ハンター。
人や村を襲うモンスターを狩る専門家。
他にもモンスターが跋扈するフィールドにあるキノコや鉱石の採取、研究のためにモンスターの捕獲と仕事の種類は3つぐらい。だが、ハンターズギルドのクエストは膨大だ。
G級にもなったことがある自分はいつもどおり、クエストを受注しターゲットのリオレウス、リオレイアの夫婦を討伐しに行った。ソロで余裕とはいかないが、何度も倒してきた相手である。
ただ、崖付近で戦う事になってしまい、リオレウス、リオレイアも合流。火球ブレスが飛び交って地面が傾き、爆風で背中を押されて転落してしまう。
この程度スリンガーを使って崖に引っ掛け落下を防ぐ事ができる。
慣れた動作で、スリンガーを射出して崖に鉤爪を引っ掛けようとした。
が、引っ掛けようとしたら、リオレウスが起こす風圧の影響を受けてうまく引っ掛からなかった。
まぁ、地面に叩きつけられても、最悪死にはしない。(めっちゃ痛いが)
落下の衝撃に覚悟した。
しかし、思っていたよりも衝撃が少ない。
ラッキーと思ってすぐに立ち上がって、リオ夫妻が追撃してくるかと太刀を構え警戒する。
「?」
だが、周りに崖がない。
戦っていたフィールドには全く心当たりない、牧場にハンターは戸惑う。
牛や羊がいる囲いの中、困惑するハンター。
どう考えても、先程まで戦っていたフィールドではない。
辺りを見渡していると、その中に牛飼娘を見つける。
牛飼娘に声をかけてみることにする。
「あの、ここは何処? リオ夫妻は?」
「は、はい?」
突然の質問に彼女も困っているようだ。
「えっと、冒険者さんですか?」
「いや、ハンターだ」
彼女が言う冒険者が何となく分かるが、自分はハンターだ。
「ハンター……。よく分からないけど、この道を進んで行けば辺境の街に行けるけど」
「辺境の街……? そんな地名あったか?」
ハンターはあらゆる所で狩りを行ってきたが、身に覚えのない名称だった。
首を傾げていると一人の男がこちらに来た。
フルフェイス兜を被った小汚い戦士といえば分かりやすい。
「ゴブリンか」
「ゴブ……?」
ゴブリン。初めて聞く単語である。思わず首を傾げるハンター。
「この人はゴブリンじゃないよ。迷子のハンターさんみたい」
「そうか」
牛飼娘の言っていることが、最も適切だと思うハンター。
そして、クエストは失敗だろう。
狩場から退却しているのだから。
ため息を吐いて、これからどうするか考えてみるが、どうすればいいか見当もつかない。
「あ、そうだ。ハンターさんを街まで届けて上げよう? 困っているみたいだし」
ハンターの様子を見てだろう。牛飼娘が男に声を掛ける。
「そうなのか?」
「まぁ………。はい」
返事をすると「付いてこい」と言って歩き出す男。
フルフェイス兜を被っているので表情がわからない。だが、怒っていないとハンターは感じ、後を付いていく。
辺境の街に着きある建物、冒険者ギルドに入っていく二人。
入った瞬間に、こちらを見て顔をしかめるのが何人かいる。
「げっ、ゴブリンスレイヤー」
彼の渾名はゴブリンスレイヤーらしい。
ハンターもドラゴンスレイヤー、モンスターハンターと呼ばれたこともあるから、ゴブリンを殺す人なのだろう。
「ゴブ……、いや、迷子だ」
「はい?」
受付嬢が首を傾げた。
ゴブリンスレイヤーは少し隣に退いた。どうやら、後は自分で話せということらしい。
できるだけ簡潔に事情を話すハンター。
「つまり、クエスト中に転落したら、この地方にいつの間にか居た。ということでしょうか」
「はい」
疑わしい目をされたので、とりあえず自身のギルドカードを提示する。
これでハンターの身元ぐらいは理解できると思った。
「申し訳ございません。冒険者ギルドの認識票ではないですし、私はこのカードを見たことがありません」
頭を下げる受付嬢。
どうやらここの地方では、ハンターは存在が認知されていないようだ。
仕方がないと諦めたハンター。
ともかく、お金を稼がなければならない。
「腕っぷしで冒険者になれるか?」
「冒険者登録でしたらいつでも、当ギルドはおこなっています。登録なさいますか?」
「はい」
「文字の読み書きはできますか?」
「……用紙を見せてくれ」
提示された紙の欄には、自分の知っている文字はない。
「……読めません」
「でしたら代筆いたします。読み上げるので答えてくださいね」
「はい」
受付嬢は性別や年齢、職業と聞いてきたので答えていく。
「これが冒険者ギルドでの身分証となります。冒険の最中になにかあった時に身分を照合するのにも使いますから、なくさないように」
彼女が手渡してきたのは、白磁でできた札。
つまり、これがここでのギルドカードなのだろう。
新しい大陸で狩りをする場合、鍛え抜いた武具は移動のために持ってはいけない決まりがある。
そして、ギルドカードの初期化がある。
これは、武具を運送する手間を省くため。長期間移動するから大量の装備は邪魔にしかならない。仮に装備を運んでいる最中、モンスターに襲われれば積荷は捨てて逃亡するしかないのだ。そうしなければ、モンスターの餌になってしまう。
また、その土地での狩りに慣れていないため、新人として学ばせるという意味があるらしい。新モンスターは特異な能力を持っていることが多く、また狩り慣れたモンスターであっても行動が以前と違ったりする。
なので、モンスターの生態を学ばせるために一からやり直させられる。
「……
「えっと、引退した冒険者の方や同じパーティの方に師事したい、ということでしょうか?」
「流石に予備知識無しは討伐も採取もきつい」
ハンターは様々な知識も武器にする。
モンスターの生態、調合、戦略。
決して脳筋で……どうにかなってしまう場合もある。
だが、ハンターはトラウマを忘れていない。
採取クエストでティガレックスが乱入してきたことを。
ハンターは失敗を忘れていない。
同じクック先生と思って、狂化した彼に殺されかけたことを。
そもそも、予備知識なしで戦うということは死亡率を高めてしまう。
火球ブレスなら火属性に優れた防具を身に纏って戦えば、安定感は生まれる。
水属性が弱点なら、水属性の武器を使い戦闘時間も短縮できる。
なので、未知のモンスターと戦う際はかなり際どいものになってしまう。
ゼノ・ジーヴァのときも最大まで持った回復グレートが底をつきてしまった。
ハンターは一部の極まった者がするような、
狩りに出る際は、ポーチに入る多種多様なアイテムの選定。
武器、防具の強化。
食事での腹ごしらえ。
これらをすることでクエストの成功率は格段に上がる、逆なら確実に下がるので事前準備は怠れない。
まぁ、いくら準備してもダメなものはダメだったりするが。
「でしたら……、ゴブリンスレイヤーさんと組んでみませんか」
「ぬ?」
「ん?」
「ゴブリンスレイヤーさんほど、ゴブリンについて詳しい人もないですから。今日もゴブリンですよね?」
「ああ」
どうやらゴブリンスレイヤーはギルドの職員に信頼されている。なら、ゴブリンについて教えてもらうのはありがたい。
「俺はそのクエストに付いていっても大丈夫か?」
「ふむ……。武器は背負っている野太刀か?」
「そうだけど」
「洞窟で取り扱うには大きすぎる、腰のナイフの方がいい」
どうやらゴブリンは洞窟に潜んでいるようで、確かに閉鎖空間で太刀は振りにくい。
そうでなくても、横薙ぎで周りの仲間に当たらないように留意する必要があるのが、ハンターの心構えだ。
剥ぎ取りナイフはモンスターの鱗や爪を剥ぎ取るのが主な使用方法。
攻撃に転用できないことはない。
ハンターもこれまでモンスターに乗ったとき、動く不安定な足場で、モンスターの背中を剥ぎ取りナイフで攻撃して怯ませ、転倒させてきた。
だが、あくまで使いやすい便利道具であり、武器ではない。
「ごめん、これを武器として扱うのは不安なんだ。できれば装備を整え――」
――たい。と、続けたかった。
だが、今のハンターにマイホームもアイテムボックスもない。
収納していた武具は使えず、使用できる武器は背負った太刀のみ。防具の切り替えもできない。スリンガーの投射では威力が低い。
やはり、新エリアでの装備を引き継げないというデメリットはデカイと思った。
そうなると、片手剣と盾を自腹で買わなければならない。
「――武具屋を紹介してください」
「分かった」
次にポーチの中を調べてみる。持っているのは、回復薬、回復薬グレート、解毒薬、秘薬、携帯食料、双眼鏡、隠れ身の装衣、達人の煙筒、閃光弾、シビレ罠(現地調合用の閃光虫、トラップツール、電光虫)、捕獲用麻酔玉、力・守の爪、力・守の護符。後はリオ夫妻の落とし物の上位鱗。
クエストの最中に消費したので、数はまちまちだが、量は足りているだろうか。
ゴブリンスレイヤーに確認してもらう。
「持ちすぎだ。毒消しを10個も使うような事態になる前に、普通は死んでいる。回復類のアイテムは3つもあれば十分だ」
リオ夫妻を相手するのに多く持ってきたが、ゴブリン相手だとポーチの圧迫にしかならないのだろう。アイテムを少なくするのはいいが、取り出したアイテムは何処に置いておこうか。
力・守の爪、力・守の護符以外は盗まれてもあまり懐は傷まないが、盗まれると腹立たしい。
「余ったのはどうすればいい?」
「ギルドで引き取ってもらえ」
「できるの?」
「はい、ただ初めて見るものなので、鑑定にお時間を取らせていただきます」
「ついでに鱗も引き取ってほしい」
「わかった」
受付嬢にポーチのものを渡す。幾らになるのか分からないし、店での売却額を考えるとあまりいい結果にはならないだろう。ただ、ないよりはマシだ。
「今のうちにゴブリンについて教えてほしい」
アイテムの鑑定のために時間ができたので、そのうちにモンスターの情報を少しでも得ておく。
「基本的にゴブリンは子供程度の背丈と知能だ。だが、数が多い上に馬鹿ではあるが間抜けではない。毒を塗った武器を使い、数で袋叩きにする、横穴を使って挟み撃ちにするといったことをしてくる」
「ランポスみたいに群れで狩りをしているってことか?」
「ランポスは知らんが、群れというより集団。狩りより鬱憤晴らしだ。奴らに仲間意識などない。平気で同士討ちする」
「集団って言うと基本的にはどのくらいの規模なんだ? 10~20?」
「巣の規模にもよるが、小規模ならそのぐらいが多い。ただ、上位種ゴブリンシャーマンや渡りのホブゴブリンなどが居た場合、ただの集団よりも脅威になる。シャーマンの呪文、罠、ホブの巨体」
「呪文?」
聞き慣れない言葉に首を傾げるハンター。
「詠唱することで様々な攻撃をしてくる。詠唱が完成すると炎や雷が飛んで来る。石でも投げ当てて阻害しろ」
「分かった。スリンガーに何かセットしておく」
「スリンガー? 左手のそれか」
「ああ、閃光弾を使ったり崖を登るときに使う。石ころ・投げナイフなども飛ばせる簡易的な弩だ。一応、整備しておいていいか」
「好きにしろ」
スリンガーを外しテーブルに乗せる。分解して調べる。
結果は問題なし。
整備を終えると同時に受付嬢が鑑定できたと声をかけてくる。
「こちらが売却額になります」
「……こんなに?」
一袋の中に入っていた金貨は想定より多い。その中に、リオ夫妻の鱗がある。
「ポーションは珍しいものでしたから。ただ、鱗はよく分からないものなので、引取できません」
「わかった。これで片手剣と盾は買えるか?」
「十分だ。ついでにゴブリン退治を頼む」
「はい」
白磁等級で受けられる討伐クエスト。
ゴブリンの討伐を受けた彼ら。
次は武具の調達だ。
武器屋についたハンターとゴブリンスレイヤー。
ハンターナイフに似た片手剣と盾を買う。
「他に必要なものってあるか?」
「ランタンよりも松明が便利だ。武器として殴れる」
「一応、松明とランタン売ってるか?」
洞窟という薄暗い場所で戦うのだ。光源はたくさんあった方がいい。
この店の頑固そうなドワーフの鍛冶職人に聞いてみる。
「武器屋で買うもんじゃねぇが、あるぞ。それと冒険者セットも買ってけ」
「冒険者セット?」
「ロープやマッチ箱、小型のナイフ。ともかく冒険に必要そうなもんだ」
「じゃあ、それも」
ランタンは導虫を入れている小さな虫籠の反対側に装着しておく。
買った片手剣は腰に、盾は右手に、太刀は置き場がないのでそのまま背中に装備。
ハンターの常識として武器は2種類も装備できないが、片手剣と太刀はかさ張らないのでなんとか装備できた。まぁ、今回太刀は使わないだろうが。
冒険者セットはポーチの中に入れておく。
アイテムは揃えた。
武器も適切にした。
クエストも受けた。
「ごめん。時間をかけた」
「いい。今回は急ぎではないからな」
「じゃあ、一狩り行こうぜ」
「ああ、ゴブリンは皆殺しだ」
ハンターとゴブリンスレイヤーはゴブリン共の巣へ向かった。
一応、ハンターの装備はリオソウルシリーズb、装飾に達人、防風を装備。
御守は匠3。
太刀は天上天下無双刀。装飾は防音。
嫌な方は他の装備、また自分の装備で。
というか、既に太刀と片手剣の同時装備……。
とりあえず、回避能力・距離マイナス、太刀は片手剣・盾を外さない限り使用不可にしておきます。
女魔術師、女魔法使い どっちがいい?
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女魔術師
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女魔法使い