日が落ち、暗い空に、星や月が輝く。
広野で焚き火をする冒険者が7人。
ゴブリンスレイヤー、女神官、妖精弓手、闇女斥候、鉱人道士、蜥蜴僧侶、ハンター。
近くには森人たちの住んでいる森があり、明日には件のゴブリンが居る遺跡へ到着予定。
「そう言えばみんな、どうして冒険者になったの?」
「そりゃあ、美味いもん食うために決まっとろうが」
「金以外に何がある」
妖精弓手の質問に、鉱人道士と闇女斥候は答える。
「だと思った。私は外の世界に憧れてだけどね」
3人の理由は分かりやすかった。
「拙僧は、異端を殺して位階を高め、竜となるため」
「えっと、まぁ、宗教は分かります。わたしも、そうですから」
蜥蜴僧侶の理由に、戸惑う女神官。
ハンターも驚く。妄想だと思っていた擬人化する竜なのだろうか。
「ゴブリンを」
「あんたのは何となく分かるからいいわ。そっちは」
妖精弓手はゴブリンスレイヤーの話を遮って、ハンターに聞く。
「仕事をするためだ。冒険者は誰でもなれるし」
転移でいきなりこの地に来たので、身分の保証ができないハンターがなれる冒険者。
ハンターになるにも、身分はいらない。
ただ、マナーがなっていない者もいる。
そういった者が等級を上げられない冒険者ギルドの管理はすごいものだ。
「美味い!なんじゃ、この肉は?」
「沼地の獣の肉だ。口にあって何より」
「沼地の獣って言うと……何の肉だ?」
蜥蜴僧侶が出した肉。焼いた肉を食べている鉱人道士は絶賛し、ハンターも1つ手に取り食べる。確かに美味い。が、沼地にいる獣ってなんだろう。ワニだろうか?
「沼地ぃ?」
「野菜しか食えんウサギもどきには、この旨さはわからんよ」
「ぐぬぬ」
鉱人道士がとても美味しそうに食べるので、妖精弓手は唸る。
「あの、よかったら豆のスープ食べます?」
「いただくわ!」
「私ももらおう」
飛びつくようにして、女神官から差し出されたスープを食べ始める妖精弓手。闇女斥候も受け取って食べ始める。
「んん!優しい味ね」
「あっさりとしていて、美味いな」
森人や闇人は感情が耳に出るらしく、二人とも長い耳がピコピコ上下に動く。
「これは私も、お返しをしないといけないわね」
そう言って妖精弓手は、クッキーのような物を取り出す。
「乾パン……じゃないですね。クッキーとも違うような」
「森人の保存食。本当は滅多に人にあげてはいけないのだけど、今回は特別!」
「美味しい!」
一口かじった女神官は、思わず声を上げる。
「私からは、これを出す」
闇女斥候から出てきたのは、乾燥させた果実、ドライフルーツだった。
「1つもらい!」
ひょいと摘んで口の中に入れる妖精弓手。
そして、気に入ったのか、パクパクと食べていく妖精弓手だったので、闇女斥候がドライフルーツを取り上げる。
「食いすぎだ!」
「ええ、いいじゃない。ケチー」
ガヤガヤ騒ぎ出す妖精弓手と闇女斥候。
「まぁ落ち着けやい。わしも鉱人の火酒で対抗せねばの!」
鉱人道士が差し出さした柄杓にたっぷりと注がれた火酒。
妖精弓手が飲めば辛さに咳き込み、闇女斥候が飲めば一口で顔が赤くなる。
「ほれ、かみきり丸、噛尾刀。おめぇさんらも飲め!」
差し出された火酒を飲むゴブリンスレイヤーとハンター。
「……」
「くぅ! 効くね、これ」
「くくく、おめぇさんらいける口じゃな」
ゴブリンスレイヤーは終始無言のまま。
ハンターはいろいろなお酒を飲んできたが、それでも火酒はかなり度数が高いと思う。蒸留酒のような感じだ。
「あんたたちも何か出しなさいよ~」
「そうだな……。これはどうだ?」
酔って絡み酒になっている妖精弓手に、ハンターはしばし悩み、ハチミツとソーセージを出す。
妖精弓手は瓶に入っているハチミツを、指で掬って舐める。
ソーセージは闇女斥候が火で炙って食べた。
「んぅー。あっま!」
「独創的な味だが美味いな」
ゴブリンスレイヤーは、無言のまましていた装備の点検を一度手を止め、雑嚢からチーズの塊を取り出した。
「……これでいいか」
「なんですかな、これは」
「チーズだ。牛や羊の乳を発酵させ、固める」
出されたチーズの塊を、不思議そうに見る蜥蜴僧侶。
「なんじゃい、鱗の。チーズを知らんのか?」
「拙僧らにとって獣とは狩るもの。育むものではない」
「貸して、切ってあげる」
妖精弓手がチーズの塊を、石を研磨したようなナイフで切り分ける。
切られたチーズを火で炙ると、トロォと溶け始める。それを食べた蜥蜴僧侶が、喜びのあまり叫ぶ。
「甘露!」
ハンターはソーセージに溶けたチーズをかけて、食べようとした所、じっとハンターを(正確には手に持ったソーセージを)見ていた蜥蜴僧侶が聞いてくる。
「そのような食べ方があるので?」
「……食うか?」
「よろしければ」
チースの乗ったソーセージをハンターから手渡され、がぶりと食べる蜥蜴僧侶。
「甘露‼甘露なり‼これぞ極上の味に他ならず‼」
蜥蜴僧侶は立ち上がり、ソーセージを挿していた串を天高く突き刺す。
それはさながら、石に刺さっていた伝説の剣を抜いた勇者だ。
「野菜や料理にソースをかけて、チーズを絡めるチーズフォンデュとかも地域によってはあるが」
「なんと⁉おお、世界は広く深いものですな」
「のう、噛尾刀。その太刀、見せてくれんかの」
ハンターは鉱人道士に太刀を渡す。
太刀の重さに、鉱人道士は思わず腰を抜かしそうになる。
「おっとと。か、かなり重たいんじゃな」
刀身や柄、鍔元をしげしげと観察する鉱人道士。
「そんなの見て何が面白いのよ」
「まったく、この鋼の良さがわからんとは。かなり使い込まれていて、途轍もない切れ味に頑丈さ。この刀を打った職人はとんでもない腕利きよ。古の鉱人でさえ、打つのは困難じゃろうよ」
「へー」
と、鉱人道士の説明に相槌し太刀を見つめる妖精弓手。
「あの双剣は置いてきたが、いいのか?」
「今回は遺跡だろ。十分太刀を振れる」
闇女斥候の問に、ハンターは太刀を振る動作をしながら答える。
双剣は闇女斥候も使っている。大規模なゴブリンの数なので、ほぼ確実に大型モンスターがいる。大型モンスター相手に、使い慣れた太刀を持ってきた。
「確か、竜殺し殿はこの湾刀で黒竜を倒されたとか」
「それが?」
「いえ、術士殿の説明に、納得しかなく。拙僧が竜になれば、竜殺し殿と戦うこともあるのやもしれませんな」
「チーズ好きの竜と戦うなんて初めてになるな。……チーズ投げて食っている間に斬りかかるとしよう」
「ふはは。いいですぞ。挑まれてこその竜ですからな」
蜥蜴僧侶とハンターの物騒な話にオロオロする女神官。
「え、あの……本気じゃないですよね」
「無論、竜に成れればの話であります故」
「まぁ、今は戦う理由もないしな」
笑い合う2人に女神官は顔を引き攣らせた。
夕食はそれなりに騒がしく、楽しく過ぎていく。
「拙僧、気になっていたのだが、小鬼どもはどこから来るのだろう。拙僧は、地の底に王国があると聞いたが」
「確か、堕落した圃人だの、森人だのではなかったか?」
「わしらもそう聞いておるの」
「ひどい偏見ね。私は森人が堕落したら闇人になって、アレは黄金に魅せられた鉱人の成れの果てと聞いたわ」
闇女斥候、鉱人道士、妖精弓手は互いに互いを睨み合う。
「どっちが先か後か。それを言ったら戦争だ」
「あら、蜥蜴人は地底から来ると伝えてるのよ。鉱人や闇人の領域じゃない」
「ぬ」
「むむむ」
言い返せずにいる鉱人道士と闇女斥候。
勝ったと妖精弓手は平たな胸をこれでもかと張る。
「わ、私は誰かが失敗すると1匹増える、と聞きますね。子供の躾の言い伝えですけど」
女神官は、バチバチと視線から火花を出しそうな雰囲気を変えようとしたのか、戸惑いながら言う。
「大変じゃぞ!そこの耳長娘を放っておけば、うじゃうじゃ増えるちゅうことではないか」
鉱人道士も、本気ではないだろう。大げさに手を振りながら、慌てた様子を表現する。
「まぁ、失礼しちゃう!明日には私の弓の腕をはっきり見せてあげるんだから!」
「……弓。まさかとは思うが接近してバンバン射る、とかではないよな?」
「そんな使い方、私がするわけないじゃない!」
闇女斥候はハンターを見ながら、うんと頷く。
「俺は、月から来た、と聞いた」
騒がしい中、ぽつりと呟くようにゴブリンスレイヤーが言う。
「月?あの空に浮かぶ2つの?」
「そうだ。緑の方だ。緑の岩でできた場所から、ゴブリンは来る」
蜥蜴僧侶の疑問に答えるゴブリンスレイヤー。
「それじゃ、流れ星は小鬼なわけ?」
「知らん。だが、月には草も、木も、水もない。岩だけの寂しい場所だ。奴らはそうでないものが欲しく、羨ましく、妬ましい。だからやって来る」
一拍置いて、淡々と言うゴブリンスレイヤー。
「だから、誰かを妬むと、ゴブリンのようになる」
なんというか幻想的な、しかし、悲しさがあるような詩のようである。少なくともハンターはそう思った。
「あの、どなたから教わったのですか?」
「姉だ」
「お姉さんがいらっしゃるのですか」
「ああ、いた」
なぜ、過去形で話すのか、聞くのは野暮だ。
「じゃあ、お前は月からゴブリンが来るって信じているのか」
闇女斥候は月を見上げながら、しかし、信じてはいなさそうに言う。
「ああ、少なくとも姉は、何かを失敗したことはなかったはずだ」
ゴブリンスレイヤーも月を見上げる。
つられるようにして、ハンターも月を見ながら言った。
「俺の所じゃゴブリンが居ないのは、月が2つもないからかもな。月を呑み込んだ龍がいたとか、月をにぎりつぶしたとか、ってどこかで聞いた話だし」
「……想像もできませんな」
実際にできたかどうかはともかく、古龍には地形を、天候を変えるほどの力を持っている。
それほどの力を持った古龍が滅びたり、生まれたり。
世界は停滞はせず、回り続けるだけだ。
「月を壊すか……」
ゴブリンスレイヤーは、それを言ったきり無言になる。
「寝ちゃったわ」
「火酒が効いたかの」
妖精弓手はゴブリンスレイヤーの兜に顔を寄せ、猫のように笑った。
鉱人道士は酒を飲み終え、酒瓶に蓋をする。
「ガブガブ飲んでましたものね、そういえば」
女神官は毛布をゴブリンスレイヤーにかけた。
「拙僧らも休もう。しっかり眠らねば、それこそ失敗してしまう」
「見張りは取り決めどおりだ」
もぞもぞと毛布に包まり出す冒険者たち。
「ああ、明日に備えよう」
ハンターも平原に上向きに寝っ転がり、寝始める。
夜は静かになって過ぎていった。
女魔術師、女魔法使い どっちがいい?
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女魔術師
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女魔法使い