「やぁああ!」
長い赤毛の少女。輝く鎧を身に着け、太陽の聖剣を手に見事な一太刀を敵に浴びせる。
「くっ、勇者がこれほどとは……」
勇者に襲われた魔神将のアークデーモン。
手下のモンスターは剣聖と賢者によって全滅した。
自身も聖剣で斬りかかられ、深手を負うものの、逃げようとする。
背中のコウモリの形をした翼を広げ、空へと逃げようとした。幸い、勇者は人間。術で攻撃されても、一回くらいは耐えられる。
「ニャー!」
飛び出てきた小さな戦士。
圃人よりも小さい猫が、魔神将の逃亡を阻止しようとする。
その猫はブーメランを投げた。
魔神将はその攻撃を侮った。その程度の攻撃、何もせずとも防げると思っていた。
「ぐっ⁉」
だが、そのブーメランは、魔神将の頭に易々と突き刺さる。
小さな刃と侮り、想定外のダメージによろめいた魔神将。
空中で姿勢を崩し、落下する。
「この、畜生、風情……が‼」
それが、魔神将の最期の言葉だった。
頭から落ち、首を折る。
「弱らせた獲物を横から掻っ攫う。これこそニャンターの醍醐味ニャ!」
「それは手柄を横取りしているだけでしょう」
胸を張って言うニャンターに剣聖はため息を吐く。
「まぁ、いいじゃん!悪党は成敗!」
ガッツポーズする勇者に合わせ、ニャンターも合わせてドヤッと胸を張る。
「……ともかく、報告しに帰る」
賢者の意見に「はーい」と返す勇者。
トテトテ付いて行くニャンター。
ニャンターが、どこかから取り出す野菜や肉を、トトトンとまな板の上で切り分けていく。
焚き火の鍋にはスープがあり、切り分けた具材を中に入れていく。
他には焚き火の周りに、串で刺した魚を置いて炙っている。
美味い匂いを出しつつあるスープは、腹の減らした者たちの喉をごくりと唸らす。
「ねぇ、まだぁ~?」
「もうちょいニャ」
勇者のねだりに、ニャンターはスープをかき混ぜ、おにぎりを握りながら答えた。
うー、と悲しげな勇者。視線はスープを凝視し、手に持ったスプーン、手を置いている膝は小刻みに振動している。
「……はしたないですよ」
「だって、おなかが減ったのと美味しそうなご飯が悪い」
「嬉しいけど、風評被害ニャ」
おにぎりを炙り、焦げ目を付けたところで「完成ニャ」と皿に盛り付ける。
「いただきま~す!」
と、元気よくかぶりつく勇者。
賢者も剣聖もニャンターも食べはじめた。
「おいしー!」
「ん」
「ええ、身にしみます」
ニャンターが作った料理を、勇者が絶賛し、賢者が賛同する。
剣聖もコクコクと頷き、上品に食べていく。
夜も更けてきた。
食べ終われば、寝袋を敷く勇者と賢者、ニャンター。
剣聖は火と見張り番をする。
それでも、寝つくには少し早い。
「そう言えば、ニャンターって別の人とパーティ組んでたんだよね」
「そうニャ。ハンターさんと色々な所を回って、いろんなモンスターを倒してたニャ」
「そのハンターさんとボク、どっちが強い?」
ニャンターの話は聞いていてワクワクする。
山のように強大な龍から砦を守った。
建物や廃材を材料に強大になる大きな虫と戦った。
そんな人なのに、フィールドに入った瞬間にモンスターにぶっ飛ばされる。
壁に追い詰められて、ボコボコにされる。
地図があっても森で迷子になってしまう話など、笑い事ではない失敗談を面白く話すのでついつい聞きたくなる。
「難しいニャー」
「どちらかが上か下かなんて比べてみるまでわからない。それに強さなどは不変的で、話に聞く限りどっちもどっち」
色々と人間やめているハンターとバグってんじゃねーのと言いたくなる勇者。ニャンターは頭の中で戦わせてみる。結果は勇者の方が若干有利じゃないかニャーと思った。だって魔法とか使えるし。
どっちが強いかなど、不毛な争いであると賢者は言う。
「だって、お話に出てくるような人だよ。気になるじゃないか」
「そうですね。一度、腕くらべしたいものです」
勇者は話に出てきたから、単に会ってみたいと思っているだけなのだが、剣聖は出会った瞬間に立ち会いを要求しそうだ。
「じゃあさ、雷の狼と戦った時のこと教えてよ」
「何十体も討伐したニャ。ボウガンとか、スラッシュアックスとか、本当に色々な武器でニャ。でも、雷で目眩を起こしている間にお手付き、体を叩きつけたりでぶっ飛ばされて、力尽きてキャンプに運ばれることが最初は多かったニャ」
「普通、力尽きたら死ぬと思うんですが」
「ハンターたちは3回まで力尽きることができるニャ」
まっとうな疑問に思った剣聖に、よくわからない答えで返すニャンター。
「ともかく、もっとお話聞かせてよ」
子供が母親にねだるように、勇者は話を催促した。
勇者も年頃の少女なのだ。冒険譚に目を輝かす。
女魔術師、女魔法使い どっちがいい?
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