「これが月読だ。全員いるな。この世界では全てをオレが支配する。瞳力を持たないお前らにコレから抜け出す術は無い」
真っ白な……あのロリコンの世界を思わせるほど何も無い空間にいる。
ただいるだけ、現実では無く意識だけがあるという実感も確かにある。
しかしその世界にいるのは私とシオンだけ。全員というのは違うと思うけど……質量、空間という概念があるなら私は対象にできるぞ。精神世界でも例外と油断するなよ?
「この幻術は一人ずつしかかけられない。だがオレの目を見た個人個人は別々の月詠に同時にハメられる……だから、ウタネ、ソラ、なのは、フェイト、ユーノ。お前らそれぞれに同じ内容を見せて話す。食い違いが起きないようこちらが一方的に話して終わりだ。質問は幻術を解いてから聞く。ここまでよければ右目を一度閉じろ……姉さんとなのは、ウインク下手か? 縫い付けてるオレが言うのもなんだが……スゲェ皺が寄ってるぞ。あとなのはは口を閉じた方がいい。威厳も美貌も品性も常識も無さそうに見える……まぁいいが。よし。じゃあ再現だ……」
シオンはそう言って空間に市街地の映像を投影した。
なのははともかく私は許して欲しい。右目見えてないのに閉じてるかどうかすれ分かってない。左目と同じ感じで閉じようとしてるけど。
『……! これは!』
『安心しろ。オレの固有結界だ』
映像ではフェイトの運転する車が突如固有結界に呑まれ、フェイトは即座にバリアジャケットを装備、周囲を警戒する。
そんなフェイトの正面に武器を持たないままシオンが空? から現れた。
『シオン! あなた、何をしてるの⁉︎今までどこに⁉︎』
『何をしてるか、はまだ言えない。ただお前らがオレを敵として想定してることは知ってる……だから、それをとりあえずは否定しに来た』
『ならここから出して!』
『フォワードなら大丈夫だ。オレがいるんだろ。少なくとも5より上の』
『……!』
『まぁ、何でもいいだろな。オレが抜けた理由は分かるだろ』
『……なに?』
『……マジか。えぇ? マジで……まぁいい。オレはお前らに敵対してないってことだけ伝わればな』
『信用できない、って言ったら?』
『別に。どうもしない。殺そうと思えば殺せるこの状況、何もしないことが最大の信頼かと思うが……どうだ?』
『信頼なら、なのはに会って。あなたがいなくなってから、なのはがどれだけ……!』
『……リインフォースか』
『直死! 参上!』
『相変わらず……では無いな。どうした、テンション高いぞ』
『む、やはりシオンか。なんだ? 見たところ戦闘では無いな』
『丁度いい。読心能力を使え。そして必要事項だけフェイトに伝え、オレに会ったことは隠せ』
『……』
『リインフォース? どう?』
『うん、大体は把握した。フェイト、六課に戻ろう。ここでは不明な通信阻害が起きただけだ』
『え……⁉︎』
『ジェイル・スカリエッティ。戦闘機人。能力試験……私もしたいところだな。謎が多い能力だ』
『スカリエッティ……! シオン! あなたまさか!』
『大丈夫だ。私たちに害は無い。だが一応取引だ、シオン。帰ってきたら私にも能力を教えてくれ』
『ああ。それでいい。じゃあな』
『まって! シオン!』
「……一応、コレだけだ。意味は無いがな。一応フェイトの疑いを解くくらいの意味しか無い。ま、お前らはフェイトを疑うことすらしてないからその意味も無かったな……ああ、あと一つ。クロノが危惧してるアインスの無限月詠について少し言っとく。無限月詠は今のオレの眼と同じ輪廻写輪眼を月面へ投影し、全ての生命に理想の夢を見させ続けるものだ。必要なのは十尾チャクラだったりだが……まぁ、オレの能力ならば問題無く用意できるしオレならそんなもの無くとも無限月詠という能力だけを使うこともできる。そうなればオレかソラ以外には対処不能だ。ま、それだけだ。とりあえず知っとけ」
固有結界の映像は消え、また白紙の世界に戻る。
そしてそのままその世界も消える……
「どうだ? 別段言うもんでも無かったが……」
「はい! 質問です!」
「なんだ? お前には関係ないぞ? なのは」
「えっとね、あの時はウタネちゃんがフォワードに全力を出すなって指示してたんだけど、なんで?」
「ん? そうなのか?」
「うん……? 知らない。シオンでしょ。なんで?」
「……完全に同一人物では無いんだぞ。そうだな、オレが敵だった場合、ナンバーズの戦力調整に関して対策させないつもりだったか、か? オレが厳密にスカリエッティと協力してるわけではないと踏んでスカリエッティの目算を外すつもりだった、が近いか」
「ふーん。因みに7のシオンとしては何点?」
「それ聞いてどうする……80はやるよ」
「おー、私の5のシオンもなかなかやるねー」
5だったっけ……6だった気もする。まぁいいか。5と6ならそんな差は無いし。
「ま、これでユーノの用とあの時の説明は以上だ。今日はもう寝てろ。オレ達はこの後会議をしなけりゃならん」
「え? ウタネちゃん達? 何の?」
「ああ。これはある種、レリックの収集やナンバーズの対策以上に重要なことなんだが……」
「「「…………」」」
「オレ達がどこまで手を抜くかだ」
「っ! 抜かないでよ⁉︎」
「抜くに決まってんだろ。全力でなんかしたらコイツが黙ってない。最悪オレと姉さんが殺される」
気の抜けるシオンの話に驚愕した三人。なのはが珍しくつっこむ。
「ソラちゃん? なんで?」
「あははー、何回も言うけど私ってば抑止力だから。私達の全力は許せないの。言ってないっけ、私達が互いに許可制の能力解放してるの」
「あー……そういえば、はじめてソラちゃんが訓練入った時言ってたような」
「そんなワケで、どれだけ手を抜くかあらかじめ決めとくの!」
抑止の対象に入っちゃうとどうあっても勝てないからねー……
気を付けなきゃ、と言いたいけど私は最初っから対象だしどうしようもない。ま、私はワンチャン勝てるけどね。
「でも、手を抜くって言っても、どうするの? ウタネは戦うだけで発動するし、ソラちゃんはよく分からないけど、実質シオンだけになるんじゃ?」
「フェイト……お前、姉さんと戦ったことあるんだろ? なんで知らねぇんだ」
「?」
「姉さんの能力。アレは旅行で見せたようにドア開けたり材質変えたりするだけのモンじゃねぇぞ」
「……あ!」
「それに、ソラが一番分かりやすいだろ。明確にパーセントで区切ってんだし」
「100パーセントはしないよ。安心して?」
「100の鬼しなけりゃオレはなんも言わねぇよ。解放したことあんのか? そもそも」
「あるよー。ウタネとやる時だけど」
「うん? あったっけ?」
「うん。まぁあの時は固有結界で10人くらいしかいなかったからボロボロに負けたけどね」
「そりゃそうだ。そのくらいで姉さんに勝てるかよ」
10人か。そのくらいじゃあ私の足元にも及ばないね。ソラの能力的に孤立したら弱くなるのは抑止力らしいけど悲しいところだ。
「ま、そんな話だ。悪かったなユーノ。お前にもなんか埋め合わせる」
「にも?」
「ああ、クロノもだ。もちろん別でやる。一緒でいいならメシでもいいが」
「ああうん、気にしないでいいよ」
「そうか? じゃあ気が向いたらにする。なのフェイ、もういいか? 帰るぞ」
「いいけど、たまに言うなのフェイって何?」
「お前らの総称。界隈用語だが楽だから使ってる」
「……? 分からないけどフェイトちゃんがいいならいいよ」
「私も別に。それでいいなら」
分からないけど便利なら、といった風に許可するなのフェイだけど、たしかそれ、あの界隈だった気がするよ。いいのかな、いいのか。
関係ないし誰も知らないだろうしで何も言わずそのまま今日は解散。
♢♢♢
翌日。日を跨いだはいいもののソラによって能力による治癒ができない以上現代魔法と自然治癒に頼る他なく、シオンの力を借りた敵に受けた傷はそう早くは回復などしない。
普段から戦闘訓練を積んだ守護騎士やフォワードはある程度、点滴をしながら病院内を歩き回ることができるくらいには回復していたけれど、他のロングアーチスタッフやバックヤードスタッフはそうもいかず、機動六課は未だ機能停止と言っていい状態だった。
「……だからな、オレの能力使わせろってのに」
「ダメ」
「治すだけだぞ、プライムみてぇなことしねぇから」
「黙って!」
「……」
病院の廊下を歩きながらでさえソラはこんな様子。断固として譲らないソラにシオンもため息を吐くばかり。
シオンに無理なら当然私に説得できるはずもなく、ただ会って話したり……と言うことがせいぜいだった。
一応ソラの立場と行動はなのはとフェイトの助けもあって……というより二人が言うのだから仕方ない、というくらいウエイトがあるけど……六課のみんなも理解してくれた。
「こんなことならお前いねぇ方が良かったぞ。全開しねぇなら尚更だ」
「むー! いるよ! 何のための抑止力だと思ってるの! この世界のためだよ⁉︎」
「いらねぇ。10年遅い。オレらが干渉する前に出てきてたなら説得力あったのにな」
ソラのいう抑止力とよくある抑止力とでは方向性が違う。
普通、人類滅亡等にカウンターで出てくるのはアラヤ……いわゆる掃除屋、霊長の守護者だったり、誰かを後押しする力だけ。けれどもソラの本質はアラヤ寄りであるだけのガイア。いわゆる星……私たちで言う『世界』の生存本能。ガイアでありながらアラヤに寄ってしまった結果、ソラは『世界の在るがまま』を保存しようとする方向になった。
だから誰も殺さないし、私達みたいな異常も無闇に干渉させない。この世界で起きてる事をこの世界が成るように成るってスタンスで、悪く言えば放置主義の視点で見てる。
意味不明だけど転生した私たちなら分かる……『ストーリー』から逸脱しないように動いてるんだと思う。私たちが加わってたらそれを踏まえて……
「遅いのはシオンもでしょー。10年もかけちゃって」
「あ……?」
「ホントはねー……いや、いいや。ややこしくなるから」
「話せ。歩きながらなら大丈夫だろ」
「ホントに聞く?」
「写輪眼で話させるぞ」
「やだ。じゃあ話す……けど、話すとシオンも知らない未来と過去の話にもなる」
シオンの頼みを聞く、というより誰にも聞かれないなら、と言った体で話を始めるソラ。
すれ違う人はいるものの治療に追われてるはずでみんなが忙しなく走り回っている……や、実際走ってはないけども。焦ってるのは分かる。
「……過去? この世界の10年でオレの知らないことが?」
「この世界だったはずの並行世界……もう無くなった、ウタネが壊しちゃったこの世界だよ」
「それが、お前の言う10年か」
「うん。本来ならあなたはスカリエッティと協力して、闇の書事件が終わった半年後にはゆりかごを起動させてる。なのはの撃墜前のことだからナンバーズの強化じゃなく、ゆりかごに集中したんでしょうね。ヴィヴィオと『てんし』っていう外来の子を燃料にゆりかごは起動。なんやかんやあってキレたウタネが能力でゆりかごもナンバーズもスカリエッティも……管理局も潰して、物語を続けられなくなった世界からウタネはロリコンに引き上げられ、この世界は再構築された」
「……半年? 無理だ。ヴィヴィオが闇の書の時にいたとしても、オレがゆりかごに集中したとしても三年はかかる。その短期間なら神霊レベルのエネルギーが必要だ。てんしってのは何なんだ?」
「知らないよ、ロリコンに聞いただけだし直接は見てない。節分に犯罪組織から助けた女の子なんだって。ひなないてんし……が本名らしいよ。ただとんでもない特異点ってだけじゃない?」
「……幻想郷か。しかも子供ってんならホントに遠い並行世界から流れたんだな。ロリコンに再構築されてんならオレが知らないのも突然か」
色んな世界に詳しい二人が何やら入り組んだ話をしてる……私が消しちゃった並行世界か……無いとは言い切れないのが悲しいところだ。
「はーあ、納得したかな? 話すべきじゃないんだけどー、別に抑止とカンケー無いしシオンだからね」
「納得はしないが理解はした。あとは部隊長どのに『シオン? 今時間あるか?』おう、ちょうど良いな」
『なんや、そっちも用あったん?』
「いや何、そろそろ話を聞くんだろうと思っただけだ」
『相変わらず都合がええなぁ。この後ナカジマ三佐に話を聞こう思とんよ。私ら三人とシグナム、リイン二人。できれば三人にもお願いしたいんやけど』
「ああ。三人とも行く。能力で探るのもいいが知ってる奴から聞くのが早い」
『ほんじゃまた。待っとるで〜』
八神さんの通信を終え、私とソラの自由意志は否定されその話を聞くことを強制された。まぁ、いいんだども。
「……」
「シオン? どしたの? はやてになんか言おうとしてた?」
「……いいや、しておく事があった気がするが……まぁいい。意味は無いだろうな」
「ふん?」
「何か頼みを聞いていた気がしたが……放っておいていいだろう。行くぞ」
「ほいー」
シオンの珍しい自己完結を横に置き、シオンの案内でその部屋へ向かった。
ソラの言うウタネが壊した並行世界だとかてんしだとかはどうでもいいです。多分今後登場しないので。
ようやく話が進みそうです。グダグダしてる……