私が最初に異変に気がついたのは、変な夢を見るようになってからだった。
いや、それは正しくないのかもしれない。
そもそもの異変は私が見知らぬ下町に倒れていたところから始まった。
昨日の記憶もろくに思い出せはしなかったけど、自分の体が5歳程度に縮んでしまっているのと、見たこともない和服みたいな服装に着替えさせられていたことだけが理解できた。
右も左もわからなかった私だったけれど、そこが治安の悪い部類の村落だということは把握できた。
息を殺し、気配を潜め、一日の全てを悪漢から逃げるのに費やしていた。
そして何度も何度も逃げ続けて、空腹から体に力が入らなくなって、もうだめかと思った日のこと。
私は、変な夢を見た。
そこは蓮の葉々が浮かぶ大きな池で、周りに青々と育った木々が立ち並び、その周囲一体に赤と金が交じり合ったような見たこともない蝶が舞っている。
私は一際大きな蓮の葉の上で力なく倒れている。
――春香――
私は水面に近いその位置から周りを見ていると、ふと誰かの声がした気がして、ゆっくりとそちらへ首を向ける。
そこにいたのは赤と金が入り混じる豪華な和服に身を包んだ一人の女の人。
その黒い髪はまるでこの世の闇を集めたかの様な漆黒で、その金の瞳は私の全てを見透かすように神々しさを秘めていて、まるで神話にでてくる神様のようで、目の前にいるのにそこにいる実感が欠片も持てなかったのをよく覚えている。
「あなたは、だれ?」
私は尋ねる。
――妾の名は、茜揚羽――
まるでテレビが接触不良を起こしたときのように、彼女の名前の部分だけがかすれて聞こえない。
――ああ春香、まだ其方に妾の名は届かぬのだな、未だ斬魄刀も持たぬその身故か、何もできぬ妾の力のなさが呪わしい――
そう言って悔しそうに顔をゆがめる彼女。
彼女はゆっくりと私の前に膝を突いて悲しそうに私の顔を覗き込む。
――春香、其方の才ならばこの町の誰が相手になろうとも負けることなどありえようはずもない、其方自身を信じるのじゃ、そしていずれは――
視界が掠れ始める。同時に女の人の声もだんだんと届かなくなる。
目の前が真っ暗になって、まるで暗い水底に沈むような浮遊感に襲われる。
私が最後に見たのは、悲しそうにこちらを見つめる彼女の顔だった。
目が覚めると、私は空腹で倒れたあの場所にいた。
さっきのあれがただの夢とは思えない。そう実感させるだけの何かが私の中にある。
「?」
掌を握っては閉じ、握っては閉じと繰り返していると、自分の中にある変な力に気がつく。
まるで炎のように自分の中から外へと漏れ出すソレを試しに掌に集めてみるとかなり大きな風船サイズの青い球体がそこに出現した。
「どっかで見たような……」
夢から覚めてからまるで頭の中にあったもやもやが晴れたみたいに、思考が明瞭になる。
和服、古い集落、夢、斬魄刀、そして目の前にあるこの力。
斬魄刀という物には聞き覚えがある。昔よく読んだBLEACHっていう漫画に出てた日本刀。
それで、確かその舞台の一つに霊界、尸魂界っていう死後の世界があったはず。
そこでは死者は和服で旧日本風の流魂街っていう集落に住んでいたよう、な……。
「あれ? 今まさにその状況では?」
考えれば考えるほど、当てはまる。
集落は治安が悪いところもあり、霊力があると死後なのにお腹がすく。
そして夢の中で語りかけてきたあの女性、あれは恐らく……私の斬魄刀。
斬魄刀を持つ前でも稀に語りかけてくることがあるって話は聞いたことがある。日番谷隊長がまさにそれだったし。
あれ? つまり私っては隊長格? この霊力球もルキアや恋次より明らかに大きいし、才能はありそう。
わーいやったぁ! 強くてニューゲームだー! って喜びたいところだけど現実は甘くない。いや漫画だけど。
死後の世界なのに転生?っていう疑問はさておき、この世界は隊長格程度の才能で無双できるほど甘くはない。
まず死神の敵である虚、その大虚の中でも最上級の大虚は隊長格より強いという。
次に毎度お馴染みの藍染隊長。隊長格の倍の霊圧を持ち完全催眠というふざけた能力の斬魄刀を従える天才中の天才。暗殺しようとしたところで一秒後には地面に横たわってる姿が容易に想像できる。
最後に滅却師。物語の最終章に登場し死神たちにトラウマを植え付けた戦闘集団。卍解を奪ったり、特殊能力で圧倒したり、特にそのボスのユーハバッハがまじでヤバイ。どれくらいヤバイっていうとこの作品の最強キャラって考えたらトップに入るくらいにはやばい。藍染さんですら勝てなかったくらいなのだからインフレ恐るべし。
さてどうする? ここから先は動作一つ、会話一つにすら気を抜けない。
まず最初に私がすべきことは何か? 決まっている。死神になることだ。
力があってもそれを扱えなければ意味が無い。それに瀞霊廷内に入ることで、今が原作でいうどのくらいの所にあるのかを知ることが出来る。
このまま流魂街にいればいいのか? それでは駄目。いつどこで死ぬかなんてわかったもんじゃない。
世界のバランスをとる為に消去されたり、藍染の実験に使われたり、どうせそこにいても安全だとは限らない。
ならば多少の危険があろうとも力をつけるべき。
「へへ、やっと見つけたボヘラッ!?」
「覚悟しやがヘブラッ!?」
とりあえずなんか追ってきてた悪漢に霊力ボールを投げつけるとそのまま爆発してそいつらを気絶させた。
赤火砲ほどの威力は無いけど今後はこれで十分かもしれない。
……ついでに鬼道の練習とかしておこうか、一桁代ならいくつか覚えてるし。試行錯誤していこう。
そうして私はかなりお腹が空いていたので、とりあえず食料を得るためにそこに転がっている悪漢からお金をせしめた後、町へと繰り出すのであった。