ゴブリンスレイヤーとモンスターハンター   作:中二ばっか

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2-3 弓は近接武器

 鍛冶場に戻ってきたハンターたち。

 中に入ると最初とは違い、働いている鉱人(ドワーフ)たちの活気がない。横に転がっている者、顔の血の気が薄くぐったりと椅子に座っている者。

 依頼者、鍛冶長女鉱人(ドワーフ)に向かう。彼女も顔が悪い。体を椅子にもたれかかっている。

「どうした」

「……疲れた」

 短く言葉を返す鍛冶長女鉱人(ドワーフ)

「坑道に居たのはゴブリンではなかった。ゴブリンの死体を操る……なんと言ったか」

死霊師(ネクロマンサー)だ。覚える気がないな」

「いや、ただゴブリンではない」

 どうやらゴブリン関連ならば嫌でも覚えるのだろうが、ゴブリンに全く関係ないことではゴブリンスレイヤーの頭には入らないようだ。

「そ……」

 力なく鍛冶長女鉱人(ドワーフ)は奥のテーブルを指差した。そこにはハンターの報酬の双剣と弓、矢筒が置いてある。

 ハンターが持った双剣、黒龍双刃。黒龍の怒りが染み付いているかのような、黒黒とした幅広い形状の剣と鋭角をそのまま使っているような剣。禍々しい龍の力を見ただけで感じる。

 そして、殲滅と破壊の剛弓。弦がX状になっており、矢をつがえる部分がミラボレアスの頭部を模している不気味な弓だ。黒龍の力を宿しているのか、これにも龍の力を感じる。矢筒は、無限に矢を撃てるように放った矢は魔法によって戻ってくる仕組みだ。魔力の宿ったデーモンの角、黒龍の素材を使い再現したらしい。

「もう二度と作りたくない」

 そんなことをこの武器の制作に関わった鉱人(ドワーフ)たちが言う。

 何でも素材に触った瞬間から気力や体力が吸われているように感じ、側に居るだけで呻き声や叫び声が幻聴として耳に入り、長く作業するのが精神的に苦痛だったらしい。

 素材はまだ余っているので、なにか作ってもらおうと思っていたが、無理なようだ。今日はもう、働いていた鉱人(ドワーフ)たちは家に帰る予定だ。

 しかし、ハンターの知っている加工屋は、ミラボレアスの素材で武具を作っても、いつもと変らない調子で武具を渡してきた。それも連続で作ってもらうこともあったが、けろっとしていた。

 ハンターと同じく非常識である。

「ともかく、今日は休業。……他になにかあるのなら明日来て」

 ハンターたちはゴブリンゾンビが着ていた鎧、武器を回収しているので、彼らに引き取って欲しかったが、今日は無理だ。明日、また来るしかない。

 他の店に売ることも考えたが、元々は軍に納品する物だ。彼らに返して謝礼を貰うほうがいい。

 

「今日はここに一泊か。宿ってどっちだ?」

「何回か来ている。泊まるのならば付いてこい」

 闇女斥候の後に付いていくハンターとゴブリンスレイヤー。

 今日はもう夕方で、空が朱色に染まっている。坑道の探索で時間がかなり経っていたようだ。

「魔法か。俺も使ってみたいな」

 ハンターは闇女斥候が持っている名剣を見ながら呟いた。

 ハンターが知っているモンスターの中には、隕石を降らせたりする奴が居る。特に古龍種が起こす超常現象は解明できていないものも多い。

 まぁ、魔法のことをハンターは知っている。

 魔獣ベヒーモス。

 森の精霊レーシェン。

 どちらも別世界から来た存在だが、それよりも前に沢山の別世界があることは分かっていた。

 悪魔祓い(デビルハンター)から依頼を受けたり、調査兵団とかいう兵士から依頼を受けたり。

 このことからハンターは、ここが自分の居た世界ではなく、別の世界に飛んでしまったと考えている。原因は分からないが。

 魔法という技術があるのならば学んでみたい。

 炎や雷を操り、武器の属性を変える。重複することができれば、かなり強いのではないのだろうか。

「貴様が魔法?只人(ヒューム)はまず学院で勉強しろ」

「手っ取り早く、習得する方法は――」

「ない」

 バッサリと闇女斥候が否定した。

「脳筋は脳筋らしく戦え」

「誰が脳筋だ」

 脳筋と言われムッとしたハンター。

 何が頭ドスファンゴだ。そりゃ、狩場に着いたら討伐対象のモンスターへ直行し、罠もアイテムも使わず武器で殴り続け討伐したこともある。凍土でホットドリンクではなく、強走薬を飲んで戦うこともしばしあった。

「そんな巨大な剣を背負っている時点で、戦士職に全経験値振っているのが丸わかりだ。今更、弓を扱っても当たらんぞ」

「何言ってるんだ。弓は近接武器だ」

「貴様こそ何言ってる。弓は遠距離武器に決まっている」

「剛射で近づいて撃つ。遠くからじゃ威力が弱まるだろう⁉」

「やはり貴様は脳筋だ」

「……ゴブリンスレイヤー。弓は――」

「近距離から矢を放つなら、弓の意味がない。剣で十分だ」

弓は近距離で扱うもの。そういった常識はこちらにはないらしい。少なくとも闇女斥候とゴブリンスレイヤーは、弓は遠距離武器だと思っている。

 しかし、ハンターの弓の概念は近接武器だ。

 ハンターは信じて疑わない。

 そんな彼を疑わしい目で見る二人。

「今度戦う時、弓で接近戦をやる。弓がいかに近接戦に向いているか理解しろ」

 そんなことを決意したハンターを呆れた目で見る二人。

 だが、その目はすぐに警戒の色に変わった。

 

 宿に着く直前、周りの住人たちが騒ぎ出す。

 何事かと彼らが向いている方を見てみると、何かが居る。

 巨大だ。

 軽く5メートル以上の背丈で、長く太い腕は人とは比率が違い、立っているのに地面に付きそうだ。毛のないドドブランゴや角のないラージャンみたいだ。

 1つだけの目が額の中央にあり、特徴的だ。

 ハンターはその1つだけある目を見て、アレがサイクロプスであることに気づいた。

 闇女斥候はサイクロプスの弱点がその大きな目であることを知っている。戦闘するときはハンターが持っている弓か自身の魔法で狙うことを考えた。

 ゴブリンスレイヤーはあれがゴブリンでないことが分かった。

 咆哮を上げ、サイクロプスが向かってきた。

「あいつで弓の戦い方を教えてやる」

 そう言ってハンターは弓矢以外の武器を地面に置き、サイクロプスへ向かう。

「脳筋が!」

「……」

 闇女斥候は悪態をつきながら、ゴブリンスレイヤーは無言でハンターたちの後を追った。

 

 ハンターはサイクロプスが繰り出す拳を避け、引き絞っていた弓を離し、鏃は大きく、槍にも使えそうな矢を放つ。

 放たれた矢はサイクロプスの分厚い筋肉に難なく刺さる。

 刺さった瞬間、黒い火のような雷のような光が生まれる。

 弓が矢に龍の力を帯びさせ、サイクロプスに着弾したときにエネルギーが炸裂し、痛みでサイクロプスが叫ぶ。

 すかさず、追撃の矢を放つハンター。

 暴れだすサイクロプスだが、ハンターは捕まらない。その間にもサイクロプスの攻撃範囲外ギリギリの距離を保って矢を撃ち続けるハンター。

 小刻みに動き紙一重で攻撃を躱すハンター。

 サイクロプスの攻撃は大ぶりで、攻撃を避けやすい。だが、威力は腕の一振りで民家が吹き飛ぶ威力だ。当たれば大怪我になる。防御力や運がなければそのまま死亡だ。

 だが、ハンターはそんな攻撃は何度も受けているし、ガンナーになったことで物理的な攻撃に弱くなっているが、それでもハンターの鎧は丈夫だ。

 サイクロプスの攻撃に怯むことも怯えることもなく、近くで矢を撃ち続ける。

 

 ゴブリンスレイヤーはサイクロプスへ接近する前に、剣と盾に減気の刃薬を塗っておいた。

 ハンターに教えてもらった道具で、片手剣をメインにするなら絶対に使ったほうがいいと、強く勧められた。

 ゴブリンスレイヤーは消耗品であること、経過時間で効力が無くなってしまうこと、塗り方が特殊で、ただ塗っただけでは効力が発揮しないことから、ゴブリンに奪われても問題ないと使うことにした。

 剣に刃薬を塗り、盾を剣に擦り付け、勢いよく振り払うことで刃薬を着火させ、刀身に炎を生ませる。

 この一連の動作によって、刃薬は効力を発揮する。

 ハンターが注意を引いている間に、サイクロプスの後ろに回り、ゴブリンスレイヤーは斬りかかる。

 中途半端な剣ではサイクロプスの筋肉に阻まれてしまい、かすり傷にしかならなかったが、減気の刃薬の効果は蓄積される。

 2,3回切ったら離脱し、サイクロプスの動きを見て、また斬りかかる。

 そうやって繰り返し、サイクロプスの気力(スタミナ)を削っていく。

 サイクロプスがハンターに夢中になっているので、ゴブリンスレイヤーに攻撃が来ることはない。ゴブリンスレイヤーの攻撃力が弱いので、鈍感なサイクロプスにはせいぜい、後ろが少し痒いぐらいだろう。

 それよりも、眼の前に居る強烈な矢を放ってくるハンターが憎くて仕方がないサイクロプス。

 だが、巨人の息は荒くなり、体はしんどくなり、動きが鈍くなっていく。

 頭に血が上って周りが見えないので、詠唱する闇女斥候にも気づけない。

「火石《カリブンクルス》……成長《クレスクント》……投射《ヤクタ》!」

 闇女斥候が持っていた名剣が発動体となり、高密度の炎の球体が生まれ、橙色の尾を引きながらサイクロプスの頭部へと向かっていく。

 サイクロプスはゴブリンスレイヤーによって気力を削られ、動きが鈍く避けることができない。

 ごうっ!っと音を立てサイクロプスの目に着弾する火球(ファイアーボール)

 顔中が焼けて息ができない苦しみと、熱く焼ける痛みをどうにかしようと手で炎を払おうとするが、その手も燃えてしまい更に痛みが増す。

 ハンターはそんな哀れなサイクロプスに止めを刺すために力を溜め、強烈な一撃を加えるべく弓を引く。

 矢を地面に擦り付けて着火させ、その場にしゃがみ、火花を散らしながら加速する矢を弓がギギギと軋む限界まで引き止め、放った。

 竜の一矢と呼ばれる、強力な一撃はサイクロプスの巨体に風穴を開ける。

 それが止めとなり、サイクロプスは後ろへと倒れていく。

 地面を軽く揺らすほどの衝撃。

 未だに燃える顔だが、サイクロプスは倒れてからピクリとも動く様子はない。

 サイクロプスが倒れたことに歓喜する周りの人々。

 

 だが、闇女斥候はいぶかしげな表情だ。

「なんでここにサイクロプスが?」

「山の食料がなくなって人里に降りてきたんじゃないのか?」

「サイクロプスはそんな熊みたいな生き物じゃない」

「ふむ……。ゴブリンならホブのようなデカブツは囮にも使える。大物が気を引いている間に他が後ろに回る。典型的な戦術だ」

「……だとすると」

「狙いは鍛冶場か⁉」

 全員が鍜治場の方へ目を向けると、そのとおりと言わんばかりに鍛冶場の方から火が燃え上がるのが見えた。

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