ゴブリンスレイヤーとモンスターハンター   作:中二ばっか

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1-12 黒龍討伐2

 黒龍は四足歩行に移り、ハンターへと這いずる。

 ハンターは一度、太刀を背負い直し、全力で横へと逃げ出す。

 それはただの移動と思うかもしれない。

 その巨体が迫りくることから、攻撃範囲、威力ともに非常に危険だ。多くのハンターを屠ってきた、紛れもない猛撃である。

  黒龍が通過するタイミングを、見計らい反転。

 太刀を振り、腹へと攻撃を加える。太刀は薄白い鱗を切り裂き、龍の血を流させるが、かすり傷程度の出血だ。例え竜の鱗を斬れたとしても、その下の筋肉は固い。

 何度も攻撃を加えるが、その程度しか痛撃(ダメージ)にならない。

 

 大抵のモンスターの弱点は頭。

 ミラボレアスの弱点も頭であるのだが、立ち上がると太刀では届かない。立ち上がったときに露出する、黒鱗に覆われていない腹を斬っていくしかない。

 

 だが、そこは回避し辛い位置だ。

 ミラボレアスの巨体がハンターを押しつぶそうと前方に倒れ込む。

 圧倒的な質量。このままならば、黒龍の腹に潰されて、地面の赤いシミとなる。

 鋭い鱗がびっしりと敷き詰められた一面の壁が、眼の前に迫り来る中、ハンターは小さく息を吐いてタイミングを計った。

 鋭い鱗の先がハンターに触れる直前、ハンターは身を後方へ一回転翻しミラボレアスの巨体から逃れる。

 そして、お返しとばかりに大きく踏み込んで斬り払う。

 黒鱗さえも切り裂く一撃。

 大きく開かれた黒龍の傷口。

 先程までの薄皮を引っ掻いたような傷ではなく、血が弾け、流れ出した。

 傷口に向けて立て続けに、大回転気刃斬りを行い、一瞬にして切り裂いた。

 思いっきり切り裂くために全力で振るった一太刀。その勢いを殺しつつ体を一回転しながら、太刀を納刀して背負う。

 

 太刀の刃に気が付与され、さらに切れ味が増した。

 状況としては有利になっただろう。

 だが、有利になったと言っても微々たるものだ。

 そして、油断は許されない。

 

 ミラボレアスはハンターの攻撃に対して、何も気にしていない。

 この程度、怯むほどの痛撃(ダメージ)でもない。

 だが、斬られたところには、些細ではあるが違和感がある。

 そして、自身を傷つけたことに対しての歯がゆさがある。

 歯がゆさをなくすために、黒龍が口から焔を吐く。

 吐き出された炎の渦は、ハンターの視界を塞ぐほど。

 咄嗟に地面を転がり、立ち上がったらすぐにまた転がって、何度も転がり炎から逃れようとするハンター。

 なんとか、炎の渦から逃れる。

 だが、確かに避けているはずなのに炎の熱は鎧越しでも感じるほどに熱く、死を感じさせた。流れた汗はすぐに炎の熱で乾いてしまい、体が熱い。

 しかし、クーラードリンクはない。あったとしても、飲んでいる暇などなかった。

 

 黒龍の爪がハンターへと迫る。

 ハンターは大きく飛び込んで地面へと倒れ込んで、躱す。

 薙ぎ払われた爪は、ハンターの顔ギリギリのところを通過し、事なきを得る。

 もし、当たっていれば首が跳んでいたかもしれない。そのようなイメージができるほどに、その爪は鋭い。

 立ち上がったハンターは、ミラボレアスの首下へと潜り込みながら、縦に刃を振る。頭には届かないが、腹を切り裂く。先程よりは出血が多いが微妙な変化でしかない。

 

 相手の攻撃を避けては、斬りつける。

 攻撃回数はハンターのほうが多い。

 だが、龍には一太刀程度、かすり傷。

 そして、龍の攻撃は、ハンターにとっては冗談にならない痛手になる。

 圧倒的にハンターに不利だ。

 だから、何だ。

 どんな状況だろうが、狩るのがハンターなのだ。

 

 放たれる超高熱の火球玉を避け、腹に一太刀。

 長い首で薙ぎ払うようにして吐き出された、爆炎の中をかい潜り、一撃。

 尾による薙ぎ払いを見切り、避けて、切り裂き、もう一度、大回転気刃斬りを加えて、太刀の切れ味を上げていく。

 

 少しづつではあるがハンターの攻撃は鋭くなり、与える傷が増え、深くなっていく。

 

 それの憤りを募られた黒龍はついに咆哮を上げ、口端から火が漏れ出す。

 ハンターはその咆哮さえも見切って躱し、咆哮を上げ続ける黒龍を切り裂く。

 ついに、最終段階まで己の太刀の切れ味を高めたハンター。

 そして、先程までは本気ではなかったというように、口内に膨大な熱を貯める黒龍。その熱は地面へと向けられ大爆発を起こし、辺りを灰燼へと化そうとする。

 

 なんとか、前方に飛び込んで、ブレスを回避するハンター。爆煙の中からゴロゴロと転がり、這い出る。

 カッコ良さなどない。

 ミラボレアスの攻撃は、一撃一撃が必殺だ。

 見てくれなど気にしていられない。

 本能、反射、経験、勘。

 ハンターが持てる全てを総動員し、黒龍の攻撃を躱し、太刀を振る。

 ただ、相手を狩ることだけに全神経を向けている。

 

 故に、周りがどうなっているかなど気にする余裕はなかった。

 

 

 

「くっ」

 身を起こす槍使い。

 彼は最初の黒龍の動作から嫌な予感を感じ、全力で後ろに飛んだ。その結果、爆風に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられゴロゴロと転がった。

 怪我の具合は爆風による叩きつけだけでも、意識が飛びそうになるほど。地面に頭を叩きつけられたのか、数秒意識が飛んでいた。

 彼はその程度で済んだ。

 彼より少し先には、爆発で四肢が吹き飛んだ死体が転がっている。アレの仲間入りをしなかったのは、自身の勘と運の良さだ。

 

 そして、その地獄の先では新人冒険者のはずのハンターが黒龍と戦っている。

 だが、ハンターと黒龍の戦いを見た槍使い。

 黒竜のブレスは全てを灰燼に変える。

 爪や尾の一撃は地を破壊する。

 顎に捕まれば死は免れない。

 ハンターはそれをギリギリで躱し、反撃する。

 太刀の刃は鋭く、素速い。

 だが、ハンターの攻撃は黒龍にとってはかすり傷が多く、痛撃(ダメージ)は少ない。

 それの繰り返し。

 少しでも反応が遅れたら、一撃で死ぬ。生き残ったとしても、致命傷に近い。

 

 辺境最強。だが、言い換えれば、辺境以外では最強ではなくなる。彼は自身より強い奴などいることは知っている。

 そして、黒龍に自分が敵わないことも。

 心は折れていないが、ハンターのように黒龍と対峙した場合、槍使いは生き残れはしない。

 では、どうするか。

 白兵戦は、まず死ぬ。

 魔術戦は、試していないが、攻撃呪文は効きはしないだろう。少なくとも生半可な威力では、あの巨体、硬い鱗、強靭な筋肉に阻まれ意味がない。

 

「大丈、夫?」

 後ろから声をかけられ、振り返ると魔女が心配な顔で見ていた。

「ああ、大丈夫だ。他は」

「生き、残った、人たち、手当し、ている」

 肩を貸し、後方へ治療を受けに行く前衛が数多くいる。槍使いは打ち身したところは少し痛むが、負傷兵ほど怪我ではない。

 ハンターのところに加勢に行っても、死ぬだけ。

 戦えはするが、有効な手段が思いつかない。行動はできるのに何もできない。

 悔しい。

 

「おい、ボーっとするな」

 槍使いは黒龍とハンターの戦いを見ていると、重戦士が声をかける。重戦士は負傷者を肩に担ぎ、後方に運ぼうとしていたのだろう。

「ここを離れるぞ。黒龍のブレスがこっちに来たら大変だしな。ハンターの方もこっちを気にして戦っている余裕はないらしい」

「分かってるっての」

 力を入れ、体を動かす。

 逃げるのは癪だが、他にできることがない。

「……くそったれ」

 槍使いはもう一度悪態を吐き捨てた。そうして、起き上がったとき、城壁の上で大砲を設置していた砲兵隊たちが映る。

「ん? ありゃ」

 彼らはせっせと準備をしている。軍の魔法部隊が、大きな鉄玉に付与(エンチャント)して威力を底上げする。

 魔法が付与(エンチャント)された弾を詰め、今にも黒龍に向けて、ハンターごと撃とうとしている砲兵隊。

「おい、ちょっと待て!」

 槍使いの言葉が届くはずもなく、大砲が放たれる。

 城壁に設置された大砲は100台を超え、その全てが一斉に火を吐く。

 何十もの鉄の玉は、黒龍の巨体に当たる。

 だが、大砲の玉は当たりづらい。と言うか当たらない。

 半数必中界という言葉がある。これは発射した半数の着弾地が見込める範囲内が大砲だと300m。この範囲に着弾すれば、命中扱いとなる。

 つまり何がいいたいかと言うと、黒龍に向けて放たれた砲弾はいかに狙いを定めようと外れる。そもそも遠距離攻撃は、味方が射線に居る状況で撃つものではない。

 その外れた砲弾は、黒龍の周囲、ハンターの近くへと向かう。

 辺り一面に着弾し、辺りは煙幕に包まれる。

 ハンター、黒龍の確認が困難になってしまう。

 

「おいおい、どうすんだっ⁉」

 槍使いは誰が砲兵たちの指揮していたのか、分かったらぶん殴ろうと心に決める。

 ハンターの与える痛痒(ダメージ)は小さい。彼が黒龍の気を引いている間に、大砲による大ダメージでケリを付けたい気持ちもわかる。状況的に仕方ないのかもしれない。だが、せめて念話(テレパス)か何かで、退避を呼びかけることぐらいできたはずだ。

 それが、槍使いにとっては胸くそ悪い。

「あれで死んだ……か?」

 砲撃が止んだ後、近くに居た冒険者の1人が恐る恐る声に出した。

 黒龍を討てたのは喜ばしいことだ。だが、そのために善戦した者を見捨てる行為が、どうしても槍使いは受け入れられなかった。

 

 あれ程の大量の砲弾が降り注いだ爆心地で、どちらも生きているはずがない。

 冒険者たち、城壁に居る軍の部隊の全員が思ったことだ。

 しかし、勝鬨は上げられない。 

 誰もが無言で煙幕の奥を見ようとする。

 そこには横たわるハンターと、龍の死体があることを確認したかった。

 

 そして、立ち込める煙の中から、のそりと動く影が見えた。

 

 その影は長く、巨大で、翼を広げ風を起こし、煙を晴らす。

 

「嘘だろ⁉」

 誰もの心の声を、最初に口にした冒険者。

 全員が驚愕している。

 あれで殺せなければ、何で殺せばいいのか。

 

 黒龍が顔を城壁へと向ける。

 口をガバッと大きく開け、喉奥から紅い焔の渦が舞う。

 

 障壁(プロテクション)を張ったのは、軍の神官部隊だろう。生きていることを予想できたのか、危険を感じ咄嗟にできた動作なのかは、わからない。

 だが、その焔の渦は障壁を薄氷のように溶かす。

 障壁(プロテクション)は、まるで役に立たず、焔の渦は軍の部隊を飲み込んだ。生存はまずない。

 これが龍。

 人の身では、抗うことすらできない災厄。

 

 その光景に誰もが、息をすることすらできなかった。

 しかし、誰しもが動けない中、ただ1人動き出した者がいた。

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