巣の中に入って、居残りのゴブリン、生まれたてのゴブリンを太刀で皆殺しにしたハンター。
狭い洞窟内で太刀が振れるのかと思うかもしれないが、気刃斬りならば弾かれるような硬度の物を切りつけても、強引に振り抜くことができる。
例え岩に弾かれても、強引に何度も切りかかり、無理矢理にでも斬っていた。
太刀の切れ味はかなり落ちているが、ゴブリンを殺すのには問題ない。例え切れ味が落ちようと、ハンターの怪力で振られる長い鉄の棒なら一撃だ。
巣の中に女性もおり、回復薬を飲ませて背負って廃村まで運ぶ。
廃村の女性ではないだろう。子供が財布を持てるぐらいには、財力がある村だ。冒険者ギルドに依頼を出せるだろう。つまり、他のところから連れ去られた女性だ。
後はギルドに頼んで、神殿で保護してもらうしかない。
死んでいなくても、心が死んでしまう。
傷なら回復薬を渡すことで、どうにかなる。だが、他人の心傷の治し方など良くわからないハンター。
ハンターが負ったトラウマは、そのモンスターを倒すことで克服してきた。それを戦闘能力がない彼女たちに強いるのは無理だ。
「はぁ」
ハンターは廃村で巣から連れ出した女性を寝かせた後、小屋の中にあったスコップで穴を掘り、死んでいる者を埋めていく。死体を焼いたり、墓穴に花束でも添えたほうがいいのだろうが、被害者が居る中で焼くのは酷いし、花は見つからない。
墓にはとりあえずといった形で、石を置いていく。
それが済んだ後、廃村の中で金目の物がないか探す。やっていることは火事場泥棒だ。
廃村から荷車を引っ張り出し、衣類、硬貨が入った財布、金属品、食料などを入れていく。
「何をしている」
「家荒らし」
ゴブリンスレイヤーが後ろに居ることは感じていた。
恐らく受付嬢、男の子からこの村にゴブリンが居ることを聞きつけてきたのだろう。
「なぜだ?」
「俺が火事場泥棒している理由か?」
「ああ」
「何にしたって金は必要だ。仏さんには三途の川渡る手間賃ぐらいでいい。だけど、生き残っているやつには、幾らあってもいい。生き残りはしましたが、金がなくて死にました。それじゃダメだ」
「……そうか」
「できたら女性の看病してくれ。苦手なんだ」
「わかった」
あらかた衣類、食料を荷車に乗せた。金品は銅貨や銀貨はかなりあるものの、金貨は5枚しかなかった。馬はいなかったが、牛を使って動かすことにする。
ただ、牛で荷台を牽かせるようなことをハンターはできない。
アプトノス、ポポあたりなら、荷台を牽引させることなど容易いのだが。
ゴブリンスレイヤーが農場の手伝いをしているので、牛を操ってもらう。
被害者たちも荷台に乗せて、ハンターが牽引する。
牛が何頭も居なかったので、そうせざるをえない。
大剣やハンマーを扱う腕力と持久力を駆使して、被害者たちを乗せた荷台も街へと向かった。
すすり泣く声が後ろから聞こえてくる。
神殿前に着いたら、被害者を荷台の荷物ごと渡して終わり。
被害者を渡したら、眼鏡を掛けた神官がにが虫を噛んだような顔になる。荷台に乗せた金や食料を渡した途端、さらに嫌な顔をする。
「その、心はご立派ですし、寄付金としてもありがたいのですが、何でも金で解決といったやり方は褒められたものではありませんよ」
「はいはい」
「あなたのその態度もです。その適当さや字の下手さで、あなたの誠実さが伝わりづらいのです」
眼鏡神官はハンターに字を教えている。
ハンターが不真面目でないことは知っている。だが、礼儀や常識には少々欠けていることがある。農村の出ならば、そういったことを知らないのも仕方がない。だが、知らないままというのもまずい。依頼人と齟齬があれば、不利益を被るのはハンターだと散々言っている。
冒険者はならず者といった偏見は未だにある。
そして、間違ってもいない。
基本的に冒険者は、食い扶持に困った者や家督を継げない者がなることが多い。そういった者が犯罪者にならないように冒険者にするのだ。
ハンターは人徳者であることは間違いないのだが、態度からして粗野な印象が拭いきれない眼鏡神官。別に清廉潔白な人物にまでなってほしいとは言わないが、誠実に頼んでほしいというのが眼鏡神官の本音だ。
「ともかく、保護はわかりました。彼女たちはお任せください」
「頼んだ」
「あなたも少し頼み方を考えてみたらどうですか」
「そうか、考えてみる」
「前もそう言ってました」
「……そうか」
ゴブリンスレイヤーの返事にこめかみを押さえる眼鏡神官。
彼も神殿にはお世話になっているらしい。
冒険者の仕事はここまでだ。
ギルドに報告するためにハンターとゴブリンスレイヤーはギルドへ向かう。
「なぁ、ゴブリンが村を襲う前兆がないってことあるのか」
「基本、ゴブリンが村を襲う際は偵察が来る。だが、村の人間がそれに気づかないこともままある。チャンピオンが居たのなら、村の戦力がないことを悟った時点で襲撃の対象になったかもしれん」
「……そっか」
ハンターが相槌を返すまでの間に、彼女たちは立ち上がれるだろうか、このようなことが起こさないようにするにはどうすればいいのか、頭の中で思い浮かべたことを口に出ないように止めた。
彼が神殿の人と知り合いということは、村に間に合わなかったこともあるのだろう。
第一、そんなことを聞いてどうするのか。
ハンターが彼らの心を救えるわけがない。
だぶん、ゴブリンスレイヤーも彼らの心は救えなかった。
恐らく、勇者ですら救えないだろう。
結局、自分で区切りをつけるしかないのだ。
「あ、報酬」
ふと思い出したハンター。
一応、依頼人の男の子から貰った銅貨数枚の半分をゴブリンスレイヤーに渡そうとする。途中参加とはいえ、手伝ってもらったのだ。なけなしの報酬ではあるが、渡さなければならない。
「いい。俺は何もしていない」
受け取りを拒否された。
ハンターの手には銅貨が数枚残る。
その銅貨が、急に重くなった気がした。
男の子の助けてという言葉が、果たせなかったという事実が生まれて、依頼人にどういえばいいのか気分が悪くなってしまう。
きっと、ギルドに行けば、男の子は聞いてくる。
村はどうなったか、家族はどうなったか。
それにハンターはどう答えればいいのか、分からなくなってしまう。
事実をありのまま話せばいいのか、濁してしまえばいいのか。
「どう言えばいい?」
「誤魔化す必要はない」
ゴブリンスレイヤーのぶっきらぼうな答え。
「お前、それ言えるのか?」
「言い辛いのなら、俺が報告するが」
この男なら、それこそストレートに言うだろう。
それがいいのかもしれないが、報告の義務はハンターにある。
依頼を受け、報酬を貰っているのはハンターなのだから。
夜になった中を歩きながら、依頼人の男の子にどのように報告するか、考えているとギルドに着いた。未だにどのように報告するかは決まっていない。
ギルドの扉を開く。
ギルドの中にある食堂では冒険を終えた同業者たちが、思い思いに食事を楽しんでいる。目的の男の子は壁際にあるテーブルに座っていた。
男の子は心配した顔だ。
ハンターは対面になるように彼のテーブルに座る。
「……ゴブリンは、倒した」
バツが悪く、そう言ったハンター。
「村のみんなは、お父さんとお母さんは?」
ハンターの様子に、観念したように言う。
「居なくなった人は村に埋めた。保護した人は神殿に送った」
「……村は、どうなりまし、たか」
彼自身、もう分かっているだろう。残っていると言ってほしいのだろうが、そんな嘘を言えるほどハンターは偽善者になれない。
ただ、言えば眼の前の男の子は泣くか、怒るか。どっちも嫌だが言うしかない。
「壊された」
ハンターが言ってからしばらくして、男の子は嗚咽を漏らす。
それは、食堂の喧騒に紛れて、ハンターぐらいにしか聞こえない。
結局、ゴブリンスレイヤーのようにストレートに言うしかなかった。
男の子は泣き止んだ後、無言で頭を下げて、神殿に向かった。
「なぁ、ゴブリンスレイヤー」
「なんだ」
受付嬢に報告を終えた彼に話しかけるハンターは、無駄だと分かっていても聞きたいことがあった。
「お前ならどうした。どうやって助ける」
ハンターはモンスターが出れば、なんとしてでも狩る。ソロだろうが、アイテムを駆使し、弱点を探り、伝説の龍が討伐対象でも倒す。
そしてハンターは、人の救い方など知らない。
「俺は、ゴブリンを殺す。それだけだ」
ゴブリンスレイヤーの過去に何があったのか、察することはできる。今回のようなことはよくあることで、彼にもあったことなのだろう。
「……助けたりとかしないのか」
だが、彼は被害者であり、復讐者である。
戦うと決め、復讐をやめることをしていない。
そして、無力さを感じたこともあると思う。
その無力さを感じたときの対処法をハンターは聞きたかった。
「それは、俺の専門外だ。救う、助けるなど、俺にはできん。俺は
聞いてみれば当たり前の話で、どうしようもない。
彼も、無力な人なのだ。
「ただ、俺が言えるのは、お前は、良くやっている」
ハンターは、超人的な怪力や耐久性を持っていても、神官のように奇跡が起こせはしない。
ゴブリンスレイヤーの言葉に多少心が軽くなるくらいの、無力な人に過ぎない。
「どうも」
そういった短い言葉を返せるくらいしか、今のハンターには元気がなかった。
それでも、一休みして明日になれば、またいつものように依頼を受ける。
それが、彼の日常なのだから。
それ以外にやることも、やれることもない。
あけまして、おめでとうございます。
新年早々、鬱な話ですいません。
女魔術師、女魔法使い どっちがいい?
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