俺はまた家事の合間に森に散歩に出かけていた。
誰にもいえない事だが、昨日の散歩はとても良かった。
最初は剣さえ向けられたが、最終的には和解して雑談まで出来たのだ。
流石にもう会う事は無いだろうが、それでも少しは期待をしてしまう。
「~~♪」
昨日の事を思い出し上機嫌に鼻歌を歌って歩いていると俺は信じられない事が起きた。
「あら、先日はどうも」
イデアが居た。
「………」
俺は口をあけて数秒動けなかった。
「どうしたんですか? まるで信じられないようなものを見ているような顔をしてますよ?」
「そりゃ、そうでしょ……だって二度と会う事は無いって思ってたんだから……」
「毎日戦場に行ってる訳じゃないわ。私ってそんな風に見られてるのかしら?」
確かに昨日の鎧甲冑姿ではなく、普通の服だ。
「それに、此処は戦場ではなく、ただの森なのでしょう? ならそれで良いじゃないですか」
どうやらうまく丸め込まれた様な気がする。
「そうだな……こっちも城下町でさえ重苦しい空気だし、こういう息抜きだって必要だよな……」
戦争なんて早く終わってしまえば良い。
そうすれば気兼ねなく彼女と話が出来るのに……
「今日もお散歩ですか?」
「あぁ、イデアさんの方は?」
「同じ様な物ですね」
「また面倒な事を押し付けられたんですか?」
どうやら当たったらしく、イデアは少し拗ねた顔をしていた。
「族長は私が戦場に出る事を望んでいないのです。こう見えて私はとても強いですから」
「そんなに強いのに、毒に引っかかったの?」
「………まぁ、それは置いておいて」
話を逸らされた。
「私は早く戦争を終わらせたいのです。もう戦争が始まって3年も経っています。これでは双方とも被害が大きくなるばかりです」
「エルフは全体数は少ないけど、個々の能力が高い。人間は能力は低いけど数は圧倒的に多いからな……」
「人間も家族が大切ではないのですか? 私の周りでは家族の死を嘆いているものがとても多いです」
「人間も同じだよ。少し前に近所の同い年位の奴が死んで母親が名前を呼んで泣き叫んでた……」
「亡くなる人数が多い人間の方が被害はとても大きいです。それなのに何故戦争を続けるのでしょうか?」
俺は言うか言うまいか迷った。
多分、今から言う話はエルフには理解出来ないからだ。
けれど、それでもイデアには話したいと思ってしまった。
人間の業と欲望を……
「金さ」
「え……?」
「みんな金が欲しいのさ。王宮が国民から志願兵を募集してる。戦果を挙げたもの者には多大な報酬を与えるってさ……」
「お金…? お金の為に家族を危険に晒しているのですか……?」
「少し違うかな。国民なんてどう頑張っても王宮の兵士に勝てるわけが無い。ならなぜ募集すると思う?」
「後方支援……ですか?」
「半分正解、半分外れ」
まぁ、話しちゃってもいいか。
「志願兵になると最初に最前線に送り込まれる。大軍と見せかけるために」
「なっ……!」
この反応を見ると、見せかけの大軍に騙された事があるみたいだな。
「数の暴力なんて言葉があるけど、本当にその通りだよ。安全地帯から弓を引かせたり、大砲を使わせたりする。これなら技術が無くても募集する意味があるし参加者も多い。数打ちゃ当たるって奴さ」
「では……本当に最前線で戦っているは国民ではないのですね……?」
「国民だよ。その国に所属してるって意味ではね。けど、中には本当に志願兵のみでエルフと戦っている部隊もある」
「そんな……滅茶苦茶な……」
「最前線の次の戦場さ。本格的な訓練を受けていない奴が最前線で有頂天になって自分だって強いんだと勘違いして戦場に向かう。結果なんて見なくても分かる」
「………」
「志願兵の大軍を陽動にして、本隊で敵陣を叩いた事もあった」
「国民は……その事を知らないのですか?」
「みんな有能な自分がそんな陽動作戦に参加させられるわけが無いって思ってるのさ」
「………狂ってる」
そう口にした後、失言だと気が付きイデアは慌てて口を手で押さえた。
「その通りさ。狂ってる。俺の家族も……国そのものが狂ってる」
「だから貴方は散歩に来るのですね」
「そうなのかも知れない……」
あーあ、完全にこっちの戦略バラしちゃったよ……
この事が誰かに知れたら間違いなく処刑されるな。
「貴方は、賢いのですね」
「違うさ。俺は中途半端なんだ。剣術も魔術も、どちらも中途半端な俺は志願兵になる資格がない。家事でもやってろって言われてるんだ」
イデアは少し考えているようだったが、直ぐに顔を上げて俺に聞いていた。
「強く……なりたいですか?」
「……分からない。俺も最初は強くなろうと思って練習してた。けど、今強くなっても俺には何も出来ない」
「そんな事はありません」
イデアははっきりと言い切った。
「強さは必要です。優しく接するのにも強さが必要なのです。立って下さい」
イデアに言われるがまま立ち上がると、彼女は俺の背後に回りこんできた。
「えっ!? ちょっと!?」
「いいから……膝を曲げて、視線はこっち……この体勢からなら盾と剣を持っていれば相手は攻め難い姿勢になります。何かに敵対したときにこの構えをするだけで何もしないより敵は警戒をします。それで時間を稼ぐことも出来るでしょう」
構えをしている俺には良く分からないが、イデアは実際に戦場に行っている。
おそらく本当の事なのだろう。
「そして、この構えはエルフ特有の構え方でもあります。エルフと友好関係にある動物や魔物はこの構えを見るとその場から去っていくでしょう」
「え……それじゃあ……」
「この森でその構えを取れば、襲われる事は殆ど無くなるでしょう。この森はエルフと深い関わりがありますから……」
この森でも魔物は出る。
襲われた事だってある。
その時は何とか逃げる事が出来たけど、危なかった事は間違いない。
「此処は貴方の戦場ですからね。ほら、強くなる事に意味はあるでしょう?」
「はは……本当だ。でも、良かったの? エルフ特有の構えなんでしょ?」
「貴方こそ、自軍の戦略を話してしまうなんて、知られたらとんでもない事になりますよ?」
「ぷ………あははは!」
「ふ、クスクス…!」
気が付けば2人で笑っていた。
だからこそ、気が付けなかった。
「動くな、人間」
俺の首には刃が添えられていた。