ゴブリンスレイヤーとモンスターハンター   作:中二ばっか

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1-5 どっちも変なやつ

 ゴブリンスレイヤーは農場に設置してある柵の点検を終え、朝食を食べていた。

 幼馴染の牛飼娘とその叔父と一緒に。

「そう言えば、彼どうしてる?」

「彼?」

「えっと、前ここに来たハンターさん」

「今、一緒に依頼をやってる」

「へぇ。どんな感じ?」

「どんな感じ……」

 ゴブリンスレイヤーは、少し考え込んだ。

 

「変なやつだ」

 狭い空間では全く意味がないというのに、太刀を持ってくるのは、いただけないと思う。

 だが、ホブゴブリンを倒す際は、かなり有効だ。

 洞窟内でも振れる広さなら、長い間合いでまとめてゴブリンを屠れる。

 派手に振り回しているように見えるが、ちゃんとゴブリンスレイヤーの位置や障害物などに気を配っている。

 

 そして、岩陰に潜んでいたゴブリンを岩ごと切り伏せたのは驚いた。

 あの太刀は業物であることは間違いない。

 だが、業物というだけで容易く岩を真っ二つにできるとは思えない。生半可な太刀筋なら岩の厚みで食い込んでしまい、抜くのに一苦労すると思う。

 

 太刀を何度も振るい、汗一つかかない。そのことから筋力と持久力、技量は、自分とは比較にもならない。

 調合によるアイテム作成もできることから、知識も豊富。

 

 ただ、ゴブリンの存在自体を知らないというのは、自分以上の田舎者だと思う。

 他にも、ゴブリンの皮やリングを剥ぎ取ったり、それを売って金にしようとしたり。

 なにより、剥ぎ取った皮やリングで装備を作れないことを、地面に手足を付けうなだれるほど、嘆いていた。

 

 金、白金等級の実力者で常識知らず、ついでに変人。

 それがゴブリンスレイヤーが思うハンターの印象だ。

 

 幼馴染と叔父さんは、ものすごく何か言いたそうな表情をしていた。

 何を言いたいのだろうか。

 

「結構、楽しい?」

「楽しい……?楽にはなった」

 何しろ負担が減った。

 今まで1人でゴブリンを皆殺しにしてきたが、それが単純に半分。

 ハンターのアイテムで戦闘の負担も減った。

 

「今まで、他の人ともあんまり組むこともなかったから、嬉しそうだなって思ったんだけど」

「……嬉しい」

 あまり思っていなかったが、嬉しいのだろうか?

 ゴブリンスレイヤーには、良くわからない。

 

 

 

 街に向かって荷台を引く。

 このところ牛の乳の出がよく、大量になった。

 荷台はすべて牛の乳やチーズ、バターなどの乳製品。

 これらはほんの一部であり、今日中に配達できるのか疑問に思うほど、牧場の倉庫には大量にある。

 

 牛飼娘は貧弱体質ではないが、街と牧場を何度も往復するので手伝ってほしいと彼女から言われた。

 叔父さんも年。若いときほど無理が利く体ではない。

 そして、他の仕事もしなければならない。

 牧場の手伝いをすることに異論はなかった。

 

 ゴブリンの討伐依頼は、昨日ギルドの掲示板を見たときには、張り出されていなかった。

 この頃は、ハンターという人手が増えたことで、ハイペースで巣を潰していた。

 付近にゴブリンの巣が確認されてはいない。 

 

 それでも、西の辺境周辺が減っただけで、他の地方でゴブリンの巣は多い。

 そして、明日になってしまえば、またゴブリン討伐の依頼がギルドに張り出される。

 

 彼は、いつもどおりの安っぽい鉄兜、鎧、中途半端な剣を装備している。どこで、ゴブリンが襲ってくるかわからない、用心しておくのは当たり前。

 

 そんな男が荷台を引くのは、かなり違和感がある。

 街に入った瞬間、奇妙な目で見られる。

 ゴブリンスレイヤーが、ゴブリン討伐しか受けない変人と知っている者たちは、遠巻きに見た後、去っていく。

 

 ギルドについて、荷物を納品する。

 受付嬢にサインを貰い、牧場に戻ろうとすると呼び止められた。

 

「あ、ゴブリンスレイヤーさん。ハンターさんと一緒に依頼に向かわれていますが、どのような感じでしょうか、彼」

「どのような?」

「えっと、問題を起こしてないかとか、荒くれ者だったりとか。最近の依頼達成で、そろそろ昇格しそうなんですよ」

 そう言えば、ギルドでは昇級のとき、腕っぷしだけではなく、社会への貢献度、人格面も考慮する。

 そのことを聞いているのだろう。

 

「金銭の執着はあるが……問題行為は起こしていない」

 自分もゴブリンから武器を奪っているのだから、剥ぎ取りも問題にはならないだろう。

 さすがに、ゴブリンの内蔵や皮、牙は売れるかと聞いてきたときは、正気を疑ったが。他にも「ゴブリンの声帯を繋ぎ合わせれば、鳴き袋にはならないか?」と聞いてきたこともある。よくわからない奴だ。

 

「なんだか、間が気になりますが。実力的にはどうでしょう。その、冒険者としてやっていけそうですか?」

「……わからん」

 ハンターは強い。

 だが、強いから絶対に大丈夫とゴブリンスレイヤーは断言できない。

 ゴブリンに村が襲われて、そこに滞在していた紅玉等級の冒険者が戦い、敗れたといった噂を聞いた。

 実力が金、白金等級だからといって、ゴブリンに負けない保証はどこにもない。

 自身も銀等級だが、ゴブリンに手傷を負い、九死に一生を得た状況は何度もある。

 

「だが、類を見ない実力者だ」

「え?」

「俺より強いやつなど五万といるが、ハンターは別格だろう」

「……珍しいですね。ゴブリンスレイヤーさんが他の冒険者さんを褒めるのなんて」

「そうか?」

「まぁ、ソロでしたからね。他人を褒めることも初めてじゃないんですか?」

「かもしれん」

 

 自分は事実を言っただけなのだが、褒め言葉だったらしい。

 

 

 

 次の日、ゴブリンスレイヤーは、ゴブリン退治の準備を整えギルドへと入っていく。

 掲示板から、離れた場所の席に座っているハンターがいた。

「うっす」

「ああ、付いてくるのか」

「ダメか?」

「いや、助かる」

「なら、行くか」

「ああ、ゴブリンは皆殺しだ」

 今日も複数のゴブリン討伐を受注し、彼らは巣穴ごと潰しに向かった。




牛飼娘「君が言うかな」
叔父「お前が言うな」

女魔術師、女魔法使い どっちがいい?

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