ゴブリンスレイヤーとモンスターハンター   作:中二ばっか

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1-14 黒龍討伐4

 幾度、黒鱗を斬り裂いただろう。

 だが、怯めど、ミラボレアスが倒れる様子がない。

 

 ミラボレアスの力を見誤ったか? とハンターは思ってしまった。

 斬れども、斬れども終わりがわからない。これがただの飛竜種なら、弱ったときに見せる足の引きずり、疲労時の動きの鈍さが見て分かるのに、一部の古龍種とくればそんなものはないとばかりに行動する。

 不利なことは分かっていたが、ここまで戦闘が長引くとは思っていなかった。

 

 そんなことをふと思えば、口を開き爆炎で辺り一面吹き飛ばしにくる。なんとか転がり避けきったが、今度はミラボレアスが空中に舞い上がった。

 強力な羽ばたきは、地面の土を巻き上げ、強風を生み出す。

 これまでもされたことだが、これが龍たる所以だ。

 人は決して空を飛べない。

 人は気球や飛行船などの物で空に居ることはできる。だが、鳥や竜、あるいは龍のように自由に空を飛ぶことができない。

 その翼を広げ、飛び立てられれば、ハンターが持っている太刀は届かない。

 そして、ミラボレアスの攻撃はハンターに届く。

 

 顎から放たれる火炎弾。

 鉄を溶かし、大地を窪ませ、吹き飛ばし、破壊する龍の砲撃。

 それが連続して放たれる。

 紅い流星群。

 それがたった一人に向けられる。

 逃げるハンターは、他人が見れば龍から逃げる哀れな贄、あるいは滑稽な道化にみえただろうか。だが、ハンターは降り注ぐ火炎弾から逃げおおせる。

 それを理解しているミラボレアスは火炎弾を放ち終えても、追撃とばかりに滑空していく。

 猛スピードで龍が迫りくる中、ハンターは息を吐いて、感覚を研ぎ澄ます。

 先程まで、火炎弾を避けるために行動を取り続け、スタミナが無くなった。何分、何十分戦ったのか。正確な時間など、ハンターは知らない。お腹が減ってきたことだけは分かる。

 このままいけば直撃し、吹き飛ばされ、地面に叩きつけられ、かなり痛い思いをする。最悪、死ぬだろう。

 だから何だ。

 いつもと同じだ。

 この地域に来る前、来た後も変わりない。

 焦る理由も、恐怖に怯える必要もない。

 最後まで、打てる手は打つ。

 

 手を尽くして、ダメなら仕方がないのだ。

 

 ハンターはミラボレアスの滑空に合わせ、横に移動し避ける。

 大きく広げられた翼が起こした突風が、頬を殴りつけてきたがダメージはない。だが、突風に煽られ身動きが取れなくなってしまった。そこを着地したミラボレアスがハンターに向けて、火炎弾を放つ。

 超高熱の火球弾は伝承にあるように、鉄を溶かすほどの威力。

 身動きできないハンターは、回避行動もイナシも使うことができない。

 

 火炎弾の直撃。

 

 熱い、痛いといった表現では言い表すことができない。

 死を覚悟するほどの熱地獄。

 一気に体中の血が沸騰して、燃えカスとなった気がしたハンター。

 吹き飛ばされ、地面に転がる。一瞬で気を抜けば、そのまま意識を失う。それほどの威力であったが、なんとか死ぬ一歩手前で踏みとどまった。

 だが、未だに生きているミラボレアスに対処しなければならない。

 激痛を堪えながら、体を起こそうとしたとき、不思議とその痛みがなくなっていることに気がつく。

 火傷のヒリヒリとした熱も感じない。

 回復薬も飲んでいないのに、傷が治っていることに驚くハンター。それどころか、力が漲ってくる。太刀の刀身も淡く輝き出し、

 一体何が起きているのか。

 考える暇はない。

 ミラボレアスと向き合い、太刀を構える。

『おい、生きてるよな』

 そんなとき、また槍使いの声が頭に響いた。

 何だ。

『その憎たらしい口の開き方、どうにかならんもんかねぇ。いや、こっちでできる限りの支援をするから、それを伝えてるんだよ。現に今、傷が治っているだろう』

 ミラボレアスの攻撃を回避しながら、周りを見てみると他の冒険者が周りに展開しているのが目に入った。

『こっからは俺たちが魔法でお前を支援してやる。存分に暴れなよ』

 ありがたいが、飛び火してもどうしようもない。そのことを槍使いは悟ったらしく、苛立った声で、怒鳴ってくる。

『分かってんだよ。そんなことは。だけどな、こっちだって馬鹿じゃねぇ。ちゃんと作戦があるんだよ。今からやるから黒龍を誘導してくれ』

 指定された場所に走るハンター。

 釣られるようにしてミラボレアスもハンターを追いかける。時折、火炎弾や焔の渦で焼き殺そうとするものの、ハンターは後ろから来る殺気を感知し、避けることができた。他の者では、後ろに目が付いていないと、逃げ切ることなどできずに灰となっている。

 

 指定された場所は城の庭の中心。壁上、瓦礫の後ろには魔術師が隠れており、何やら口を動かしている。

 魔法の呪文を唱えているのだろう。

 ただ、ハンターにはどのような魔法なのか分からない。

 生半可な威力では、ミラボレアスには通じないのは彼らだって分かっているはず。

 

 ミラボレアスがハンターを追いかけて、中心部まで来た。

 ハンターはミラボレアスと向き直り、いつでも動けるように身構える。

 

 そのとき、魔術師たちの詠唱が完成し、魔法が発動する。

 地面に光る魔法陣が描かれる。周りの魔術師たちが、黒龍に向けている杖からも魔法陣が空中に描かれた。

 それらの中から白い糸、『粘糸』が大量に迸り黒龍を絡める。

 ミラボレアスの前脚、後脚、首、翼、尻尾などに絡みつき、拘束しようとする。それを逃れようとミラボレアスは暴れだして、白い糸がブチブチと千切れだすが、まだ拘束力がある。

 魔術師が力負けして引き倒されないように、戦士風の力自慢が数人で魔術師を引っ張って支えている。

 拘束時間はあまりない。

 拘束されたミラボレアスは鎌首が下がり、弱点の頭が下がっている。

 

『行け!』

 言われずとも、ハンターは駆け出した。

 そのまま、ミラボレアスの頭部に力を込めて突きを放つ。

 神官、魔術師がハンターにかけた強化によって、先ほどとは比べようにならない深い傷を与えることができた。

 そのまま、ミラボレアスの頭部を踏み台にして空中へと駆け飛び、落下と同時に渾身の力を込めて一閃。

 ミラボレアスの頭部が割れた。

 大量に吹き出す血飛沫。

 しかし、未だにミラボレアスの眼から光は失われていない。

 ハンターは斬りまくる。

 袈裟斬りで右目を使い物にならなくさせる。

 切り上げで下顎を切り裂く。

 太刀を振り下ろし、頭蓋骨を断ち切る。

 気刃斬りでより深く致命傷を与える。

 強化された鋭い太刀とハンターの豪然たる腕力で深々とした傷を与え続け、地面に血飛沫が血溜まりを作った。

 そして、ミラボレアスは力を振り絞り、『粘糸』からの拘束から逃れる。

 

 小さな咆哮を上げ、鎌首を大きく仰け反らせた。

 そして、地面を震わせ、崩れ倒れる巨体。

 ハンターによって幾多にも切傷が刻まれ、血で濡れて染まった体。

 それでも、最後までミラボレアスの瞳はハンターを睨んだ。

 

 動く様子はなく、黒龍の討伐を確認する冒険者が近づく。固唾を飲み見守る周囲の冒険者。息絶えたことを確認した冒険者が声を上げる。

 そこに喝采はなく、あまりにも多い犠牲に涙する者、疲労が限界に達して地面に座り込む者が居る。

 そんな中でハンターは黙々とミラボレアスの解体作業を行う。

 ハンターにとって真の敵とは何か。

 強力な大型モンスター。

 邪魔してくる小型モンスター。

 確かにそれらも手強いだろう。

 だが、ハンターにとって、真の敵とは幸運(リアルラック)だった。

 宝玉でますように、といった願い事はしない。ただ、無心(を心掛けようと)で剥ぎ取る。

 剥ぎ取りナイフでミラボレアスの鱗を剥ぎ取っていると、後ろから肩を叩かれた。

「よぉ、ハンターだったか」

 屈強な体で大剣を背中に担いでいる男、重戦士らしき者が声を掛けてきた。

「大手柄だな」

「まぁ、戦利品は多いな」

 なにせミラボレアス素材、剥ぎ取り放題キャンペーンである。他の冒険者は剥ぎ取らないのだろうか? 重戦士の後ろでは、怪我をした冒険者の治療をしている者が多い。剥ぎ取っている余裕などないのだろう。

「こんな龍の鱗に牙、皮の一頭分。全員の報酬の取り分だが、王国からの報酬金がお前が4割。6割で他全員だ。今剥ぎ取っている物はお前の自由にしてくれ」

「!? いいのか」

 重戦士の配分に驚くハンター。報酬金は配分が依頼参加人数で割られるので、その中で1人だけ4割というのはハンターの常識からすればあり得なかった。そして、龍の素材が要らないということが、ハンターには衝撃的で手が止まってしまう。

「ああ、竜の鱗は鎧に使えるし、血は魔術師なり研究者に売れば高値がつく。確かに魅力的だが、俺達はそいつの死体を見ても畏怖を感じる。その龍の素材で作った装備が呪いの品のようになりそうなんでな。素材はお前の方で処理してくれ。俺達じゃ手に負えない」

 確かにミラボレアスの素材、武具は曰く付きだ。永遠の戦いを強いられるとか、ミラボレアスと戦う夢を毎晩見るとか。重戦士はミラボレアスの異常性を肌で感じているのだろう。

「ありがとう、心配しなくても丸ごと剥ぎ取ってやる」

 目を輝かせてハンターは剥ぎ取り作業に戻った。

「……とんでもないな」

 そして、重戦士はハンターの異常性に苦笑いして引いた。

 

 

 

 ハンターがミラボレアスを解体し終えた。

 結果としては、大量の黒龍の素材が集まったので、ハンター的に大満足である。

 だが、戦果としては負けだろう。

 軍の兵隊、冒険者の死者が多すぎる。確か、損亡が4分の1を超えると全滅扱いだったか。ハンターは軍の知識を思い出した。

 通夜のような雰囲気のなか、生き残った全員はギルドの酒場まで来た。

 豪華な食卓の席に座る傷だらけの冒険者たち。だが、空席にも料理が並べられている。比較的軽傷の者も同席している。頭や肩から腕を包帯で巻いている者が多いので、薬品の匂いと血が食卓の空気に混じっていた。

 そして、空席のほうが多い。

「まぁ、俺達の勝利と新しいドラゴンスレイヤーの誕生に乾杯!」

 そんな中でも、酒を注ぎ込んだ杯を掲げ飲み干した。

 勝利とは言えない。

 黒龍は強敵で、戦死者が多数いる。

 そんな中でも、黒龍を討伐し生き残った。

 ならば、弔いと勝鬨をあげなければならない。

 みんな、自分の意志で戦いに身を投じたのだから、そこに差などない。

 幸い、王国から莫大な報酬は全員に配られる。報酬目的に参加した者であっても、あの地獄を見た後では受け取っても喜ぶ気にはなれない。

 それでも、空元気で喜ぶしかない。

 明日は我が身。

 倒された相手がドラゴンか、他のモンスターかの違いに変わるだけ。あるいは、遺跡の罠や呪いで死ぬかもしれない。

 

 だからこそ、今だけは黒龍を討伐したことで宴を開く。

 

 湿っぽいのは、先程までで十分だ。

 今日、居なくなった者を思い出すかもしれない。

 だが、それで歩みを止めたら我々は冒険者ではなくなる。

 生きていれば明日が来る。

 また、冒険に出る。

 それまでに存分に騒ごう。

 

 そこで今日の酒代はハンターが請け負った。印象を良くするため、といった心づもりではなく、単純に援護のお礼のつもりだ。そして、均等に振り分けられるはずの報酬を、ハンターの取り分が多かったので、少し心苦しく思った。

 簡単に言えばハンターが受け取った報酬金は、庭付き豪邸が2つぐらいは建てられるぐらいに多い。

「この、太っ腹だぜ! 新人のくせに!」

「いや、新人とは言えねぇだろ。言うなれば新人ドラゴンスレイヤーじゃねぇの?」

 なんというか、背中あたりがむず痒くなるハンター。

「一応、竜はかなり討伐してるんだが」

「まぁ、あの戦いを見れば信じざる得ないんだが、今までどんな竜を相手にしてきたんだよ」

「飛竜種、海竜種、獣竜種、牙竜種、蛇龍種、古龍種」

「聞いたことがないドラゴンの種類も居るな。どこの出身だ?」

「分からん。受付嬢の話だと転移とか何かに巻き込まれたんじゃないのか、って言ってたけど」

「ふーん。こっちに来る前はどのくらい竜を討伐したんだ?」

「合計で1000体は超えていると思うが、俺も正確な数は覚えていない」

 本日のメインでもあるためか、ハンターは質問攻めにあってしまう。

 中には、ハンターの発言を本当かと疑う者も居た。

 『看破』の奇跡を使える神官を連れてきたり、それに答える。

 ハンターが嘘を言っていないことを知ると、聞いていた者たちは顔を引きつらせていた。




やっと、ミラボレアスを討伐できた。

次からは1巻に入れるか、その手前ぐらいだと思います。

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