装備1
日が照りだしている空、石畳の街の道をハンターは歩いている。
その頭部はいつもの装備ではない。
緑色の肌、黄色いギョロッとしたカエルのような目、しかし、頭部が通常の3倍は大きい。
ゴブリンの顔をした被り物といえばわかり易いか。
口はギザギザ牙を模した糸で縫われて作られ、素人感がある。
ゴブリンフェイク(自作)を装備したハンター。
頭部以外はいつもの装備のため、凄まじい違和感だ。
通行人たちはぎょっとして彼を見る。そして、距離を取る。
仮装祭(ハロウィン)でもなければ祭りでもない。
そんな格好をしていることに、ハンターの正気を疑う人々。
ハンターは冒険者ギルドへと入っていく。
入った途端、喧騒が止まる。
そして、冒険者達がザワザワと囁き合う。
あれはなんだ。
ごぶ……りん……?
いや、ハンターか?
そんな騒ぎをハンターは気にも止めず、依頼が張り出されている掲示板を眺め、依頼書を手に取る。
そして、受付に依頼の受領を済ませようとしたところで、受付嬢は顔が引き攣っていることを自覚しながら、ハンターに問い質した。
「ハンターさんですよね? 悪ふざけはやめてほしいのですが」
「ふざけてはいない」
彼は真面目に答えていた。今の格好を悪ふざけとも思っていない。
至極まっとうな、装備をしていると思っている。
ゴブリンフェイクの下は、いつもの頭防具。
俗に言う、重ね着だ。
アイルーフェイク、モスフェイク、ユラユラフェイク。
どれも、キグルミのような装備で実用性があったりなかったりする。
ゴブリンフェイクは自作のためか、スキルも防御力もない代物だが、視界が狭いわけでも息苦しくなったわけでもない。
故に縛りプレイといったものでもない。
気分転換に装備してみただけだ。
冒険者達が遠巻きに見ている中、ギルドの扉が開いた。
その冒険者はゴブリンスレイヤー。
そして、彼はゴブリン(ハンター)を見た。
ゴブリン‼
ゴブリンスレイヤーは即座に腰の剣を抜く。
街中でゴブリンが出ないとは限らない、と彼は思っている。
そして、街中でゴブリンが現れた。
ならば、彼は殺る。
ゴブリン(ハンター)に気付かれないように、忍び足で近寄る。
あのゴブリンはハンターの装備をしている。
どうやって奪ったのか。ハンターから奪った可能性が高い。つまり、ハンターより強い可能性がある。慎重に近づき、初撃のバックスタブで殺る。
「あ、ゴブリンスレイヤーさん!」
受付嬢が話しかけてきて、ゴブリン(ハンター)が振り向いてしまった。
それでも、やつは背負った太刀を抜いていない。
先手あるのみ。
ゴブリンスレイヤーが、ゴブリン(ハンター)に向けて小剣を振り下ろす。
「うぉ!?」
慌てて横に回避したゴブリン(ハンター)。
追撃しようと小剣を構えたところで、受付嬢が止めに入った。
「ちょっと待って下さい! ゴブリンスレイヤーさん!」
「逃げろ! ゴブリンだ!」
ゴブリンスレイヤーも大真面目だ。
止めに入った受付嬢を自身の後ろに隠しながら、視線はゴブリン(ハンター)から外さない。
流石に刃傷沙汰は不味いと思ったのか、周りの冒険者達も止めに入ろうとする。
「おい、ゴブリンスレイヤー! なんで攻撃してくる⁉ 何かしたか⁉」
突如襲われたゴブリン(ハンター)は、両手を上げる。
が、ゴブリンスレイヤーは更に警戒した。
「喋るゴブリン……危険だ」
必ずここで殺す。
人に攻撃されなかったのは、喋れることで誤魔化すか何かしたのだろう。
人に溶け込むゴブリンなど、過去最悪の脅威だ。
例え、冒険者の資格を剥奪され、指名手配されこの街にいられなくなってしまうとしても――。
「ゴブリンスレイヤーさん! 彼はハンターです! 悪ふざけであんな格好しているんです!」
「悪ふざけなんてしていない」
「貴方はともかく早く被り物を取りなさい‼」
憤怒の形相をした受付嬢の言う通り、ハンターはゴブリンフェイク(自作)を脱いだ。
「…………」
ハンターがゴブリンフェイク(自作)を脱いだ瞬間、ゴブリンスレイヤーの動きが止まった。
一拍の沈黙の後、彼は小さく言う。
「……すまなかった」
それは受付嬢や周りにいる冒険者に対する謝罪。
「ハンター、それは捨てろ。ゴブリンと勘違いする」
「嫌だ。俺の自信――」
「捨てろ」
「」
「捨てろ」
ゴブリンスレイヤーの鉄兜の奥にある目が、怒りで赤くなっている気がする。
ハンターはなにか言いたそうにしていたが、それよりもゴブリンスレイヤーはズカズカと歩いて来る。
そして、ハンターが持っていたゴブリンフェイスの脳天に剣を突き刺し、真っ二つにした。
「う、そぉぉおおお⁉」
「捨てろ」
装備が壊されたことに、ガクリと膝が崩れてしまったハンター。
その日、ハンターはその場から動くことができなかった。
その姿は哀愁を誘うが、誰も同情はしなかった。
装備2
ハンターは新しい装備をギルドの工房で買った。
鎖帷子を着込み、革鎧を薄汚れにし、鉄兜に付いていた角は折り、飾りの赤い髪は切って短くする。
右腕に括り付けた小さな盾、左腰ではなく、腰につけた中途半端な剣。
そして、左腕には小さな弩を装備している。
みすぼらしい装備をしている冒険者、といった印象の装備。
「げぇ、ゴブリンス――?」
槍使いがそいつを見たとき、思わず顔をしかめたが、次は頭に疑問符が浮かぶ。
あいつは右ではなく左に盾を付けていなかったか?
そして、ゴブリンスレイヤーは今、掲示板でゴブリン退治の依頼を探していたのではないのか?
槍使いは振り返って掲示板を見る。
そこには、後ろ姿がそっくりの鎧姿が2つあった。
「なんでだよ⁉」
思わず槍使いは叫んだ。
そして、ゴブリンスレイヤーに似た装備をしている奴の正体もわかった。腕に小さな弩をしているのはハンターぐらいだ。
なぜハンターは高性能の装備を外し、弱い装備をしているのか。
破損したのか、修理に出しているのか。
だとしても、ゴブリンスレイヤーと同じ装備でなくていいだろう。
ハンターも変な奴だが、ゴブリンスレイヤーが増えるのなんてやめてほしい。
1人で十分だ。
「おい、ハンター! なんでそんな格好をしてるんだよ!」
「新装備だ。結構気に入っている」
「ふっざけんな!」
頭を抱えた槍使い。
他の冒険者もギルドの職員たちも、げんなりしている。
翌日、ハンターがいつもの装備にしていたことに、冒険者たち、ギルドの職員たちは安堵した。
なぜハンターがゴブリンスレイヤーに似た装備していたかといえば、装備を買ったから試しで使ってみただけ、だ。
重ね着装備なら、ハンターは使い続けたが、残念ながら一括装備だ。隠密が付いていそうな装備とはいえ、防御力が低い。
とはいえ、使えないと決めて早々に売る気はない。
ハンターは装備を溜め込む
装備3
ゴブリンスレイヤーは工房で翁と話している。
「あれは出来たか」
「ちょっと待ってろ」
そう言って奥に依頼されたものを取りに行った翁。
帰ってきた時に彼の手には、ハンターが装備している小さな弩、スリンガーがあった。
それを早速、ゴブリンスレイヤーは右手に装備する。
「どうだ」
ゴブリンスレイヤーは右手で剣を振る動作や、スリンガーを構えながら、調子を確かめる。
「問題ない」
普段の動きをするのに問題ないと言うだけで、後で試射したりするのだろう。
だが、手段が増え、ゴブリンが使えても問題がない装備であった。
小さな弩で、ただ撃っただけでは
構造はやや複雑で、定期的な整備が必要であり、強化撃ちと呼ばれる特殊な撃ち方もゴブリンには真似できない。
なぜなら、ゴブリンの小ささでは両手でスリンガーを構えるしかない。ホブゴブリンぐらいの巨体なら小さな弩など使う気にはならないだろう。それよりも棍棒を選ぶ。それに只人用なので腕に合わない。
投擲の手段が増えるくらいだが、スリンガーならば武器を持った状態でも投擲が可能だ。
「金貨20枚だ」
弩と考えれば、ボッタクリのような値段である。
だが、ゴブリンスレイヤーは躊躇なく支払った。
それだけの価値があるとゴブリンスレイヤーは思っているし、それだけの苦労を翁はした。
ハンターにどう作ればいいか聞き、スリンガーを分解し、部品を見ながら作成し、同じ性能になるように努力した。
「で、殺るのは」
「無論、ゴブリンを殺すのに使う」
翁は呆れる。
見た目に似合わず高性能であるが、これで巨人だの
だが、まぁ仕事だ。
作れないものでもないと思ったが、これが中々苦労した。特にワイヤーの巻き取りの構造や、強靭なワイヤーを作るのに、辺境の街から離れたところにいる知り合いの
「大切に扱えよ」
かなりきつい仕事だったので、いつもの剣みたいにポイポイ捨てられたら堪らない。きっと壊れたら直すのは自分になるのだから。
「ああ、大切に使う」
ゴブリンスレイヤーは、冒険者ギルドの裏にある訓練所で、スリンガーの練習をする。
スリンガーの照準や発射、強化撃ち、ワイヤーによる高速移動。
動作に問題はなく、手に馴染んできた。
ゴブリンフェイスを被せ、的にしていた物は投げナイフが突き刺さり、石ころで穴が空き、見るも無残なガラクタとなった。
ゴブリンスレイヤーが受けたゴブリン退治でも、ゴブリンたちは同じような姿になる。違うのは血が出ているぐらいだろう。
実際にゴブリンスレイヤーの装備の重ね着なんてあったら、みんな着ると思う。
女魔術師、女魔法使い どっちがいい?
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