「さて、今日から陸士108部隊から機動六課へ出向になった、ギンガ・ナカジマ陸曹です」
「ギンガ・ナカジマです! よろしくお願いします!」
「「「よろしくお願いします!」」」
「よろしくー……」
訓練前になのはに紹介された、ギンガ・ナカジマ。
覚えはある。私を運んだり私を踏みつけた人だ。
ぶっちゃけ、そんな好きくない。
あとなんていうの? こういう身内部隊でも形式上の事はするんだね。面倒だね。
「それから、もう一人。10年前からウチの隊長陣のデバイスを見てきて下さっている本局技術部の精密技術官」
「マリエル・アテンザでーす。デバイス関係でもそれ以外でも、気軽に声をかけてね」
「「「はい!」」」
次が初見さん、緑でメガネの人。デバイス関係者。多分私は関わり無い。
けど10年前って闇の書だよね。覚えない。多分あの時からなんだろうけどさ。誰だっけあの……リンディの知り合いの息子? だっけ? と似た感じかな。
「よし、紹介もしたとこで、早速やんぞ」
「「「はい!」」」
「じゃあ……ギンガ、スバルの出来を見てくれないかな?」
「はい?」
「1対1で軽く模擬戦」
「ヴィーナスに鍛えられたスバル! 期待が強い!」
「いや、ヴィーナスはそこまで関係無いよ……?」
「殆どなのはさんとヴィータ副隊長だよギン姉……」
なのはの誘いにとても乗り気なギンガ。
なんでこの人ヴィーナスこんな好きなの?
「ねぇウタネ、あの子なんでヴィーナス知ってんの? この前まで一応部外者だったんだよね?」
「知らないよ。こっちが聞きたいのに」
なんなんだろう。どうでもいいけど。
♢♢♢
「……ほーん」
結果として、ギンガの勝ち。
「もっと感想ないのかな? この部隊、結構な実戦部隊でしょ? それに揉まれたスバルより強いってことだよ?」
「どこかの名言に姉に勝る妹はいない、らりるれろ。というのが」
「……兄と弟じゃなかったかな? まぁいいや。今日は私たち何するのかなー」
「ソラは今日アタシとティアナでやんぞ。ウタネは……うん」
「えっ」
ソラはヴィータとティアナと一緒に森……林? へ消えていき、ライトニングとリインフォースもどこかへ消え、なのはとナカジマ姉妹もいずこへ。
……ぼっちだ。ぼっちというかアレだ、窓際族だ。
しかしそれをマイナスに捉える私ではない。それがマイナスになるのはやる気がある場合のみだ。無い私は簡単に帰路に着くことができる。シオンいないから起きてたけど寝れるなら寝たい。半日は寝たい。できれば20時間くらい。
「……【地下を通れ】」
地面を私に触れる部分だけ気体にする。成分不明。呼吸はできるしこれでも一応自分の体表面までしか能力は出してない。つまりセーフ。ある程度沈んだところで高さを固定して部屋へ向かい、いい感じの陰から人目に付かないよう地上へ浮上、部屋に入ってベッドに身を投げる。
「ふぅ……」
眠たい……
「おはよーございます!」
「んぅ……?」
「……? おはようございます!」
「ん、おはよう?」
「うん!」
「あ、ヴィヴィオ……だっけ」
「うん! ……?」
「えっと……それから……」
「アイナです。一応寮母をしております。よろしくお願いします」
「あぁ……はい、よろしくお願いします……」
何故か新鮮な声に起こされる。多分そう時間は経ってない。
アイナと名乗る紫っぽい女性がヴィヴィオの側に立ち私を見ている。心なしか私を見て混乱してる?
「あなたは……いたの? 寮に? 前から?」
「いえ、いませんでしたよ、前話まで」
「いなかったの⁉︎なに? 緊急就任? すごいね管理局、ブラックね……」
「まぁいいじゃないですか。一応いましたけど、初登場まではいないも同然なので」
「じゃあ前話もいなかったよね?」
「いえ、14話のことです。まぁいいじゃないですか、細かいことは。早くしないとなのはさんに怒られちゃいますし」
「ん?」
「いえ、訓練が終わったので朝食をと」
「あぁうん、はい。ソラあたりが放っておいていいとか言ってくれたと思うけど」
「ええ、そうですね。その方が良かったですか?」
「いや、折角来てくれたなら行く」
とりあえずベッドから起きる。
朝ごはん。一人で暮らしてると一生食べることのないものの一つだ。いかんせんハードゲイナーだから起きて急に食べるとね、出ちゃうんだよ。それが嫌で食べないでいるとお昼も食べるの忘れちゃって夜も寝ちゃって朝になってをループして一週間くらいで餓死しそうになる。困ったもんだ。
ヴィヴィオがさっきからこっち見て固まってる。だからなんでよ。
「では行きましょう」
「ああ、はい」
なんだろ。まぁいっか。
なんか不慣れな人と並んで歩くのも久しぶりな気がする。身内部隊のせいかな。
「あ、ヴィヴィオー、こっちこっちー」
「……!」
食堂に見えたなのはの声にヴィヴィオが走っていく。
私も適当にオーダーして近くの席に座る。
「じゃ、失礼しますね」
アイナさんは何故か私の対面に座る。ヴィヴィオの方行けばいいのに。
「すみません、堂々と」
「ん、いえ」
「実は聞きたいことがありまして……」
「うん?」
なんだろ。隠してることは能力と特典の大半と、転生のこととVNAのことくらいだけれとも。
「……ヴィヴィオはあなたを男だと思っているようなのですが。実際のところ、どうなのでしょう」
「は?」
「いっ、いえ! その、ヴィヴィオの情操教育? 的に! べっ、別に私がどうこうというわけではなくてですね……!」
「んー? ああ、シオンか。それで首傾げてたのね。ヴィヴィオ?」
「はいー」
「私と……オレ、どっちが合ってる?」
「おれー!」
「そうか。じゃあお前の前だとこっちでいとく」
そのせいか。けど不思議なもんだな。元が女で男のフリ? してるのが合ってるなんてな。まぁ、女が男で女のフリしてる時よりマシか。
とりあえずアイナのおかげでヴィヴィオへの謎が解けたのは良かった。面倒を放置すると3倍になって返ってくるからな。
「うん!」
「いいの? そんな気を使わなくても……」
「なのは、親はお前だろ。オレは別に子供が嫌いなんじゃなくて子供を育てるのが嫌いなだけだ。たまに会うくらいならオレでいてやるよ。オレが戻るまではな」
「戻るって……ウタネちゃん、シオンがまだ管理局にいられるとでも思ってるの?」
「なんだ? いられないのか? 限りなく黒に近いグレーだが、オレはお前らの致命的な害にはならない。今回の件は必要あってのことだ。だから」
「だから?」
「簡潔に……無罪で許せ」
「無理だよ⁉︎」
「それをなんとかしろよ。裁判はやめてくれよ。他の手段で」
「ダメ! ウタネちゃんの頼みでもシオンは捕まえる」
「無理だ。お前の全力でもオレには勝てん」
「それでも」
「……はぁ。お前らは絶対に折れんよな。じゃあ恒例のアレだ。この事件で死ぬのなら……」
「……」
「戦闘機人とスカリエッティの内誰かだけだ。今のところはそれで許せ」
闇の書の時にも言った予言。
というより、全てを知った上で下した絶対の未来。オレに特典ある限り、この未来は覆らない。
「……今思ったんだけど。シオン……本物?」
「今さらか? オレの時はオレだって言ったろ」
なのはは今更ながらオレがオレだと気付く。
呑気だよな。
「……よくこんな人がいるところで出てこれたね」
「この数年間ずっといたつもりだったんだが? なぁソラ」
「んー、んー? まぁ、知らないけど。別にシオンでもウタネだし。私が望む答えは得られない……違う?」
ソラは相変わらずにして良く理解してる。
オレはオレでも体はウタネ。知識もウタネのそれだ。ただシオンという人格がいるだけ。
そしてその人格は、ウタネと別の体を持ってこの世界に来たシオンとは別のシオン。ウタネが内で作り出しただけのもの。ウタネが自身を守るために作ることができた、無数に用意できるシオンというものの中身。だから厳密には、今のオレはウタネでもシオンでもない。
「ちなみに質問は? オレでも分かるかもしれないぞ?」
「不完全なシオンに特に興味は無いけど。何がしたいの?」
「あぁ、わからん。わかってんならウタネもお前も行動を起こすだろ」
「だよね。だから、別に」
オレはオレでウタネの作るシオンには変わりないんだが……
ソラはそのまま食事を終え、どこかへ立ち去ってしまった。
「……他、オレになんか言いたいことは?」
「あ、私いいですか?」
「お前……えっと……誰だったか」
「アイナです、さっき自己紹介しましたよね?」
「……いつからいた? 六課設立から? ずっと?」
「はい、いましたよ。二人って面倒ですね、説明が」
「……やっぱ知らない奴いんのな。で?」
「はい、シオンはちゃんと男なんですか?」
「……それ、聞く必要あるのか?」
「ええ、個人的に……もとい、ヴィヴィオの情操教育的に」
「……いらねぇと思うけどなぁ? まぁ、うん、オレは男で合ってるぞ」
「……そうですか」
「なんで落ち込むんだよ」
「いえ……なんでもないです……みなさん、お疲れ様でした……」
「……」
アイナ……はえげつねぇ落ち込み方をして怨霊でも撒いてんじゃないかってくらいのオーラを残しながら去ってしまった。
……なんだアイツ。男ってのを期待してたんじゃないのか?
「おい、なのは。アイツなんだ? 精神障害か?」
「え⁉︎い、いや? そんなことないと思うけど……」
「どっちかと言えばウタネちゃんが障害やで」
「そりゃ分かってるが。支障なく業務こなしてんだからいいだろ」
障害者だからと差別するやつはここにいない。
かくいうオレも差別はしない。半身不随なら当然障害者だが、言語障害とかは何の診断も受けてない奴もロクに会話が成立しねぇのが山ほどいる。オレからすればそいつらも同じだ。歩けないから車椅子ってのが障害だというのなら目が見えないから眼鏡してるやつも障害だ。車椅子がねぇと動けんやつと眼鏡がねぇと見えねぇやつ、どっちも役立たずだしな。
「あ! すみませんなのはさん! 私とギン姉、いつものアレです!」
「あ、そうだった。ごめんね、長引いちゃって。食器とかそのままでいいよ」
「いえ! そのくらい自分で!」
「いいわよ、私がするから。さっさと行ってきなさい」
「……! ありがとうティア!」
アレ、と言ってスバルとギンガが席を立つ。
予定はあったようで上官のなのはも相棒のティアナも訝しむ事もなく素直に送り出す。定期的なものか。
言い方からして六課ではないな。アイツら個人に起因する予定だ。それは何か。
「……なるほどな。フェイトもエリオも要らないんだからそういうことだ」
「えっ⁉︎」
想定できる唯一の理由に行きついて漏らした言葉にティアナが反応する。
「なんだよ」
「ちょちょっと……来てもらえますか」
「ん?」
そのままティアナに引かれ、人目のない通路に連れて行かれた。
ソラとリインフォースに気にせず乱すなという指示を送りそのまま流れに任せる。
「なんだよ。告白か? 悪いけど姉さんの先が保障できない限り受けないぞ」
「違います! スバル達のことです!」
「あ?」
「……いつから、知ってたんですか」
「んー? なんのことだ?」
「惚けないで下さい!」
「……ったく。ホントに知らねぇんだよ、さっきのことか? 体に機械を埋め込んでることか?」
急に連れ出すのならそれ相応の理由がある。つまり、先ほどナカジマ姉妹とフェイトエリオを区別した理由だ。
「そうです。戦闘機人。この前説明しましたよね、マトモな人なら手をつけない技術だって」
「……オレはその説明すら知らないんだがな。まぁ、そうだな。普通なら不可能な技術だ。理論では可能でも、生体であれば拒否反応くらいある」
「戦闘機人は、この事件で重要な位置を占めてしまった。それがスバルとギンガさんと同じと上層部が判断してしまえば、スバル達はおしまいなんです」
「……ああ」
「スバルは、私の古い友人です。私の……これ以上無い相棒なんです。それが、管理局の存在を脅かす犯罪者と同類ってだけで、今までを無にされることだけは嫌なんです! 違法技術から生まれた存在だとしても、今まで努力してきたそれは私以上です! それを否定されるのだけは!」
「……はーん。それで?」
「……っ、ですから、ここで誓って下さい。スバルの秘密はそれを知る一部だけに留めるものと。でなければ、私は……ッ!」
「……落ち着けよ。努力してんのは知ってる。それがオレには到底できないものだってのもな」
戦闘機人というらしい、人体に機械を埋め込み能力向上を図った技術。
見たところプロジェクトF、つまりはフェイトのようなケースの発展と言えるが……転生なんて言う生まれて死ねば終わる命のハカリから外れた存在であるオレ達に言われてもだからどうした、ってレベルだ。まぁ、ティアナが必死になる気持ちも分からんではない。
「だからどうしたって話だ。オレは姉さんじゃねぇし、お前らが敵としてるシオンでもねぇ。一度切られればもう次いつ出てこれるかわからねぇ無数のシオンの残骸の一つだ。そんなオレにどうして欲しい? どうしたい?」
ただの残骸。
フタガミウタネが己を守るための、想像できる無数の防御装置、その一つ。
シオンはただ採用された未来予知のシオンだっただけ。このオレに意味は無い。
「でも、シオンは……ウタネさんは……私たちの、管理局の、味方なんですよね……」
「……」
問いの答えにはなってない。
ただ、縋るだけの女として映るだけだ。ただ、無力な一人の人間。
破滅を前に、ただ祈るだけの無力な聖人と同じ。
「……一つだけ、教えてやる」
「え」
「知っていようと知っていまいと変わらない事実ではあるがな。ここまでオレにつっかかってきたお前だけだ。シオンの能力は、ウタネやなのはが知るそれとは違う」
「?」
「勘違いもいいトコだ。まぁ、なんだ、オレの姉がウタネで良かったってとこか」
「??? なんのことですか? 真面目に──」
「真面目だ。いいか、このことを相談するならリインフォースだ。ウタネやソラは役に立たん。この能力を解析しない限りシオンに勝つ手段は無く、解析できても勝つ手段は無い」
「ダメじゃないですか⁉︎」
「……まぁ、そうなんだよ。シオンは能力の使い方を把握してる。10年前とは違う。まだ能力の全容すら掴めてないリインフォースとでは差が出るばかりだ。シオンに当てるならウタネかソラにしとけ。上位互換と当たるだけ無駄だってな」
混乱するティアナ。なんか色々言ってるが無視だ。こっちが伝えて終わり。
実際、無駄なんだ。ウタネでなくシオンとしてだから分かる。特典として受けた能力。オレは使えないが……アレには弱点が無い。
姉さんの能力も事実上無敵ではあるがただの性質変化能力。ただ範囲と速度と強度に優れ、デメリットが存在せず他人にも奪われないというだけだ。直死といった概念系能力なら掻い潜ることもできるし、オーバーヘブンなら能力を上書きできる。まぁ、それを踏まえて無敵とするんだけどな……
どうもなのは達はシオンも能力を使わせ続けスタミナ切れを待てば勝機があると考えているようだが。それも無理な話だ。姉さんがそんな不完全を生む筈がないだろう。
「以上だ。せいぜい頑張れよ」