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6−2
一応、盗賊呪文使いと盗賊猟師は生き残った。
商人の居場所を言った後は、小鳥のようにやかましく命乞い。
縄で縛られていた商人を解放し、村に戻ってきたハンターたちは2人をどうするべきか考える。
縛ったまま馬車の中で見張り、街に帰って衛兵に渡すことにしようと自由騎士が言う。
しかし、救出された商人が待ったを言った。
「2人の処分は、こちらで決めさせてもらえませんか?」
「なぜです?」
「いえ、彼らに奪われた商品、金を補填させて頂きたいと思いまして」
ニタリと笑う商人。
その笑いに嫌悪を浮かべた自由騎士。他にも彼女の一党は苦い顔だ。
「奴隷として売るのか?」
闇女斥候が鋭い目つきで、商人に聞く。
「まぁ、火吹き山の闘技場は人手が足りませんから」
と、悪びれることもなく言う商人。
「奴隷売買に手を貸す気はありません!」
自由騎士は断固として譲る気はない。
「それは全員の意見でしょうか?新人の方々は懐が寒いと聞きますが」
しかし、商人の方も食い下がる。
彼からしてみれば、理不尽に一文なしの状態にさせられてしまった。
そして、盗賊の2人は商品を賠償できる金があるとは思えない。
奴隷として売ってもいいではないか、売れば追加で金を上乗せできると言いたいようだ。
それでも彼女たちは、商人を睨んでいる。
闇女斥候は口に手を当てながら考え、言う。
「こいつらは私たちの戦利品と言える。生かすも殺すも、裁くも売るも、こっち次第だ。そして、私は売るにしても金は受け取らん」
彼女は冒険者ギルドの信用をまず考えた。
そして、盗賊を奴隷として売ることに、問題はないとも思う。
損害を受け、賠償してもらうのに、罪人を奴隷にする。
ここまではいいとしても、その金を受け取るのはまずいとも考える。
もし受け取ってしまえば、奴隷商人と同類とも見られかねない。
「俺はどうでもいいけど、火吹き山の闘技場ってなんだ?」
ハンターの場違いな疑問が彼女たちの眉を戻す。
「魔術師が闘技場を開いて日夜、死を集める場所です。興味がおありで?」
商人は袖から鈴を取り出した。
「まぁ、行ってはみたい」
ハンターが知る闘技場は、制限された装備、アイテムで指定されたモンスターを倒す場所だ。
最近では制限がない場合もある。
こちらの世界では、どのような条件で戦うことになるのか。また、報酬はやはりコインなのだろうか、と疑問に思った。
「では、ご案内しましょう」
と、商人が鈴を鳴らし、ものすごい勢いで霧と突風が吹いて視界を奪う。
それも、一瞬だけだった。
霧が晴れ、風が止む。しかし、目を開ければ景色が変わっていた。
石材で出来た円状の闘技場の入り口の前。
賭博の受付や観客のための売店がある。
人々は活気に満ちているものの、どんよりとした空気が立ち込めている。
「魔法のアイテム……」
「ええ、同意がなければ発動できませんが」
闇女斥候の呟いた言葉に答えた商人。
自由騎士の一党もいる。
ハンターだけ連れて来たのではない。
だが、捕らえた2人の姿はどこにもない。
「……酔わせて、契約書を書かせると聞いたが」
「まぁ、そういうことをする者もいますが、流石に助けられて恩を仇で返す気はありませんよ。尤も、先程の2人には自ら書いてもらいましたが」
いつの間にと全員が思った。
ただ、自ら書く理由は分かる。
闘技場で優勝すれば、無罪放免にすると契約書に書いてあったのだろう。
「ご参加、賭けをされるのなら、あちらの受付からどうぞ。観戦するのならあちらの階段へ。その階段前に売っている
そう言って、商人はハンターに鈴を渡して人混みに紛れてしまった。
「……せっかくだし、参加していい?」
困ったように言ったハンター。
頭をガシガシと掻き回す闇女斥候は、好きにしろと言った。
自由騎士の一党は困惑している。
いや、商人と罪人を取り逃したことに自由騎士は目を釣り上げていた。
「どうぞ、ご自由に!」
と、投げやりな返事が返ってくる。
正義感あふれる彼女からすれば、邪悪な魔術師が運営する闘技場に、嫌悪感もあるようだ。
取り敢えず、ハンターはソロで参加してみることにした。
自分に賭け金も賭けて。
無論、闇女斥候もちゃっかりハンターに賭ける。
『さぁ、無謀にもソロでのチャレンジャーが入場だ!辺境の街から来た冒険者、ハンター!なんとドラゴンを倒したとか言うおおホラ吹きか!はたまた本物の強者か!ともかく最初の対戦相手はこいつだ!』
闘技場のフィールドに入ったハンター。
ワーワーと観戦客が騒ぐ。
見せ物となっているのは、少々気恥ずかしいような、慣れない感覚になってしまう。
しかし、それも司会の声に合わせて対戦相手の方から柵が開いた時には、戦闘へ思考を切り替える。
入ってきたのは緑の甲殻に、2つのギザギザと牙が生えた鎌を持ち、ギョロッとした丸い緑の目を持つ人の背丈を越えそうな巨大な昆虫。
本能のままハンターへと向かってくる。
2つの鎌を振り上げ襲い掛かるが、ハンターは難なく避ける。
避けた後は、素早く抜刀斬り。
細い胴を難なく切り裂いて、蟷螂の体が地面に転がる。
体液が地面のシミになり、鋭い牙を持った口はぱくぱくと、足の方はピクピクと痙攣し悶え苦しんでいるように見える。
あっけなく決着が付き、ハンターは
しかし、ハンターが剥ぎ取るよりも速く、死骸は霞のように消えていく。
一瞬で勝負がついたことに観客は沈黙した後、ウォオオと歓声をあげた。
ハンターは剥ぎ取れなかったことにしょんぼりした。仕方なく、研石で太刀を磨く。
『ソロで挑む奴なんて無謀、無茶、無理の死にたがりかとみんな思っていたが、そうでは無さそうだ!なら次はこいつだぁ!』
次に出てきたのは奇妙なモンスターだ。
獅子の体躯を持っているが、顔は人にも見える。他にもコウモリの翼、蛇頭がある尾を持っている。
ハンターはテオ・テスカトルの亜種にも思えたが、奴ほどの脅威感はない。
飛びかかって来たのと同時に前転し、回避するハンター。
蛇頭の尾が飛び出す前に太刀を切り上げ、尻尾を切断する。
切られた痛みで怯んだ怪物に、納刀してから俊速の抜刀を放つ。
血飛沫が飛び散り、息が絶え絶えとなってしまった
毒爪で切り裂こうとするが、逆にあしらわれるかのように斬り下がって、腕を負傷してしまう。
そして、気力を込めた斬撃が振るわれる。
堪らず、どさりと地面に倒れ込む
追撃とばかりに太刀を幾重にも振るハンター。最後の大回転斬りで獅子の姿はただの赤い肉塊へと変わって、霞のように消えた。
『ヤベェな!ドラゴンスレイヤーじゃなくてバーサーカーじゃねぇの⁉︎でも、今度はそこいらのケダモノとは違うぜ!』
次に入って来たのは、いつか見たことがある巨体。
「ふん、どんなやつかと思えば、ただの只人ではない――ギャアァアア⁉︎」
戦闘は開始されているのに余裕とばかりに喋り出したオーガ。
閃光弾を放って目を潰して、斬りかかる。
「ひ、卑怯――ギャッ!」
足を切り裂き、転ばせてから滅多ぎりへと繋げていく。
斬りつけるごとに鋭さを増す太刀。
目が使えず、体を起き上がらせようにも足に、手に力が入らない。
ハンターの太刀が血のように赤くなった気刃で覆われた頃には、オーガは息絶えた。
『ひ、卑劣!或いはただの暴力装置だ!こいつを止めるにはどうすりゃいいんだ⁉︎でも、怪物は沢山いるんだぜ!』
柵が開くと即座に太刀を振りまわし、気刃斬りや大回転斬りで複数巻き込んで虐殺していく。
『今までで一番殺意高くないか⁉︎畜生!次はこいつだ!』
毒の牙で噛みつこうとするものの、紙一重で躱し反撃するハンター。
続く大回転斬りで首を飛ばし、歓声で闘技場の空気が震える。
『どうすればこいつは止まるんだ⁉︎こうなれば、こっちだってバンバン投入するだけだぜ!』
しかし、太刀の鋭さ、気を纏わせた刃を振ることによって弾かれずに、鋼鉄の装甲を切り裂く。
研石を使い、切れ味を回復させる。
大少の鋏を使い、ハンターを捕らえようとしてくるが当たらない。
ダッシュと前転で交互に回避し、懐に入り込んだハンターが甲羅を引き裂く。
ぶくぶくと泡を拭きながら倒れた。
だが、鉄すら切り裂いた太刀にバターのように切られるだけだった。
腹が減ってきたので、携帯食料で腹を満たす。
『うぉぉおお!10連勝!なんて快進撃だ!1撃もかすらねぇ、難無くソロで平らげちまった!ちなみに俺は大損こいちまったぜ!畜生め!……え、これから連戦するの?』
ハンターにとっては物足りなかった。
柔らかすぎる。
もう少し歯応えのある相手が欲しい。
『なんてこった!難易度を上げての継続だと⁉︎物足りないハンターに、続々凶悪なモンスターが追加されるぜ!』
瞬く間に大回転斬りによって、複数巻き込まれ斬殺。
抜刀斬りから、気を溜めての気刃による連続斬りにて沈黙。
拳を見切っての反撃から大回転斬りに繋げての転倒。追撃によって討伐。
地面から丸呑みしようと飛び出したものの、地面の振動を感じたハンターは回避。
頭と思われる先端部に、クラッチクローで張り付きその首を切り落とすように落下突きを繰り出す。
溢れ出した得体の知れない大量の体液。ピクとも動かなくなった長虫の体。
大回転斬りによって薙ぎ倒される。
石の塊など削り切る勢いで滅多斬り、地面に倒れた。
ハンターは研石を使う。
竜頭骨の兵士たちは、鎧袖一触と言わんばかりに蹴散らされた。
闘技場を埋めそうなほどの小鬼の群れだが、知ったことかとばかりにハンターは太刀を振る。
1人の
血風が闘技場を覆う、残虐劇。
太刀が多数のゴブリンの命を一度に奪う。
複数からの同時攻撃は流石にハンターでも捌き切れないが、ハンターの防具はゴブリンの稚拙な攻撃など物ともしない。居合抜刀気刃斬りで一瞬でゴブリンの間を掻き分け抜く。後に残るは噴水のように血を流して、吹き飛ぶ死骸ばかり。生き残った雑兵どもは逃げようとするが、闘技場に逃げ場などない。
殲滅に1分もかからず平らげる。
大剣を持った牛頭の巨漢。剛力によって振り払われた攻撃は、あっさりとハンターに躱され反撃によって倒される。
恐るべき竜と呼ばれ、竜司祭に崇められる竜の1体。首元の襟巻を広げ威嚇してくる。
毒のブレスを回避し、側面からクラッチクローを使い頭部に向かって張り付く。
顔面を殴って闘技場の壁に向かせる。
そして、装填されている石ころを眼球に放つ。
堪らず駆け出し、壁に激突し、転倒。
そこに兜割りを叩き込み、頭蓋を割られ、土の上に横たわった。
『に、20連勝だとぉう⁉︎どこまで続くんだこの快進撃はー⁉︎』
撃破する。
斬殺する。
薙ぎ倒す。
多種多様な恐るべき竜を討伐。
数多の
そんなことを続けて、終わりは後どのくらいかハンター自身決めかねていた。
流石にモンスターの攻撃に怪我をすることもあったが、回復薬G、秘薬を使い、無くなれば調合し、携帯食料で空腹を紛らわせる。切れ味は研石で元に戻し、次の対戦相手を切り裂いていく。
そして、遂に100回戦の
『もうこれは認めるしかねぇ!あんたこそ「偉大な竜殺し」だ!』
手放しで闘技場の観客は称賛の声を叫ぶ。
「す、すごい」
自由騎士は食い入るように闘技場のハンターを見る。
途轍もない、伝説として語り継がれるような怪物を次々と倒していくハンター。
噂で黒い竜を倒したと聞きはしたが、実際にあのような光景を見ると信じざるを得ない。
まさか、黒い竜とは
「アハハハ!ハンターがそんじょそこらの怪物に負けるものか!お陰で笑いが止まらんわ!グヘヘへ!」
目が¥へと変わっている闇女斥候は、笑いながら他観客たちと一緒に大興奮。
圃人野伏もいつの間にかハンターに賭けていたようで、彼女と一緒にハンターを称賛する。
「あの兄ちゃんヤベェよ!すげぇよ!最高だよ!」
あまりの興奮に語彙力が退化しているようだ。
他の2人も彼女ら程ではないが、拍手喝采している。
しかし、なぜか喝采を受けるハンターの顔に元気がない。
なぜと自由騎士は疑問に思った。
辛く厳しい戦いで消耗しているのかと考えたが、彼の動きに緩慢さは見られない。
精神的な疲れ以外は、いつも通りに見える。
彼にとって、闘技場での健闘は誇らしくないのだろうか。
ハンターの顔を見てしまい、彼女は周りと一緒に騒ぐことができなかった。
実際はモンスターから剥ぎ取りを行えなかったことに気落ちしているだけである。
流石に100連戦はやりすぎのような気がしたけど、御守りの素材集めでそのくらい回すか、と思った次第。
闘技場の20戦以降の内容としては、
基本的に巨大モンスターの場合1体1。小型モンスターは複数。
ボスエリア、運が悪い場合。
30〜40巨大モンスター2体が多くなってきたのでハンターは相打ちを誘導しつつ撃破。
40〜50巨大モンスター3体。
50〜70巨大モンスターに小型モンスター複数。
70〜80巨大モンスター複数、小型モンスター複数。
80〜90巨大モンスター、基本的にドラゴン1体。
といった内容です。
ただ、今回出てきたモンスターたちはモンハン世界の下級モンスターとして扱っています。
つまり全体的に柔らかい。