RPGのカンスト主人公はダンまち世界ではレベル4弱位 作:アルテイル
男は殆ど空っぽだった、自分の生きる意味だった
「(闇派閥が助けに・・・来ねぇか、リスクが高過ぎる)」
ギルドの連中に喧嘩を売って、オラリオの警戒を強化して得られるのがLv5の冒険者とその仲間。悪くはないが少しばかり割に合わないとも言える。男は期待することを辞めた。
冒険者の力を持ってしても逃れられない拘束をされダイダロス通りを抜けていく。周りにはギルドの雇われか、それなりに腕利きの連中が何人か、人生に終了のゴングが鳴り響いた。
ーーーーーーーガタッ!
「暴れても無駄だ、大人しくしろ」
「ちげぇよ!今すぐここから逃げねぇとっ!?」
「何を言っている?錯乱したのか」
「わっかんねぇのかよ!来るだろうが!」
男の要領を得ない回答に周りを囲む人間、共に捕らえられていた仲間、誰もが遂に狂ってしまったかと耳を傾けなかった。
男自身も何が来るのかは分かっていない、ただ来る。間違いなく自分達にとって良くない何かが。
四度の冒険を乗り越え、高みを目指す事を諦めた男の本能。ダンジョンで失敗し、久しぶりに目が覚めたかつての全盛の生存本能が只管に叫び声をあげる。
ガタガタと、先程諦めた筈の逃亡を文字通り命懸けで行う、身体が幾ら傷つこうともこのまま座して居るより、男は僅かでもこの場を離れられる可能性に全力で縋り着いた。
「いい加減にしろ!」
上級冒険者である者達に殴打されようと決して止まらない、何かに取り憑かれたかのように暴れ始めた男の姿に、周りの人間達は恐怖した。
「誰だ!ココは立ち入り禁止のぉっ!?・・・・・・」
「ヒッ!」
ギルドによって封鎖されている筈のルート、連絡は水晶によって行われる為、この場所に新たに人が現れることは有り得ない。先頭に居た男は警戒をしながらフードの人物へと声を掛け、瞬時に崩れ落ちた。その男だけではない、周りに居た人間達全てが、目を閉じた瞬間に地に伏している。苦しみのない、何処か幸せそうな呻き声を残してその場に立つ者は2人を残して居なくなった。
「あら、これに耐えられるなんて」
「ディックス・ペルディクスーー恐らく、Lv5かと」
否、3人。Lv5である男に気が付かれず、いつの間にかフードの人物の後ろに現れたその男に、ディックスは見覚えがあった。
「その顔・・・!オッタル・・・!?て事はぁ!」
「うるさいわ、口を閉じなさい」
「ッッ!?」
まるで縫い付けられたように男の口が開かなくなる、心は屈しておらずとも、身体は逃れられなかったようだ。そこにいるフードの
「ーーーーーッ!ふ、ざける、なぁ!俺に命令、していいのは・・・!」
「・・・へぇ?」
だが男は奇跡的にその魅了に抵抗した、それはディックスが自分自身に課した制約、産まれた時から血が囁き、自分の身体を操られ続けていた男だからこその最後の砦。
「俺だけだぁ!」
男の腕が潰れた音が響く、ステイタスを低減させ、魔法を使えなくするその魔法道具に抵抗は出来ずとも
「【迷い込め、果てなき悪夢 フォベートール・ダイダロス】!」
「「「ウォォォオオオォオオオオ!?」」」
出したのは切り札、ギルドの冒険者達は対策していたのか動くことは無いが。神の魅了で倒れ伏していた檻の中のかつての仲間が狂ったように暴れ回っている。
Lv7、《都市最強》に届くかは分からないが、あの女神には・・・!そんな希望を元に全身全霊を込めた特大の呪詛を発動するディックス、
「ふふ、貴方、ちょっと気に入ったわ」
「・・・クソッタレ!」
だが意味が無かった、フレイヤはディックスの力について既に聞いている。
「本当は適当に済ませる予定だったけれど、気が変わった。オッタル?」
「はっ」
「ホームに連れて行って頂戴。勿論、バレないようによ」
そう告げるとフードを被った女神はその場から離れて行く、冷静になった今、ディックスは周りに自分達以外の複数の気配がある事に気が付いていた、恐らく他の冒険者が護衛をしていたのだろう。
どうあっても勝ち目が無かったことを知り、そしてどうやら命は助かった事が分かると緊張が解け両の手が思い出したかのように痛み始める。
バキィッ!
「うおっ!」
「使え」
手錠が無くなった今も壊せる気のしなかった強固な檻、それを容易く壊して見せた男に回復薬を渡され、ディックスは使い物にならない両手をどうにか癒す。欠損しかけた肉は瞬く間に修復され、元と変わらぬ手に戻った。
「(助かったはいいが・・・何がどうなってやがる?何故フレイヤファミリアが、俺を・・・)」
「探るな」
ゾクッ
「理由を知る必要は無い、今この瞬間から、お前はただ自らを鍛え上げる事だけを考えろ」
最強の冒険者から放たれた圧、それを感じ取った瞬間ディックスは思考を止めた、藪をつついても得が無いと悟ったからだ。
魅了の力で身動きの取れない男達を残し、ディックス・ペルディクスは姿を消した。何時までも現れない護衛隊を捜索に向かった冒険者達が見つけたのは、虚ろな目をした男達の姿。僅かばかりの血痕と、破壊された檻だけが逃走者の存在を示していた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ふぅ・・・」
ようやく終わった。
囚われていた人達を解放し、その全てに回復魔法をかけてまわりようやく、一息がつけた所だ。
「それでも、全員を助けられた訳じゃないか・・・」
俺がこの世界に来る前から、彼らは虐げられていた、既に街の外へ連れ出された者も多いと聞く。時を戻せたなら、なんてな。もし魔法スロットが空いていたら、時間遡行を発現させてたかもしれない。
目の前ではかつての同胞との再会に泣いて笑って騒いでいるモンスターの姿が、それは俺には人と何ら変わらない姿に見えた。だが、彼らは外見上どうしても、モンスターである。
「(・・・まだまだ先は長いけど、何時か彼等と街を歩けたら)」
きっと楽しいだろう、美味しい物を食べてもらいたい、綺麗な服をプレゼントしたい、壮大な自然を見て世界を知って欲しい。
気分は田舎から上京して来た人を歓迎する感じだな。言葉にすれば簡単なワンシーン、実現するのには途方もない時間が必要なんだろう。
覚悟を決める時だ。
俺は正直ウィーネを助けた時は、ここまでの事になるとは思っていなかった。いや、カサンドラの予知夢は頭の隅にはあったが・・・、今まで散々原作を掻き乱して居たくせに何となく、まだ無意識にベル・クラネルのことを頼っていた。
そろそろ覚悟を決めようじゃないか、
お前にも
さしあたって、逃げ道を塞いでおこうか。格好つけておいた方が、もしここで諦めたら俺ダサすぎないか?と自分を奮い立たたせることが出来るだろう。
「フェルズ・・・」
「あぁ、君か。休憩はもういいのか?」
「隠れ里でも言ったけど、いや、言いましたけど、改めて宣言します」
宣言?と、フェルズさんが怪訝な表情を浮かべた気がした
「彼等に二度と悲しい涙を流させたくない。それを成すための覚悟は出来ています」
特に画期的な考えがある訳でもない、言っていることは隠れ里の焼き直しだ。でも、そこにある覚悟の差は歴然としている。
「・・・君の覚悟、受け取ったよ」
また追って連絡する、そう言って彼は俺に水晶の片割れを渡し撤収を始めた。ひとしきり再会の時を楽しんだ人達の興奮も落ち着き、一人一人からお礼の言葉を貰った俺の心は、かつてないほどに熱く、温かな気持ちで満たされていたのだった。