あの日以降、毎日森に散歩に来ているが、ソーマさんを見る事がなくなった。
私は精霊と契約をしている。
風の精霊を力を使えば森中の気配を探ることだってできるが、1人に会うためだけに精霊の力を借りる事は少し気が引ける。
だから私は森を歩いている。
「何時もなら、この辺を歩いているのに」
彼は戦争には参加していないと言っていた。
戦場で出会う事はないだろう。
私も彼に助けて貰って以降戦場に出なくなった。
彼の持ってきた情報により、エルフの劣勢はほぼ消えた。
大軍の中に隠れている本当の兵士のみを見つけ出し倒せば志願兵たちは一目散に逃げていくからである。
これで必要以上に血が流れる事が無くなった。
全て彼のお陰だ。
それに、彼の話は聞いていて非常に興味を引かれる話ばかりだ。
最初に出会ったときは家族の話。
次に出会ったときは戦争に対する自分の気持ち。
その気持ちは自分と似ていた。
「ソーマさんも早く戦争が終わって欲しいと思っている」
次会ったらどんな事を話そう。
そして彼はどんな事を話してくれるのだろう。
戦争中に見つけた楽しい一時。
そんな事を考えていた私は油断していた。
「っ!」
間一髪、風が危険を教えてくれたお陰で私はその攻撃を避ける事が出来た。
すぐさま気を引き締めて、周りの気配を探る。
……既に逃げ道は全て塞がれていた。
「貴様に逃げ道は無い。抵抗しなければ俺達からは危害を加える気は無い」
数は10人程全員軽装備で来ている事から、恐らく私が1人で此処に居る事を知ってきているのだろう。
そうなると近くに罠が仕掛けてある可能性もある。
この数なら倒せる……が、
此処は大切な場所。
戦争を忘れさせてくれる場所。
そんな場所を血で染めたくは無い。
彼と再び出会った時、彼は知らなくとも私は意識してしまう。
「……要求は?」
「王宮に来てもらおう。その後の判断は上に任せる」
「………分かりました」
こうして私は捕虜として王宮に連れて行かれた。
自分の所属と、自分が何者であるかを明かすと、直ぐに捕虜の居る牢屋へと入れられた。
其処には既に5人のエルフが捕まっていた。
全員手錠と足枷を付けられている。
見た所、思ったよりは衰弱はしていないようだ。
「そんな……イデア様……」
「馬鹿な、イデア様が捕まるなんて……」
「これでは……戦争に負けてしまう」
捕らえられているエルフの言葉に胸が痛んだ。
私は自分の意志で捕虜になった。
しかし、それは同胞の事を考えていない。
浅はかな考えだったと牢屋に入ってから気が付いた。