ゴブリンスレイヤーとモンスターハンター   作:中二ばっか

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ハンターの世界にサウナはあってもヴィヒタはなかったはず。


5−7 風呂……風呂?

 白い巨大な蜥蜴の影。

 ラギアクルスのようなモンスターだろうか。いや、鰐と呼ばれる動物か。

 ともかく徐々に距離を詰めてくる白い鰐に、ハンターは臨戦態勢で太刀を構えた。

「何やってる⁉︎ 逃げるぞ!」

 そんなことを構えそうなハンターを叱る闇女斥候。

「え?狩らないの?」

「逃げるって言ってんだろ!」

 自分以外が逃走したので、慌ててハンターも納刀しダッシュして追いかけ始める。

 新モンスターであり、新素材獲得できるかと浮き立っていたハンターだったが、パーティ行動中だ。

 依頼はゴブリン討伐。白い蜥蜴は討伐対象ではない。

「いや、探索し続けるなら倒しておいた方が安全になるんじゃ?」

「おまっ、沼竜(アリゲーター)をそう簡単に倒せると思っているのか⁉︎あいつは水中に引き摺り込んで肉を引き千切る!」

 確かに水中は戦いづらい。

 だが、別にハンターは戦えないわけではない。

 10分ぐらい息を止めて戦える。重鎧を着ていても、泳ぐことは可能だ。

「別に水中で倒してしまっても構わんのだろ?」

「こんな下水道の水を被ってみろ!黒死病になるぞ!」

 ハンターは黒死病と呼ばれても、あまりよくわからない。ゴア・マガラの狂竜ウイルスのようなものだろうか。あれなら克服できるのだが。

 だが、克服できなければ少々まずい。

 下水道の汚水には触れないように、ハンターは逃げ始める。

 そして、あの鰐、沼竜は黒死病にはならないのか?と純粋にハンターは疑問に思った。

 後から聞いた話だが、どこかの貴族が鰐を愛玩動物として飼っていたはいいもの、育った鰐を管理できなくなり下水道に捨てていた。その捨てた鰐が繁殖し、討伐に向かわされたと闇女斥候が言う。

「あの時戦った沼竜よりデカいぞ!」

 ハンターの脚力は強いので、先に走っていた者たちにすぐに追いつき始める。

 体力が他の者たちと比べれば低い女神官は、度重なる戦闘と探索、そして奇跡の嘆願での疲労でヘトヘトだ。

 鉱人道士は手足が短いといった体格の問題で足が遅い。

「ひゃっ⁉︎」

「ほ、こりゃ楽で良いわ!」

 ゴブリンスレイヤーが女神官を抱えて走り始める。

 鉱人道士は蜥蜴僧侶に背負われて運ばれている。

「息を整えておけ」

「だ、大丈夫です。運んでもらわなくても――」

「あと一つ、奇跡は残っているだろう。術を使ってもらうかもしれん」

 恥ずかしがってか、女神官は降ろしてもらうように言うが、ゴブリンスレイヤーの方は彼女を降ろす気はない。

「水路から逸れるべきでしょうな」

「ああ、沼竜は地上ではあまり速くないと聞く!前にあれの肉を食う奴らはそんなことを言っていたからな!」

 蜥蜴僧侶が鉱人道士を抱えたまま、片手で器用に地図を取り出し見ている。

 闇女斥候は、多数の鰐と下水道で戦ったときのことを思い出した。

「鉱人を食べさせてその間に逃げましょう!きっと食中たりを起こすから!」

「ぬかしおる!」

 妖精弓手の冗談に、彼は怒鳴った。

「やっぱ戦うか?」

「いや、この後もゴブリンと戦わなければならないかもしれん。体力は温存しろ」

 ハンターは再度問うが、キッパリとゴブリンスレイヤーが戦闘を避ける指示を出す。

 しかし、彼の予想は正しかった。

「前から何かくる!またゴブリンの船!それも複数!」

「ど、どうしましょう⁉︎」

 妖精弓手の言葉に、女神官は慌てた。

 前からゴブリン、後ろは沼竜の挟み撃ち。

「手はある」

 しかし、危機的状況であるにもかかわらずゴブリンスレイヤーは、慌てていなかった。

「ちょっと!何思い付いたか知らないけど、毒気とか燃やすのとかは――」

「お前の考えでいく」

 妖精弓手はこんな時でも、縛りプレイを実行する気だ。

 廃材の船なので火攻めでどうにかなりそうだが、しかし、ゴブリンスレイヤーの案はそうではないらしい。

 

 暗い下水道にポツリと頼りない明かりがある。

 冒険者だ。

 それを確認したゴブリンたちは船を灯りの方へと向かわせる。

 冒険者は明かりがなければ何も見えない。

 だから、冒険者たちが使っている明かりなのだろうと思った。

 しかし、なぜか明かりは水面に浮いているではないか。

 冒険者たちはどこだ?とゴブリンが思うよりも前に、水の中から白い何かが出てきた。

 パクリと牙が生えそろった大きな顎で食いちぎられるゴブリン。

 予想外の展開にゴブリンたちは悲鳴を上げた。

 ゴブリンたちは顎で食いちぎられ、爪で切り裂かれ、尾で打ち付けられて水の中に沈む。

 例え攻撃が当たっても白い鱗は硬く、粗末な武器は役に立たず、普通の武器であってもゴブリンの筋力では弾かれる。

 巨体が船に上がれば、粗末に作られているので軋み、暴れれば転覆し汚水に沈む。

 どうしようもなく、水場という白い鰐の縄張り争いにゴブリンが勝てるはずもなかった。

 

「いと慈悲深き地母神よ。闇に迷える私どもに、聖なる光をお恵みください」

 女神官が聖光(ホーリーライト)で沼竜の尾に明かりを灯した。

 聖光には閃光(フラッシュ)以外にもこういった使い方もある。

 閃光弾は一瞬だけの強い光だ。持続して明かりを灯すことはできない。

 決して閃光弾の方が優れているわけでもないのだ。

 全ては時と場合による。

「やっぱ使ってみたいな奇跡」

「私は閃光を何回も使えるという方が、羨ましいです」

 隣の芝生は青いと言う。

 ハンターの独り言に、女神官は奇跡を使い切った疲労で顔色が悪くも笑いを見せた。

「なんにせよ、切り抜けられたんだから良いんじゃない」

「お前の縛りがなければ、楽にできただろうに……」

 ふふん、と得意げな顔をする妖精弓手に対して、闇女斥候はため息を吐く。

 そして、ゴブリンたちは白い沼竜に駆逐されたのを見届けて移動する。

 連戦に消耗し、一時撤退する冒険者たち。

 まだいけるはもう危ない、とこの世界では言うらしい。

 蜥蜴僧侶が持っている地図を見て地上へと戻る。

「にしても、明かりであっさり騙されるとはねー」

「奴らは、冒険者は明かりをつけて移動するもの、と学習している」

「そうなの?」

「いつの頃からかは知らん。だが、ゴブリンどもには常識となっている」

 妖精弓手の疑問に淡々と答えるゴブリンスレイヤー。

 他にも、ゴブリンは略奪民族、物を作る発想がない生態を普段無口とは思えないほどに、饒舌な口で言う。

「奴らは馬鹿だが間抜けじゃない」

 ゴブリンがいくら馬鹿でも、失敗すれば学び、あるいは何かを獲得する。

 教えれば船を作り、操舵できるぐらいに。

 それだけ手強くなってしまう。

「だから俺は、奴らに新たな発想を絶対に与えない。鏖殺する」

「つまり、誰かが船について小鬼ばらに教えた、ちゅうことか」

 話の要点を言った鉱人道士。

「それだけならシャーマンとかが思いついたのかもしれませんし」

「だとしたら、なぜ、あの、デカい白蜥蜴、なんだ?」

「沼竜ですか?」

「そうだ。あれの存在を知らない?知っていれば船を用いるなどとは思わんはずだ。奴ら臆病だからな」

 女神官の思い浮かんだ考えに、疑問を持つゴブリンスレイヤー。

 彼は何かに気づいているようだが、他の者たちにはよくわからない話だった。

「何が言いたいのかね、小鬼殺し殿」

 業を煮やした蜥蜴僧侶が、結論を急いだ。

「この小鬼禍(ゴブリンハザード)は人為的なものだ」

 下水道から出る鉄格子を開く。

 地上では雨が降っている。

 分厚く暗い雲はしばらく続きそうだ。

 

「……」

 ハンターは神殿に風呂があると聞いて期待した。

 ポッケ村、ユクモ村と温泉があるところにいったことがある。

 無論、各村の温泉に入った。

 心地よい湯が全身を解し狩の疲れを癒してくれる。

 もう一度言う。ハンターは風呂があると言われ、期待していた。

 いや、高揚したと言っても良いかもしれない。

 暖かい湯気が室内を満たし、湯が獅子の形をしている像の口から浴槽に注がれている。

 ここまではハンターも知っている風呂だ。

 だが、足風呂程度の湯が溜まっている浴槽。

 そして、なぜかある白樺の枝。

 ハンターは白樺の枝を手にとってみるも、使い方がわからない。

 他の者がいれば使い方を教えてくれたかもしれないが、女神官以外は風呂ではなく食事をしたり、他の用事をしていたりする。

 女神官は女湯だ。

 ハンターは男湯だ。

 1人しかいない状況。自分でどうにかするしかない。

「?」

 ともかく、ハンターは足湯のように浴槽の縁に座る。

 湯につけた足は心地よく、湯気の熱気が上半身を温める。

 悪くはない。

 悪くはないが、これではない。

 これではサウナのような何かだ。

「……」

 そして、結局この白樺の枝は何に使うのかわからなかったハンター。

 浴槽から上がり、着替え場で汗や水分を拭いてから装備を着る。

 

 ハンターは着替え場から出て、牛乳が売っていないか探していると女神官を見つけた。

 声をかけてみるハンター。

「牛乳ですか……?売ってないと思いますけど」

 ハンターは、また残念な気持ちになった。

「飯でも食いにいくか?まだ、3人いるかわからんが」

 鉱人道士、蜥蜴僧侶、闇女斥候は飯を食べにいっている。その店の場所は、神殿からそう離れていない。

「いえ、私はみなさんが帰ってくるのを待ってます」

 女神官は疲れている。無理に食べても明日の探索に影響してしまう。

「じゃ、俺は食べにいく。けど」

「けど?」

「風呂にあった白樺の枝は何に使うんだ?」

「ああ、あれは叩くんです」

「叩く?どこを?」

「自分を」

「自分を、叩く?」

「はい」

 ここの地域の方々は特殊な性癖、自傷癖でも持っているのだろうか。

「叩いたのか?」

「え?はい」

「そうか」

 女神官が自傷したことに驚きを隠せないハンター。

 だが、不屈や火事場、逆恨みのスキル発動にわざと攻撃を喰らうハンターにはやめろと言うことはできない。

「自分の体は大切にな」

 ハンターは労わりに満ちた声で女神官に忠告した。

「は、はぁ。……いや、待ってください。何か勘違いしてませんか⁉︎」


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