無気力転生者で暇つぶし   作:もやし

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ついにサブタイトルが……
昔、シオンを出したのは失敗だ、と言った感想を頂いた事があります。シオンが話すと長くなるので今となってはそれも的確なものだったのかなと思ったりしてます。


第91話 

「……来たか」

「おー、ここ座りや」

「ああ……久しぶりだな、老いぼれ」

 

 部屋に入ると八神さんと白髪のおじさんに誘導される。

 

「……ホラ、選びな」

 

 ソファに座ると、白髪の……シオンが老いぼれと呼んだおじさんが六つの湯呑みを出す。

 すでに居た七人の前にはには既に湯呑みが置かれている。

 

「はぁ……今更毒なんぞで死にやしねぇよ。毒の用意さえしてねぇ様だが」

 

 シオンはその意図を理解していたようで、無造作に一番手前に来ていた湯飲みを掴み、一気に飲み干す。

 ああ、敵意が無い証明か。シオンの言い方だと殺す気みたいに取れるけど。

 

「ハッ、恨みがねぇ、なんて言えたもんじゃねぇが、それで何が解決する訳じゃないのも分かってる。アンタの人柄はそこの狸からよく聞いてる。強さもな」

「オレは何度言えばいい? 誰も殺してやいねぇよ、やったのはチンクだ」

「チンクってのはあのちっこい銀髪だよな。お前らの血族じゃねぇだろうな」

「……そう言えば色彩は似てるな。それは盲点だった。姉さんと並べると一応姉妹っぽく見えるかもな。だがま、違うってだけは言っとく。アイツらは全員スカリエッティが作ったもんで、基本構成にオレの手は入ってない」

 

 チンク……誰だっけ。聞いたことはある気がする。

 

「ちょ、シオン、喧嘩腰やめてぇや」

「わってるよ、戦闘機人、スカリエッティの情報交換だろ。なにせ美人顔は自分本位だからな」

「……なんやそれ」

「うん、オレの偏見だ。実態はどうか知らんが経験則に基づいたモンだ。本人に関係無い周囲が本人を作り上げる。お前ら三人もソレだ。ユーノ、プレシア、闇の書。というかここはほとんど美人顔だしな。ま、そんな話は良い。あ、姉さん、コレとコレは飲んでいいぞ。ソラはソレ飲め」

「あ、うん」

「なんで指定⁉︎ヤな予感しかしない! ウタネ! いっこ交換して⁉︎」

 

 シオンが残った五つの内二つを私の前に、一つをソラに指定する。

 言い方から別に差は無いんだろうけどやり方言い方がそれっぽいからソラが動揺しまくる。シオンの能力なら触らず見れず毒を仕込むことくらいできそう。

 

「んでも、二人が知り合いやったん意外やな? どこで知り合ったん?」

「いや、知り合いじゃねぇ。いつぞや事件について調べてる内にすれ違っただけだ」

「まーなぁ……」

「なるほどなぁ……」

「ってシオン! なんでそんな人殺しちゃったの! ダメじゃん!」

「うるせぇなぁ……コイツらいねぇしモブかと思ったんだよ」

「……ゲンヤさん、でしたか? この人殺したくないですか? 私なら六課抑えて無実にします。なんなら罪私が被ってカルデア帰るから殺さない?」

「おい……」

 

 どうやらゲンヤというらしい。カルデアのこと言っていいのか。

 

「いや、遠慮させてもらう。八神、スカリエッティと戦闘機人に対抗するにはコイツらの力が必須なんだろ?」

「はい。シオンのせいで強化されたアインスを相手に生き残るほどの力をシオンによって得た戦闘機人に対抗するには彼らヴィーナス無くては」

「……ほとんどアンタのせいじゃねぇか。どーすんだ」

「どう、とは? 確かに事件を助長したのはオレかもしれないが、オレがいなければヤツは事件を起こさなかったのか?」

 

 私たちがいなくても、プレシアと闇の書の事件は起こっていた。そして今回も例外ではなく、本来の世界でも同様のことは起こっていたはず。私たち……シオンは事件のレベルを引き上げただけで、ストーリーの改変はしていない……

 

「起こしただろうさ。だから聞きたい。アイツら戦闘機人の技術はどこまで進んでる?」

「そうだな、ISを見たスバルを基準にするが、ナンバーズ一機と同等の戦力にするには単純に四スバル。実戦となると経験の差も出るだろうから六〜七スバルはいるな」

「……戦力より技術面を聞きたかったんだが、まぁいい。それで、なんとかできるんだろうな? ギンガに何かありゃ、女房に何て言やぁいいか」

「なんとか、の形によるな。スカリエッティ、ナンバーズ、管理局内の内通者を全員殺せば良いのか?」

「シオン! 殺さない!」

「そうじゃねぇ。そこの黒髪のお嬢ちゃんと同じだ。全員生きたまま確保して全部を吐かせる。女房が何を見て何を調べ、どう死んだのか……オレが管理局員じゃなく個人として知りたいのはそこだ」

「親の……いや、夫婦としての絆か」

「あん?」

「いいや。その女房、クイントだったか。ソイツを生き返らせる方法はある」

「「「⁉︎」」」

「同じだ。だから一応聞く。お前は、どんな形であれソイツを生き返らせることを選ぶか?」

「どんな形、ってのは教えてくれねぇか」

「別に。そうだな、一人生贄がいる、ってくらいだ。自我も記憶もあるし縛る気も無い。どうだ」

「……」

 

 シオンは生贄、と言ってゲンヤさんを指さした。

 ゲンヤさんはその指を見て黙ってしまった。

 

「……そこが違いだ。そりゃ普通はそうだよな。自分が死ぬのは良いとして、本当に蘇るか分からない。どうされるか分からない。それを止めることもできない。自分が死んで困るのはそれを確認できないことだ。普通そうだ」

「なんだ、オレには覚悟が足りないって言うのか」

「そうとも言うが、利口だとも言う。倫理観と常識と能力を踏まえ、プラマイでプラスに傾けようとするならオレに頼らない。そんなことをするのはオレ達だけだ」

「その姉さんとやらもするのか?」

「姉さんを姉さんと呼んで良いのはオレだけだ。管理局ごと殺すぞ。姉さんもソラもやるさ。ただで死んでもいいが……はやて、クロノは?」

「レジアス中将と掛け合ったりで忙しそうにしてたで。シオンにできへん政治関連を全部担うつもりや、お礼言っときや?」

「……いらん事を。どうせそのレジアスも死ぬというのに」

「なんやて?」

 

 どうせ死ぬ。スカリエッティとそのレジアス。シオンによって死が宣告された二人。

 それに反応する八神さんとゲンヤさん。

 

「あー……わりぃけどお前らにゃ詳細は言えん。お前らに言うとソラに殺される」

「ソラちゃんが?」

「あー……ごめん、シオンの言う通り。リインフォース……アインスが言っても同じ。あ、隠れてとか意味無いし私に勝とうとか思わないでね」

 

 ソラも徹底的な対応を表明。

 信頼ではなく世界として見過ごせないんだろう。未来のこの世界にいたと言うソラはみんなの性格とかは知ってるはずだし……それを踏まえて言えないってことだ。

 ソラは抑止対象のとこには瞬間移動というか召喚みたいなことされるから固有結界だろうが関係無く現れるし、普通の人が戦う以上ソラには絶対勝てない。

 

「ったく、話になりゃしねぇ」

「すみません。ナカジマ三佐。私の顔を立ててここは納得していただけないでしょうか」

「なんだ、そこまで肩入れしていいのか? あくまで外部組織なんだろ?」

「はい。彼らは表にこそ出しませんが義理堅く誠実です。それは私もクロノ提督も認めるところです」

 

 義理堅く……誠実……? 

 意味不明な八神さんの言い分に、ゲンヤさんはそれを噛み締めるように腕を組んで黙り込み、数回首を傾げて口を開いた。

 

「わかった。さっきの話はここだけのものとする。だが、お前の見てる計画は話してもらう。戦闘機人の歴史を話すのはその後だ。いいか、ナカジマ三等陸佐としてじゃねぇ。ゲンヤ・ナカジマとしてお前に、フタガミシオンに問い質す。この後……世界はどうなる」

 

 神妙な、クロノの様な法の番人としての正義ではなく、愛する妻を殺された夫として、一個人としての恨みを込めた視線がシオンを刺す。

 

「……ソラ、いいか」

「いいよ。こうなるのは仕方ないから」

「……これから、というより、まず現状から確認する。はやて、六課としてはどうなる。もうあそこは潰れて使えないだろ」

「機動六課は一時、アースラに移動するよ。この事件解決か六課が戻るまで、最後にもう少し力を貸してもらうことにしたよ」

「それで、スカリエッティの居場所の目安は」

「つけてへんよ?」

「は?」

「や、調査はしよったけどシオンが戻ってきたから止めたんよ、分かるんやろ?」

 

 当たり前だ、と言う八神さん。

 ……そういえばそうだね。戦闘機人の改良までしてるんだから知らないワケ無いか。

 

「……ソラ、それはアリか?」

「んー……微妙。でもいずれ分かったんだろうし、セーフ」

「よし。アジトは後で教える。そして本題、これからだが、まもなく『ゆりかご』が起動する」

「なんだ? それは」

「ゆりかご……古代ベルカにおいても最強レベルの戦艦だ。聖王を燃料に稼働する。ま、その分聖王の寿命は削りまくられるようだがな。クローンならいくらでも代替が効く」

「シオン! ヴィヴィオにそんな事言わないで!」

「黙れ。姉さんならともかくタカマチ人のお前の感情を一々聞く場面じゃない」

「ひどい!」

「なんならヴィヴィオも殺すぞ」

「「「それはダメ!」」」

「……えげつねぇ」

 

 ソラ、なのフェイの批判を受けて怯むシオン。

 なのフェイは純粋に殺してほしくないからだから効くんだろうなぁ……ソラのは流してそうだ。

 

「ま、シオン。二人の言う通り殺しは無しにしてあげてよ。殺さないように加減するくらいできるでしょ?」

「……姉さんもか。わかったよ、ヴィヴィオもナンバーズも殺さない。他がどうするかは知らんぞ、オレは殺さんだけだ」

「うん……まぁいいけども」

「でだ、ゆりかごが起動すれば当然管理局が止めに入る。だがAMF戦はほとんどの魔導師が対応できない。対ゆりかごの基本戦力はお前ら機動六課になるだろう。そこでやはて」

「ん」

「ヴィヴィオの救出になのは、スカリエッティにフェイトを当ててくれないか?」

「……それは、出来んこともない、けど……」

「今はスカリエッティよりナンバーズが危険だ。オレ達が出向く他ない。オレの予定、というか目算ではお前ら機動六課は基本的にガジェットの殲滅に向かって欲しいが」

「……それは私らのため? 自分のため? ウタネちゃんのため?」

「オレのためだが。お前らのためでもあるし、姉さんのためでもある。姉さんとの約束、あの旅行にいた誰一人として死なせないこと。それはお前らの安全を絶対とするもの……なのはに関してはオレの落ち度だ。戦闘機人を利用しようとしたのはその埋め合わせのつもりだった。そして……スカリエッティはオレの管理から外れた、管理局の敵だ」

 

 シオンが八神さんを睨みつけるように話す。

 ……何度か言ったかもだけど、アレはシオンが誰かを殺すなって言っただけで誰にも殺させるなとは言ってないと思うんだ……

 

「じゃあ……信じてええねんな」

「この中じゃお前には一番話してると思ってんだが……現状が見えてくると信用も減るか」

「まーなぁ……いや、別に信用してへんわけやないんよ? ただ私らに別々で話してたり必要なこと以外聞かさへんようにどっか行ったり時間ズラしたりで怪しいなーとは思ってるけど」

「それを怪しんでるってんだよ、信用ねぇじゃねぇか……ったく。そもそもな、お前ら機動六課がオレを警戒すること自体が無意味なんだよ」

「なんでや? 私ら三人でもシオン止めれん自信あんで?」

「冷静な分析力があるのは結構だ。アレだ、セルフギアス。いつやったか知らんが勝手に契約したろ、姉さん」

 

 シオンが謎の書類を出現させる。

 

「あ……それ。なんか書きよったな?」

「私は知らないけど……シオンがやったんでしょ」

「だからオレじゃなくて姉さんのオレだろ。このギアスは死後まで束縛されるからな。勝手に条件も達成されてるみたいだしオレは何がどうあっても……例えばオレの全ての魔力、リンカーコア、能力、未来視とかを捨ててからなら分からんが、そういったのがある限りお前ら機動六課には手出しできん」

「あ、じゃあスバルが軽傷だったのは……」

「アイツが無茶した分の自傷だけだ。オレはその無茶を相殺……しきれなかったが……しただけだ。アインス、お前がいながらいらん事を」

「……私もVNAだからで、な。管理局、はやてのためだ。事後で済ま、みませんがシオンだろうと能力の使用は惜しまない、です」

「なんで若干カタコトなんだ。別にいい。ギアスも必要だからしたんだろ」

「ん……まぁ、な」

 

 つまりはセルフギアスで『シオン』を縛ってしまっていたらしい。

 つまりは『ウタネ』たる私自身には……何の支障も無いわけで。シオンはそれも計算してそう言うことしたのかな? 

 

「じゃ、寄り道が多かったがオレの事は多分話したぞ。多分な。後はゲンヤの仕事だ」

「……ああ。戦闘機人の歴史と、ウチの女房……クイントについてだ。知ってる部分もあるだろうが──」

 

 シオンが話を投げ捨て、ゲンヤさんがそれを拾う。

 そこから、戦闘機人なる技術の歴史とクイントなる陸戦魔導師のことが語られた。


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