「よう」
「……!」
「フタガミ……シオン!」
「まぁ待て。別にもう攻撃しようなんて思ってない……そもそも攻撃する必要も無くなった」
「……?」
いつもの冷めた態度のまま、ノックをして返事を待たず入室したシオン。
四つ並べられたベッドには守護騎士よりはマシかな、というくらいのフォワード三人とスバルのベッドに腰掛けるティアナ、エリオとキャロのベッドの間の椅子に腰掛けリンゴに包丁を入れ謎を形作っているフェイト。
ん、なんでフェイトいるの。
「私はみんなのお見舞い。シオンは……一応、久しぶり。何しに来たの? というか目、大丈夫?」
「ああ、久しぶりだな。お前は料理上手だと思ってたんだがな。シャマルがうつったか。何だソレ。クトゥルフか? 目は気にすんな。オレは説明と質問しに来ただけだ。今回の襲撃の目的について、特にスバルに話しに来た」
「……じゃあすぐ教えて下さいよ。ギン姉はどうなるんですか! あれだけ暴れておいて! なんで平然とそこにいるんですか!」
「シオン、私からもお願いします。ギンガさんを拐われて辛いのは私も同じです。内容次第では……絶対に許しません」
スバルとティアナはギンガが拐われたことについてかなりお怒りだ。
他もそんな感じだけど、シオンは態度を変えることは無い。
「本当に話してないらしい。ま、話してたらオレはもっと早く捕捉されてただろうしな」
「何の話ですか。話を逸らさないで下さい!」
「数年前の火災の事だ」
「……? 四年前の? あの火災と何が……?」
「あの火災を起こしたのはオレで、あの施設内の人間を助けたのもオレで、ギンガだけがオレを見てしまったって話だ。お前が知らないならホントに誰も知るまい」
「……⁉︎」
「ああ、別に謝るつもりはない。ついでだが能力の確認的な意味もあったしな」
絶句するスバルをよそに次々と話すシオン。
どうやら見られた際にしつこく名前を聞かれたらしく、仕方ないので誰にも言わないことを条件にヴィーナスと答えたようだ。それでヴィーナス……私たちに変に関心持ってたのか……
「……ま、とりあえず座るぞ。まずは目的だな。スカリエッティの目的がヴィヴィオ。オレの目的がスバルとギンガ。ゼストの目的がレジ……ギガス……? だったかな。名前はうろ覚えだ。確認してくれ」
「レジアス中将、だね。顔は……これ。合ってる?」
フェイトが出した顔写真に目をやって軽く頷くシオン。
勝手に椅子を引き摺って座ったシオンに対し、私とソラはフェイトに出された椅子に座る。あんまり関係無いからシオンの後ろ、出口近くに。
「それだ。まぁそっちは勝手にやるってんで放って置いたんだが、死んだか? 生きてる?」
「まだ生きてる。多分そのゼストはヴィータが時間稼ぎした相手だと思う」
「それは知ってる。ヴィータと遊んで間に合わなかったって事だ。ま、それはいい」
「私や! ギン姉はどうなんですか! なのはさんに……ヴィヴィオの事は話したんですか⁉︎」
「……話すから落ち着けよ、殺すぞ。なのはとフェイトにもちゃんと話す。まずはお前らだ。もうここまで来てるから話してんだろ、戦闘機人タイプゼロセカンドさんよ」
「なんで、それを……」
「知らなきゃ拐ったりしない。知ってる前提で言うぞ。単純に、オレはお前らの強化……さっきヴォルケンリッターにも言ったが……インヒューレントのプライムの導入について考えてた」
「プライム……?」
「単にISの上位互換相当の能力を追加するだけ。あとフレーム強化とか基礎の強化だな。オレがしようとしたのはそれくらい。地下でお前を見逃したのはオレの自慢の拳に勝ったからそのままで良いと思っただけ。なのはを慕うお前ら姉妹はそれで十分と思ってた」
目的が想像より遥かに管理局に近い、かつシオンと戦闘機人に長けたスカリエッティにしか出来ない内容だった故に、スバルの気が抜けるのも目に見えて分かる。
プライムはさっき聞いたけど……元々を持ってるとその上位を追加するんだ。選べないのはちょっと不便かな?
「ん? でもそれってさ、シオンが向こういたらの話でしょ。今どうなってんの?」
「知るかよ。あのバカがオレに完全に従う気がねぇのは分かってたしな。まぁ強化自体はされてんじゃねぇか? 洗脳もされるだろうが」
「「⁉︎」」
「えー……? それ酷じゃない?」
「だろうな」
「っ! 無責任な……! 絶対に許さない!」
「まー落ち着け。オレが離れたことでアイツらも管理局に対する目が減った。そうそう次の襲撃みてぇのはねぇよ。それに、ギンガの洗脳くらい問題にはならない。でな、お前、プライムどうする」
感情も出さず冷酷な言いようだけど、だからこそ事実だと思う。ギンガさんの強化、洗脳も……多分、ホントにされるんだろうと思う。他の戦闘機人と同じ、戦うだけの存在に。
スバルの気持ちも分からなくもない。シオンが洗脳されて戦わなきゃってなったら……殺すね。やっぱり分かんないや。
「お断りです! あなたの力なんて借りたくありません!」
「……ふぅ、まぁいい。やろうとすればいつでもできる。気が変わればやってやる。フェイト、なのはは?」
「まだ事後処理で動いてるはずだけど……シオン、ちょっと言い方がキツいよ」
「優しくしてタメになるならそうするがな。じゃあまたクロノと話してくる。ヴィヴィオについては事が落ち着いてから話そう。命に関してだけは安心していい。奴らも殺しはしない」
「……! ホント⁉︎」
「オレが姉さんの前で嘘をついたことがあるか?」
「あるような、ないような……」
「わかった、あるかもしれんから忘れろ。とりあえず信じろ」
「……うん。違ったら、私もなのはも許さないから」
「ああ……ま、そんときゃスバルと一緒にオレの首でも斬ればいい。抵抗はしない」
「……」
フェイトとなのはに対しては後回し……単純な話じゃないのかな。
一応引き下がってくれるようだけどシオンの約束は平等じゃない。私の能力が魔法で傷付かないように、シオンもシオンで何か方法があるはずだ。抵抗はしないけど傷付けられるとも言ってない……そんな感じ。でも案外斬らせそうな気もするね。どうせまた転生させられるんだし、約束破るくらいなら死んでいいか、くらい。
「ソラ、お前はどうする? 残るのか?」
「クロノ提督と何の話?」
「んー、オレとアインスの目についてもうちょい詳しく」
「聞いてもいいけど遠慮しとこっかなー。クロノ提督をどうこうって訳じゃないんでしょ?」
「ああ。一通り話してアイツがお前らに言うってんならそれも止めない。姉さんは連れてくぞ。秘密を知っても問題無くて保証人になるのはコイツだけだろうしな」
「ふーん。いいよーそれで。ばいばーい」
ソラがフォワードとフェイトに手を振ってから部屋を出る。
シオンはそれを見るまでもなくクロノに連絡を取り、予定を全てキャンセルさせる。
……クロノも話題に乗り気だからいいけどさ、割ととんでもない無茶通してない? 八神さんですら仕事割と忙しそうだよ?
「じゃあ、私もなのはに連絡しておくね。今夜でいいんだよね」
「ああ。後回しですまんな。あと……スバル。お前のプライムは候補がある。繋ぎ繋がれぬ拳。どんな場所へも救助に向かえて敵は殺さず無力化する……お前が欲しいのはそんな力じゃないか?」
「……!」
事実上は初対面のシオンの言葉に目を見開くスバル。
スバルの目標を知るだろうティアナも同様。
「返事はまたでいい。とりあえず回復してからだ。じゃあな」
「んー、よく分かんないけど。またね」
言いたい事は言い切ったのかシオンは部屋を出る。
意味は殆ど分からなかったけど取り敢えずクロノと話すなら着いていくから後を追う。
「ねー、私からもいい?」
「ん?」
いつかの模擬戦の様に二人で歩きながら問う。
どうしても引っかかること。
「ソラも言ってたんだけどさ、私の戦闘って何なの? イップスだと思ってたけど違うっぽいし」
「……説明が面倒っつったら?」
「分かりやすく話して」
「めんどくせぇ……えーとな、イップスだと相手が自分で能力制限する形になるだろ?」
「そだね」
「姉さんのは世界が無理矢理相手を押し込めてるって感じだ」
「はぇ?」
「姉さんが全開すると終焉シナリオだろ? で世界も姉さんを抑えてらんねぇから姉さんが全開しないで済むように相手の方を抑えるんだよ。姉さんを脅かさないようにする抑止力だな」
つまり? 私が能力を使うと世界が滅びるから世界はそれを止めたいけど、世界は私の能力の支配下にあるから私を止める事はできなくて、だから私が能力を使わなくていい範囲で収まるように私の相手の方を弱体化させて……?
「それダメじゃない? 相手が弱くても能力は使えるよ?」
「姉さんが使わねぇのは分かってんじゃね? その辺は知らん。世界に聞け」
「無理……よね?」
「まあそんなトコだ」
「ん、あと一個」
「なんだ」
「闇の書って蒐集したのをコピーするんでしょ。なんか、異世界の鏡みたいに言ってたよね? それが何で別の能力になるの?」
多分クロノにも話すんだろうけど、とりあえず忘れる前に聞いておきたい。
「あー、それで合ってんだよ。オレのもアインスのも異世界の鏡。アインスのをオリジナルと言ったのは、大抵の奴がこの能力を持つとあっちになるからだ。オレと同じにはならない」
「……は?」
「有り得ないが、何らかの手違いと錯乱でロリコンがなのはを気に入り能力を与えたとする。結果はアインスと同じだ。アイツらが映す異世界は同じだからな」
「は?」
「オレの異世界が違うんだ。勘違いってのはオレがアインスの能力が映す異世界を知ってたのが原因だ。元の世界の数多の作品群、それがアインスの異世界だ。あ、宝具とかは同じだ。なんか知らんが」
「はぁ?」
「ま、クロノんとこで納得するまで話す。が、姉さんの抑止力みたいに分からん部分は分からんからな」
「……わかった」
特に大きな問題でも無いと言う風に構わず歩くシオン。
異世界。人がそう聞いて想像するそれはどんなものだろうか。科学の延長として魔法が当たり前にある世界だろうか。超常現象的な魔法と農耕文化の共存世界だろうか。私やシオンにとって、それは漫画やアニメの世界だと思う。もし私がこの作品にいれば……それは、異世界に逃げたい逃避の感情だ。
もし、スカリエッティが真面目な研究者で、ギンガさんとスバルも戦わなくていい世界だったら……それは並行世界の話。この世界と変わらない。個人個人の思想やどこかの選択が違うだけの……夜天の書はアインスと共に消え、ツヴァイが生み出される……この世界で私達がいなければそうなっていた並行世界。私はそれも良いと思う。私がいるから何かが変わった。それはとても自然な事。だけどシオンもソラもそれを否定する。仲は良いし、信頼もするけど、方向が全く違う……私達がどこに妥協点を見つけるかは分からない。魔法に関わらず一人で暮らしてた並行世界もあるはずだから、なるようになる、としか言えない……
「あ、姉さん」
「え?」
「言うの忘れてたが、スカリエッティは殺すぞ」
「……ほ?」
「今そう言えばって感じなんだが、まぁ……何パターンか未来を想定するとそうなる」
「シオンの予知じゃないよね?」
「当たり前だ。オレはそんな遠く見れん」
「そっか……誰がやるの?」
「色々。オレがやるかもしれんし、アインスかも知れん。抑止対象になっただろうし、そうなればソラもやるだろ。オレが視た限りどうあってもアイツは死ぬ」
「んー、そっか。じゃあしょうがない」
「まー、どうなるかはわかんねーしな。ロリコンがロリコンじゃなくなるくらいの確率で生き残るかもしれん」
「いや……ナイナイ。大学生をババアだよ? 失礼こいちゃうよね」
モニターから見ただけだけど別に悪そうな顔じゃないのに……どうしても死んじゃうらしい。救えないかな? や、救う気はあんまり無いけども。
「オレには普通だったがな。姉さんやソラをババア呼ばわりしてたから殺しかけたが」
「え、勝てそうなの?」
ロリコンという名のショタロリコン。私の能力も攻略したし私はもう手打ちなんだけど……
「無理だ。アレには勝てん。アレは神という概念そのものだ。全ての人が持つ全能の上位存在という信仰、その集合体。いくら人外の能力を持つオレ達でも人から生まれた以上、全異世界の全並行世界の人類全てを殺し尽くしてようやく届くかどうかってとこだ」
「異世界はともかく並行世界は無理じゃない? 誰か殺したら殺さない世界ができるよね?」
「そうだな。やってらんねぇ。アイツみたいのが何体もいるらしいからな。全員変態だったらオレは人類皆殺しをマジで計画するぞ」
「うん……それは協力する」
ショタロリコンレベルの変態が複数……想像するだけでダメだ。コミケの同人誌の気分になる。
「ま、いい。今はどうしようもない。クロノに話すのが先だ」
いつの間にかクロノの部屋? 提督室? の前にいた私たち。
ドドドドドド、と人差し指と中指で無駄に連打したノックの後返事を待たずにドアを開けるシオン。ドン、ドン、ドンドン、どんどんどんどどどどどどどどどどど、どん! みたいなノリは何?
「よ。邪魔モンがいねー分話せることが増えたぞ。下手な隠しカメラとかやめろよ?」
「……しない。君ら相手に隠せるなんて思ってない」
明らかに不機嫌なクロノ。
後で聞いたけどこの会話の時間を取るために2日間4時間、計8時間の残業が確定したらしい。で、この会話が5分伸びるごとに1時間追加と。私がクロノならシオン殺してるかも。
「どーだか。姉さん、カンはどうだ」
「んー、無いかな? 心読めば?」
「無い。信じよう」
どうせ無いのわかってた癖に。
要らない確認をしてからクロノの対面に並んで座り、クロノがドアにロックを掛ける。
「で? 僕の仕事を邪魔してまで話したい事とはなんだ?」
私が知りたい事と、上役であるクロノへの信頼を得るための話題。
ついでに今思ったことを聞こうとすると、シオンが軽い口を重そうに開く。
今回シオンの能力をどこまでどうしようか考えて先延ばしすることにしました。時間かかった割に短いですけど次はもっと時間かかると思います。