白色の薔薇   作:なやな

6 / 8
無理やり共学設定を活用していくスタイル


第6話

燐子の加入によってバンドは更に軌道に乗った。やるべき事は多く時間は幾らあっても足りないのだが、忌まわしくも学生である以上学校という時間は存在してしまうのだ。

元から私生活がそれほど優等生ではない章浩だが、バンドに意識の殆どを占有された今は授業や行事にも全く身が入っていなかった。

 

午前の授業が終わった昼休み、章浩は何をするわけでもなく机に突っ伏しながら惰眠を貪る。しかも先程の授業から継続して、だ。

厳しくない教師の授業は貴重な睡眠時間だと、章浩は心の底からそう断じていた。

 

そんな章浩に、声をかける人物が2人。

 

 

「ちょっと〜また寝てるの?なんかこっちに来る度こんな感じじゃない?」

「彼は授業中も寝てるわよ。面倒な先生は避けているようだけど」

 

 

すっかり眠りこけた章浩へと近づいてきたのはバンド仲間である湊友希那と、彼女の幼馴染である今井リサだった。隣のクラスから章浩と友希那のクラスへと移動してきたリサは、机の上でピクリともしないまま眠りの世界にいる章浩を見て呆れたように呟く。

 

 

「ほら、起きなって章浩。女の子2人が一緒にお昼ご飯を誘いに来てくれたんだぞ〜☆」

 

 

やがて見かねたリサが章浩の肩を揺さぶり起こしにかかる。

「う"……」と小さく呻き声を上げながら、章浩は何とか意識を覚醒させる事に成功した。

 

 

「………あ"ーークソ(ねみ)い。てかなんだ、もう昼休みなのか?」

「とっくにね」

「だらしないなあ。ほら、早くお弁当広げちゃお?昼休みなくなっちゃうし」

「そうだな……あーやべー眠気で頭が死んでるわ。飯食ってる最中に寝るかも」

「いや、流石にそれはないでしょ……」

 

 

大きな欠伸を憚ることなく吐き出し、寝ぼけた頭を稼働させながら、章浩はノソノソと昼飯の支度をし始める。

 

友希那とバンドを結成し始めの頃から、章浩はこの2人と過ごす機会が少しずつ増えていた。もっとも、こうして偶に昼食を食べたり、休み時間に立ち話をする程度の付き合いではあるが。

バンドメンバーである友希那はともかくとしても、リサとは以前よりの知り合いでもなければ同じクラスでもない。こうして接点ができたのは、リサが友希那の幼馴染であり、何かと友希那と行動を共にしている事が多いためだった。

 

 

「友希那。今日もバンドの練習あるんでしょ?はい、クッキー。今回は和風にきな粉を混ぜ込んでみた自信作だよー。章浩や他の人の分も作ってあるから渡してあげてね」

「……リサ。毎回の様にクッキーを作ってくる必要はないのよ。クッキー1つ作るのだって、手間と時間がかかるでしょう」

「んも〜。幼馴染同士なんだからそんな水臭い事言いっこなし!アタシは友希那のバンドを応援したくてやってるの。……あ、それとも迷惑だったりした……?」

「いえ、そんな事はないわ。リサの作るクッキーは美味しいから……」

「くれる以上は有難く貰うけど、無理はしないようにな。マジで気が向いた時だけでいいから」

 

 

こういうのは義務になってはいけない、と章浩は思っている。プレゼント―――それも友人間のものであるなら、それは純粋な好意や応援の意を含めたものでなければ送る方も送られる方も嬉しくないだろうし、意味がないだろう。

一見軽そうに思えるがその実、空気や雰囲気をよく読むリサならば余計なお世話であるかもしれなかったが、章浩は言葉にせずにはいられなかった。

 

 

「あはは、分かった。けど逆に言えば、心さえ込めてれば幾らでも皆を応援していいってことだよね?ならアタシ、遠慮なく応援しちゃうよー」

「そんな話じゃねーんだが……いや、これ以上はアレだな。野暮だな、うん」

「リサは昔から過保護というか、人が良すぎるというか……優しすぎるのよ、全く……」

「なに友希那、嬉しい事言ってくれるじゃ〜ん☆褒めても出るのはクッキーくらいだよ?」

 

 

悪戯っぽく微笑むリサに友希那は「あなたのそういうところ、本当に変わらないわね」と溜め息を吐きながらも、口の端を薄く釣り上げている。そしてそれを見たリサは、対照的に花のような笑顔を全面的に押し出していた。

幼馴染同士で発される特有の空間に少しばかり取り残された感がある章浩は黙々と弁当を平らげ始めていたが、やがて友希那が飲み物を買いに席を立つ。

 

場には章浩とリサが残される。

初めは、章浩とリサは友希那を介して関係を持った所謂『友人の友人』のような微妙な関係であった筈だが、コミュニケーション能力が人一倍強いリサはそんな隔たりというものを感じさせず、積極的に取っつきやすい話題を振ってきてくれる。

お世辞にも人付き合いが上手とは言えない友希那が信頼を寄せるわけだ、と章浩は納得していたのだが―――

 

 

「……その、章浩。ちょっと聞きたい事あるんだけど、いい?」

 

 

リサにしては珍しく、歯切れの悪い言い方だった。

タイミング的に、友希那の前では言い辛い事なのだろうか、と章浩は怪訝に思う。2人の間に隠し事や後ろ暗い事実があるとは少し考え辛かった。

 

 

「まあ、いいけど。何の事だ?」

「章浩はさ、友希那が何でバンドを組もうとしてたか知ってる?」

「バンドを組もうとした理由?」

 

 

完全に死角から突かれた質問に、章浩は言葉を詰まらせる。

『FUTURE WORLD FES.』が一瞬だけ頭を過ぎったが、アレは理由ではないだろう。あくまで目標として掲げているだけであり、到達点そのものではないなと考えを振り払う。少なくとも、友希那はそうは考えていないだろうと章浩は思っていた。

紗夜と共に、事あるごとに自分達は最高の音楽を作り上げるバンドだと口にする彼女の事だり自分が真に納得するモノを作り上げるまで、その歩みを止める事はあるまいだろうと。

 

 

「良い音楽を作るため、とかそんなトコじゃないか?ま、スタート時点そのものはそこまで深く考える必要はないと俺は思うけどな」

 

 

原点が誰かとバンドを組みたかったいう理由でも、ただ単に音楽が好きだからという理由でも、章浩としては別にそこまで気にかける事ではない。

大事なのはあくまで現在。

今、高い意識を持ってひたすらに自分達を高め合う事を考えてるのならば、章浩としてはそれで良い。

そんな気高く、確かな力量と精神性を携えた友希那に誘われたからこそ章浩は今バンドをやっているのだから。

 

そして章浩の返答に、リサは見てわかるほどに顔を気まずく歪めた。本当に、リサがここまで表情を崩すのは珍しい。少なくとも、章浩には前例がない事態だ。

 

 

「……なんだ。わざわざ聞いてきたくらいだし、何かあるのか?」

「あ……そのね、えっと――――――」

 

 

口を閉じたり開けたり、迷いと憂いを帯びたリサの瞳は宙を漂う。

煮え切らないその態度に、いよいよもって章浩がリサを問い詰めようとした時。

 

 

「戻ったわ」

 

 

一時的に場を離れていた友希那が戻る。

リサはハッとした顔を浮かべ、取り繕うように口を回し始めた。

 

 

「あっ……!ゴメン章浩、さっきの話はその……なかった事にして!」

「……………。わかった、ならそういう事にしておく」

「うん、ホントゴメン……。変なこと言って」

「……なに、2人とも何の話をしていたの?」

 

 

訝しげに眉根を寄せる友希那にリサは「何でもない」と苦笑いを浮かべ誤魔化し、章浩は露骨に目を背ける。

 

その日はそれ以降どうにもぎこちない空気が流れ始め、あまり居心地のよくない昼休みとなってしまった。リサも平常な雰囲気にしようと出来る限り場を明るくしようとしていたが、一度こびり付いた不自然さは拭えない。

特に――――――章浩の頭の中には、質問の意図を図りかねたリサの言葉が、ずっと頭に残り続けていた。

 

 

 

 

 

 

結局、あの日の会話は章浩の胸に秘められたまま、バンドにとって初のライブの日が訪れてしまった。

友希那本人に聞いてみるべきか、否か。章浩は迷ったが、最終的にはリサの言葉通り口を噤んだ。あのリサが珍しく口籠っていたし、恐らく友希那にとっては軽々しく踏み込んではいけない話なのだろうという予測もある。

悩み事を打ち明けられる程に親しい関係を友希那と築けたとは、章浩は思っていない。

 

ライブ開始数十分前の楽屋。

あこと燐子はまだ来ていないが、残りの3人はバンド名についての話し合いをしていた。

 

 

「―――バンドの名前はRoseliaに決めたわ。由来は、薔薇のRoseと椿のCameliaから。これでいい?」

「いいんじゃないか。なんかオシャレで格好良いし」

「……もっと気の利いたコメントはなかったのかしら。使っている言葉が完全にあこそのものよ」

「いや、語彙力が死んでるだけで普通に良いとは思ってるから……。バンド名の発案は任せたけど、賛成か反対かの意見くらいはちゃんと出すさ。真面目に俺はそれでいいと思う」

「私もバンド名はそれで構いませんが、何故薔薇と椿なんですか?」

「私の中のイメージ……というのが1つ。それと、薔薇は色によって花言葉が変化するけれど、中でも青い薔薇は『不可能を成し遂げるという』を持つの。―――誰にも負けない最高の音楽を作るというのは、現状の私達ではまだまだ遠い目標。それこそ不可能と断じれるレベルで。だからこそこんな名前にした……まあ、つまりは願掛けのようなものよ」

「不可能を成し遂げる……ですか、成程。名前に恥じぬ演奏ができるように、気を引き締めろという事ですね」

 

 

『何となくオシャレだなー』と小学生並みの感想しか出てこなかった章浩の考えとは裏腹に、名付け親の友希那は様々な思いを込めてRoseliaという名前を形作っていた。

自分の思考の雑さに少し、章浩は内心で恥じる。

 

暫く時間が経てば、あこと燐子も集合時間ギリギリで控え室にて揃う。

燐子は今にも緊張で押し潰されそうになっていたが、あこは章浩の予想通り、Roseliaというネーミングに対しカッコイイカッコイイとはしゃぎ、謎の二つ名を引っ付けた自己紹介まで考え始めている。つくづく、対照的な2人だ。

 

そして章浩はと言えば、緊張という感情の揺らぎは皆無に等しい。

というのも、"客の前で演奏する"という感覚が余りにも鈍い為だ。

観客が居ようと居まいと、いつもとする事は変わらない。パフォーマンスに重きを置くバンドならまた別なのかもしれないが、Roseliaは違う。

バンド以外の面々を気にする必要はなく、乗り越えるべき敵や障害はない。そう考えると、大して緊張する道理はないなと章浩は勝手に自己完結していた。

 

 

(それに失敗する気はないし、失敗して良いとも思ってないが……まだ、初ライブに過ぎない。実力はもう全員が認め合ってる。多少失敗なんて、恐れる必要はない)

 

 

―――なんて、この期に及んでそんな事を考えているのは、弱気になっている証拠なのかもしれないが。

章浩は他の面々を見回す。

椅子に座りながら瞑目する友希那。ギターを抱えながらスコアを確認する紗夜。表情に何時もの1.5倍増しで影が差している燐子と、それを元気付けるあこ。

 

その光景を目にした章浩が、安堵感に似たものを覚えた瞬間。本番開始を告げるスタッフの呼び出しが、控え室の外から響いたのだった。

 

 

 

 

 

 

ライブ、というものはもっと特別なものだと、章浩は思っていた。緊張していないとは言いつつも、バンドの晴れ舞台であり本番であるライブ。

いざ壇上に立てば意識が変わることもあるかもしれない。得も言えぬ達成感があるかもしれない。

と、少なくともライブが終わるその時まではそう考えていたのだが――――――

 

 

「すっごかったね〜。ライブハウス出たらキャーって!初めてのライブでもうファンができちゃったっ」

「うん……きっと……私たちのライブ、見てたんだね……」

 

 

ライブ帰り。夜の道に響く快活なあこの声も、章浩にはどこか朧げに聞こえていた。

 

章浩は夜の頂点に浮かぶ月を見る。

今回のライブに対し自分や他のメンバーに不満がある訳ではなかったが、演奏をやり切った後に最初に感じたのは『まだ上を目指せるし、目指さなければならない』という義務感のような何かだった。達成感や喜びというものがない訳ではなかったが、この感情の前には隠れてしまう。

そしてそう思っていたのは章浩だけではないようで、紗夜が厳しげな表情で口を開いた。

 

 

「今回のライブ、目立ったミスは有りませんでしたが……やはりまだまだ詰めが甘い印象を受けました。……練習を更に増やさなければいけませんね」

「え、そうですか?あこ、結構よく出来たと思いましたけど……」

「……私も紗夜と同意見ね。今回のライブは成功と断じて差し支えはないけれど、このバンドはまだ突き詰められる。そう思わずにはいられなかった」

「練習中は『これが現状のベスト』って段階まで完成させたつもりだったんだがな。まあ次が見えたって事で意味がないライブじゃなかったと思う」

 

 

いや―――或いは本当に、今できる最高の演奏ができたから()()次の段階(ステージ)が見えたのだろうか。そうであるならば、もっと素直に喜ぶこともできるのだが。

 

 

「みんな凄いなーーっ……あこ、(ちょー)カッコイイ演奏が出来た!って喜んでばっかりだったのに」

「みんな……凄い人達だから……その分、求めるレベルも高いんだと思うよ。あこちゃん」

「ま、上手く演奏出来たって感想も間違いじゃない。湊や氷川だって手応えを感じなかった訳じゃないだろ?」

「それは―――否定はしませんが、まだまだ練習が必要だと痛感したのもまた事実で……」

「あっ、じゃあこれから打ち上げに行きませんか!?初ライブ達成記念って事で!」

「打ち上げ………」

 

 

別に仲が悪い訳ではないが、この5人で打ち上げをするというのは過去の雰囲気からすれば少々考え辛いものだった。

 

 

「バンドに必要なのは技術と目標への揺るがない精神だけだわ。馴れ合いは……」

「飯食うくらい馴れ合いでも何でもないだろ。別にいいんじゃねーか?もう時間も遅いしな」

「「……………」」

 

 

 

 

 

 

暫く時間が経った後、結局5人はファミレスの中で同じ卓を囲んでいた。

紗夜と友希那は普段こういう店に来ないせいなのか、普通の高校生では持ち得ていないであろう謎の不信感を募らせているが、他の3人は何を頼むかメニューを開き悩んでいる。

 

 

「うーん、何頼もうかなあ〜〜……りんりんは何にしたの?」

「わたしは……ライブでお腹が空いたから、スパゲッティ、を……」

「俺はオムライスにでもするかな……ていうか、そこの2人はいつまでファミレスに警戒してんだ。問題があるなら店なんてだせねーから」

「それもそう……なのかしら。……なら、ハンバーグを頼むわ」

「……湊さんが注文するなら……。では、私はこのポテトを……」

 

 

遂に折れた友希那と紗夜が注文を決める。

料理が届くまではライブの反省会をしたり、明日以降の練習メニューをどうするか話し合っていたが―――やがて、友希那は燐子とあこには伝えていなかったRoseliaの現段階の目標、つまり『FUTURE WORLD FES.』の事を打ち明けた。

 

 

「『FUTUER WORLD FES.』の出場権を掴むために、次のコンテストで上位3位に入ること。―――まだ、このバンドにはそれに足る実力があるとは言えない。だから、極限までレベルを上げるわよ」

「ふゅーちゃー―――」

「わーるど……ふぇす……」

「あこ、燐子。……それに古賀君と紗夜の2人も。あなた達、Roseliaに全てを賭ける覚悟はある?」

 

 

 

 

自分達に向けられた真剣な眼差し。

気迫の込められた覚悟の確認。

やはり、湊友希那という人間は尊敬に値する―――章浩は改めてそう感じた。

リサのあの日の言動の不審さ。そこから来る不信感など、飛んでしまうくらいに。

 

 

 

 




バンド名も変えようかと思ったけど良い案が全く思い浮かばなかったのでRoseliaにします
後々になって良い名前が浮かんできたら変更するかもしれません(作者の屑)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。