ゴブリンスレイヤーとモンスターハンター   作:中二ばっか

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J・R・R・トーキン作の農夫ジャイルズの冒険から噛尾刀(こうびとう)
Wikiからグラウルングという竜を倒した魔剣から、グアサングを使っています。


3-4 オルクボルグ、グアサング、かみ切り丸、噛尾刀。

「だからオルクボルグとグアサングよ」

 妖精弓手がギルドの受付嬢に言う。だが、受付嬢に心当たりはない。

「えっと、人名ですか?」

「まぁ、字名よ。ここに居るんでしょ?」

 と言われても、そんな字名を持っている方などいただろうか? 受付嬢は首を傾げる。

 冒険者の台帳を取り出し、確認しようとしたところで、彼女の横にいた鉱人道士が口を挟んでくる。

「ここは只人の領域じゃい。かみきり丸と噛尾刀(こうびとう)と言えば分かるじゃろ」

「あの、そういう方も……」

「おらんのか⁉」

「まぁ、はい」

 申し訳無さそうに受付嬢が言う。

「鉱人はだめね。頑固で偏屈、自分ばかり正しいと思ってる」

「この森人ときたら胸の金床にふさわしい心の狭さだからのう」

「な⁉なんですって⁉」

「そりゃ、黒長耳と比べてみ。圧倒的じゃねぇか」

「言ってくれるわね!私はまだ2000歳!あと2000年も経てば育つわ!」

 妖精弓手は鉱人道士にない胸を張りながら宣言する。が、現実は残酷である。

「言っとくが、私は500歳だ」

 闇女斥候がまるで鼻で笑いながら、言う。

 つられるようにして、鉱人道士もニヤリと笑う。

 顔を赤くした妖精弓手が、うがぁーと声を上げる。

 太古から続く因縁。テンプレートというか、常識的というか、ともかく森人は闇人、鉱人との仲が悪い。

 闇人と鉱人は同じ地下に住むためか、それほど仲が悪いというわけでもない。敵対関係でなければだが。

 しかし、今にも飛びかかりそうな妖精弓手に受付嬢は焦りが出る。

「すまぬが喧嘩なら拙僧の見えぬところでやってくれ」

 そこに、ぬっと大きな体格で鱗を全身に生やす男。

 蜥蜴人僧侶は受付嬢と話を続ける。

「彼らの言う字名は、人族の言葉に変えると、小鬼殺しと竜殺しという意味になるらしい」

「小鬼殺しならゴブリンスレイヤーさんなんでしょうけど、竜殺しとなると……」

「ハンターだ。野太刀を背負っている」

「ハンターさんですか。確かに彼、ドラゴンを倒していますね」

 受付嬢は、すぐにはドラゴンスレイヤーがハンターに繋がらなかった。ハンターはいろいろなモンスターを討伐している。ドラゴンだけを倒しているわけではない。なので受付嬢はハンターに、モンスタースレイヤーというイメージがある。

「それで、受付殿。小鬼殺し殿と竜殺し殿はどこに?」

「ええと、二人とも依頼で今はまだ帰ってきていませんね。ゴブリンスレイヤーさんはゴブリン退治、ハンターさんは大猪退治」

「ほほう」

「もうそろそろ戻ってくる頃だと思うんですが。……あっ!」

 受付嬢はギルドの扉が開き、そこに3人の姿を見て声をあげる。

 

「ゴブリンスレイヤーさん!ハンターさん、お客様ですよ!」

 ギルドに入ったゴブリンスレイヤー、女神官、ハンター。

 ハンターはゴブリンスレイヤーたちと一緒の依頼を受けたわけではないが、帰宅途中でばったりと会って挨拶を交わしてギルドに入る。

 そこに受付嬢が声をかけてきた。

 カウンター前にはスラリとした身体に弓を背負った森人(エルフ)。ずんぐりむっくりとした老人に見える鉱人(ドワーフ)。見事な体躯が緑の鱗を生やしている蜥蜴人(リザードマン)

 そして、黒い肌で腰に剣を2本差している闇人(ダークエルフ)

「ああ、久しぶり」

「ゴブリンか?」

 いつか会った闇女斥候だった。

 とりあえず挨拶したハンターと、早々に用件を聞くゴブリンスレイヤー。

「違うわよ!」

「そうだ。ゴブリン退治だ」

 ほぼ同時に返答した妖精弓手と闇女斥候。

「どっちだ?」

 聞き返すゴブリンスレイヤー。

「……ゴブリン退治よ。あなたがオルクボルグ? それともグアサング?」

 妖精弓手が撤回し、何かよく分からないことを聞いてきた。

「俺はそう呼ばれたことがない」

「伝説に出てくる名前だ。オルクボルグは小鬼殺しの剣でゴブリンスレイヤー、グアサングは竜殺しの剣でハンターになる」

 闇女斥候の解説で頷く妖精弓手と鉱人道士。

「ならば俺だ。ゴブリンの場所、規模、ホブやシャーマンは確認しているか」

「待たれよ。とりあえず込み入った事情もある故、説明をしたいのだが」

「でしたら、2階に応接室があるので、よろしければ使ってください」

「おお、ありがたい」

 そんなやり取りをしていると、女神官が聞いてくる。

「あ、あの私は……」

 2階に上がろうとしたゴブリンスレイヤーはいつもどおり淡々と言う。が、聞く人によっては無慈悲にも聞こえてしまう。

「休んでいろ」

 ぶっきらぼうな一言に、しゅんとした女神官。トボトボ歩いて椅子の方に歩く女神官は、まるで捨てられた子犬のようだ。

 

 

「はぁ」

 椅子に座った女神官は、思わずため息をつく。

 受付嬢が、気を配り入れてくれたお茶を口につける。

 強壮の水薬(スタミナポーション)が含まれていたのか、疲労した体にじんわりと染み込んでいくようだった。

「ふぅ」

 今度は思わず息を吐く。

 目を閉じ、ゆっくりと背もたれに体重を預けていく。

 このまま寝てしまいそうになってしまう。

「お久しぶり!」

「わっ!」

 突然声をかけられたことに驚く女神官。

 振り返ると、そこには真新しい革鎧を着て、腰に剣と棍棒を差し、スコップを背負っていた青年剣士がいる。

 そして、女武闘家に頭を殴られた。彼女も素手ではなく、拳帯(バンテージ)を手に巻きつけて、以前、青年剣士が身につけていた胸当てを、道着上から着けている。流石に手加減して殴ったが、それでも痛そうだ。

「まったく、驚かせてごめんね」

「い、いえ。ご健勝でなによりです。色々買えたんですね」

 女神官の言葉に、はにかむ女武闘家。青年剣士も誇らしそうに胸を張る。

「ええ、おかげで資金面じゃ、結構カツカツなのよ」

 女魔術師の言葉に、先程の2人の顔色が途端に悪くなる。

 じろりと睨みつけるような視線は、彼女の姿が最初の頃と変わってない様子からだろうか。

「稼ぎに行くわよ。装備強くしたのに稼ぎが減りましたじゃ、やっていけないんだから」

「うっす」

「うん」

 一党の資金管理は彼女がやっているのだろう。

 二人とも頭が上がらないようだ。

 そのことにくすっと笑ってしまいそうになる女神官。

「皆さん今から冒険ですか?」

 3人が装備を着込んでいるところを見ると、先程まで装備を整え、準備し、今から依頼を受けるところに女神官を見つけたのだろう。

「ドラゴン退治さ!」

「ええ⁉ 正気ですか⁉」

 女神官は大声を上げ、目を丸くした。

 驚きのあまり、失礼なことを言ったが、正しい言葉でもある。

 多少、装備を整えた新人が竜と戦う。

 客観的に見れば自殺志願者である。

 

 ドラゴンとは、例え若輩の竜ですら小国を滅ぼせるほどの強さを持つ。

 生半可な武器や魔法は通じず、ひとたび竜の怒りを買えば甚大な被害をもたらす。

 故に、竜殺しは多くの人に偉業とされ、冒険者にとっては憧れとなる。

 

 そして、そんな荒唐無稽なことを言った青年剣士に、女武闘家、女魔術師の拳骨が落ちる。

「馬鹿なこと言わないの」

「ちょっとは騙す相手を考えなさい」

「いや、冗談だから!だから追撃はやめてください!」

 青年剣士は両手を上げ降参の意思を表す。

 女神官は、「まぁ、そうですよね」とからかわれたことを悟る。

 なので、こちらも冗談を言うとしよう。

「ドラゴンを倒すときには、トウモロコシを持っていくといいらしいですよ」

 そんな女神官の言葉に、三人は目を点にする。

「……トウモロコシ?」

「穀物の?」

「なんでよ?」

 三人の質問に女神官はハンターから聞いた世間話のことを言う。

「なんでもハンターさんから聞いた話だと、トウモロコシで世界を滅ぼしたドラゴンを倒したらしいです。……無論、冗談でしょうけど」

 まさか本気でトウモロコシを左手に、麦わら帽子を右手に、ドラゴンを倒していたとは、毛ほども思わない新人の冒険者4人であった。

 

 

 

「あんたたち、本当に銀等級とグアサングなの?」

 応接室に入った6人。

 妖精弓手は真っ先に、ゴブリンスレイヤーとハンターを疑った。

 銀等級ではあるが、みずぼらしい革鎧と中途半端な剣に小振りな盾の装備。銀等級なら、魔剣の1振り、魔力が付与された魔法の鎧+1を身に着けてると思う。

 竜殺しと詩ではあったが、首から掛けている認識票は鋼鉄。そんな新人から中堅に変わるぐらいの人物が竜を倒したなど、にわかには信じがたい。鎧を奪ったのか、素行が悪いのかと、勘ぐってしまう。

「ギルドは認めた」

「龍を殺したという意味ならあってる」

「そっちは見るからに弱そうだし、そっちは竜を倒したなんて怪しいじゃない」

 妖精弓手の直球な感想に、ゴブリンスレイヤーもハンターも動じなかった。

「馬鹿を言うもんじゃねぇぞ、耳長」

 対して鉱人道士は妖精弓手の感想を否定する。

「見たところ、かみきり丸の方は動きやすい革鎧、不意打ち防止の鎖帷子、剣と盾は洞窟でぶん回すためにちっこい」

 鉱人にとって武具の鑑定は、それこそ朝飯前。

「噛尾刀の方は、本物の竜の鱗で作られた甲冑よ。でかい太刀を背負っても体が傾かん。よっぽど鍛えているぞい」

「ふーん」と、どうでもよさそうに相槌する妖精弓手。

「まったく、弓しか使わんから見聞が狭いんじゃよ。年長者をちっとは見習わんか」

 だが、言われっぱなしは嫌なのか負けじと言い返す。

「私2000歳。あなた、お幾つ?」

「100と7」

「あらあら、随分と老けていますこと。確かに見た目だけなら年長者ね!」

 ぐぬぬと歯ぎしりする鉱人道士。

「……で、俺達に依頼でいいんだよな?」

 話が進まないのでハンターが切り出す。

「ああ、ゴブリン退治の依頼だ。(まつりごと)の案件で、都の方で悪魔が増えているのは知っているな?」

「知らん」

「そうなのか?」

 闇女斥候は頭が痛くなったのか、頭に手を当てる。

「その原因は、魔神の復活になる。奴らは軍勢を率いて、世界を滅ぼそうとしているらしい」

「そうか」

「大変だな」

 危うく他人事のように言う2人に、大声を上げそうになるのを堪える闇女斥候。

「……それで、協力を」

「他を当たれ、ゴブリン以外に用はない」

 ゴブリンスレイヤーは、ばっさりと切り捨てる。

「ちょっと待ちなさいよ!」

 妖精弓手が怒鳴り声で、ゴブリンスレイヤーにテーブルに乗り上げ、詰め寄る。

「悪魔の軍勢が押し寄せてくるのよ⁉ 世界の命運が懸かっているって、理解してる⁉」

「理解は出来る。だが、世界が滅びる前に、ゴブリンは村を滅ぼす」

 いつもどおりの淡々と言うゴブリンスレイヤー。

「世界の危機は、ゴブリンを見逃す理由にならん」

「あなたねぇっ!」

 もはや我慢の限界と、ゴブリンスレイヤーに掴みかかろうとする妖精弓手。それを押さえる鉱人道士。

「待つんじゃい耳長の。儂らとて混沌を、どうにかさせようっていうんじゃねぇだろうに」

「小鬼殺し殿、竜殺し殿、勘違いしないでほしいのだが、先程も斥候殿が言ったように、依頼したいのは小鬼退治なのだ」

「分かった。請けよう。規模は、ホブやシャーマンの存在を確認しているか」

「……ゴブリンにしか興味がないのは理解したが、そう急かさず事情を聞いてほしい。先程、斥候殿、野伏殿が言った魔神王が目覚め、王国だの軍だのが動いたのだが」

「興味がない」

 本当に切り捨てているように言うので、闇女斥候は話を進める。

「その軍が動いたので、ゴブリン退治まで手が回らんという話だ。まぁ、出たのは森人の土地だが、森人の軍を動かせば、王国が疑う。相手が相手だから、動かす必要もないだろ、動かす本当の理由は何だっ、みたいな感じにな」

「只人の王は私たちを同胞とは認めないもの」

「ゴブリン相手に軍は動かせない。いつもの事だ」

 ゴブリン以外にもモンスターは世界に跋扈し、様々な被害を与える。

 程度によるが軍を動かすにも莫大な金が必要で、一々村を救う余裕もない。そんな中、弱小モンスターに軍を動かすというのは、色々、不信感や疑惑を持たれる。

 もしや軍が出払って手薄な都を攻めるつもりか、と。

「つぅ訳で、冒険者の仕事じゃい」

 当然といえば当然で、ゴブリン退治の依頼を、ゴブリンスレイヤーに持って来た。

「なれど、拙僧らだけでは只人の顔も立たぬ」

「で、オルクボルグとグアサングに白羽の矢が立ったわけ。そこの闇人が言うには凄腕らしいし」

「なにせ、小鬼どもは数が多い」

 ついでに戦力アップのために、竜殺しもパーティに加えようということだ。

「地図は」

「これに」

 蜥蜴僧侶が懐から取り出した巻物の地図。

 それを広げ、場所を確認した。

「遺跡か」

「恐らく」

「数は?」

「大規模、としか」

「すぐに出る。俺に払う報酬は好きに決めておけ」

 ゴブリンスレイヤーは地図を手にとって、席を立つ。

 そして、部屋から出ていこうとした。

「いや待てよ。俺も行くんだから」

「分かった。下で待つ」

 そう言うと、ゴブリンスレイヤーは今度こそ応接室から出た。

「あいつとパーティ組んでるの」

 妖精弓手は、顔をしかめながら聞いてくる。

「いや、まぁ、その都度、時々だ。あんたたちはこれからどうするんだ?」

「私も行くわよ。場所、家の森の近くだし」

「拙僧も依頼を出してついていかぬでは、先祖に顔向けできませぬからな」

「儂らもあんな解りづらい性格はしとらんでの。見ごたえがありそうな若造じゃ」

「報酬もいいしな。何しろ森人からの依頼だ。貸しを作っておくのも悪くない」

 全員が応接室を出ようとして、ふと思い出したようにハンターが言う。

「ああ、そうそう、匂い袋を買っておくといいぞ」

 闇女斥候だけは意味を理解したが、他の3人は首を傾げた。

女魔術師、女魔法使い どっちがいい?

  • 女魔術師
  • 女魔法使い

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