ゴブリンスレイヤーとモンスターハンター   作:中二ばっか

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気の重くなることが多い時ですが、遅れながらにメリークリスマス!


5−1 ハンターに理科実験は無理

 牧場でのゴブリン軍討伐が終わった。

 女魔術師の「トロルに賞金は出ないの⁉︎」という問いに、ギルドの受付嬢は「ないです」という世知辛い返答があったこと。

 ゴブリンスレイヤーと女神官が大量の金貨が入った袋を持っていた。ゴブリンロードの武器が業物だったらしい。それを売却し得た金貨で祝杯をあげた際、ゴブリンスレイヤーが兜を脱いで素顔を晒したこと。

 それからしばらくして、ハンターはギルドの応接室に座っている。

 

 昇級審査だ。

 

「まぁ、青玉への昇格となるわけですが、それに伴い依頼にも責任、礼節を持って受けてくれることをお願いします」

 ハンターと対面する受付嬢は笑顔でいつも通り。

 冒険者で言う中堅。

「中堅の冒険者が育たないことが多いですが、ハンターさんはその辺心配なさそうですね。ですが、どのような冒険であれ、危険があることは覚えていてください。初心を忘れないでください」

「了解」

 受付嬢の言葉は、誰にも当てはまる。

 クーラー・ホットドリンク、食事を忘れるなんてことは誰にでもあること。

 それに気づいて、速攻でクエストリタイア。

 それをこっちでやれば信用がなくなる。

「最近はキャンプでアイテム補給、装備変更が気軽に出来ていたけど、ここじゃそうじゃないからな。アイテム、装備管理は気をつける」

「何を言っているのかわかりませんが、理解してくれたならそれでいいです」

 苦笑いの受付嬢。

 ともかく、ハンターは青玉の認識票を貰った。

「別件なのですが、ハンターさんが先日の牧場での戦いの際、冒険者に配った閃光玉、罠の類を販売する気はありませんか? 冒険者の方々から要望が殺到しまして、ギルドの方で取り置き、販売すると言う形になるのですが」

「ああ、うん」

 ゴブリンロード討伐の祝杯で、閃光玉、回復薬、毒消し、罠を売ってくれないかと言う冒険者は多数いた。

 しかし、売るにしてもこちらでは新しい物で、相場がわからない。

 例えば閃光玉は聖光(ホーリーライト)1回分だとすると金貨1、2枚になるかもしれない。

 しかし、材料費と製作費を含めてもそんなにする気がしない。それに新人たちにまで回らないだろう。それこそ支給品として、無料で配給されている物なのだから。

「価格設定とかは?できれば新人にも回るようにしたいんだけど」

「お気持ちは理解しますが、それでもそれにふさわしい価格になるかと」

 薬品(ポーション)1つで命を繋ぎ止めると考えれば、金貨1枚はさて安いのか高いのか。

 そして、その薬品(ポーション)の信頼が金貨1枚になるだろう。

 実際に、ハンターが牧場で配った回復薬や毒消しは受け取らなかった者もいる。受け取ったのはタダだからと、金銭的に乏しい新人ばかりではなかったか。

「どのくらい納めればいいんだ?100ぐらいならすぐに作れるけど」

「どちらかと言うと、製法ですね。国から技術者の方をお呼びし、作ってもらい、冒険者の方々に販売するので。無論、売り上げの何割か、製法の技術料金はお支払いします」

「はぁ、お願いします」

 ハンターに経営主や販売員などできるだろうか。

 少なくとも、ハンター自身できないと思っている。体が2つも3つもあれば、いや、あっても無理だろうと思った。

 つまり金だ。それにツテ。

「農園の拡張とか作業者の増員とか、どうすればいい?俺には当てはないぞ」

 ハンターがこの世界に来て何ヶ月ぐらい経つか。

 少なくともハンターは、商人や組合にツテはない。

 強いていえば、冒険者ギルドの組合に所属している。だから、目の前の受付嬢に相談するしかない。

「冒険者ギルド、と言うよりは他の職業組合に声を掛けてみましょう。こちらで手続きしてもよろしいでしょうか?」

 少なくとも、ハンターは受付嬢を真面目に仕事する人間だと思っている。

「借金背負う事態にならなければそれでいいや」

 もう投げ槍したかった。

 

 

「で、話を冒険者ギルドに丸投げしたと」

「……はい」

 農園で土いじりをしている農園娘とハンター。

 ハンターは平鍬を振って肥料と土を混ぜ、畝を整えていく。

 農園娘は土に肥料を撒いている。

「仲介料として冒険者ギルドに毟り取られないといいですね」

「国の運営が悪どい契約を組んでいいのか?反乱だとか、抵抗行動(ストライキ)とか起こしそうだが。商人にしても信頼を損なうことするのか?」

「悪どい人間はどこにでもいますし、それが分からない馬鹿な人間も、自分のことだけしか頭にない強欲な人間もいます」

 淡々と作業し無機質な声で返す農園娘。

 それが、ハンターには怒られているように聞こえてならない。

 ハンターは正直、種や虫の自給ができればいい。

 まぁ、冒険者が欲しいのなら配るのもやぶさかではない。

 仲介人がハンターや農園の作業員より金を得ようと、まぁ、心情的に良い気はしない。

 だが、ハンターの調合物は先人たちの賜物だ。昔は、薬1つ調合するのも手間だったと言う。

 ハンターが一瞬で薬を100も1000も作れるのは、先人たちの積み重ねがあったからだ。

 それで自身だけが得をするのは、何かが違うと思う。

 そして、他人がその調合法を教えて欲しいと言うのなら、教えるのが筋だ。

「問題は教えられるか、だよな」

 異世界の技術である。

 学者でもないハンターに手順を教えることができても、どうしてそうなるのかまでは答えられない。

「1から10まで教える必要もないでしょう。それでは意味がありません」

 どこの世界も同じかもしれない。

 見て、聞いて、感じる。

 考えて、実験し、探る。

 習い、学び、成長する。

 10を教えたとしても、本当に10理解する者などごく少数だ。

 ならば、ハンターは1を教えるだけでいい。

 後は自分で考えてやらせる。そう方針を決め、ハンターは心は軽くなった。

「それはそうと、新しく来る従業員のために、布団や農具などを買いに行きますので、荷台を引くのを手伝ってください」

「力仕事なら任せろ」

 ハンターは生き生きとした声を出す。

 

「と、こう言う風にやる」

「……いや、わかりません」

 後日、集まった研究者や従業員に手本を見せたハンター。

 何せ、手すら動かさないで調合していなかったか。

 机の上にあった材料から目を離さなかった者たちが、一瞬のうちに机には調合品がある。

「わかった。もう一度やる」

 彼らは、瞬きもしない。

 くわっと目を見開き、材料を、ハンターの動きを見逃さない。

 なのに、見えない。

 魔法か何か使っているのではないか。

 しかし、ハンターは魔法など使えない。

 仕方なく、調合書を書くことにしたハンターだった。

 


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