Wikiからグラウルングという竜を倒した魔剣から、グアサングを使っています。
「だからオルクボルグとグアサングよ」
妖精弓手がギルドの受付嬢に言う。だが、受付嬢に心当たりはない。
「えっと、人名ですか?」
「まぁ、字名よ。ここに居るんでしょ?」
と言われても、そんな字名を持っている方などいただろうか? 受付嬢は首を傾げる。
冒険者の台帳を取り出し、確認しようとしたところで、彼女の横にいた鉱人道士が口を挟んでくる。
「ここは只人の領域じゃい。かみきり丸と
「あの、そういう方も……」
「おらんのか⁉」
「まぁ、はい」
申し訳無さそうに受付嬢が言う。
「鉱人はだめね。頑固で偏屈、自分ばかり正しいと思ってる」
「この森人ときたら胸の金床にふさわしい心の狭さだからのう」
「な⁉なんですって⁉」
「そりゃ、黒長耳と比べてみ。圧倒的じゃねぇか」
「言ってくれるわね!私はまだ2000歳!あと2000年も経てば育つわ!」
妖精弓手は鉱人道士にない胸を張りながら宣言する。が、現実は残酷である。
「言っとくが、私は500歳だ」
闇女斥候がまるで鼻で笑いながら、言う。
つられるようにして、鉱人道士もニヤリと笑う。
顔を赤くした妖精弓手が、うがぁーと声を上げる。
太古から続く因縁。テンプレートというか、常識的というか、ともかく森人は闇人、鉱人との仲が悪い。
闇人と鉱人は同じ地下に住むためか、それほど仲が悪いというわけでもない。敵対関係でなければだが。
しかし、今にも飛びかかりそうな妖精弓手に受付嬢は焦りが出る。
「すまぬが喧嘩なら拙僧の見えぬところでやってくれ」
そこに、ぬっと大きな体格で鱗を全身に生やす男。
蜥蜴人僧侶は受付嬢と話を続ける。
「彼らの言う字名は、人族の言葉に変えると、小鬼殺しと竜殺しという意味になるらしい」
「小鬼殺しならゴブリンスレイヤーさんなんでしょうけど、竜殺しとなると……」
「ハンターだ。野太刀を背負っている」
「ハンターさんですか。確かに彼、ドラゴンを倒していますね」
受付嬢は、すぐにはドラゴンスレイヤーがハンターに繋がらなかった。ハンターはいろいろなモンスターを討伐している。ドラゴンだけを倒しているわけではない。なので受付嬢はハンターに、モンスタースレイヤーというイメージがある。
「それで、受付殿。小鬼殺し殿と竜殺し殿はどこに?」
「ええと、二人とも依頼で今はまだ帰ってきていませんね。ゴブリンスレイヤーさんはゴブリン退治、ハンターさんは大猪退治」
「ほほう」
「もうそろそろ戻ってくる頃だと思うんですが。……あっ!」
受付嬢はギルドの扉が開き、そこに3人の姿を見て声をあげる。
「ゴブリンスレイヤーさん!ハンターさん、お客様ですよ!」
ギルドに入ったゴブリンスレイヤー、女神官、ハンター。
ハンターはゴブリンスレイヤーたちと一緒の依頼を受けたわけではないが、帰宅途中でばったりと会って挨拶を交わしてギルドに入る。
そこに受付嬢が声をかけてきた。
カウンター前にはスラリとした身体に弓を背負った
そして、黒い肌で腰に剣を2本差している
「ああ、久しぶり」
「ゴブリンか?」
いつか会った闇女斥候だった。
とりあえず挨拶したハンターと、早々に用件を聞くゴブリンスレイヤー。
「違うわよ!」
「そうだ。ゴブリン退治だ」
ほぼ同時に返答した妖精弓手と闇女斥候。
「どっちだ?」
聞き返すゴブリンスレイヤー。
「……ゴブリン退治よ。あなたがオルクボルグ? それともグアサング?」
妖精弓手が撤回し、何かよく分からないことを聞いてきた。
「俺はそう呼ばれたことがない」
「伝説に出てくる名前だ。オルクボルグは小鬼殺しの剣でゴブリンスレイヤー、グアサングは竜殺しの剣でハンターになる」
闇女斥候の解説で頷く妖精弓手と鉱人道士。
「ならば俺だ。ゴブリンの場所、規模、ホブやシャーマンは確認しているか」
「待たれよ。とりあえず込み入った事情もある故、説明をしたいのだが」
「でしたら、2階に応接室があるので、よろしければ使ってください」
「おお、ありがたい」
そんなやり取りをしていると、女神官が聞いてくる。
「あ、あの私は……」
2階に上がろうとしたゴブリンスレイヤーはいつもどおり淡々と言う。が、聞く人によっては無慈悲にも聞こえてしまう。
「休んでいろ」
ぶっきらぼうな一言に、しゅんとした女神官。トボトボ歩いて椅子の方に歩く女神官は、まるで捨てられた子犬のようだ。
「はぁ」
椅子に座った女神官は、思わずため息をつく。
受付嬢が、気を配り入れてくれたお茶を口につける。
「ふぅ」
今度は思わず息を吐く。
目を閉じ、ゆっくりと背もたれに体重を預けていく。
このまま寝てしまいそうになってしまう。
「お久しぶり!」
「わっ!」
突然声をかけられたことに驚く女神官。
振り返ると、そこには真新しい革鎧を着て、腰に剣と棍棒を差し、スコップを背負っていた青年剣士がいる。
そして、女武闘家に頭を殴られた。彼女も素手ではなく、
「まったく、驚かせてごめんね」
「い、いえ。ご健勝でなによりです。色々買えたんですね」
女神官の言葉に、はにかむ女武闘家。青年剣士も誇らしそうに胸を張る。
「ええ、おかげで資金面じゃ、結構カツカツなのよ」
女魔術師の言葉に、先程の2人の顔色が途端に悪くなる。
じろりと睨みつけるような視線は、彼女の姿が最初の頃と変わってない様子からだろうか。
「稼ぎに行くわよ。装備強くしたのに稼ぎが減りましたじゃ、やっていけないんだから」
「うっす」
「うん」
一党の資金管理は彼女がやっているのだろう。
二人とも頭が上がらないようだ。
そのことにくすっと笑ってしまいそうになる女神官。
「皆さん今から冒険ですか?」
3人が装備を着込んでいるところを見ると、先程まで装備を整え、準備し、今から依頼を受けるところに女神官を見つけたのだろう。
「ドラゴン退治さ!」
「ええ⁉ 正気ですか⁉」
女神官は大声を上げ、目を丸くした。
驚きのあまり、失礼なことを言ったが、正しい言葉でもある。
多少、装備を整えた新人が竜と戦う。
客観的に見れば自殺志願者である。
ドラゴンとは、例え若輩の竜ですら小国を滅ぼせるほどの強さを持つ。
生半可な武器や魔法は通じず、ひとたび竜の怒りを買えば甚大な被害をもたらす。
故に、竜殺しは多くの人に偉業とされ、冒険者にとっては憧れとなる。
そして、そんな荒唐無稽なことを言った青年剣士に、女武闘家、女魔術師の拳骨が落ちる。
「馬鹿なこと言わないの」
「ちょっとは騙す相手を考えなさい」
「いや、冗談だから!だから追撃はやめてください!」
青年剣士は両手を上げ降参の意思を表す。
女神官は、「まぁ、そうですよね」とからかわれたことを悟る。
なので、こちらも冗談を言うとしよう。
「ドラゴンを倒すときには、トウモロコシを持っていくといいらしいですよ」
そんな女神官の言葉に、三人は目を点にする。
「……トウモロコシ?」
「穀物の?」
「なんでよ?」
三人の質問に女神官はハンターから聞いた世間話のことを言う。
「なんでもハンターさんから聞いた話だと、トウモロコシで世界を滅ぼしたドラゴンを倒したらしいです。……無論、冗談でしょうけど」
まさか本気でトウモロコシを左手に、麦わら帽子を右手に、ドラゴンを倒していたとは、毛ほども思わない新人の冒険者4人であった。
「あんたたち、本当に銀等級とグアサングなの?」
応接室に入った6人。
妖精弓手は真っ先に、ゴブリンスレイヤーとハンターを疑った。
銀等級ではあるが、みずぼらしい革鎧と中途半端な剣に小振りな盾の装備。銀等級なら、魔剣の1振り、魔力が付与された魔法の鎧+1を身に着けてると思う。
竜殺しと詩ではあったが、首から掛けている認識票は鋼鉄。そんな新人から中堅に変わるぐらいの人物が竜を倒したなど、にわかには信じがたい。鎧を奪ったのか、素行が悪いのかと、勘ぐってしまう。
「ギルドは認めた」
「龍を殺したという意味ならあってる」
「そっちは見るからに弱そうだし、そっちは竜を倒したなんて怪しいじゃない」
妖精弓手の直球な感想に、ゴブリンスレイヤーもハンターも動じなかった。
「馬鹿を言うもんじゃねぇぞ、耳長」
対して鉱人道士は妖精弓手の感想を否定する。
「見たところ、かみきり丸の方は動きやすい革鎧、不意打ち防止の鎖帷子、剣と盾は洞窟でぶん回すためにちっこい」
鉱人にとって武具の鑑定は、それこそ朝飯前。
「噛尾刀の方は、本物の竜の鱗で作られた甲冑よ。でかい太刀を背負っても体が傾かん。よっぽど鍛えているぞい」
「ふーん」と、どうでもよさそうに相槌する妖精弓手。
「まったく、弓しか使わんから見聞が狭いんじゃよ。年長者をちっとは見習わんか」
だが、言われっぱなしは嫌なのか負けじと言い返す。
「私2000歳。あなた、お幾つ?」
「100と7」
「あらあら、随分と老けていますこと。確かに見た目だけなら年長者ね!」
ぐぬぬと歯ぎしりする鉱人道士。
「……で、俺達に依頼でいいんだよな?」
話が進まないのでハンターが切り出す。
「ああ、ゴブリン退治の依頼だ。
「知らん」
「そうなのか?」
闇女斥候は頭が痛くなったのか、頭に手を当てる。
「その原因は、魔神の復活になる。奴らは軍勢を率いて、世界を滅ぼそうとしているらしい」
「そうか」
「大変だな」
危うく他人事のように言う2人に、大声を上げそうになるのを堪える闇女斥候。
「……それで、協力を」
「他を当たれ、ゴブリン以外に用はない」
ゴブリンスレイヤーは、ばっさりと切り捨てる。
「ちょっと待ちなさいよ!」
妖精弓手が怒鳴り声で、ゴブリンスレイヤーにテーブルに乗り上げ、詰め寄る。
「悪魔の軍勢が押し寄せてくるのよ⁉ 世界の命運が懸かっているって、理解してる⁉」
「理解は出来る。だが、世界が滅びる前に、ゴブリンは村を滅ぼす」
いつもどおりの淡々と言うゴブリンスレイヤー。
「世界の危機は、ゴブリンを見逃す理由にならん」
「あなたねぇっ!」
もはや我慢の限界と、ゴブリンスレイヤーに掴みかかろうとする妖精弓手。それを押さえる鉱人道士。
「待つんじゃい耳長の。儂らとて混沌を、どうにかさせようっていうんじゃねぇだろうに」
「小鬼殺し殿、竜殺し殿、勘違いしないでほしいのだが、先程も斥候殿が言ったように、依頼したいのは小鬼退治なのだ」
「分かった。請けよう。規模は、ホブやシャーマンの存在を確認しているか」
「……ゴブリンにしか興味がないのは理解したが、そう急かさず事情を聞いてほしい。先程、斥候殿、野伏殿が言った魔神王が目覚め、王国だの軍だのが動いたのだが」
「興味がない」
本当に切り捨てているように言うので、闇女斥候は話を進める。
「その軍が動いたので、ゴブリン退治まで手が回らんという話だ。まぁ、出たのは森人の土地だが、森人の軍を動かせば、王国が疑う。相手が相手だから、動かす必要もないだろ、動かす本当の理由は何だっ、みたいな感じにな」
「只人の王は私たちを同胞とは認めないもの」
「ゴブリン相手に軍は動かせない。いつもの事だ」
ゴブリン以外にもモンスターは世界に跋扈し、様々な被害を与える。
程度によるが軍を動かすにも莫大な金が必要で、一々村を救う余裕もない。そんな中、弱小モンスターに軍を動かすというのは、色々、不信感や疑惑を持たれる。
もしや軍が出払って手薄な都を攻めるつもりか、と。
「つぅ訳で、冒険者の仕事じゃい」
当然といえば当然で、ゴブリン退治の依頼を、ゴブリンスレイヤーに持って来た。
「なれど、拙僧らだけでは只人の顔も立たぬ」
「で、オルクボルグとグアサングに白羽の矢が立ったわけ。そこの闇人が言うには凄腕らしいし」
「なにせ、小鬼どもは数が多い」
ついでに戦力アップのために、竜殺しもパーティに加えようということだ。
「地図は」
「これに」
蜥蜴僧侶が懐から取り出した巻物の地図。
それを広げ、場所を確認した。
「遺跡か」
「恐らく」
「数は?」
「大規模、としか」
「すぐに出る。俺に払う報酬は好きに決めておけ」
ゴブリンスレイヤーは地図を手にとって、席を立つ。
そして、部屋から出ていこうとした。
「いや待てよ。俺も行くんだから」
「分かった。下で待つ」
そう言うと、ゴブリンスレイヤーは今度こそ応接室から出た。
「あいつとパーティ組んでるの」
妖精弓手は、顔をしかめながら聞いてくる。
「いや、まぁ、その都度、時々だ。あんたたちはこれからどうするんだ?」
「私も行くわよ。場所、家の森の近くだし」
「拙僧も依頼を出してついていかぬでは、先祖に顔向けできませぬからな」
「儂らもあんな解りづらい性格はしとらんでの。見ごたえがありそうな若造じゃ」
「報酬もいいしな。何しろ森人からの依頼だ。貸しを作っておくのも悪くない」
全員が応接室を出ようとして、ふと思い出したようにハンターが言う。
「ああ、そうそう、匂い袋を買っておくといいぞ」
闇女斥候だけは意味を理解したが、他の3人は首を傾げた。
女魔術師、女魔法使い どっちがいい?
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女魔術師
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女魔法使い