見上げる限りを覆い尽くした清澄な青空、起きたばかりの朝の空気は薄着だと少し肌寒い。だから念のためにと、ペトラはメイド服の上にも一つ上着を重ねてきた。
しかし、風に吹かれて彼女を撫でるのは、吸うたびに喉を焼く熱気と肌にまとわりつく邪悪な凄み。同じ場所にいながらも異なるものを見詰めるかのような視線。
早朝の爽やかな散策が壊されるには十分すぎる悪意だ。
「誰……!? 何をしに来たの!」
危険を素早く察知し、悲鳴にも似た問いを投げ掛けるペトラ。相対する罪人は、あっけらかんと首を傾げながら一歩ずつ近付く。ひたりひたりと。将来は衣服を扱う仕事柄に就きたいと思っていた少女の目には冒涜にしか見えない風貌で。
頑是無い子供の悪戯のように、太陽を嫌う空想上の怪物のように、身体中のみならず顔にまで巻かれた包帯。しかし本来なら感じさせたはずの病人という印象を、隙間から覗く鋭利な眼光が無造作に塗り替え、殊更に異様を炙り出している。それを前にして逃げ出さないだけ、ペトラは勇敢な方だ。
「おや? まだ小さいのに律儀なこと。ええ、大丈夫ですよ、そんなに警戒しなくても。私はその人さえ譲ってもらえれば良いのです。簡単なことでしょう?」
「その人って、スバル様のこと!? 誰かもわからないのに、駄目に決まってるでしょ! 譲る訳ないんだから!」
「あらま、何をそんなに怒っているのでしょうか。私が私の夫を望む事に、一体何の問題が?」
決死の顔で強く否定するも、シリウスは本気で疑問だとばかりに問い返した。ゆえにペトラもまた立ち下がる気配を見せず対抗。膠着状態に陥る。
この状況、そもそもの会話が成り立っておらず、言葉の裏にある前提自体が大きくずれている。それは二人の決定的な差だ。心の奥底に根付いた価値観と方向性の違い。決して交ざることなく、相容れようのない認識の相克が双方の意思疎通に齟齬をきたす。一生かけても、互いの心中を分かり合うことなど出来まい。
見ている、見えている世界が違うのだ。
「意味分かんない! スバル様はあなたの、お、夫なんかじゃないし、譲れないもん! いいから早くどっか行って!」
「自分勝手な子ですね。困りました。丁度良い機会だと思って来たのですが、こんなに頑固だとは。……まあいいでしょう。どうせこうなるとは大方予想していましたから。――その感情、私に見せろ」
この場合状況をどちらかに傾かせるためには、言葉以外の手段が必要となってくる。原始的な肉体の力を始めに、知力、財力、権力など、力の示し方は用途によって多岐に渡る。そしてどれもペトラ一人には劣るものばかりだ。
ならば混沌を是とする魔女教徒、その大罪人が少女の意思を折るために選ぶのは何か。ルグニカ全土で指名手配され逃亡中の身であるシリウスだが、そんなまともな理由で無用の騒ぎを避ける、などといった思考に辿り着くわけがない。端から公の場には立てない存在であったことを抜きにしても、彼女については常識をもとに考えた方がむしろ負けだ。
言うなればシリウスはひたすら、己の信じる愛に生きている。
「ひっ……!?」
シリウスの顔、鼻、口、そして目が、ペトラの正面に迫った。至近距離で狂気に煽られたペトラは悲鳴を漏らし、後退りを試みるが後ろの車椅子に塞がれた。足が引っかかって不意にハッとする。これ以上下がったら、スバルがシリウスの手に渡ってしまう。彼を、守れなくなる。
いまこの場においてペトラに有利な点といっても、せいぜいスバルが自分の後ろにいるという事くらいだ。相手が身柄を掌握できていないことだけが、ペトラの持ちうる唯一のアドバンテージ。それを手放してしまってはペトラに価値はなくなる。
幼い少女を勇気づけたのは、いっそ明快な動機だった。
そしてそれを、シリウスは炯々とした眼差しで穿ち、見透す。
「なるほどなるほど。あなたの根源、頑なな心の所以はそれでしたか」
「……っ、何を」
「良いじゃないですか。愛こそ、最も純粋な感情で最も単純な行動原理。あなた、彼のことが好きなのでしょう? 愛を向けているのでしょう? ありがと。でも残念です。この人はもう、あなたの知る彼ではありません」両手を広げて語る声に、ふと金属の音が交じる。「なので、私がいただきます。ごめんね?」
言い切ったが否か、シリウスの顔色が変わった。愛を論じていた口に嘲笑を、憫笑を、冷笑を、繰り出した鎖と共に刻む。
行為の善し悪しを無視してみるならば、それはものの見事な手捌きだった。いつのまにか足下に忍ばせていた鎖を前方に投げつけ、ペトラを飛び越えて車椅子を絡めとると同時、巻き戻す反動で宙へと放る。完璧な奇襲に、当然微動もしないスバルはされるがままだ。
ペトラがようやく動きを追い始めた頃には、既に別の軌道を辿った鎖がスバルの身体のみを巧みに掬い取っている。シリウスはそのまま背負うようにスバルを背後に括って後退、街路樹の上を足場にして器用に立ち去ってゆく。一秒にも満たない誘拐劇が、即興で披露された。
「ま、……きゃぁっ!」
追いかけようとしたペトラの頭上に落ちる影。投げ出された車椅子だ。それは座るのみならず楽な移動をも想定した物で、いくら竜車ほどでないにしても、少女にとってはかなりの重量を誇る。ましてや自由落下による加速度までついたなら尚のこと。利用者を配慮した工夫の重さが、そのまま脅威に変換される。
「よォくやったぜ、ペトラ。後は全ッ部俺様に任せろ」
だが、その重さをまったく意に介さない者も、また。
静謐な怒りの滲んだ横顔で牙を鳴らし、脅威を握り潰した金髪の男がちらと一瞥。頭を撫でられたかと思うと、傍を疾風が駆け抜けた。
「わ、あっ」
「その気味悪ィ阿呆面ァ、二度と包帯も巻けねェようにしてやらァ」
地の陥没する音と揺れ動く空気。声を引きずって見えないバトンが男に託された。
遠ざかるシリウスの背に、凄まじい勢いで追い縋るのはまるで金色の獣。一歩の踏み込みで距離を消し、一度の跳躍で肉薄、腕を振り上げればそれだけで彼の攻撃は秒読み段階に突入する。
人間離れした運動神経を持つ彼は、其の実、一部が人間からはみ出ている。
ガーフィール・ティンゼル。
最強の盾を自称する、ワータイガーとのクォーターだ。
その力を遺憾なく発揮した、有無を言わせない強引な飛び入り。そこから振り下ろされる一撃に対し、シリウスはようやく気付いたといった様子で片手を振るう。左腕と連動してスバルを巻き付けているのとは反対、じゃらりと垂れ下がった右腕の鎖だ。しかしすでに巻かれた状態とは違い、解かれた鎖は攻撃にしろ防御にしろ、腕の動きに遅れて放たれるため完了までにワンアクションが余計に入る。
近接戦闘においてガーフィールが有利なのは火を見るより明らかだった。
場所が空中でさえなければ。
ガーフィールの鉄拳、それがシリウスの右腕ごと顔面を殴り潰す寸前でピタリと止まる。容赦をしたのでも、戸惑ったのでもない。
逆さのアーチ型に伸びた鎖がガーフィールの足首を掴んで引っ張ったことで、攻撃範囲から逃れたのだ。消したはずの距離が再び開いて物理的に届きようがない。足の付いた場所であったのなら、まだ弾きかえす術があっただろう。曲芸を連想させる空中での鎖さばき。完全な不意討ちが、不発に終わった。
零れた舌打ちに続いて自由な方の脚を振り上げるもなお不足。波打つ鎖の慣性に従って彼の身体が虚空を舞い、金属音を浴びながら急降下、そのまま地面に墜落する。
先ほどの車椅子とは比べ物にならない落下速度に、受け身を取る暇も与えられない。
衝突、次いで激震。
道の舗装と骨の砕ける音が響き、打ち消すように破片が一斉に飛散した。塵芥と風が押し寄せてペトラは目を瞑る。思わず吸い込んだ埃をゴホゴホと吐き捨て、しかし見逃せまいと涙ぐんだ目で落下地点を注視する。砂埃も徐々に収まり、濛々と巻き上がって遮られていた視界の中、浮かび上がる一つのシルエット。
「よォし、捕まえたッぜェ」
燃え盛る闘志の呟きが、静まり返った散策路を公演会場でなく戦場に変える。
片足で体重を支え、抉られたクレーターの中心に佇むのはガーフィールだ。あろうことか骨の折れた脚で固く踏み堪えた姿勢のまま、野性味を宿した獰猛な笑みと眼差し。
シリウスの扱う鎖に弱点がもう一つあるとしたら、それは使用者と対象者がどうしても一線上に並ぶこと。する側とされる側の差はあれど、攻撃を行う瞬間だけはどちらとも鎖で結ばれるのだ。シリウスが鎖を引いて落とし、けれどガーフィールが耐え切ったのならば彼にも同じことが出来よう。
もっともシリウスに知る由などないが、地上が舞台である場合は『地霊の加護』を持ったガーフィールに優位性がある。それが着地時の衝撃緩和、そして損傷部位の治癒に続き、いまや純粋な戦闘力増加にまで繋がる。
「てめェも下りてきやがれ、クソ女。大将には掠り傷一つ付けねェようにな」
配慮を求めた言葉と裏腹に、ガーフィールの動作は強烈を極めた。
結ばれた足を振り下ろして鎖を強く握り締める。ガクンと姿勢を崩したシリウスを横目に、ガーフィールは地盤をも全て踏み抜かんとばかりに重点の入れ替え。上体が大きく前方に傾き、そのままの勢いでひねって引き張った。
額に血筋が浮かぶ。食いしばった歯が擦れ合う。無骨な鎖を握る手の皮はめくれて、足も治りきっていないために痛む。
しかし、仲間を傷付けた女一人引き摺り下ろすことなど、さしたる苦でもなかった。
シリウスは鎖が両方とも自由の利かなくなった状態に焦るでもなく、引き寄せられるまま素直に下りてくる。先ほどの再現のように彼女の身体が無防備に落下。土埃を起こして舞台が地上へ戻った。
座り込んで一部始終を眺めていたペトラに、ガーフィールがシリウスの動向に注意を向けながら、意識だけ振り返って言う。
「ペトラは屋敷に避難してろ。それから、すぐにロズワールの野郎を呼べ。緊急事態だってェなァ」
「わ、わかった! 今すぐ……、」気を取り戻し、屋敷へ向かおうと立ち上がったペトラが目を瞬かせる。「あ、あれ、ご領主……様? いつの間に!?」
「おやおやおーぉや、驚いたよ。まさか君からの指名が入ってくるとはねーぇ。これはこれは、私も少しは認められたと思っていいのかーぁな? 一つ屋根の下に住んでみるものだ」
言うが早いか足音も気配も無く飄々と登場し、軽口を叩いてみせた人影。二人の顔を見下ろす高さから、真剣さを宿したオッドアイで俯瞰する長躯、その余裕ぶった姿をガーフィールは睨む。怪訝な表情を浮かべたあと、眉をひそめて舌打ちした。
「気色悪ィことばっかほざいてんじゃァねェよ。いっつも肝心な時にいやがらねェてめェが、またてめェの部屋に閉じこもらねェよう引っ張りだそうとしたッだけだろうが。この期に及んでまだふざっけるってんならァ、その首噛み千切るぞ、オラ」
「せっかく呼ばれたから来たというのに、冷たい反応をしてくれる。心外……だとはいえないのがなんとも情けない話だ。それじゃーぁ名誉挽回といこうか」
「口先だけじゃァねェ、行動で証明してみろや」
「つまり、こういうことだね?」
端からそうするつもりだったのか、準備したようにパチンと指を鳴らしたロズワール。何事かと眉をひそめ、ふと髪先を靡かせた空気の、マナの振動にガーフィールは目を見開く。そして、目撃する。
激しく大渦を巻き、互いが引き寄せられるようにしてぶつかり合っている二つの赤熱した旋風。瓦礫や破片が捲き込まれて礫となり、そうでないものも表面から砕けて混じっていく。街路全体を引き剥がして一緒くたに吹き荒ぶ熱の奔流。
ガーフィールを挟んで激突するその脅威に、狂乱した叫びが割り込んでくる。
「ああ、ああああ、忌まわしい者共め! やっとあの人と愛を交わして一つになろうというのにぃ……それを邪魔するか、クソがぁ! 私を、私たちを、二人の愛を部外者ごときが遮るな!」
「部外者だなんて薄情な。先に仕掛けてきたのはそっちだろう? 悪いけど、そういうのを確か……ああそう、『逆ギレ』っていうんだよ。合ってるかな、スバルくん?」
「そんな奴はもういないと、言ってるだろうがぁぁぁっ!!」
猛々しい熱風を纏って渦の中に現れるシリウス。対峙するロズワールの圧力に押し負けることなく、拮抗した鬩ぎ合いを可能とするのは彼女の全身から怒気の滾るままに巻き上がる炎だ。百八十度裏返った顔が憤怒を象り、不気味な目付きを憎悪に近い激情で燃え上がらせる。
十分なほど注意していたはずなのに、ガーフィールはその攻撃に気付けなかった。ロズワールにつまらないプライドで悪態を吐いて油断し、挙げ句にはそのロズワールに助けられるとは、これ以上の屈辱はないだろう。熱気にあてられたように、怒りが沸き上がってくる。
「ちょおーぉっと、怒る相手を間違えてないかーぁい?」
「オイ、ロズワール! てめェ勝てんだろうォなァ!?」
「無視は寂しいね。……確かに私は以前から直接手を加えた事は無かったが、庭先に転がり込んできた大罪司教をみすみす逃す理由もないのでね。エミリア様が亡くなられた今、スバル君が奪われるのは私としても望まないのだよ」シリウスの権能を相手に、詠唱も姿勢もまともに取らずとも抗っているロズワールが、しかし道化た顔を歪める。ガーフィールにはそれが、征くべき道が分かっていながらも目先の崩壊を恐れているように見えた。「彼が彼である以上は協力する。それが契約の内容でもあるしねーぇ」
それでも彼らしからない葛藤は刹那、「ふ」と笑いとも吐息ともとれる声を漏らしたかと思うと、突として右腕を上空へ振りかざした。
今回はさすがに何か起きると予期できたガーフィールが、ペトラを脇に抱いて場を離れる。少女はロズワールの後ろにいたため熱風の影響を受けていないが、これからも安全であるという保証はないのだ。恐らくはロズワールもそれを知っているからこそ、わざわざ大げさな動作でガーフィールを促したのだろう。
するとそこに、屋敷の方から近付いてくる影が一つ。その顔を見たガーフィールは、ロズワールは最初からこうするつもりだったのかと嫌な気分になる。
「俺様はてめェの助手でもなんでもねェんだがなァ、ロズワールの野郎」
「――ガーフ! 大丈夫ですの!? それと、ペトラは……」
「いいッとこに来た、姉貴。ちょいとペトラを屋敷まで運んでッくれや」
「は、運んでくれって……ガーフは戦う気ですの!? 相手は大罪司教ですのよ!? せめて、もう少し様子を見てから、」
「そんな暇ァ無ェんだ。大将を、必ず取り返す。大罪司教だからなんだってんだ、一度は捕まえられたじゃァねェかよ。だから今度は俺様が、この手で、やるんだ……ッ!!」
ガーフィールの心中に去来するのは、数多の感情を糧に今なお燃え続けている熱意。単なる復讐とは毛色が違う闘志だ。激情の中にしかと理性を宿した、彼こそ最強最硬の盾に相応しい。
彼に抱き上げられたペトラも目を伏せ、つとフレデリカを見上げる。
「フレデリカ姉様。ここはガーフさんに任せて、私たちは戻りましょう」
「ペトラまで……」
「これがガーフさんと領主様に出来ることだから。だから、任せる。私たちは、私たちに出来ることをしなきゃ」
ロズワールを言及した瞬間に瞳を過った光、それを見ぬふりしてフレデリカはペトラを譲り受ける。見た目通りに軽く、か細い少女の体。フレデリカに亜人の血が流れている事を抜きにしてもその軽さは変わらない。本来ならばこんな所にいていいはずのない、普通の女の子だ。
彼女は戦う術も逃げ延びる術も持たなければ、特別に頭が回る訳ですらない。使用人として多少要領が良いだけで、一般人と何ら変わりのない少女。裏切ったロズワールを許すつもりはなく、救ってくれたスバルを諦めるつもりもないただの少女。しかし平凡な少女には過酷すぎる環境で、気持ちの矛盾と無力感を味わっているのだ。
ペトラはこれまで、世間一般とは一風変わった環境で成長してきたと自覚している。今は目を覚まさないナツキ・スバルが姿を現すようになってからは、異常だと思っていたことが日常面をして彼女らの生活に舞い込んできた。それは未知の恐怖よりも、新鮮な刺激という方が強かった。だから彼を追ってメイドにまでなった。
一介の村娘がいうようなことでもないが、それなりの死線は経験してきたつもりだ。生か死かを賭けた鉄火場で、そばにはいつもスバルがいた。だから頑張れた。だから我慢できた。だから好きになった。
今日、そのスバルを失う事になるかも知れない。
それが恐ろしくて、不安で、本当はずっとそばにいたい。離れたくない。
生憎と、そのスバルを救えるのは自分ではない。
それが悔しくて、心残りで、本当は皆と一緒に戦いたい。逃げたくない。
しかし、ペトラは無力だ。ガーフィールやロズワールが前線にいるならばお荷物にしかならない。いるだけで皆の邪魔になる。フレデリカも、クリンドも、あのオットーですら、今のペトラでは彼らの足手まといになってしまう。
ゆえに、今は諦める。ガーフさんに、そしてご領主様に任せよう。だが、未来は違う。
いつか、いつか必ずだ。武力でなくとも知力で、あるいは他に培った力で、必ず役に立ってみせる。頼もしいという言葉が聞けるようになるまで、みんながあっと驚くぐらい頑張ってやる。
未来のスバルを救うのはペトラなのだから、今のスバルまで救おうとするのは無粋だ。欲張りだ。
「うっ……ぅう」
「大丈夫ですわよ……ガーフと主様がきっとスバル様を取り返しますから、安心してくださいまし」ペトラを抱いて走りながら、フレデリカはあやすように優しく言葉をかける。「よく頑張りましたわね、ペトラ。泣いて叫んでも誰も見ていませんわよ」
「……っ、ぅぁああ、ぁぁぁあああああぁあああ…………!」
つまりこの涙は、未来への誓い。いつか強くなって大きくなった自分へ向けた約束だ。
今だけは、頬を流れる涙に、心を包み込む気持ちに、胸の中の温もりに甘えよう。
溜め込んでいた恐怖と不安の堤防が決壊し、溢れだした『愛』を受け入れて、ペトラは思い切り泣き叫んだ。覚えている限り、生きてきた中でも一番大きい声で泣いた。喉が嗄れて目元が赤くなるまで。フレデリカがよしよしと頭を撫でるのを止めるまで。
自分の、そしてみんなの居場所が、無慈悲な炎に包まれて焼け落ちている光景を、見るまで。
「うそですわ…………屋敷が……燃え、てる」
呆然と、フレデリカが脱力した声音で呟く。抱き上げられたペトラからもよく見える炎は既に八割方をその腹の中に呑み込んでおり、今から消火を試みたとて全焼は免れまい。そもそもこれだけの炎を消す手段を二人は持っていない。屋敷一つが丸々火の手に侵された様は、二度目ながらいっそ壮観でかつての悪夢を否応なしに彷彿とさせた。
シリウスの襲撃、及びスバルの拉致に屋敷の炎上。雪上霜を加える圧倒的な脅威を前に、メイド二人はあまりにも無力だ。
「フレデリカ! それに、ペトラもいるかしら」
「っ! ベアトリス様ですの!?」
そんな時に屋敷の正面からみて左側、厩舎の方から聞こえた複数の足音。見れば両の髪とドレスを揺らしながら走ってくるベアトリスと、その後ろをオットー、更にはパトラッシュとフルフーが付いてきている。その慌てぶりから、予想を違わず事態は深刻、解決の目処は立っていないことが見受けられる。
一足先に合流したベアトリスが、呼吸を整えて事情を話す。
「時間が無いから手短に説明するのよ。これは魔女教徒の仕業かしら。おそらくは脱走した『憤怒』の権能、あるいは……」
「——『暴食』、そのどちらかです。襲ってきたのは、『憤怒』だけじゃありません」
「なんですって!? それじゃあ、大罪司教が二人も来たんですの!?」
「そ、そんな……」
数秒遅れて追い付いたオットー引き継いだ説明に、フレデリカとペトラが驚愕の色を浮かべた。当然の反応だ。やたらと魔女教に狙われる機会が多いエミリア陣営だが、これほどまでに直接、幹部級の大罪司教が二人して襲ってきた前例はない。発端ともいえる『強欲』と『暴食』にレムの名前が奪われたのもそもそもの被害はクルシュ率いる白鯨討伐隊が主であったし、プリステラ攻防戦においては各陣営が集結している場合だったのだ。エミリアの死亡が確認されて以降、魔女教がその本拠地を叩きに来るなど全く予想だにしていなかった。
オットーの隣に並ぶフルフーの広い背にはアンネローゼがぐったりと横たわっている。十中八九、欠片の容赦もない悪意の襲来に衝撃を受けたのだろう。一方でパトラッシュは主であるスバルの姿が見えない事に焦りを覚えているのか、鼻息を荒くして今にも飛び出していきそうだ。
そんな地竜の喉をさすってやりながら、ベアトリスが説明を再開する。
「今ここは二人の大罪司教に襲われているのよ。『暴食』はクリンドが足止めしているけど、さすがに一人に任せるのは危険かしら。皆の安全が確認出来たら加勢に行くのよ」
「ええ、クリンドに頼りきりにしていては屋敷直属のメイドとして面目ありませんわ。皆……ガーフと旦那様は『憤怒』と交戦中ですので、あとは」
「ラム姉様とレムさん……と、メィリィちゃんも」
ミロード家に仕えているクリンドは、時たまアンネローゼに同行してロズワール邸を訪問することがある。よりにもよってその滞在期間にシリウスが襲来したわけで、ロズワールの分家にあたる執事とはいえ実質顧客にも等しい相手に、言うなれば自分たちの問題を押し付けているようなものだ。本人がどう思うかは考えるまでもないが、フレデリカ達にだって相応のプライドというものがある。
「姉妹の姉は妹の方を助けにいったかしら。『暴食』が現れたのは東棟だから、クリンドさえやられなければ多分、割と大丈夫なのよ……それより、問題なのはメィリィの方かしら」
「確か、座敷牢……それも場所は東棟の地下でしたわよね」
「えーと……その座敷牢なんですが、地下への階段が火炎で完全に遮られているんです。遠目でもとても人の通れる状態には見えませんでした。中にまで火の手が及んでいるかは不明ですが、それも結局は時間の問題かと」
「ではメィリィ以外の安全は確認できたので、彼女の救出には私が向かいますわ。ただ、それだとクリンドが……」
ガーフィール同様亜人の血を引くフレデリカは、その力を発揮して女豹の形態へと変身することが可能だ。声を大にして言うことでもないが、クリンドに仕込まれたおかげで制御が利く彼女の獣化は、普通の人間には困難を極める事柄でも容易くこなせるようになる。それが火勢の盛んな屋敷の中であっても、僅かに残った足場を器用に辿って地下へ下り、少女一人を連れてくるに足るだけの力は十分にあるだろう。
しかしそうすると、今現在も『暴食』と相見えているというクリンドへの応援が手薄になる。常日頃から並外れた万能さを見せている彼が苦戦する様子は想像し難いが、かといってあの『暴食』相手にすら余裕でいられるだろうかと考えれば、正直曖昧なところがある。両方とも底の知れない不気味さと、いざという時のポテンシャル――というよりは本気を出した力――が未知数であるためだ。
レムを助けに行ったラムも未だに戻ってきておらず、クリンドへ向かうのはベアトリス一人ということになる。
「……べティーは一応、『暴食』と戦った事があるのよ。マナはあまり貯まってないけど手助けくらいなら出来るかしら。それに、隙を見て逃げる選択肢もあるにはあるのよ。それじゃあ、残ったこの場はオットーに任せたかしら」
「分かりました。どうやら今回は僕が体を張る必要が無さそうなので、内心ほっとしているところですよ」
「武闘派内政官の名が泣くのよ」
「その称号、あんたらが勝手に付けただけなんですけどねえ!?」
『暴食』はこの一年強で被害範囲を急激に増やした迷惑者であり、多くの被害者やその関係者が躍起になって解決法を探っているのだ。今のところ確立された方法はないため、『暴食』本人に訊くか討伐でもしなければ手の施しようがない、という最終手段の考慮が色濃くなりつつある。
そんな人物が目の前に現れたのなら、せめて小さな手掛かりでも欲しくなるのが道理だ。危機と共に降ってわいた、まさに千載一遇の機会。劣勢でさえなければ是非とも捕まえたい相手。
しかし、状況がそれを許さないのならば大人しく断念するだけの冷静さを、ベアトリス達はまだ保っている。目先の欲望を優先してがむしゃらに挑んではかえって痛い目に会う事を知っているのだ。
フレデリカとベアトリスが各々の役目を果たしに屋敷へ飛び込み、オットーはペトラをパトラッシュに乗せて周囲を警戒する。こんな火事場では野生動物もほとんどが逃げてしまい、『言霊の加護』を持ってしても情報収集がままならない。せいぜいオットー自身と、二匹の地竜が防衛の全てだ。
それでもやらないよりはマシだろうとしばらくの間加護を発動していた彼は、背後から物音がしたのにふと気付いた。
「……?」
最初は枝か何かが落ちた音に聞こえた。だがそれが一度でなく二度、そして三度四度と次第に増え、更には近付いてきたなら話が変わる。行進のように、いやもっと無秩序な雑踏のように何重にも反響しながら接近してくる音──違う、これは声だ。物音でも足音でもない。『言霊の加護』が、なにものかの声を捉えたのだ。
しかし、そうとなると方向がどうにも不可解だった。オットーが待機しているのは現在進行形で燃え落ちている最中の屋敷の前だ。本能的に火を避けるはずの動物が、火災の震源地に自ずから近寄る。それも恐らくは複数が。もはや懐かしくも思える嫌な予感が脳裏を過った。
人ではない何かが束でやってき──
「きゃぁっ!?」
「ペトラちゃん!?」
──遅きに、失した。
危険を察知したまでは良かったものの、考察にばかり没頭していたオットー。警戒を行動に移すより早くそれはやってきた。
悲鳴の上がった方、パトラッシュに乗っていたペトラへ慌てて振り向く。両手をぶんぶんと蚊でも払うように振っているのが見えた。パトラッシュも彼女の異変に気付いたようで、即座にその場から離れる。両方とも外傷は無さそうだ。だが、安心には至らない。
「どうしたんですか!? パトラッシュちゃんが気付けなかったなんて、何が……」フルフーの手綱を掴んで歩み寄り、恐る恐るそれを覗き込む。「白い、ウサギ? なんでこんな所に……いや、いやいやいやいや! この角は、……お、多兎じゃあないですか!」
「おおと?」
姿を現したのは白い毛を生やした丸っこいウサギ。これだけ小柄ならパトラッシュに見えなかったのも納得、混乱して迷い込んだのかとも思ったが、額に小さく突出した角がその考えを放棄させた。
多兎。強大な力を持つ三大魔獣の一角として知られている生きる災害、魔女の生み出した負の遺産だ。
「でもたしか、多兎はスバル様とベアトリスちゃんが魔法でやっつけたんじゃ……」
「ええ。僕もそう聞いていますが」
一年ほど前、聖域での話だ。絶えない食欲を満たすため多兎は聖域に出現し、その際スバルと契約したベアトリスが陰魔法の最高峰、アル・シャマクを放ち別次元へと強制的に送り込んだはずなのだ。まとめて処理したので証拠が残らず公には認められなかったが、むしろそれこそが唯一の証拠でもある。あれ以来、多兎の出現はどの国でも目撃されていない。間違いなく多兎は全滅したはずだった。
「まさか一部だけ取り逃がした? 一匹でも生きていれば、増殖して元通りになるらしいですけど……いや、だとしてもなんで、よりによってこんな時に……」
「ど、どうしたらいいの、オットーさん?」
「それは、その……っ、とりあえず逃げますよ!」
倒したはずの脅威が復活し、あまつさえこの最悪のタイミングで現れる。これが災難でなくてなんだというのか。
辟易するほどの己の悪運に背を向け、フルフーとパトラッシュを連れて逃げ出す。屋敷にいる面々に伝えなければならないが、オットーの非力な身体では方法が思い浮かばない。危険を承知して屋敷に飛び込むか、当面の安全を優先して自分たちだけでも逃げるか、選択を迫られる。
「ええい儘よ! こうなったら一か八か、『暴食』に押し付けてやりますよお!!」
魔獣は基本的に誰にでも仇なす悪質な存在だ。なかんずく産みの親である魔女を目の敵にしているらしく、現代ではそれを信仰する団体である魔女教徒に対しても非常に攻撃的な態度を見せる。三大と呼ばれる特殊枠でも、それは共通した性質だ。ならば多兎を『暴食』のいる所まで誘導し、ターゲットをそちらに移す事が出来れば、最低でも逃げ延びるだけの時間稼ぎにはなるだろう。
そうと決めたら一直線、扉の焼け落ちて口をぽっかりと開けた玄関に二匹の地竜ごと突っ込む。しかしその直前にまたもや待ったが掛かった。
「ラム姉様!」
玄関の奥、本棟からラムがレムを背負って出てきたのだ。オットーは慌ててフルフーを停止させ、後ろの様子を確かめながら一息吐く。
「ラムさん、大丈夫ですか! いま、多兎があらわ、れ、……」
「……」
「あ、あれ──ラムさん……じゃなくて、レムさん? え?」
現状を伝えようとした直後、『ラムとラムの妹に気安く近づかないでちょうだい』とでも払われることを覚悟していたところ、予想外の展開にオットーは意表を突かれた。煌々と熱と光を放つ炎に紛れて分からなかったが、近寄ってよく見ると二人の位置が逆転していたのだ。思わず間の抜けた声を漏らし、瞬きを繰り返して二度見、三度見する。
意識が無い状態で肩に頭を預けているのは薄紅の髪をしたラム。そんな彼女を背負い、焼け落ちつつある屋敷から歩いて出てきたのが青髪の少女、レムだ。
『暴食』の被害に遭い寝たきり状態のまま動けないレムを、ラムが救出しに行ったのが数分前のこと。しかし今は、助けられるべき存在であるレムが、本来ならば助ける側だったはずのラムを背負って火災現場を脱出してきた。多兎といいオットーは夢でも見ているのだろうか。
「レムさん……ですよね? その、一体なにが、」
「……オットー?」言葉を遮り、低く冷たい声音で割り込むレム。「他のみんなはどこ?」
「ええ?」
ピシャリと撥ね付けるレムの言い草に、オットーは答えにつっかえる。
「ベアトリスと、フレデリカよ。どこに行ったの?」
「えっと、屋敷に入っていきました。ベアトリスさんはクリンドさんに加勢をしに。フレデリカさんはメィリィちゃんを助けに行きました、けど……」
「ふうん、ならいいわ。……ところで、あなたは私のことどう思ってるの?」
「僕がレムさんを、ですか? い、いや、ナツキさんにとって大切な女の子、ぐらいでしょうか。僕はそもそもレムさんにあった事がないので」
「そう」
訊いたから答えたというのに乾いた反応を見せられ、オットーの胸中には疑問が増すばかりだ。
まず一つ目に、存在が忘却されたはずのレムがどうして意識を取り戻したのか。まさかクリンドとベアトリスが二人掛かりで『暴食』を倒し、権能が解除されたとでもいうのか。だとしてもレムが起きてラムが意識を失った理由が分からない。
そして二つ目は、レムの言動に違和感を覚えたこと。この場にいない二人の行方を訊いたのはともかく、オットーの言葉を遮ってここまで孤高を持する性格だったのは予想外だ。唯一記憶を維持していたスバルによると、レムは多少の刺こそあれどラムと比べれば全体的に明るい女の子で、姉妹ながらも接し方に差異があったと聞く。ところが今さっきの発言を聞いた限り、むしろ彼女はラムの雰囲気にそっくりだった。
「何がどうなっているんだか、頭がついていけませんよ……。でもレムさん、とりあえずここは危ないので、いったん屋敷の中に、」
「――――!」
「パトラッシュちゃん? フルフーも、急に叫んでどう、――ぐはっ!?」
オットーがレムに避難を促そうとしたその時、突如地竜が体当たりをかました。特に受け身も取れずに吹っ飛び、数メートル先の地面を転がった。お腹をさすりながら起き上がる。
そして目の当たりにしたのは、目を疑う光景だ。パトラッシュがペトラを落とさないよう器用に身を翻し、レムに向かって突進している。一方オットーを突き飛ばしたフルフーは、更に背に横たわっていたアンネローゼを振るい落とした。
瞬間、その巨躯は二つに分かたれている。
「ぅ、きゃああっ!?」
「アンネローゼちゃん……フルフー──ッ!!」
急な衝撃にアンネローゼが目を覚まし、ようやく状況を理解したオットーがフルフーへ駆け寄る。鋭利な刃に裂かれたような傷口を晒して頭部の欠けた地竜の元へと。
人間となんら変わらない紅色の血が、オットーの足と落とされたアンネローゼの体を浸していく。呼吸器を刺す黒煙が薄く立ち込めた中でも死臭は強烈に漂う。息を吸う度に、鼻腔に流れ込む命の残滓。死んでしまえば人も地竜も同じだ。
目と鼻に続いて今度は耳が痛い。後ろからは百を下らない、おおかた聴覚の限界だろう、実際は千を軽く凌駕した兎の歯軋りと飢えた鳴き声が響き渡る。鉄の臭いが近くでするなと思ったらオットー自身の血だった。彼の顔ももう血まみれだ。
加護の副作用か精神的な負担か、頭が重くて痛くて冷たくて苦しくて邪魔で仕方なかった。脳が丸ごと消えて鉛でも詰め込まれた気分だった。
そういえばパトラッシュとペトラはどうなったのかと目を向ける。
視界が真っ赤に染まっていてよく見えなかった。
レムが一人佇立し、足下に何か肉の塊みたいな物が二つほど転がっているだけだった。
「あーあ、バレちまいましたか」
「………………は?」
「そこの鈍感クズ肉はまだ分かっていやがらねーんですか? それとも、知らない振りをしてオス肉らしくアタクシでイケナイこと妄想してやがる……ようなナリじゃあねーみたいですが」レムの青髪が光沢のある金に、簡素な服が剥き出しの肌に、溶けるようにして色を変えていく。「まあいいや。今日は残念ですが時間ないんで、さっさと片付けてやりますよ」
ルグニカでは王都付近でよく見られる金髪。悪意と欲望に陰った赤い瞳。貧相な体つきでありながら大胆に露出した痩躯と、不自然にそこだけが人と違う刃状の歪な腕。
その姿を見て全ての謎が解けた。オットーは半ば呆然とした意識で考える。
もはや、『憤怒』と『暴食』が奇しくも同じタイミングに奇襲を行ったと知りながら、こうなる事を予見できなかったのも滑稽に思えた。フレデリカに大罪司教は一人じゃないと説明口調で言ったくせに、二人でもないとどうして分からなかったのだ。
馬鹿な自分を省みるオットー。作為的に仕掛けられた絶望を、悪運とは呼ばない。
『色欲』の背負っていたラムに見えたそれは、今はメィリィの姿をして倒れている。
「まだ、何か忘れてやがりませんかね」
レムは――否、『色欲』は、大罪司教は、カペラ・エメラダ・ルグニカは、崩れ落ちたオットーを嘲り笑いながら呟いた。
それと同時、数え切れないほどの多兎が怒涛の如く押し寄せてくる。オットーは加護が無くとも肌で感じ取った。
感じ取ったところで、彼に出来ることはない。多兎は自身の体で瞬く間に場を埋め、オットーのみならずカペラとメィリィ以外の全てを隙間なく包み込む。炎が燃え移った仲間を食い殺し、先を塞ぐ仲間を食い千切り、偶然に歯が当たった仲間を食い散らかした。
「きゃははっ! なになに、もう諦めやがったんで? 悔しくないんですか? これだけの美少女を前にして、さっきは『誰かさんの大切な人』とか青くせー余裕かましやがって、それどこの台詞? もしかして狙ってたメス肉の前でカッコつけよーと準備してた? それならゴメン、聞いてるのアタクシだけでこれっぽっちも嬉しくねーし気持ちわりーから死ね。大切な女の子だぁ? 会った事がないだぁ? きゃはははは、善人気取ってんじゃねーよ! 顔さえ良ければ、体さえテメーの肉に合えばイイんじゃねーですか。友達いねー時に頂いちまえってんですよ。両方寝てるからテメーがどれだけ汁零しても気付きやしやがらねーだろ? 経験もねーくせに罪悪感だの正義感だのクソほどの意味もねーんだよ! 本当は羨ましいんだろーが、あのメス肉ともそのメス肉とも一つになりたくて仕方なくて一人で汚ねー汁垂れ流してんだろーが。クソにも満たねー小洒落た言い訳ほざいてねーでそんなに綺麗事がお好きなら童貞のまま死ねクソ肉! メス肉の事しか入ってねー腐った頭で一生懸命考えて、欲情する時の道具でしかねー下半身だけの体動かして、汁ドバドバ出しながら愛するしかねーアタクシに一矢報いてみやがれってんですよ! 出来ねーだろ!? お仲間ぜーんぶ死んで悲劇の脇役みてーに悲しみに暮れて、後は任せたとか言って綺麗に去ろうってか? ざけんじゃねーですよ、アタクシを愛せねー性欲まみれの腐れオス肉は、せめてアタクシの大好きなグチョグチョの肉になりやがって少しは女を喜ばせてみろや!!」
「……どいてください」
「ぎぃ、い、ぃぃぃィィィィィィ」
「あらら、もしかしてそっちの趣味でいやがりましたか? やだ、魔獣好きなんて変態! 馬鹿! アタクシそんなの聞いてなーい、アナタなんてもう知らないプンプン、ってか? きゃは、きゃははは! 最高じゃねーか! 傑作じゃねーですか! そりゃこのメス肉共に靡かねーわけですよ。アタクシが相手の好みを間違えるなんて、なかなかの曲者でやがりますね。じゃあちょっと目瞑っててね、いま着替えるから。覗いちゃダメだよ? だってギチギチでヌルヌルの魔獣の裸見て発情しちゃうんでしょ? きゃあ、もうアナタったら、困ったクズ肉なんだから!」
「そこを、どけって、言ってんだろうがぁ!!」
罵倒交じりの嬌声を上げるカペラと、際限を知らずに集る多兎を振りほどき、オットーは喉をも潰す気で叫んだ。
ただ、振るった腕が既に肩から消失していて、そもそも多兎の群れはもういなくて、代わりに完全な暗闇が自身を包んでいたのがその直後。そして、あれだけ耳障りで重なっていた声が、少しずつクリアになっていく。
これも考えてみれば何の事はない。多兎なんて最初からいなかった。他の魔獣が変異させられていただけで、囲むタイミングを計って元の姿に戻したのだろう。結果オットーはそのまま魔獣の口内に放り込まれた。多兎の数がやけに多かった理由も、この魔獣の大きさを考慮すれば納得がいった。
「あー、面白かった。久々に興奮しちまいましたよ。……そうそう、多兎ほどじゃないにしても、そいつら雑食らしいんで。食べっぷりは保証しますよ?」
「っ──……」
「愛しくて愛らしい魔獣に身も心も食われるんですから、もっと喜びやがったらどうですか? それとも食う方が良かった? そりゃ残念なことで、きゃははは!!」
魔獣の口越しに遠く響くカペラの声。彼女の存在は、プリステラ攻防戦の際に聞き及んでいた。
その能力や特徴も、激闘の代価としてスバルたちが情報を持ち帰ってくれたおかげで、念のためにと頭に入れておいた。ものの見事に失念して為す術もなくやられたのだが。
迫る、迫る。何も見えない闇の中、確かに死が迫ってくる。
オットーを案じて待機させてくれた皆に申し訳ない。オットーを信じて少女二人と地竜を任せてくれた皆に申し訳ない。誰も守れず、最後まで役に立てなかった。皆へ、スバルへ、そして家族へ。この想いが、届くのならば。
自分が何を考えているかも分からないまま、オットーの命はおやつ感覚で砕かれた。
百聞は一見に如かず、とは誰もが一度は耳にしたであろう。
しかしどれだけ有名で知れ渡った言葉でも、まさに言葉通り、いざその真意となると実際に経験するまでは分からないものだ。
『憤怒』の出現から数十分。阿鼻叫喚の切っ掛けとなった最初の戦場に戻っても、状況はほとんど大差無かった。
魔女教大罪司教、『憤怒』を称するシリウス・ロマネコンティ。彼女の能力についてはプリステラ攻防戦の際、目撃者や被害者などによって多数の報告が挙がっている。
一つは自由自在な炎の操作。そして一定範囲内で感情や感覚の共有と増幅、及び集団洗脳。
間近で戦闘を行った吟遊詩人からは、理屈は解らないが一切の挙動も無しに相手の動きを止める、といった証言まであるという。これらの報告のみでさえ、多彩で広範囲な能力の持ち主であることが十分に窺えるはずだ。
特に目立つのは感情の共有。何百何千と際限を知らない大人数の精神を一斉に支配し、全て同じ感情に染め上げて己の傀儡とする。一部その影響を受けない者もいるとのことだが、それもほんの例外に過ぎず、ほとんどの場合は抗う余地も無い。
「あああぁぁああああ、ら、ぅ……ッ」
「深く深く沈んで、熱く熱く燃えたぎって、この身を焦がすそれは『愛』! ああ、ああ! ああああ! 良いです! 良いですよ、最高じゃないですか素晴らしいじゃないですか! 天真! 無垢! 誠実! なんて雑じり気のない、純粋な『愛』なのでしょう!」
頭を抱え、愛する者の名を口にしながら涙を流す男がいた。
瞳の光沢は霞み、焦点を失い、ここでない何かを目の前に浮かべているようだ。見るからにまともではない。絶えず治まらない全身の震えが伝播したように、しかしどこか違う身震いをシリウスは己の両肩を抱いて行う。
前者が愛情の暴走だとしたら、後者は感化された興奮の類だ。
「ガーフィール・ティンゼル君。あなたの『愛』は誰へ向けたものですか? 怒らないで答えてくれたら嬉しいです。ありがと。ごめんね? でも、私はあなたの綺麗な『愛』をもっと知りたいのです。だって、『愛』は優しいものだから。怒りも悲しみも要らない、ただただ愛してるという心だけが残れば、人は限りなく素直になれるのです。美しい。眩しい。そうでしょう? ほら、あなたの声を聞かせて頂戴?」
「う、が、ぁむ…………ラムッ、ラム、ラム、ラムラムゥッ……!」
「ああ、素晴らしい! 感動しました! 一途な純愛! ただ一人にだけ向けられた、至高の感情ぅっ! 他を見もしない盲目的な『愛』、それもまた良いものです! さあ恥ずかしがることありません。大丈夫、全部さらけ出しちゃってください。『愛』を恐れないで。遠ざけないで。放さないで。『愛』を信じていれば、諦めなければ、あなたは必ず報われます! 『愛』は裏切らない! それが道理! 真実! ああやっぱり堪りません我慢できません素敵ですなんて良いものなんでしょうか!!」
向けるのは一方的な主張。聞くに値しない戯れ言を垂れ流し、シリウスはガーフィールに顔を寄せる。妖しげな光を灯した双眸が向かい合って彼の瞳孔は更なる暗闇へと沈んで行く。
「あらま、愛する相手が自分に振り向いてくれない? ああ、なんということ! それは残念です。聞いてるだけでも悲しくなっちゃう。悔しいですよね。時に腹立たしい事もあるでしょう。分かります。その気持ちが痛いほどに分かります! ありがと。きちんと話してくれると信じていました。ごめんね。でも心配しないで。たとえそれが叶わないようなものでも、『愛』さえあればどんな障害物をも乗り越えられるのです! 無理に見えるのは一時だけ、そうたった一瞬だけ。後に結ばれて一つになればそれは瞬きに過ぎなかったと気付けます。少し待てば、永遠にも思える至福の時間が待っているのです! 私とあなたの『愛』にはこれっぽっちの失敗も間違いもない! 俯くことはないのです!」
極端に片寄っていて都合良く作り出した考えを、そうとは微塵も疑っていない素振りで語り続ける。利己的というには相手の心情を伺い、けれど自己中心的な歪曲を交えて身勝手に解釈した挙げ句、支離滅裂な主観を一般論に無理やり当てはめている。
そんな暴論を飽きもせずに言いながら、ガーフィールとは反対の方向を見やるシリウス。そこには『愛』に溺れた、もう一人の男がいた。
男は地に膝を突き、項垂れたまま動きがない。長い藍色の髪に隠れて表情は見えず、魂だけが抜かれたような、茫然自失といった様子で佇んでいるだけだ。耳を済ませば「先生」と繰り返し呟いている声が聞こえるが、そこに彼の自我があるかは疑わしい。
シリウスはそんな彼をも見下ろして自論を喚き散らす。よく見ればその体はボロボロだ。隙間なく包んでいた包帯は半分以上が焼け落ち、内側の皮膚も所々が爛れて表面が化膿している。足元には粉砕されて鉄屑となった鎖と、常軌外の激闘を物語る不毛の地。そしてもはや原形の影もない戦場にぶちまけられた血痕。最も出血量が多いのはシリウスに違いないが、それと勝者は別のようだった。
致死に近い傷を負ったにも関わらず尚も彼女は『愛』を語るのだ。
「『愛』の前には一切の壁がありません。種族も性別も年齢も外見も性格も環境も全て、全て全て、どんなものであろうと『愛』の前では均しく平等! そして公平! なので、後ろを振り向いてはいけないのです。一生懸命走って縋って追い掛けて捕まえなさい! 今は遠くても、必ず届くから! 異なる二人が一緒になって『愛』を分かち合う、これほどの祝福が他にあるでしょうかっ!? ああ、世界はこんなにも華々しい感情に満ちているのですね! なんという幸福! なんと美しき、」
「……愛」
「『あぃ――……ぃ、ぃぁぃ…………あ?」
愛の真価を知った二人の男、そのどちらでもない声にシリウスの語りはふいに空振りした。数秒だけ時が止まったかのような静寂から一転、首がもげる勢いで振り向いて目を見開く。勘違いでなければ、今の声はスバルの方から聞こえた。聞き違いでなければ、今の声は愛を発していた。思い違いでなければ、今の声はあの人の声だった。
「愛。愛。愛。愛。愛、愛、愛、愛、愛、あい、あい、あい、い、あ、あいあ、あい、いあい、いたい、いたい、痛い、痛い。痛い。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。あぁ、身体中をくまなく包む激痛、これこそが生きている証明、そしてその痛みをも霞めるほどに……迸る、愛」
「あぁぁ……あなた、あなたぁっ、あなたなたなたなたああああ!? ああ、ああああ、あ、あああああああああぁぁぁぁぁっっっ!!」たがが外れた音量と激情で泣き叫ぶシリウス。「そんなまさかやはりそうでしたか私の目は狂ってなかった――ペテルギウス!!」
「ペテル、ギウス? ペテル、ぎ、ぁあ……そう、デス。そうデス。そうなのデス! 長い長い、深い深い夢から抜け出して、ようやくワタシは舞い戻った! 魔女の、魔女の魔女の魔女の魔女の魔女のぉぉ……愛を、果てなき愛を成してみせるために! 嗚呼、なんということデスか! 一年、いいやそれ以上もの間、殻に閉じ籠り惰眠を貪っていたとは! 極まりし無精! 赦されざる大罪! それ即ち怠惰ぁっ!! 四百年間、この身に余るほど有り難き寵愛と使命を受け、何度体が朽ち果てようと心だけは常に魔女へと惜し気なく向けていたというのにのにのににににににに……駄目、なのデス。いけないのデス。あってはならないのデス。尽きる事なき勤勉をもってすれば、我々の悲願の達成は目前にあるも同然だった! 生き馬の目を抜く数多の試練を乗り越え、変わらぬ愛を貫き通した先にこそ、ワタシの望んだ魔女の再臨があったハズなのデス! しかし従事は絶たれ、愛は虚空をさ迷い、魔女は遠ざかってしまった……あろうことか魔女を、こともあろうにワタシが、裏切って、しまったの、デス!!」
渦中にありながらも、状況が戦闘へ移行してからはただの置物となっていたスバル。心身喪失の彼は目の前で殺し合いが起きても何ら反応を見せなかった。そのためロズワールたちも彼に攻撃が当たらないよう手加減を迫られ、結果として、スバル自身には余波の火傷や擦り傷が一部に付いた程度で済んだ。
そんなスバルが今や狂人の振る舞いを――否、そこにいるのはナツキ・スバルの皮を被った狂人に他ならない。驚くべきことに、彼はシリウスの愛が込められた横説竪説に刺激を受けて起き上がったのだ。
しかし、いざ狂人が覚醒すると、シリウスは顔に戸惑いを浮かべる。
「落ち着いて、ペテルギウス。私の最愛の人。『愛』は確かに大切です。素晴らしいものです。うん、ありがと。でも、魔女はこの世に要らない存在なのです。あなたの心を蝕む悪女なのですよ。ごめんね。私の話をどうか聞いて欲しいの。私には、あなたさえいれば、」
「何を言っているのデスか! まさに一生の失態、否、何百何千何万この命を捧げようとも、決して拭いきれない失敗を犯してしまったのデス! そう、サテラは悪女などと、あなた如きが蔑視していいような存在ではないのデス! 魔女より寵愛を授かりし者は皆、彼女を敬い、仰ぎ、拝み、さしずめ報えるべき愛を奉るのが至上の命題! あぁ、未だかつてないほどに濃密な愛が卑賤な我が身を満たす……然れども福音書を持たず、里程標すら見失った愚かしいワタシに、愛を実現し損ねて罪深き咎人と成り果てたワタシに、願わくは然るべき罰をおぉっ!!」
「罪なんてとんでもない! やっとあなたを取り戻したというのに、どうして!」
「――罰。素晴らしい覚悟です。あなたが望むのなら、私は喜んでそれを差し上げるでしょう。ペテルギウス・ロマネコンティ司教」
反応する暇も無かった。シリウスが狂人を振り向かせるのに熱中していたのとは別に、女は何の予兆もなく現れたのだ。
動きの止まった二人の見つめる先、相変わらず簡素な装いで炎の中を平然と歩む少女が口の端を上げる。嘲りでも憐れみでもない至極純粋な称賛。彼女の心からの言葉に、狂人は涙を流し始める。
「ああぁぁぁぁ、ああああああぁあああ、パン、ドラ様ぁ……! ええ、その通り、まさにそれこそワタシの望み! 罰を、我が怠惰に相応しい絶対的な罰を望むのデス! でなくてはワタシは、永遠に果たしきれぬ罪を残したまま、魔女の目を鼻を口を耳を髪を手を足を体を愛をおおお! この目に映す資格も与えられず酔生夢死に朽ちてしまうのデス……!」
膝を屈して声の限り泣き喚く狂人を、パンドラはただただ慈愛に満ちた微笑で見下ろす。一方シリウスはというと、パンドラへ向けた目をじっと離せずにいた。灼熱の愛に取り憑かれた両の瞳は瞬きを忘れ、半ばで骨の折れた鼻が焼け焦げた空気をいっぱいに吸い込む。
「……この、匂い。まさか」
「あら、お気付きになられたのですか、シリウス司教? 隠していたつもりだったのですが、仕方ありませんね――どうぞ、前へ」
パンドラに促されてその人物が躍り出た時、明らかにこの場の空気が変わった。熱が殺気を帯び、涙が歓喜を発し、微笑みが影を深めた。
立ち上がる黒煙に遮られた陽光の代わりに、照らすのは赤黒い光焔だ。それでもなお艶を失わない銀の髪筋。同じく輝きの欠けない紫紺の瞳は、けれどやや陰った瞳孔が世界を虚ろに見据える。
そんな相貌と対照的に、血気の衰えた肌には木灰が張り付いている。故に輪郭は不確かだが見間違える事のない尖った耳。エルフの血を象徴する、二つとない証左。
ペテルギウスと呼ばれた狂人は、胸が不意に疼くのを感じた。
「――っ! クソ半魔がぁ! 私のペテルギウスに近付くなぁっ!!」
「シリウス」
「ああ、忌々しい! ああ、憎々しい! 私のペテルギウスが起きた途端に、ここぞとばかりにでしゃばりやがって! 汚らわしい売女め、卑しい半魔め、そんなに私から彼を奪いたいのか!? 所構わず男をその淫猥な態度で誘惑し、さりげなく色気を覗かせて、私の愛を凌辱するつもりかぁぁ!? 大概にしろいい加減にしろふざけるなペテルギウスは私のものだ、クソ半魔ごときにくれてたまるか、地面に這いつくばって鼻水垂らして泣き叫んで許しを乞いながら焼き死ねぇぇっ!!」
「……シリウス、待つのデス」
「ペテルギウス! あなたはあの売女に弄ばれています! 男を惑わしてしか生きられないクソ半魔なの! でも安心してね、私が今すぐ、消し炭になるまで焼き払って」
嬉々として殺意を煮えたぎらせるシリウスに、ペテルギウスが背後から一言。
「待てって言ってんだろうが」
肉を突き破る鈍い音が、シリウスの胸元を穿つ。体にぽっかりと穴の空いた彼女は咳き込むと同時に血を吐き出し、ぎこちない動きでそれを見下ろす。残り少ない血が陽炎のごとく漂っていた。
心臓を貫いたが目には見えないそれ。やがてゆっくりと抜かれる感覚に、熱された喉からうめき声を漏らす。
「ああ……やっと、あなたと一つになれた………………温かくて、優しい手――……」
「黙って死ねよ。インビジブル・プロヴィデンス」
「が、はっ」
死に際だというのに恍惚な表情を浮かべ、くずおれるシリウス。その様子を直前までペテルギウスだった男は嫌悪感たっぷりの声で突き放す。元より激戦を経て重篤な状態だった彼女だ。息を引き取るのに大して時間はかからず、自分で仕留めておいて男の顔は浮かばれない。
むしろ、胸中に異物でも紛れ込んだかのように服の上から強く握り締めては、苦虫を噛み潰したとばかりに舌打ちする。
向き直る相手は、超然として落ち着き払っているパンドラ。
「どうやって俺を起こしたのかは後で聞くとして……パンドラ。あれから、どれくらい寝てたんだ?」
「ご心配には及びません。ほんの数ヶ月ですよ」
「そうか。……それで、この状況は?」
「賢者に捧げる饗宴、です。最後の準備に必要な欠片を全て一ヶ所に集めておきました。屋敷の方へ行かれればもう二つ、回収していただきますよ」
「なるほど。それじゃあ、そこにいるエミリア……ハーフエルフは?」
「ふふ。ああ、すみません。可笑しくて笑ったのではないのですが、逸る気持ちを抑えることが出来なくて、つい。見苦しい所をお見せしてしまいましたね」
相好を崩した彼女は心底から嬉しそうで、見ている方が微笑ましくて幸せな気持ちになってしまう。
男は『憤怒』の没した今でもそうした幸福を感じることより、一点の曇りもないパンドラの破顔一笑、その無垢な狂気に慄然とする。
「『嫉妬の魔女』の復活に、魔女の娘が不可欠なのはご存知でしょう。違いますか、ナツキ・スバル司教?」
「ああ、よく分かった。いや分かってたよ。いま思い出した。お前ら魔女は、マジで全員がクソだったってことをな」