ゴブリンスレイヤーとモンスターハンター   作:中二ばっか

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あけましておめでとうございます。
今年もどうか閲読よろしくお願いします。


5-4 装備更新

 熱せられた鉄が槌で撃たれ、火花を飛ばす。

 熱気が鍛冶場に満ち、働く職人たちも汗を流しながら意気揚々と作業をしている。

「ふぅー」

 鍛治長女鉱人は汗を手拭いで拭う。

 彼女の作った出来上がったばかりの剣が、机の上に一振り置いてある。剣先は鋭く、刃面は磨かれ鏡のようで彼女の顔を写す。出来立ての刀身は、キラリと輝き魔剣のようにも思えるが、ただの鋼の業物。

 ハンターが依頼したティガレックスの片手剣と盾、防具の製作は終わり、通常の仕事の依頼が捗っている。

 先日この鍛冶場に流れ着いた圃人(レーヤ)の老人な風貌をしている鍛治師の手伝いもあって、与えられた素材の加工が捗りなく完成した。

 どこにでもいる竜人の加工屋と名乗っていたが、彼の技術は凄まじい。竜人が持っている鋼鉄、素材の加工の知識、技術は、鉱人の目を輝かせた。

 弟子入りを志願する職人もいる。

 鍛冶長も、軍が注文した装備を作り終えた後は、加工竜人の作業を見て技術を学んでいた。

 鋼の秘密に迫ろうとするのは上古の鉱人から続く、鍛治に携わる鉱人として宿命だ。

 例え、鋼の秘密とは違っても新たな技術を職人たちは歓迎した。

 

「こんにちはー」

 ハンターが来た。

 警戒する鍛冶場にいた職人たち。今度はどんな武器を作らされるのか。

 だが、今の彼らには心強い仲間がいる。

「ひょ?ハンター殿でなか?」

「加工屋さん⁉︎」

 シワだらけの肌、白髪、自身の背丈よりも大きい槌を持っている圃人のような老人。

「なに驚いてんでぃ。ハンターがおんのなら、ウチら加工屋がいねぇわけねぇべ」

 カカカと笑う加工竜人は、なんというか鉱人(ドワーフ)と気が合いそうだ。

「そんで、今日はどんな用件だい?」

 ハンターは迅竜、ナルガクルガの素材を引き渡す。

 容易く木々を寸断する刃として発達した迅竜の剛刃翼。暗闇に溶け込むような漆黒で非常に滑らかな迅竜の豪黒毛。他にも迅竜の重牙、厚鱗、靱尾、重尾棘、そして、天鱗。多数の金貨が入った袋も忘れずに渡す。

「おお、こいつぅあ運が良かったな! 質も申し分ねぇ! でだ、なに作る?」

「太刀と防具だ」

 ナルガクルガの素材を武器にすれば、凄まじい切れ味と会心率を誇る武器が出来上がる。防具であれば、回避重視の軽量かつ堅牢な防具になる。

「あいよ。ちっと待ってくりゃれ」

 そう言って素材を抱え奥の作業場に行く竜人。作業所の何人かが一緒についていく。

 それと替わるように、鍛治長女鉱人がハンターに製作を頼んでいた片手剣を持って来た。

「頼まれていた物だよ」

「ありがとう」

 受け取った装備の出来を確かめる。

 ティガレックスの爪をそのまま使ったような、鉤爪の剣。轟竜の甲羅を使った円盾(バックラー)。そして、黄色を基調とし青の模様に、爪が装飾された鎧。

 会心率は低いものの、素の攻撃力、斬れ味は高い。そして、着ると攻撃力を上げ、高周波のような振動にも耳を保護すること、食べ物を早く食べる技術(スキル)が身につく。

「しっかし、なんで防具なんて注文したんだ? こんな立派な鎧があるのに」

「防具を複数持つのは当然だろ。用途に合わせて使い分けるんだから」

「なるほどね」

 そんなことを話しているうちに、加工竜人が戻ってくる。

「早いよじいちゃん!」

 もう、装備ができた。鍛治長としては、どのように加工するのか見学させてもらおうとしていた。

 何せ、ティガレックスの素材を加工するときも、鍛治長たちは苦戦した。しかし、流れ着いた加工竜人に手伝ってもらったところ半日で終わっていたのだ。

 加工竜人の技術を学び、職人たちの普段の仕事も素早くなってきた。

 しかし、これほど早いとは誰も思わない。

 それに手を抜いた様子などなく、その装備がとてつもない性能をしていることが目にしただけでわかる。

「ほれ」

 忍者のような装備と一振りの漆黒の鞘に納められた太刀。

 出来上がった装備を、吟味しながら身につけていくハンター。

 しかし、統一されていた2種類の防具を組み合わせて装備したため、違うところの違和感がある。

「まぁ、こんなもんか」

「いやいや、どっちか片方にしないの?」

「うーん。スキル的にはこれが最適解だと思うんだ」

 ハンターが選んだのは攻撃力と回避性能。早食いやフルチャージはおまけ程度。

 EXドラゴンb装備の装飾品の組み合わせが優秀すぎて、前まではそれに頼りがちだったので、別の装備でリオ夫婦に挑んで腕を試そうとしたのが運の尽き。

 ただ、今ある装備でスキルの最適を考えるのも面白さがある。

 今は装飾品もそんなにないのだから。

「ほな、素材持ってきたら、また加工してやっかんな」

「次もよろしく」

 ハンターは装備を更新しました。

 

 

 

「で、それが新しい甲冑ですかや」

 街に戻ったハンターは、ギルドの酒場にやってきた。

 そこにはいつものメンツが食卓を広げており、ハンターもそこに座る。

 いつもとは違った装いに蜥蜴僧侶が声を掛けてきた。

「ああ、前に倒した轟竜と森で倒した迅竜の素材を加工してもらった」

「いやはや、見事なものですな」

「というか、迅竜の素材は全部俺がもらったけど、良かったのか?」

 ハンターが剥ぎ取った素材は、パーティで分散されることはなくハンターが全てもらった。それでは申し訳ないのでハンターが、前回ゴブリンから得た戦利品を売却した取り分を渡した。

「私としては使い道のないものよりも、金貨の方が嬉しいのでな」

 闇女斥候がパンに蜂蜜をたっぷりと塗っている。どうやら、前回で得た金は蜂蜜へと変わったらしい。

「前衛が強化されるんは、呪文使いとしてはありがたいからの」

「これ、回避重視の装備なんだけど。本格的に盾役やるなら、ウラガンキンの装備とランスをしたい」

「あー。嚙尾刀は回避重視の剣士じゃったか?」

「攻撃がきたら、反射的に避けようとするからな」

 鉱人道士は服に宝石を縫い付けている。かさばる金貨ではなく、宝石に換えるのは珍しいことではないらしい。

 ハンターは最近、銀行に口座を作って大量の金を預けるようにしている。金貨は自前の大量に入る財布があるので問題ないが、農場関係の取引は銀行の方で行なっている。誰しもがハンターのような財布を持っているわけでなく、金貨を100枚持ってこられても迷惑になるらしい。

 最近は装備を作るのも、宝石で手渡すか、銀行を使うべきかとも思ったが、今まで通り金貨で払うことにする。

 少なくとも、昨日は金貨で支払った。高額すぎて変えるよう言われたら変えよう。

 ハンターにとって相手が巨大で、ランスの大楯、大剣以外だと少しガードに不安が残る。片手剣の盾は、咄嗟の保険のようなものだ。

 

「グアサングって湾刀以外も使えるのね。詩だと湾刀の印象が強いから」

「詩っていうと?」

 妖精弓手の言葉に反応したのは、首を傾げた女神官だ。

 彼女の感覚としては、歌になるのは銀等級の冒険者からで、ハンターが非常識であることも理解している。しかし、詩になるほどの功績というとやはりドラゴン退治だ。

 森人の優雅な声で歌われる竜ゴロシの歌。

「『彼方より飛来する災厄。

 それは逃れえぬ運命。

 天を焦がす炎の息。

 黒き死を纏う鱗。

 翼は嵐を起こす。

 牙と爪は鋼の鎌。

 数多の軍をなぎ払い、英雄たちも倒れた。

 伝説を超えた神話の黒き竜。

 それに立ち向かうは、放浪する一人の戦士。

 背中に背負いし湾刀は神話の煌めき。

 世界のため、かの者は戦う。

 戦いは三日三晩続く。

 炎の吐息は地を焼き、しかし、湾刀の煌めきが炎を裂く。

 死の鱗は固く、されど神話の剣は死を払う。

 爪を潜り抜け、牙を掻い潜る。

 かくして、死闘の果てに力果てる黒竜。

 栄光を手に入れた竜殺しの戦士。

 されど、褒賞を受けずに放浪の旅に出る。 

 かの者は孤高なる竜殺し。災厄あれば、何処へも駆けつけん』

 だったかしら」

 歌われた詩を聴いていたハンターは、所々誇張された内容になんとも言えない気持ちになる。いや、誇張でもないのか?

「実物見ると、……うん」

 チラとハンターを見て、こくこくと首を上下に頷く妖精弓手。

 他も頷き、納得している。

 なにに納得しているのだろうか。

「詩通りとまでは行かずとも、事実無根なわけではありませぬゆえなぁ」

 蜥蜴僧侶はしみじみとオーガや迅竜の戦いを思い出し、塊のチーズを「甘露甘露」と言いながらかぶりつく。

 

 そんなことで話していたら、何かの用事を済ませてきたらしくどっかと席に座ったゴブリンスレイヤー。

「ゴブリン退治だ。報酬は1人金貨一袋。来るか来ないか、好きにしろ」

 そんなことを言って、溜息を吐く女神官。

「わかっていたつもりですけど、本当の意味で理解しました。ええ、あなたの行動に一々驚いていたら身が持たないということが」

 うんうん、と同意する妖精弓手と闇女斥候。

 鉱人道士はニヤリと笑い。蜥蜴僧侶はチーズを齧っている。ハンターは出てきた肉料理を食べ始めた。

「前にも言いましたけど、選択肢があるようでないのは、相談とは言いません」

「選択肢はあるだろう」

「それはただ二択を迫ってるだけです」

 女神官の言っていることを理解しているのかいないのか。鉄兜の奥でどんな顔をしているかわからない。

 だが、困っているようではあった。

「どうせ、私たちが行かないって言ったら、1人で行くんでしょ?」と妖精弓手の問いに、「当然だ」と間髪入れずに答えるゴブリンスレイヤー。

「やっぱ相談じゃないわよ、これ」

「ま、わしらにも相談するだけ、かみきり丸も柔らかくなったちゅうことかの」

「うむ、良き傾向でありましょうな」

「まぁ、理解できる話をするだけマシだ」

 鉱人道士は宝石を衣服に縫い終え、蜥蜴僧侶はチーズのお代わりを店員に頼み、闇女斥候はパンを飲み込んだ。

「では、好きにします。付いて行きますね」

 女神官は呆れ顔から淑やかな笑い顔に変えてそう言った。

 他の者たちもついていかないという選択はしない。

「小鬼どもは数が多い。呪文使いは1人でも多い方がいいでしょうや」

 お代わりのチーズを受け取りながら、頬張る蜥蜴僧侶。

「ちょうど路銀の準備も終わったとこだしの。付き合うとしようか」

 白い顎髭を触りながら、酒を注文しにかかった鉱人道士。

「ゴブリン退治が終わったら私たちと一緒に冒険一回。それでいいでしょオルクボルグ」

 ゴブリンスレイヤーを指差し、それからと続けて注文を重ねる妖精弓手。

「ゴブリンに水責めとかするの禁止ね」

「火攻めもですよ」

「毒気もなし」

 立て続けに妖精弓手と女神官の注文。

「毒もか」

「当然でしょ!」

「当然です!」

 注文内容にゴブリンスレイヤーは困ったようだが、2人は断固禁止と姿勢を崩さない。

「仕方あるまい」とゴブリンスレイヤーは言った。意外に素直に条件を受け入れたことに2人は目を合わせ笑みを浮かべた。

「そっちはどうする?」

「ゴブリン退治にしては金払いもいいからな、私も受けよう」

 ギルドを通した依頼であれば、騙して悪いがもないだろうと闇女斥候。

「装備の試し斬りにはちょうどいい」

 ハンターも、討伐系の依頼ならば文句はない。新しく手にした装備を使ってみたくてウズウズする。

「とりあえず、次の冒険に備えての祝酒といこうかの」

 そう言って鉱人道士は火酒と葡萄酒を杯に注ぐ。

 葡萄酒はあまり酒に強くない妖精弓手と女神官に。他の者たちには火酒を。

「明日の冒険に!」

「かんぱーい!」

 と音頭を取り、ガブリと杯を飲む。女神官は一気飲みはできずちびちびと飲み、他の者たちも火酒の強い酒気に一気に飲み干せる者は鉱人道士、ハンター、ゴブリンスレイヤーだけだった。

 そんなのを見て、鉱人道士は勝負を仕掛ける。

「ところでかみきり丸に嚙尾刀。わしと飲み比べせんか?鉱人(ドワーフ)が飲み比べに負けたとあっちゃーご先祖様に顔向けできんのだわ」

「オーライ。どんとこい」

「すまんが、二日酔になるわけにはいかん」

 二つの異なる返事に鉱人道士は、「ま、しゃーねぇか」と笑った。

 ゴブリンスレイヤーは勝負から降り、ハンターは勝負を受ける。

「私もやる!」と、無謀にも乗り込んでくる妖精弓手。

「ほ! 長耳娘が良い度胸しておるわ。葡萄酒で手加減しちゃる」

 彼女が飲み干した杯に葡萄酒を、鉱人道士とハンターの杯には火酒を注ぐ。

 それを見て賭けをしだす冒険者たち。

 闇女斥候も勝ちそうな鉱人(ドワーフ)の方に賭ける。

 しばらくして、妖精弓手が酔い潰れる。

 だが、顔が赤くなりつつも同じ速さで火酒を飲むハンターに、鉱人道士は負けじと杯を飲み干す。

 お、おおっと祭りのように盛り上がる夜の酒場。

 ゴブリンスレイヤーと女神官は妖精弓手の介抱をする。

 勝負の行方がわからなくなってきたことに、焦る闇女斥候と鉱人道士に賭けた多数の冒険者たち。

 結果、泣きを見ることになった多数の冒険者。

 しかし、それも泣き声はすぐに止み新たな活気に消えていった。

 

 




ハンターの装備。
武器、太刀、夜刀【月影】、片手剣、轟剣【虎眼】
防具頭、EXレックスヘルムa
  胴、EXナルガメイルb
  腕、EXレックスアームa
  腰、EXナルガコイルa 
  足、EXナルガグリーヴa

序盤で装備が統一されないのは、G級行ってもおなじこと。

加工屋のイメージはユクモ村の加工屋さん。

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