ゴブリンスレイヤーとモンスターハンター   作:中二ばっか

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1-4 白磁等級、ソロ依頼

 ハンターは今、一人でギルドに居る。

 今日はゴブリンスレイヤーは休みだ。

 彼は、装備の整備(彼の場合、武器は使い捨てるものなので防具の点検だろう)やアイテムの補給、農場の手伝いで、依頼は受けないと昨日言われた。

 

 さて、ここでハンターは思い悩んだ。

 ゴブリンの討伐依頼がない。

 いつもならゴブリンの討伐依頼は、3件はありそうなものなのに。

 

 ギルドに居る受付嬢に聞いてみる。

「はい。ゴブリンスレイヤーさんとハンターさんがこの周囲のゴブリンの巣を減らしてくれたおかげで、今の所ゴブリン関連の依頼はないですね。それでも、2、3日もすれば出てきちゃうんですけどね」

 

 今日はゴブリン狩りではなく、他の依頼で金を稼ぐことにする。

 いまだに、ここの地域の字が読めないので、受付嬢に白磁等級の依頼を見繕ってもらう。

 

 その中で、薬草集めの依頼を受けた。

 依頼主は薬医師。

 なんでも、薬草の群生地に大型モンスターが現れたらしく、戦闘能力を持たない薬医師では採集が心もとない。採取中に後ろから、モンスターに襲われることを危惧している。

 冒険者に討伐依頼を頼みはしたが、討伐対象の捜索時間がかかって、取り置きしていた薬草の底が見えてきたらしい。

 

 報酬は安い。

 だが、調合用のキノコや虫の採取をしたいハンターには、うってつけの依頼だ。

 「大型モンスターの遭遇にはくれぐれも気をつけるように!」と受付嬢に念を押され、薬草の群生地へと向かった。

 

 

 

 鬱蒼と茂る森で、せっせと森のめぐみを採取していたハンター。

 依頼内容の薬草を10束。

 自身で使う予定の薬草を集め、その場で調合し回復薬を10個制作。

 アオキノコ、マヒダケ、ネムリダケ、毒キノコ、ツタの葉、をポーチに詰めるだけ採取。ハチミツもある程度採取できた。

 虫はにが虫が3匹、不死虫2匹としょぼい結果だ。

 まぁ、虫は培養すればいいと思い、依頼を達成しようとギルドへ戻る。

 

 収納BOXやベースキャンプがないので、かなり不便だ。

 ただ、ここの地域では、これが普通とのこと。

 まぁ、最近になってベースキャンプで装備を変更でき、アイテムBOXから消費した物を補充できるほど便利になってしまった。

 不便と思うのは、便利すぎた狩猟生活に慣れていたみたいだ。

 

 世代ではないが、昔は強化や生産するのに素材を直接、加工屋まで持っていく必要があったらしい。

 アイルーが宅配をしてくれるようになって、素材をマイハウスのBOXに入れていても、強化、生産が滞りなくできるようになった。

 その他にも、農園の管理、アイルーキッチンでの食事、危険な状態からベースキャンプへ撤退させてもらえるネコタク、ハンターと一緒に戦ってくれるオトモアイルー。

 

 ハンター生活にはアイルーの協力が必要不可欠と言ってよかった。

 だが、ここではアイルーはいない。

 ここの狩猟生活の不便さにため息が出る。

 

 そんなことを考えながら森を歩いていると、後ろから声がしてくる。

 

「なんで灰色熊が2頭もいるんだよ!」

「口開くより足動かせ! あいつらかなり速いんだぞ!」

「誰ですか! 灰色熊を1頭倒すだけの簡単なお仕事って言ったのは!」

「てめぇだよ! ちくしょう!」

 何人か、そして、人ではない足音がこちらに迫ってくる。

 即座に振り返り、状況確認。

 

 灰色のアオアシラといえばいいのか。

 人の身長を越す、灰色の剛毛で覆われた体。

 太い牙や爪、太い手足、血走った目。

 眼の前を走る冒険者4人を獲物と定めた2頭が、4足で追いかけていた。

 

「! おい! そこの奴、逃げろ! 灰色熊が来るぞ!」

 ハンターに気付いた男が、警告するがもう遅い。

 こうなったら、迎撃したほうが安全だ。

 腰の片手剣と右腕の盾を捨てて、太刀を抜く。

 

 冒険者を追ってきた先頭の奴に、出合い頭、太刀を振り下ろす。

 最高峰の切れ味を持つ太刀は、熊の頭蓋骨を何の抵抗もなく真っ二つ。

 一撃で仲間がやられたことに驚き、怒ったもう1頭の熊は4足歩行を止め、立ち上がり威嚇してくる。

「GOOOOO!」

 咆哮は耳を塞ぐほど大きなものではなかった。

 やった! 攻撃チャンス!

 そう思うのはハンターの本質だろう。

 振り下ろしていた太刀を切り上げる。

 

 胴体を切られた灰色熊。

 鮮血が傷口から吹き出すが、まだ倒れない。

 ハンターを睨みつける目は鋭い。

 

 腕を振りかぶって、爪で殺しにかかる。

 だが、そんな予備動作見え見えの攻撃は当たらない。

 ハンターは豪腕を避けて、熊の攻撃後の隙を狙い気刃斬り。

 横薙ぎに払われた太刀は、熊の胴体を切断し、上半身と下半身がお別れする。

 

 しかし、それでもまだ完全に息絶えてはいない。

 情けとばかりにハンターは熊の頭に太刀を振り下ろし、今度こそ命を奪った。

 

 呆気ないほどに簡単に討伐した。

 4人の冒険者が弱らせていたのかと思った。しかし、それにしては熊たちに致命傷となる傷がない。

 

「あんた凄いな! 1人で瞬く間に2頭の灰色熊を倒すなんて!」

「銅? もしかして銀?」

 先程、熊2頭に追われていた冒険者たちが、ハンターに声をかけてきた。

「白磁だけど」

「いや、うそだ。白磁はありえねぇよ」

 素直に答えたのに、信じてもらえないのでギルドにもらったタグを見せる。

 

「本当に白磁等級かよ」

 全員が驚いていた。

 

 

 灰色熊の毛皮、牙、爪を剥ぎ取り、ギルドに薬草を届け依頼達成。

 そのときに付いてきた冒険者が、受付嬢に依頼の内容を報告した。

 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたが、剥ぎ取った毛皮の量を見て、謝罪した。

 なんでも、依頼を受けた際は、1匹という話だった。

 ハンターにとっては、狩場に他のモンスターが乱入など、珍しくもない。

 冒険者にもよくあることで、納得もしていた。

 

 だが、討伐したのがハンター。

 謝礼金としてギルドの内部にある酒場で、助けた冒険者が奢ってくれることとなった。

「まぁ、なんでも食ってくれ」

「大食いだがいいのか?」

「ああ、遠慮するなよ!」

「助けてもらったんですし、このぐらいはしないと」

 

 ハンターは彼らの奢りということで、店のメニューで高い肉料理とスープ、特大ハンバーガーという料理を注文。

「デザートは?」

「良いんだが……。1人で食べる気か?」

「無論」

 ハンターは大食らいである。

 実際に出てきた、子豚の丸焼き(数人で分けて食べる)を1人で完食。

 前菜として出てきたスープはすぐに飲んで、途中で出てきた特大ハンバーガーをぺろりと食べながらだ。

 

 それでも、最近の貧乏生活からか、もう少し食っておきたい。

「おかわりいいか?」

「す、済まない。さすがにこれ以上食べられると、こっちが持たない。デザートで最後にしてくれ」

 仕方がない。自分だって最近は、金の管理を考えなければならない。

 新人のうちはどうしても出費が厳しい。

 武器の強化、防具の生産はその最たるもので、素材を揃えたのはいいが、金が足らないなんてことも。

 まぁ、最高ランクのハンターになろうが、武具の調達で金が足らなくなるってのはあったが。

 

「それにしても凄まじい太刀筋だな。何処で習ったんだ?」

「最初は訓練所で。それからは実戦を重ねた」

 届いたデザート、アイスクリンをスプーンで掬いながら答える。

 

「実戦って?」

「いろんなモンスターを太刀で斬っただけ。まぁ、他の武器も使っていたんだけど」

 その中で、狩猟笛だけはどうしても使いこなすことはできなかった。

 楽譜、覚えるのめんどくさい。

 

「へぇー。でもなんで白磁なんだ? それだけの腕があれば、バッサバッサ大物倒して、スピード昇格できそうだけど」

「白磁ができる討伐依頼は巨大ネズミ、巨大ゴキブリ、後はゴブリンだ。俺はゴブリンスレイヤーと一緒に、ゴブリン狩りしている」

「ああ、あの雑魚狩り専門の」

 何やら含んだ言い方をする冒険者。

 

「なぁ、あいつに囮にされたりとかしてるんなら、俺らのパーティーに入らないか?」

「……はぁ? なんで、あいつがそんなことをするんだ?」

「いや、だっておかしいだろ。銀等級なのにゴブリンばっかり」

「私たち、青玉ですけど、ゴブリンより他の討伐のほうが稼げますし」

 どうやらゴブリンスレイヤーは、他の冒険者に煙たがれているらしい。

 ハンターにとっては、特定のモンスターだけを狩り続けることは、別に不思議な事でもない。ハンターは天鱗が出ないからと、何度も狩り続けるものだし。

 

 他にも、モンスターに大事な人や自分の住んでいた村を奪われれば、憎んでしまう。そのことから、奪ったモンスターに復讐するハンターもいる。

 一部の愛好家は、特定のモンスターを狩り続ける。ゲリョスやフルフルなどを、愛らしいという理由で、狩り続けるのだ。

 ゴブリンは愛らしいとは、毛ほどもないので、ゴブリンスレイヤーの場合は前者だと思う。

 

「……ゴブリンスレイヤーはそこまでクソ野郎じゃないし、どんな依頼を受けようが本人の自由だろ。それに――」

「それに?」

「ゴブリンみたいなクソ野郎は、生かしておくべきじゃない」

 少なくともハンターにとって、ゴブリンは根絶するべき存在だ。

 ハンターが居た場所のモンスターには、環境は厳しく、死ねば肉となって食われる。

 ゴブリンは悪意に満ち、ゲラゲラと嘲笑し、犯し、嬲って殺す。

 どちらも悲惨だ。

 

 弱肉強食は理解できる。納得もしている。

 

 倒した竜から鱗や牙を剥ぎ取り、それを身に着けるハンターは野蛮だと、言われることもある。

 実際、野蛮だ。

 殺した相手の骨の髄まで奪うのだから。

 そこはゴブリンと大差ない。

 

 だが、それでも、感謝はしている。

 素晴らしい装備をくれた竜は、ハンターの一部として力となってくれている。

 装備は財産であると同時に、頼りになる相棒だ。

 

 それが多分、ゴブリンとハンターとの違い。

 彼らは何も重んじない。あるのは自身の悪意と欲望。

 ただ、ハンターにとってはゴブリンたちの悪意が、許せないだけの話だ。

 

「まぁ、分からねぇけど。俺たちのパーティはいつでも歓迎だぜ」

「ああ、人手が足らなくなったら協力を頼む」

「ええ、あなたなら心強いです」

「おいおい、俺たちが心許もないのかよ!」

「ともかく、この日の出会いに乾杯!」

 

「乾杯!」

 それはそれとして、依頼達成の後に他の同業者と飲むのは、別に悪いことではない。

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