「うえ、遠かった」
「そりゃあ、浦賀からは2時間かかるし仕方ないよ」
電車から降りた僕と高貴はため息をついた。始発に乗っても、つく時間は8時前。高島さんとの約束は8時半だったので間に合ったからよいとしよう。
「それにしても、人多いな」
「そうだね」
歩いて待ち合わせ場所に向かう。人混みが邪魔くさい。
「あれ、高島さん?」
「早くない? 急ごう海人」
遠目に高島さんを見つけた。遠くから見てもわかるほどの美貌。女にあまり興味のない僕にもわかるのだからよっぽどだ。
「二人とも、長旅お疲れ様」
「ありがとうございます。それで、そこにいるのは」
高島さんは笑顔で迎えてくれた。でも、そのことより、隣にいる一人の男に目がいった。
「彼もあなたたちと一緒に練習見学するのよ」
「へぇ」
ということは、野球推薦の人なんだな。あれ、でも、全国じゃ見たことないな。
「僕は、舩見 海人。浦賀浜中で、ピッチャーやってました」
とりあえず、挨拶をしておく。隣にいた高貴も僕に続いてあいさつをした。
「わはは、海人と高貴か! 俺は、長野から来た沢村 栄純だ! よろしくな」
あ、ばかっぽい。なんとなくそう思った。栄純は、左手を差し出してきた。僕もその左手を握り返した。栄純は子供っぽい笑顔を浮かべた。
「それじゃ、いくわよ」
高島さんがそういったところで、親睦会は終わった。
初めていく青道高校に胸を躍らせていた僕は自然と笑顔になっていて、高貴からは肘打ちされて、栄純には変な顔といわれた。
グラウンドに近づくにつれて、中から大きな掛け声が聞こえるようになってくる。ああ、野球をやっているな。
「うわ、なんだこのマシン」
設備を見せてもらっている時に沢村が言った。僕も見たことないマシンをみて驚いていた。そのたびに、高島さんは丁寧に説明してた。
そして、一通り終えたところで、グラウンドにお邪魔することになった。打撃特化のチームの打撃練習。見てみたい。
とてつもない音がして、白球がピンポン玉のように飛んでいった。思わず、僕は笑ってしまった。隣の高貴も笑っていた。でも、あの腹はないよな。
次の瞬間、その笑顔は消えることになる。
汚い言葉に僕は思わず耳を塞いでしまった。聞きたくない。沢村が、応答したが、耳をふさいだ僕は聞き取ることができなかった。
東さん。プロ注目のスラッガー。その人が、ずんずんと沢村のもとに近づいてきた。お互い、額をつけてにらみ合っている。
「めんどくさ」
「あ?」
やばい。口から出てしまっていた。おそらく、このまま沢村が投げれば一瞬にして白球は空のかなたに消えるだろう。それじゃあ、何もなくなる。
「東さん」
「なんや?」
東さんは、矛先を僕に向けてきた。
「僕と勝負しませんか?」
「ええ度胸や。はよ、マウンドに登れや」
少しオリジナル展開にします