暗い部屋。
薄暗く浮かび上がる赤い文様。
占いの館……。 一言でイメージを説明するならばそれが最も適切だと思う。
静かな空間。
奥から不気味な笑い声がしてきたとしてもおかしくはない。
たまに赤い文様が揺れるような気がするが、思い違いだろう。
外からの音もすべて遮ってあるのか何も聞こえてこない。
鳥の鳴き声も、木々の音も都会の喧騒も。
どこにこの建物があるのかもわからない。
と、どこからか小さな足音が聞こえてくる。
それがだんだんと大きくなうことで部屋に近づいているのがわかる。
「あーあ……。やられちゃってるし……。やっぱアレじゃあ物足りなかったかなぁ……」
不敵な笑みを浮かべながら、ポケットの中から小瓶を取り出した。
「んー……。ま、いっか。本命はこっちだし……」
瓶の中身は色が濃く、暗い部屋の中では何色なのかもはっきりしない。
「火竜の涙……海獣の爪……不死鳥の羽……」
瓶の中身を読み上げているのだろうか。詰められているはずの厨二ワードが口から飛び出してくる。
そっと小瓶が赤い文様の中心に置かれ、それと同時に文様はその形を変え、光がいっそう強くなる。
「まだ……。まだ足りないの……?何か……何かこれを補えるもの……そうだ」
何を思いついたのか、先ほどとは逆のポケットから果物ナイフのような短剣を取り出す。
「これなら……」
短剣を握り締め、左腕の表面を斬る。
「痛ったぁ……」
じんわりと滲んでくる血を魔法陣のような文様の上に垂らす。
「プリキュア……。あの忌々しきプリキュア……。私のこの怒りを……悲しみを……。憎しみを持つものよ。今ここに来たれ……!」
落雷のような音がし、部屋中煙で満たされる。
「ここハ……どこダ……」
文様はすっかり消え去り、代わりに大きなシルエットが浮かび上がる。
「何故……俺はここにいる……」
声も発音も次第にはっきりとしていく。
煙も晴れ始め、容姿が見え出した。
「あなた……誰」
「我か。我が名は……―」
「遊園地だー!」
「なぎさ、あんまりはしゃがないの」
観覧車にジェットコースター。メリーゴーランドにコーヒーカップ。お化け屋敷に……。
定番のアトラクションが所狭しと並べられている。休日のため子供連れの家族も多く、楽しそうな笑い声があちこちから聞こえてくる。
「それで、なぎさは何に乗りたい?」
あくまでなぎさの誘いであるため、ほのかは彼女の意見を最優先に考えようとする。
「んー……。そうだ、観覧車乗ろうよ」
「どうしたの?なぎさが観覧車なんて珍しい」
ジェットコースターなどをいうと思っていたほのかは思わず面食らってしまった。たしかに、なぎさがおとなしめのアトラクションを選択するのはかなり意外だ。
「観覧車に乗って、上から全部見渡して、それから次に行くとこを決める!」
「そういうことね。……でもなぎさ、観覧車って、本来は景色を楽しむためのものじゃ……」
「いいの!そっちのほうが合率的でしょ?」
「合理的?効率的?」
なぎさの度重なる迷言に若干困惑してしまう。
言いたいことはなんとなくわかるが……。
まぁ、反対する理由など何もないので、なぎさの案に乗ることになった。
ゴンドラの中にさえ入ってしまえば、外に音が漏れ出す心配もない。カードコミューンから小動物の姿となったミップル、メップルがイチャイチャし始めた。
「観覧車ミポ!」
「観覧車メポ!」
ミップル、メップル、と互いの名を呼び合いながら狭いゴンドラ内をクルクル回る。
「はいはい、あんまりはしゃがないの」
ほのかと遊園地に来たことでテンションが上がっていた自分のことは棚に上げて、熱々な二人を注意する。
「観覧車デートメポー!」
「一度やってみたかったミポー!」
焼け石に水、馬の耳に念仏、リア充に説教。聞こえているはずもない。
「んもー……」
「まぁ、いいじゃない。せっかくの遊園地なんだから、ミップルたちも楽しみたいんでしょ?」
「そりゃそうだろうけど……」
なぎさが彼らを騒々しいと感じているのに対し、ほのかはほほえましいという目で見守っている。
「そろそろ頂上に着くと思うんだけど……」
「お、ちょうどいい高さじゃん」
いい感じに全体を見渡すことができ、かつそれぞれのアトラクションがはっきり見える。
「あのジェットコースター楽しそう!あ!あっちではフリーフォールやってる!」
やはりなぎさの口から出るのは強い刺激を求める人用のアトラクション名ばかり。とりあえずそうなることは覚悟していたのでほのかは今更驚くこともない。
それよりも。
「すごい、この観覧車。機械で動かしてるはずなのに、音が全くしてない。一体どうやってるのかしら……」
観覧車は景色を楽しむものだ、と言っていたほのかだったが、結局は自らも景色にではなく日々進歩してゆく科学技術に感動してしまっている。ほのかのことだ、もしかしたら中を見たいとまで言い出すかも知れないから怖い。
「これって開けていいのかな……?」
ゴンドラについていた窓がふと気になり、なぎさが窓を開ける。外からの涼しい風が入り込み、とても心地よい。
「やっほー」
なぎさの声が遠くまで響き渡る。
「なぎさ、他の人の迷惑にならないようにね?」
「わかてるよー」
絶対わかっていない。
と、なぎさに向って何かが飛んできている。だがほのかのほうを向いているなぎさはそのことに一切気づいていない。またなぎさが目の前にいるのでほのかにも見えていない。
だんだんと距離が縮まり、ようやくほのかが気づいた。
「……っ!なぎさ、うしろ!」
「うしろ?」
何だろう、と振り返ると。
目の前に何やら黒い物体が迫ってきていた。
この距離ではよけることも出来ずにぶつかってしまい、顔から星が飛び出す。
「ガー!」
「あらら、カラスね」
どうやらカラスが開いていた窓から入ってきてしまったらしい。なぎさにぶつかったことでお怒りなのか、興奮した様子でゴンドラ内を暴れまわる。
「あっちいけ!このっこのっ!」
なぎさが追い出そうと手を伸ばすが、カラスはひらひらとそれを避ける。
「ぐぬぬ……」
「なぎさ、落ち着いて!」
ほのかが止めようとするも、なぎさには既に火がついてしまっている、この様子では止められそうにもない。
「早くあっちに行け!」
「ガー!」
あまりにも動き回るため、ゴンドラが激しく左右に揺れる。
「怖いミポ……」
怯えているミップルに気付いたメップル。恋人が困っているとなると黙っちゃいれない。ここで守るのが男というものだ。
「おいカラスメポ!」
「ガー」
カラスの動きが止まった。
それと同時になぎさの動きも止まる。
「ひとがせっかく観覧車デートを楽しんでるのに、邪魔するなメポ!」
「人」なのかはちょっとよくわからないが、自己の主張をするメップル。
互いに一歩も譲らずに睨み合い、空気がシンと張り詰める。
そんな中カラスはじわじわとメップルに近づき、そして……
「ガー」
メップルの頭に自分の足を乗せた。どうやら自分のほうが上だと確信したらしい。
「メポー!」
それにキレてメップルが叫ぶと同時に固まっていたなぎさも再びそのスイッチが入った。
「このー!」
「待つメポー!」
「ガー」
二対一の追いかけっこ。これはしばらくの間続き、結局はカラスが自ら外へと飛び去って行き、決着がついたのだった。
「はぁ……はぁ……」
息を切らし、くたくたのなぎさ。
「もう。観覧車に乗って疲れるなんて初めて聞いたわよ……」
「私も……。観覧車ってこんなに疲れるものなんだね……」
そっちの解釈で責めるのか。どうやらあくまでも責任は観覧車にあるらしい。
「よーし、じゃあジェットコースター乗るぞー!」
疲れた後にそのチョイスか、と言いたくなるが、本人がそう言っているのだから大丈夫なのだろう。それがなぎさという人だ。テンションは下がることを知らない。
「ジェットコースター、ジェットコースター♪」
ルンルン気分で人の間を進んでいく。華麗にステップを踏み鳴らすその後ろ姿はダンサーのようにも見える。
「ちゃんと前見て歩かないと危ないわよ?」
「大丈夫大丈夫♪」
人ごみの中をすいすいと進み、ジェットコースターの列へと急ぐ。
この角を曲がるとその列のはずだが……。
「……なっ……!」
下がることの知らなかったなぎさのテンションが。
「……なっ……!」
一気に。
「なっがーい!」
下がった。
思っていた以上に列が長い。これだと乗るまでにかなりかかってしまいそうだ。
「なぎさ、どうする?」
ようやく追いついたほのかが聞く。あくまでもなぎさ優先の選択を一緒に選ぶ。
「どうするって言ったって……」
人の列は自分の力ではどうしようもできない。
並ぶか、それともほかのアトラクションに行くか……。
「あー!どうすりゃいいのさ!」
頭の中をぐるぐるぐるぐる回すがいいアイディアは浮かんでこない。
「んー……それなら、こうしたらいいんじゃない?今から少し早めのお昼を食べて、それからみんながお昼ご飯を食べてる時間帯にまた来る……どう?まぁ……なぎさが食べれたら……なんだけど……」
「おおー!その手があったか!ほのか、天才!」
合理的なほのかの意見になぎさが目を輝かせる。
さすがほのか、頭を使うことに関してはお得意様だ。
「何食べる?」
「たこ焼き!」
どこに行ってもなぎさはブレない。
屋台のような建物で、ほのかがメニューを見て考え込む。
「どれにしようかしら……」
「普段食べないようなものがいいんじゃない?」
バリバリいつものように食べているたこ焼きを選択したなぎさがしれっと言う。
まぁ、本人曰く「たこ焼きは中に入ってる具次第で全然違う」らしい。
だがなぎさが言うことにも(たこ焼きの件ではない)一理ある。
「そうね……じゃあ……この、ケバブ……を食べてみようかしら」
「ふっ!」
なぎさが思わず笑ってしまう。まったく似合わない組み合わせが彼女のツボをくすぐってしまったのだ。
「え?私、なにか変なこと言った?」
「ううん、全然」
頑張って笑いをこらえようとするも、やっぱり止まらない。
結局はそのままたこ焼きとケバブを注文し、手渡された。
「いっただっきまーす!」
ぱくっっとたこ焼きを口の中に放り込む。
「んー!おいしい!」
どうやらなぎさの口に合ったらしく、次々とたこ焼きが消えていく。
「これもおいしいわよ。お肉をローストしてナンで包んであるのね」
ほのかも楽しそうに頬張っている。
「あーあ、こんな平和がずっと続けばいいのになぁ……」
「そうね……」
どうしてこんな時にフラグを立ててしまうのだろうか。戦い続きの彼女たちにこの状況でこのセリフ。明らかにフラグだ。禁句であるはずなのに……。
間もなく轟音が轟き、同時に悲鳴が上がる。
ほら、言わんこっちゃない。
「あぁ!たこ焼きがっ!」
今の衝撃でたこ焼きが一つ地面に落ちたらしく、よほど悔しいのか血の涙を流している。
「そんなこと言ってる場合じゃなさそうよ。なぎさ、行きましょう」
「うん…」
アトラクションの故障であってほしい。少々不謹慎ではあるが、そう考えてしまった。できればこのまま平穏に。
だが、逃げ惑う人々の反応や荒れた地形を見る限り、その線は薄い。
「せっかく人が休日を楽しんでるってのに!」
「いったいどうしてこんなことを……っ!」
隠すことなく怒りをあらわにする二人。
その背中にかけられた声は、どこか聞き覚えのあるものだった。
「それは悪かった。久しぶりだな」
忘れもしない。
あの日、あの時から。ふたりはプリキュアとして戦ってきた。やつと出会ってしまった、あの日から。
死闘の末、破ったはずのあいつが、そこにいた。
「我が名はピーサード」
白い髪、白塗りの顔に濃い隈取。歌舞伎役者のような風貌。彼女たちにとって最初の大きな敵。ピーサード本人だった。
「どうして……っ!」
「あんたは私たちが倒したはずじゃ……っ!」
「どうやらこの世に大きな未練があるらしくな。黄泉の世界から帰ってきてしまったらしい」
涼しい顔でそう言い切る。
「黄泉帰りしたって……!」
「再び私たちが倒せばいいことよ!」
「ほう……」
「いくよ、ブラック」
「うん、ホワイト!」
互いに確かめ合うようにうなずき、手を取る。
今日という日に二度も変身することになるなんて、思ってもいなかった。
こんな奴と、再び会うことになるということも。
「「デュアル・オーロラ・ウェーブ!」」
極彩色のゲートの中での変身が、いつもより長く感じられるのは心もちの違いだろうか。
「光の使者:キュアブラック」
「光の使者:キュアホワイト」
「「ふたりはプリキュア!」」
「闇の力のしもべたちよ!」
「とっととおうちに帰りなさい!」
「ふんっ。貴様らごときの相手は、こいつで十分だろう」
そういうとピーサードは大きく跳躍し止まってしまっている観覧車の頂上へと着地する。
「怒れる天空の妖気、ザケンナーよ。邪悪な心、闇の恐ろしさを思い知らせてやれ!」
その合図とともに空一面が怪しい雲に覆われ、何か黒いものが落ちてくる。今度はカラスではない。
「ザケンナー」
「さっきもあんたの仕業だったのね!」
「さぁ。何のことやら」
「とぼけたって無駄よ!」
二人の正体を知っているピーサードなら、狙ってザケンナーを送り込むことだって可能だろう。
「俺は貴様たちと話をしに来たわけではない。やれ、ザケンナーよ!」
「ザケンナー」
ザケンナーは周りを見渡し、ジェットコースターの車体に目をつける。そして吸い込まれるように融合していた。
「ほのか、あれって……」
「えぇ……」
完全に乗り移ったザケンナーと向かい合う。
彼女たちが初めて戦ったザケンナーもまた、ピーサードによってジェットコースターに乗り移ったものであった。
「ザケンナー」
先に仕掛けたのはザケンナーの方。
「さすが最新技術のジェットコースター、速い!」
「感心してる場合じゃないーっ!」
だが確かに、今までのザケンナーと比較するとはるかに速い。プリキュアとなっている今でさえも、そのスピードについていくのがやっとだ。久々の強敵に二人が四苦八苦しているが、ピーサードは高みの見物……。いや、こちらを見てさえいないようだ。
「ザケンナー」
攻撃力もいつもより大きい。そして、硬い。
「だだだだだだ!」
「はぁぁぁぁぁっ!」
こちらからも攻撃を仕掛けてはいるが、びくともしない。
「ザケンナー」
「きゃぁっ!」
ホワイトがザケンナーの攻撃をまともに受け、飛ばされてしまう。
「ホワイト、大丈夫!?」
「いたたた……。えぇ、大丈夫よ」
よかった、とほっとするような時間も与えられない。
攻撃をよけ続けても体力には限界が来るし、一人一人の攻撃ではほとんどダメージを与えることはできない。
「ザケンナー」
対するザケンナーは時間が経つにつれそのスピードをさらに上げていく。それに比例するように攻撃力もうなぎのぼりだ。
「いつもより断然強い……っ!ただのザケンナーのはずなのに……ありえないっ!」
マーブルスクリューでもなければ倒せそうにもないのだが、攻撃の間隔が狭すぎて集合することさえ許されない。
「ザケンナー」
「もうこんなのジェットコースターじゃなくて新幹線じゃない!」
目の前を通り過ぎるごとに強風が吹き荒れる。
「風……そうだ、風!」
ホワイトが何かひらめいたようだが、ブラックには全くわかっていない。
「どうしたの、ホワイト」
「風を利用するの!」
風を……利用……?
風に乗る……?……いやいや、逆に体が離れてしまうのでは……。
「ザケンナー」
方向転換したザケンナーが再び空を滑り、ホワイトは姿勢を低くこれを迎える。それに合わせザケンナーも地面すれすれを滑り、ホワイトに迫る。
「ホワイト!」
まだ……まだ……もう少し……。
「ホワイト、危ないよ!」
もう少し……もう少し……!
ザケンナーまで残り数十メートル……数メートル……。
今!
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
腕と足を巧みに使い、体を回転させて風車を作り出す。
「ザ、ザケンナー」
すると、ザケンナーの体は勢いよく飛ばされていった。
「え?なんで、どうして!?」
触れてもいないのにザケンナーを吹き飛ばしたホワイトに問い詰める。
「そ、それは……ほら、カーレースとかで大きく吹き飛ばされている車があったりするでしょう?それって、隙間に入った空気の流れによって起こるの。それを利用しただけよ」
さすが科学部、物理だってお手の物。
「ザケンナー」
よろよろと立ち上がるザケンナー。だがもう遅い。二人は既に揃ってしまっていた。
「決めるよ、ホワイト」
「えぇ、ブラック」
離さないように、しっかりと手を握る。
「ブラックサンダー!」
「ホワイトサンダー!」
「プリキュアの、美しき魂が!」
「邪悪な心を打ち砕く!」
狙いを定めてそれぞれの光の意思をザケンナーへとぶつける。
「「プリキュア・マーブルスクリュー!」」
彼女たちの全力を受けたザケンナーは、彼の防御も虚しく浄化されていく。
「ゴメンナー」「ゴメンナー」「ゴメンナー」「ゴメンナー」
ザケンナーの浄化が完了し、残るは一人、ピーサード。
「貴様ら……ずいぶんと衰えたようだな。かなり時間がかかったようだが」
「ここでまたあんたを倒して、私たちが強くなってるってとこ、見せてあげる!」
ブラックが強く敵意を見せるが、ピーサードはそれを軽くあしらうだけだった。
「俺も貴様らを倒したいのはやまやまだが……。少し用ができた。勝負はまたの機会だ」
そういって踵を返そうとしたピーサードになぎさの怒りは増していく。
「私たちから逃げるっていうの!?」
挑発すれば乗ってくるかもしれない。短気な奴ならやり得ないことだ。ここで倒しておかなければ街にどれだけの被害が出るか分かったものじゃない。
だが、彼は気味の悪いほどに冷静だった。
「家に帰れといったのは貴様ではないか」
「そ、それは……」
思わぬところを突かれ、言葉を返すことができない。
だってそれは、私であって私じゃないというか……言わされてるっていうか……。
「ブラック、まともに会話しちゃだめよ!」
ほのかがフォローするも、既にブラックには睨むという選択肢しか残っていなかった。
「それでは、また逢う日を楽しみにしている」
それだけを残して、ピーサードはどこかへ消えて行ってしまった。
ザケンナーは倒したはずなのに、何とも言えない悔しさが心のうちに広がる。
「ねぇ、ほのか」
変身を解除し、ベンチにへたり込むなぎさ。
「どうしたの、なぎさ」
その隣に座り、美しい瞳でなぎさを見つめるほのか。
「私……今すっごく嫌な予感がしてる……」
恐らくはピーサードとの再戦のことだろう。死闘の末に決着をつけた敵が再び目の前に現れれば、不安になってしまうのは当然だろう。それでもほのかは弱音を吐かない。ここで弱音を吐いてしまったら、さらになぎさの不安を助長してしまうことになる。
どこまでも優しい彼女は、ただなぎさの傍にいるだけで。隣にいるだけで、いいと思った。
しばらく沈黙した時間が流れていく。
昼過ぎ、雲一つない青空。
二人は遊園地の中にいた。
しかし、他の声は何も聞こえない。
アトラクションの動く音も、聞こえない。
従業員の人も、お客さんたちも、みんなちゃんと避難できただろうか。
なぎさがようやく体を起こし、ほのかに言った。
「他の人の安全を確認しに行こう」
正反対の二人だが、他人のためとなるとほっとけない、という面は全く同じだった。
「そうね。たぶん、外に避難したんじゃないかしら……。どこからも声が聞こえないし」
「まだみんなで集まってるかもしれない。とりあえず、ここから出よう」
出園口についているレバーを回して外へ出る。だが、やはり誰の声も聞こえない。
もしかしたら、この敷地からすら出てしまっているのかもしれない。
そう思って、入り口にある大きなゲートをくぐる。
その時、急に太陽の光が強くなり、なぎさの眼の前を真っ白に染め……―