ゴブリンスレイヤーとモンスターハンター   作:中二ばっか

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1-15 エピローグ

 トントンとリズミカルに鳴る金槌。

 組み上げられていく、木材とレンガ。

 周りは芝生が最近まで生えていたものの、切り揃えられた敷地。

 敷地の横は川になっており、魚が悠々と泳いでいる。

 ハンターは今、報奨金で購入した自分の農園予定の場所に来ている。

 ギルドで不動産屋を紹介してもらい、土地を買った。

 今は建築家に家を作ってもらっている最中だ。

 贅沢して大きめの屋敷にしてもらっている。

 後は、管理人と働き手を募集するだけだ。

 金の問題は、ミラボレアスの報奨金がまだ半分ほど残っている。残った金は、移動用の馬と馬車を買うつもりだ。本当は長距離をひとっ飛びできる、大鷲や小型の飛翼種みたいな動物を飼いたかったが、使い魔を使役できる技量(スキル)がなければダメらしい。

 人に危害を加える可能性がハンターの技量(スキル)では0ではないからだ。

 調教師(テイマー)や魔術師は自身で使い魔を使役したり、生み出したりできるらしい。ずるい。

 しかし、それでも金は余る。余った金は担保に農園の運営を開始するか、貯蓄するつもりである。

 そして、ハンターは切実にアイルーの雇用がしたかった。

 いや、元居た地域ではアイルーに、少なくとも食事の代金以外は、壱銭も彼らに払っていなかった気がする。ギルドの報奨金から、税として引かれているのかもしれないが、彼らは彼らでブラックな職場で働いているのではないだろうか。

 特に自爆アイルー。

 一応、募集は冒険者ギルドを通し準備はしている。

 仕事内容としては、ハンターの調合材料の栽培、蜜蜂の飼育とハチミツの確保。日によっては馬の世話。

 住み込みOK。

 給料は、基本的な農家の収入より少し高め。

 できれば養蜂の経験がある者が望ましい。だが、そこまで都合がいい人材が確保できるとは思えない。

 まぁ、住む屋敷がまだ建てられていないので、待つしかない。

 

 ハンターはミラボレアスの素材を大量に手に入れた。防具を新たに制作したり、太刀の種類を増やしたりするよりも、別種の武器を制作しようと思っている。ヘビィボウガンや弓といった遠距離武器もいいかもしれない。

 冒険者ギルドの一角の武器屋に訪れたハンター。

 そして、素材を見てもらったのだが、武器屋の翁はミラボレアスの素材を見て言った。

「無理だな」

 残酷な一言である。

「なんで⁉」

「一介の鍛冶屋にゃ、この素材の扱いは重いっての。鉱人(ドワーフ)でも難しいんじゃねぇのか?」

「? あんた、鉱人(ドワーフ)だろ?」

「勘違いされることが多いがな、俺りゃ只人(ヒューム)だ!」

 ずんぐりとした体型。しかし、毎日金槌を扱っているからか、がっしりとした腕になっている。老顔で髭を蓄えている。

 どっからどう見ても鉱人(ドワーフ)にしか見えなかった。

 初見で只人(ヒューム)と見抜けるものは居るのだろうか。

「ともかく、知り合いの鍛冶仲間の鉱人(ドワーフ)を紹介してやる。と言っても、あんまり期待しないほうがいいぞ。素材自体から邪悪な気配が、見ただけで分かるからな」

 武器屋の翁は紹介状を書いてくれるらしく、明日また来ることにした。だが、手練れの鉱人(ドワーフ)は気に入った相手でなければ、武具の制作をしてくれないらしい。

 加工屋は、普通にお金と素材を渡して制作してくれたのだが、彼らのようには作れないかもしれない。そのことに、ハンターは不安を覚えた。

 狩ったモンスターの素材から、武具を作り出す加工屋の職人たち。

 彼らが凄腕であることは間違いない。むしろ、発見や認知すらされていなかった新種の素材でも、快く武具を作ってもらえる彼らの存在に感謝していた。

 そして、その彼らが居ないことに非常にがっかりしたハンターだった。

 

 ハンターは次に冒険者ギルドに来た。無論、依頼を受けて達成し金を貰うためだ。

 報奨金が余っているからといっても、ハンターは武具の強化に金をつぎ込む。

 今回の報奨金が一気になくなるぐらいにつぎ込む。

 8桁の数字が一式装備を制作し、強化も施せば、一瞬にして5、4桁になることなど少なくない。

 そして、作製を依頼するには金が心配だ。

 ハンターはいつも通り、依頼を受けようとしたが受付嬢に止められる。

「その前に昇格審査を受けてください」

 受付嬢は疲れている顔で無理やり営業スマイルを作り、ハンターの依頼に待ったをかけた。この辺は長年の接客業務の賜物だろう。

「なぜ?」

 首をかしげるハンター。

 ハンターとしては、依頼を受けて狩りに行きたい。ちなみに今回受けた依頼は大型猪の討伐だ。ドスファンゴ、見つけ次第、殺るべし。

「経験点が貯まったからに決まってるじゃないですか。竜殺しの立役者を早く昇格させろって上がうるさいんですよ」

「はぁ」

「受けてくれますよね?」

 ずいっとカウンターから身を乗り出し、ハンターに顔を近づけた受付嬢。だが、その顔は張り付いたような笑みで、目が笑っていない。

 その顔にハンターは身を引いてしまう。

 今のこの受付嬢なら、ミラボレアスくらい引き返していきそうだ。

 無論、ハンターも大人しく昇格審査を受けるしかない。

 

 前回の審査のように正面に受付嬢、右隣に監督官がいる。そして、左隣に立会人が2人。1人は首から金の認識票(プレート)が提げられている騎士風の冒険者。もう1人はハンターが見た感じ、立会人が上級冒険者ではなく、立派な服を着た役人に見える。

「本来は1段階づつ階級が上がっていくものですが、黒龍討伐の功績からあなたは金等級への昇格が可能です。人格面や依頼達成率の信用も高く、問題にならないと冒険者ギルドは判断しました」

「お断りだ」

「ですので、明日から……なんて言いました?」

「金等級への昇格はしないって言った」

 詫びもせず、ハンターは言い切る。

 部屋の空気が気まずくなる。

「……冒険者として高みに登る。それが不服と?」

 立会人の役人が困惑を隠しながら、ハンターに問いかけてきた。

「不服と言うか気に食わん」

 その言葉を聞いて、受付嬢、監督官、役人は顔をしかめる。

「白金等級への昇格をしたいと言うことでしょうか」

「黒曜等級から鋼鉄等級の昇格だろ。何を言っているんだ、お前は」

 役人からしたら、お前のほうが何を言っているんだ、と言いたそうな顔をしていた。

 と言うよりも、全員がそんな顔をしていた。

「えっと、折角の機会だし、ババァーンと金等級になるつもりは」

「ない」

 バッサリと監督官の言葉を切り捨てたハンター。

「ここでも等級の上がり方は、1段階づつなんだろ。それでいいんじゃないのか?」

 ハンターとしては、ランクは正式な手続きをして上がっていくものである。下位から一気にG級のクエストを受けられるようになるとか、どんな卑怯なこと(チート)使っているのやら。寄生も好きではない。知略(攻略本)誰が書いたかわからない情報誌(掲示板)が書かれた書物を読むのは好きだが。

 だいぶ前に見た集会場の悪魔アイルーなど、言語道断。と言うよりもあれは、別のなにかだ。アイルーではない。

 ともかく、ハンターはズルといった行為が嫌いだ。

 罠? ハメ? そういったのはズルにはならない。

 罠を仕掛けるのも、相手を封殺するのも、腕前の向上や思考を続けて生み出した技術である。

 故に、ゴブリンスレイヤーの頭を使った容赦ない戦術にハンターは目を輝かせた。

 

「今回の件で、多くの金等級冒険者が亡くなりました。それで、相応の実力を持つあなたならば、引き受けてほしいのです」

 役人は頼み込む。

 だが、ハンターの答えは変らない。

「順調に銀から金なら何も言わない。けど、俺の今の等級は黒曜だ。ここの規則にそっている。逆に言えば手順を踏まないと、俺は納得ができない。元の場所でも、ここでも、違う場所でも、それは変わらないはずだ」

「特例は受け入れられないと?」

「ああ、穴埋めなら他の銀等級冒険者を金等級に上げればいいだけだ。俺は順当に等級を上げていきたい」

「金等級になればいろいろな融通が利きますが、それでも断ると?」

「そうだ」

 頑なに金等級昇格を拒むハンター。

「……嘘はいっていません」

 じっとハンターを見ていた監督官は、役人に声をかける。

「……なるほど。あなたは高潔な精神の持ち主らしい。あなたが順々に等級を上げ、冒険者として次なる大成をなすことを期待させていただきます」

 報告を受け王国から派遣された役人。

 今回の件で、金等級の冒険者を多く失った。

 金等級冒険者の補充は確かに重要だが、考えなしに昇格も不味い。冒険者の等級は、実力だけではなく信頼、信用も含まれる。

 役人としては、それだけの腕を持ちながら下位に留まるのは何かしら理由があるのだろうと納得し、残念に思った。多少問題があるものの、実力は十分、先程の言葉からも誠実であり、金等級でもおかしくはない。

 無理に押し通して、冒険者を辞めるといった方が問題だ。ハンターが報奨金で農場を買ったと聞いたので、そのまま農家に転職するかとも不安に思った。

 しかし、冒険者を続けるならば問題ない。

 彼の実力、誠実な心構えなら、時間は多少かかるだろうが、等級を上げていくと確信した役人。

 

 話は終わったらしく、ハンターは室内から退場したところで、今まで沈黙していた騎士風の冒険者が声を掛けてきた。

「その、なぜ君はあの黒龍と戦うことができた?」

 冒険者は知りたかった。

 あの黒龍と戦うことができる。なるほど凄腕なのだろう。

 ましてや、討伐することができた。自分とは違うのだろう。

 あのとき、黒龍の脅威を目の当たりにした自分は、逃げ出した。

 ガチガチと震えることしかできず、もう一度挑もうとは考えられない。今も寝ているとき、あのときの悪夢にうなされる。

 それからも逃げたかった。

 だから、解決の仕方を知りたかった。

 

「そんなの決まってる」

 ハンターは何でもないように言った。

「俺がモンスターハンターだからだ」

 その言葉の意味を真に理解した者は、この場にはハンターも含めて居ないだろう。

 どこかの村人は、最高のハンターのこと、と言っていた。

 いつかの町人は、大陸一の勇者、と思っている。

 ある狩人は、自然の摂理を制するもの、と語っていた。

 ハンターの解釈はおぼろげながらに見えてきた。

 ハンターは、ハンター。それ以上でも以下でもない。

 獣だろうと竜だろうと関係ない。モンスターが害をなせば狩る。

 だから今日も狩りに出る。

 ただ、それだけだ。

 そうして、生きるのがモンスターハンターだとハンターは思っている。

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