!」
青い子とソラの拳がぶつかり合う。違うのは十メートル以上加速をつけた上でカートリッジをロードしたか、ただ拳を突き出しただけか。
「んんー? おぉー! 流石カートリッジ! 三発もあると変わるねぇ!」
ギュルギュルと回転と軋みを上げるデバイスを見てニィ、と楽しさを隠さないソラ。
その身体はもうそれはそれは女子力という言葉を起源から否定するように筋骨隆々、バッキバキ。地域のボディビルの大会に出ようものなら初参加で準優勝は確定するであろう超肉体。問題はそれでもまだ半分も無いってことなんだよね。
「それで五角って……! マッハキャリバー!」
「んー? 互角ぅ? ほほっ!」
「えっ⁉︎ええぇ⁉︎」
「スバル⁉︎」
互角、という言葉に反応して青い子がワザとこけたようにひっくり返る。
「合気、って言うんだ。ここの武術体系には無いのかな? まぁ、思いっきり蹴るから、ちゃんと防いでね? 死ぬから」
ソラの蹴りは正確に青い子の顔面を狙い、青い子は必死にガードを固める。
「スバル!」
「んー。結構なもんだね、新人にしては」
壁まで吹っ飛ばされはしたもののすぐ立ち上がり、深手ではないことが分かる。
「お疲れさま! もう結構経ったし一旦休憩しよ! お菓子あげる!」
そう言ってソラが飴を一つずつスターズに投げ、自分も一つ頬張る。
「ふぅ! ケッコー満足!」
そう言ってゴリラと形容されても仕方ない筋量をしぼませて顔相応の輪郭と柔らかさを取り戻すソラ。
「はぁ……っ! っつ……強い……」
「まさか……二人がかりで……三十分も……なんて……!」
息も絶え絶えなスターズ二人。
私がダウンしてから練習だとかではなく完全に模擬戦してたけど、ソラが40%を解放してスバルの全力を正面から打ち砕いたり、ティアナの射撃を殴り壊し、バインドを筋力だけで破壊し、途中参加のリインフォースも能力無しでは手が出なかった。
「んー、でも結構強いね?」
「それはそうだろう。なのはがあれだけ考えて訓練しているんだ、強くなってなければ困る」
「そういうあなたは……手を抜いてたね?」
ソラが無感動にリインフォースを見る。加減されるのは不満なんだろうか。その方が楽なのに。
「抜いていたわけでもないが、少し制約があってな。以前は夜天の書だけだったんだが、最近能力にも制限をかけてな。はやての許可が無ければ一般的な魔法しか使えない」
「ああ……そうなんだ? じゃあずっとオッケー……にはして貰えないの?」
「無理だろうな。そもそもそれとは別でリミッターもかかってる。魔法自体もAランク程度だ」
「制限に制限で制限かー……ウタネがいてなんでそんなことになるかな?」
「いたからこそ、という……」
「んん! それもそうだ! 苦労人のリインフォースさんには最高級和三盆を使用した大福をあげます!」
「……さっきの飴もだが、どこに持ってるんだ?」
「ふふー! 乙女の永遠の秘密!」
「リインフォース、探るだけ無駄だよ。透視能力でも解らないから。七不思議。ソラ、私にもなんかちょうだい」
「ん、はい。えっちゃんの可愛さの方が七不思議じゃない?」
「可愛いからで結論が出るじゃん」
可愛いのは認めるけどソラに話させるとキリが無くて面倒だから早く黙って欲しい。
「それもそう! というわけでリインフォースさん! 英霊召喚システムは知ってます? シオンの能力ならそれ使えるはずなんだけど、私の令呪と繋いで召喚式お願いできません?」
「え……っと、どうしましようか……?」
「令呪? 無かったよね? リインフォース、絶対しないで。あなたみたいのが増える」
なんで実力あったり権限あったりする私たちはやる気が無いの? 私が一応のトップだからか? 私がそうだからそう感じるだけか? えっちゃんも大概ぐーたらだし。
「うん、なんか魔力集めたら出た。やっぱりずっといるとマスターとして世界に認められるのかも!」
「正規の魔術師でもマスター候補でも職員でもないくせに」
「いいじゃん。カルデアに生身で登ったの多分私だけだよ」
「人類がそれしたら死ぬからね」
「雪山くらい素手で登って」
「全世界の登山家に殺されてしまえ」
「全世界の登山家が私を殺せると思ったら大間違いだよ!」
「そーですか。で? あとは──」
『ライトニング4、緊急事態につき全体報告! 状況報告します!』
ライトニングのシグナムじゃない方のピンクから報告。
あっちは真面目に遊びに行ってたはずだし……
「ん」
「へー、やっぱり扱いは魔術に近いねー」
「黙って」
「ごめんー」
報告は市街地路地裏でレリックと謎の少女を発見したため指示を仰ぐもの。
「ソラ、あの子、知ってる?」
「んー、ちゃんと見ないとわかんないかな。金髪って割とその辺にいるし」
金髪お嬢様も一応日本人なんだよねー……なんなんだろうねー……私白髪だけどねー……マトモな日本人っぽいのソラだけかも。ソラの生まれどこか知らないけども。
「ん、それもそうだ。八神さん?」
我らが部隊長へ通信。私が勝手に動くわけにもいかないし。
『報告は聞いたな? じゃあスバルとティアナはソラちゃん連れて現場に合流! リインフォース、先行できるか?』
「許可があれば」
『いっこだけや。無茶はせんでな!』
「了解した。じゃあ、先に行く。ウタネ、いいか?」
「私にまで聞かなくても。あなたが良いと思うならいいよ」
「二人とも、ソラを頼む。応急手当と現場保持は私とライトニングでする」
「「はい!」」
「ある物はタオルと……服か……仕方ない、いくぞ……『ラディカル・グッドスピード』!」
リインフォースが残念そうにタオルを被り、虹色に全身を輝かせたと思った瞬間に強風が私を叩く。
ついでにどこかの窓を破り抜けたのだろう、バリーンという音と局員の悲鳴が聞こえる。
「っと……だいじょぶ? 折れてない?」
「ありがと。そこまで脆くない」
風圧に完全に敗北を喫した私は飛ばされる前にソラに支えられ事なきを得たけどソラの筋力は風圧を全く意に介してないどころか私の体重も無問題のようでビクともせず、背中が鉄棒に打ち付けられたような痛みがする。
「速いねぇアレ」
「見えた?」
「うん。めっちゃシャカシャカ動いてた!」
「速度は?」
「んー、私の全開の反射速度くらい?」
「じゃあもう着いてるかな」
「距離次第だけど多分ね」
鬼と100%の反射速度って……光速? はっや……
「じゃ! スバルとティアナ! 案内よろしくお願いしまーす!」
「あ……はい!」
「私はどーしよーね。八神さんとこ行こっかな」
「それでいいでしょ。どうせついて来れないし」
「はいはいごめんごめん。じゃあ二人とも、ソイツうるさいけど宜しくね」
「「はい!」」
三人を送り出し、練習場に取り残される私。
さて……もう一眠りしようかな。
『ウタネちゃん。サボろうとしよるトコ悪いけどな、ガジェット出てきて外部協力者が名乗り出てくれたから、合流してくれるか?』
「監視してる? 仲良しかな?」
『仲良しやんか。ほんでな、ギンガ・ナカジマって子なんよ。多分知らへんやろけど、スバルのお姉さんや』
「スバル……?」
『そっちかいな! さっきまで一緒におった髪の青い巨乳の子や!』
「あー、スバルって言うんだ。私とソラ以外みんな大きいから区別つかないよ。というか私も普通なら普通にあるくらいだと思うんだけど」
私もソラもたしかB70くらいだったよ、あ、前世の話ね。死んでからは一切知らない。能力で胸潰してたしシオン偽装中は男物の服だったしでどうでもよかった。ん、こっちのシオンは胸あるのかな。その辺とても気になる。
『……なんか、ソラちゃんやシオンよりウタネちゃんを部隊に置いとくのが不安になってきたわ』
「仲良しなら信用してよー」
『公私混同したらあかんで』
「部隊構成からして公私混同しまくってない?」
『せ、戦力集めただけやから……』
「そっかー。おやすみ」
『やから! 合流してって!』
「んー……わかったよ。ルートちょーだい」
『やる気出してや……ホンマ。じゃあギンガにも言っとくから、合流したらリイン達とも合流してな』
「はいはーい」
はー……レリックと子どもの保護なんてリインフォースだけで終わらせられそうなのにソラまでいるし……私要らないでしょ……
♢♢♢
「だっ! 誰⁉︎」
女の子を抱えたキャロが反応する。
強烈な風と共に現れ周囲をキョロキョロと見回す紫を基調とした滑らかな流線のフォルムをした明らかな不審者にエリオも警戒レベルを上げる。
「……すまない、私だ」
「り、リインフォース、さん?」
何故そのような姿で、という言葉を飲み込み、その挙動はなんですか、という疑問をリインフォースだからと納得したエリオとキャロ。
「先行する為に速度を出したんだが、タオルと服しかなくてな。しばらくこのままで許してくれ。いや、実際のところかなり失敗したな。後とても全身が痛い。しかしまだマシな部類だったな」
「え……っと、サッパリ話がわからないんですが……?」
「うん、アルター化、アルターという能力でな。物質を再構成する能力なんだが、私が使うと自分の分解はできないし、アルター化した物は解除と同時に能力ともども消えてしまう。つまりだな、コレを解除すると全裸なんだ。これは泣くぞ。夜天の創始者が見たら多分号泣するだろうな。事前の確認が大切だというよい事例だ。手遅れなのが悲しいが」
「えぇ……」
まさかの欠点に思わず失望が漏れるキャロ。
「いや、エリオが望むなら別段解除してもいいんだが、私もそれなりの地位だからな。全裸徘徊は六課が管理局に潰されかねない。そうなったらはやても泣くな。もしかしたら笑いすぎて泣くな」
「い、いいですよ! そのままで!」
「うん、ありがとう。まだ大丈夫そうだからもう少し遅い能力でも良かったな。判断ミスだ。くそう」
「もう少し、って……報告からまだ二分も経ってないですけど……」
「知ってるか? 光より速いものはこの世に存在しないんだ」
「知ってますけど……光速で来たんですか……」
人差し指を立てて得意げに言うリインフォース。
「うん。私のことだし正確には少し遅いだろう。ホントに光速だと一般人なんて風圧で死んじゃうからな。私も今全裸の過失で死にたいほど泣きそうなんだが」
「……」
エリオは耳を澄ませ、少し離れた場所に意識を向けると大事にはならないだろうが混乱の声が聞こえるし、到着時の風圧は自分たちでも身構えなければ耐えられなかった事を思い出す。
そして、ヴィーナス相手に常識や能力の正体を問うことは無駄だし、一般人の多少の被害で済むのならまだマシなのでは? という結論と、後でフェイトに報告しておこうという決意を持った。是非罰してほしい。
「まぁともかく、休暇だったのにな。なんでこう無駄な犯罪が後を絶たないのだろうか。宝くじより可能性が無いのに。私を全裸にしてまでする必要があるのか? まったく」
休みを潰された私に勝てると思うのかまったく、と新人の部下の前で堂々と愚痴を漏らすダメな上官ランキングNo.1。
しかし保護した女の子に完璧な治癒魔法を施す理想的な管理局員ランキングNo.1。
「エリオー! キャロー!」
「スバルさん!」
「げっ……誰?」
「私だ」
「リインフォースさん⁉︎」
「もう面倒だから説明しないぞ。解除したら全裸ってことだけ言っとくが。泣くぞ」
「はぁ」
「あっ……」
周囲を見ながら来たのか、少し遅れたソラがキャロの抱いている少女を見るなり声を漏らす。
「ん? ソラ、どうかしたか?」
「ん⁉︎ううん! ごめん、なんでもない」
「ウタネに必要な情報なら話してくれ。話せないなら別にいいが。話さないなら服をくれ。お前は一般人だからほぼ無罪で捕まえてやる」
「んー、後でウタネに話すよ。それ以降は任せる。服はあげない」
「了解した。では……シャマルたちも来たな。当然ながら私はあっちに行くぞ。服を取りに帰りたいからな」
「フォワードは現場検証? 私は?」
「お前も現場に残ってくれ。シオンを知っているなら尚更だ」
「もし来たら勝てるかわかんないよ?」
「殺される前に連絡くらいできるだろう。抑止力は使い捨てらしいからな」
「私は抑止力でも座に登録されることはない系の抑止力だから使い捨てにして欲しくない気持ちです」
「じゃあ逃げ帰れ」
「それだ!」
「というわけだ。キャロ、その子を預かろう。いざという時はソラを盾にしろとウタネから伝言だ」
「はい! ……でいいんですか?」
リインフォースのとんだもない嘘にキャロが遠慮気味に聞く。
「んー、可愛いからイイヨ! おっけー!」
大して悩むまでもなく使い捨てを選んだソラ。
「局員でないソラに一応の念押しだが、ガジェットはどうしようと勝手だが人は殺すなよ。保護して送れ」
「……私のセリフ! あなた達こそ私の前で殺しができると思わないでね!」
「了解だ。今なら世の男を悩殺できるがな。服が欲しい」
「自信たっぷりだね! ムカつく!」
「完全無欠の夜天の書だぞ。特にこの私は過去最強だ」
「はいはい! 早く帰って!」
「もちろんそのつもりだ。帰るまでに私に連絡なんてしたらキレるからな。緊急連絡もはやてにしてくれ」
リインフォースはフォワード四人とソラを現場に残しまだ到着していないヘリの着陸地点を先読みして歩き始める。
「……あ、そうだ、ギンガさんとウタネもこっちに向かってるって」
移動中に受けた連絡をリインフォースのインパクトに負けて報告しそびれたティアナ。
「あ、ガジェット……」
報告自体を忘れていたスバル。
「リインフォースさん、残ってくれるとよかったですね……」
全てが手遅れだということを理解したエリオ。
「……まぁ! 私が代わりするよ! 頑張ろう!」
報告するだけ組織として形になってるな、と思う現場戦闘員の八割が自分勝手に現場を収束させて事後報告もしないカルデア在籍のソラ。
「取り敢えず行くわよ!」
「おう!」
「「「「セット・アップ!」」」」
「それいいよねー……カッコよいー」
黒髭あたりは絶対喜ぶよなーと思いつついつかデバイスを作ろうと考えるソラだった。
ちなみにソラの相棒にヒロインXオルタを選んだのはヒロインXとXオルタの関係性がウタネとソラに近いかなーと思った次第です。ウタネはカルデアのあるFGOの世界やカルデアは認識していますがヒロインXは知りません。
えっちゃん可愛い。