RPGのカンスト主人公はダンまち世界ではレベル4弱位   作:アルテイル

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ウォーシャドウ達は、魔法で片付けた。しっかりと魔石を集め、これからのことを考える。

 

「先に・・・進むかぁ」

 

範囲攻撃を覚え、スキル無しで敵を打倒した今、俺はまさにノリに乗ってると言う奴だ。ここはその流れのまま、少しばかり先に進んでもいいのではなかろうか?

 

ちょっとだけ、先っぽだけだから!そんなことを思いながら、俺は7階層へと足を踏み入れ

 

地獄を見た

 

「ファイアストームファイアストームファイアストームファイアストーム!」

 

「「「「「「「「「ギィィィィィ!!」」」」」」」」」

 

俺の眼前にはモンスターの群れがひしめいている、全てキラーアントだ。

前世では、アリには特に嫌悪感を感じなかったが、こうして巨大化してみると

 

巨大な目

 

異様に細い胴体

 

ギチギチと鳴り響く異音

 

これ以上に気持ちの悪い生物がこの世に居るだろうか。いや、Gが居たか・・・

 

コイツらが名前を呼んではいけないあのGでない事を神に感謝しよう、ありがとうメーティス様!無事逃げ切れたらお供え物をしまする!

 

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「はくちっ!・・・うーむ、何か、下らないことを言われたような・・・?」

 

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撃っても撃ってもモンスターは減らない。むしろ更に勢力を増しているような気さえする。倒し損ねた蟻のフェロモンを伝って新たなモンスターが増えてきているのだ。

 

通路を全力で後退しながら俺は魔法を唱える、不発。

 

「くっそ!また切れたのか!」

 

俺は叫びつつ手に持ったポーションを飲み干す、マナポーションだ。MPを回復してくれる。剣?そんなもの置いてきちまったよ。

 

何故俺がこんな目にあっているのか、それを話すと長くなる。よって簡潔に説明する。

 

俺、蟻刺す

剣、抜けない

蟻、仲間呼ぶ

イマココ new!

 

分かったか?分かったな?割と絶体絶命のピンチだ。ファイアストームで通路を埋めつくし、全ての蟻に傷を負わせ、危険を感じた蟻が仲間を呼び、それをまた削るというスーパー悪循環に陥っている。ファイアストームを唱えると蟻が怯み動きが鈍るのでその間に離れ、レベルアップでラインナップの増えた商店からマナポーションを購入し、またファイアストームを唱える。気分は、地球防衛軍で爆弾を置き逃げし、少しずつダメージを重ねて一網打尽にしているアレだ。違うのは蟻の量。

 

きっと、きっと付近のモンスターを狩り尽くせばこの地獄は終わる筈だと信じ、魔法を放つ。蟻共は密集しているので面白いように魔法に焼かれていき、倒れる。そのお陰でゴールドが尽きる心配はない。

 

「うおっ!これ、まさか、行き止まり!?」

 

走り回った先に、俺がたどり着いたのは・・・広大な処刑場(広場)だった。俺の来た道以外に出入口は無く、そこは無数の蟻に塞がれている・・・

 

 

その単語が頭に浮かんだ。後悔が身体を走り回る、何故あの時調子に乗ってしまったのかと。

 

通路から溢れ出て来た蟻は俺を半円形に囲い、じわりじわりと接近する。

 

「やべぇ・・・」

 

しかし、諦めるわけには、行かない。まだだ、まだ行ける!俺は盾を放り出し、両手にマナポーションを抱える。馬鹿だと思うか?俺は最善だと思ったんだよ。

 

「ファイアストーム!」

 

火炎が広がり、最後の戦いが幕を開けた。

鎮火した後には、死にかけのキラーアント。こいつらに釣られて更に蟻は増えるかもしれない。しかし、俺はこの状況に終止符を打つための方法を思い付いていた。

 

「ファイアストーム!ファイアストーム!」

 

悲鳴を上げながら、次々と蟻は崩れ落ちる。通路から増援が続々と到着する、

広間は既に蟻まみれだ。牽制にファイアストームを唱えるが効果の範囲外から蟻は接近して来る。俺は足を動かし、広くも狭い広場の中を縦横無尽に駆け回る、強化され常人を遥かに超える敏捷はその力を遺憾無く発揮し、蟻の背に乗り、壁を蹴り、俺の生存時間を引き伸ばす。

 

不発になり追いつかれれば死ぬ未来しか見えないので、マナポーションは絶え間なく俺の口に吸い込まれていく、どうでもいいけど腹には残らないので気持ち悪くはならない。

 

目下の不安はゴールドだ、敵が広がった分巻き込める量は減っている、少しずつ、少しずつ所持金は減り始めていた。

 

「ファイアストーム!・・・よいっ、しょっと!」

 

目にも止まらぬ速度で走りながら、隙を見て地面に落ちているドロップアイテム【キラーアントの甲殻】を拾う、商店で売却するのだ。

見ている間にも所持金は増減するため具体的な事は分からないが足しにはなるはず。

 

「ファイアストーム!」

 

まだ、求めている結果は訪れない、蟻は死に体のままだ。瀕死のキラーアントは仲間を呼ぶ、もう広間は死骸で溢れていると言うのに。諦めてくれないかなぁ!

 

「うわっ!」

 

色々と高速機動下で無理をした結果、蟻の死骸に躓き転ぶ。ここぞとばかりに飛び込んでくる蟻達にファイアストームをぶち込む、熱い熱い熱い!あまりに至近距離で展開された魔法は使用者である俺自身にも被害を及ぼした、火傷の痛みを堪え、再び走り出す。止まれば死ぬと分かっているから。

 

「ファイアストーム!ファイアストーム!ファイアストームファイアストームファイアストーム!」

 

なんどこの言葉を口に出しただろう、無限にも感じられたその時間はついに終止符を打つ。

 

「ファイアストーム!」

 

代わり映えのしないその魔法は、しかし今までとは違う結果をもたらした。

狙った地点から吹き出したその豪炎は、敵を燃やし尽くした(・・・・・・)

 

火が収まったその場所に蟻は居ない、死体さえも!

 

「来たっ!!ファイアストームぅ!」

 

次も、そのまた次も、火炎は敵を燃やし尽くす。

 

【敵の防御の上から、確実に殺せるダメージを与えられるようになった】

 

簡単な話、ステータスが上がっただけの事。恩恵と違い更新も必要ないこのステータスは、蟻を殺し続けた成果を存分に発揮していた。

 

減っている、無限に思えた蟻達が。地獄が壊れていく。

 

気が付くと、蟻は消えていた・・・

 

「ハァ、ハァ・・・」

 

疲れを知らないはずの身体も、休息を求めている。倒れこもうにも、辺り1面に広がる魔石の海は俺の身体に突き刺さらんと機会を伺っていて、仕方なく重い体を動かし魔石を散らす。

 

「ふーーーっ・・・」

 

ドサッと倒れ込むと、全く感じていなかった頭痛が発生した。かなり精神面で無理をしていたみたいだ。

 

俺、調子乗ってたな。怪我なんて殆どしなかったし、俺の持ってるスキルなんかは正直チートに近い。どこか頭の隅で楽勝楽勝、なんて思っててこんな序盤に死にかける俺は、間違いなく大バカ野郎だ。フロッグシューターの時も痛い目見たってのに学ばない奴、正真正銘の凡人、スキルを持ってるだけじゃないか。本当に調子乗ってた。

 

自責の念が込み上げてくる、それに合わせて火傷も存在を主張する、そう言えば自爆してたんだ。頭痛と相まって、身体を動かすのが本当にシンドい。

 

仰向けのまま商店を開き、ライフポーションを購入する。所持金は10830ゴールドで、ライフポーションは500ゴールド。マナポーションは800ゴールドだ。

 

飲み込むと、ミント系のスッキリ感と共に痛みが引いていく。お陰で一息つくことが出来た。

未だ動きの鈍い体だが、魔石を回収しなくてはならない。時間感覚なんてものは無くなってしまったがかなりの間戦っていたのは間違いない。その間に置いてきた魔石も回収することを考えると外はもう夜遅くになるだろう、それに魔石を置いていてモンスターがうっかり口にしてしまったら、強化種が現れてしまうと聞いている。早急に回収せねば。

 

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落ち着いた状態で念じれば、自分の周りにあるものはストレージに格納されるのでいちいち腰を下ろして拾う必要はない、広場の物を格納し終え、盾を装備しなおし、今は通路の魔石を辿っている所だ。この怪物進呈(パスパレード)で他の魔物は軒並み飲み込まれて行った用で、パラパラと別種のドロップアイテムを見かける。幸い・・・未だ他の冒険者の遺品には出会っていない。俺の馬鹿に巻き込まれて死んでしまった冒険者がいるかもしれない事を考えると申し訳ないなんてものじゃない。

 

今考えると、他の冒険者に鉢合わせしなかった幸運、狭い行き止まりに追い込まれなかった幸運、それらのお陰でどうにかこうにか生き残ることが出来た、本当に、神様に感謝しておこう。

 

 

 

 

どれ程辿ったか分からない、だが全力で走り回っていた道を歩いて遡っているのだから時間がかかるのは仕方がない。

足元の魔石が消える瞬間を眺めながら歩を進めていると・・・

 

「「あ」」

 

冒険者に出会った

 

茶色のショートヘアの軽装の女の子、可愛い系で、しかしどこかスレた雰囲気を感じる。

そんな事はどうでもいい、重要なのは

 

そいつが俺の倒したキラーアントの魔石をバックパックと服がパンパンになるほど回収しているという所だ。

 

ある程度選別して集めているのか後ろにはまだまだ魔石が転がっているが。

 

「・・・オイ」

「あ、どうもー・・・もしかしてこれらを討伐なさった御方で?」

 

自分でもビックリするぐらい低い声が出た、女の子は怯えながらも此方に質問をしてくる。

 

「そうだ」

「あーそうですかー・・・」

 

シュバッ!

女の子、いや、女は瞬時に身を翻し逃亡を図る。一瞬面食らった俺だが即座に全力ダッシュ。

 

「待てゴラァァァァ!!」

「にゅあぁぁぁぁ!?」

 

速い、追い掛けて感じたのはその一言。レベルも上がり、敏捷も人間離れしているはずのこの俺が追い付くのに5秒もかかってしまった。さて、コイツをどうするか・・・

 

「に、逃げ足には自信あったのに・・・」

「オイ、今すぐ盗ったもん全部出すか俺に身ぐるみ剥がれるかを選びやがれ」

「出します、今すぐ、迅速に。ハイ」

 

バックパックをドサーとひっくり返し服の中にぶち込まれた魔石も服を捲りあげガシャンと落とす。その際瑞々しい少女特有のお腹が大胆に晒されるも、不機嫌の最中にいる俺には関係無かった。

 

「あ、ちょちょちょちょっと待っていただけられらる無いでしょうかコレぐらいの魔石は私がちゃんと稼いだものなのでございまする」

「知らねぇよ」

 

女が何やら戯言を抜かしたが俺には関係ない。早く帰りたい一心で目の前に積み上がった魔石、ドロップアイテムをストレージでサッと回収する。

 

「え!?な、なにそれ!?」

「あ」

 

しまった・・・つい目の前に他人がいることも気にせずストレージを使っちまった・・・。クソ、また面倒くさい事になった・・・

 

「え、え!何それ何それ!マジックアイテム!?レアスキル!?魔法!?そんなの聞いたことも無い「黙れよ」・・・ハイ」

 

イライラがどうにも抑えきれず強く当たってしまう、こんな気分は直ぐには収まらない、寝てリセットしないと酷くなる一方だと言うのは経験則で分かっている、女のせいで少し無駄に進行してしまったのでさっさとさっきの場所に戻って集め直しだ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

着いてくる、・・・誰がって?さっきの女だよ。かなり後ろの方を歩いているが、尾行が下手くそなのか俺が後ろを振り向いた瞬間思いっきり目が合った。女は直ぐに身を隠し、俺もその時は気にせず魔石の回収作業に戻った。もうアイツには見られてるからいいわ。

ポツポツと出て来たモンスターを盾で殴り殺しながら先へと進む、キラーアントは在庫切れでもしたのか出てきていない。

 

長く続いた魔石の道は終わりを迎えた、最初にキラーアントを仕留め損ねたあの場所に戻ってきたのだ。ぽつんと置かれた鉄の剣がその存在を主張している。はー、本当に疲れたー・・・

 

「お、お疲れ様っ」

「あ?」

 

振り向くと、あの女がいつの間にか目の前まで来ていた、何コイツ。

 

「えぇーとですねー・・・ちょっと、本当にちょっとでいいんで私にお恵を頂けると・・・、稼ぎがゼロなのはキツイのですホントに」

 

・・・殴ってやりたい衝動に駆られるが、無言で30程魔石を放り出す。時間を置いても脳が落ち着かない。

 

「ありがたき幸せ・・・所で提案なのですがパーティメンバーを募集していたりは・・・」

 

・・・ぶん殴ってやりたい衝動に駆られるが、ひとまず、ひとまず冷静ぶった思考を巡らせる。

いきなり何を言い出した?パーティメンバー・・・つまり俺とパーティを組みたいと?

正直言って今の自分を客観的にみるととても命を預ける相手として良い相手(・・・・・)とは言えない、強さはあるかもしれないが、何か事情でもあるのか。

 

「金がいるのか?」

「そうですねー、ちょっと、ファミリアの方で、ええはい」

 

ファミリアで、金が入り用。もしかして・・・確証は無いけど。

 

「ソーマファミリア?」

「え?」

「アンタ、ソーマファミリアなのか、アソコの冒険者は金に汚い」

「いや汚いって・・・(そうだけど・・・」

 

小声で何かを呟く、俺は難聴系では無いが聞こえなかった。

 

しかし、この女をソーマファミリアの人間として見ると・・・そこまで酷いように見えない。ファミリアの弱者を食い物にしていたカヌゥに比べ、そこまでの必死さを感じられない。

 

勝手な想像だけど・・・ファミリアを抜けたいのかもしれない。脱退には何百万とヴァリスを要求されるクソーマファミリア。もしそこから抜け出す手助けが出来たら・・・

 

俺は考える、馬鹿な俺でも人助けが出来るのかと。コレは調子に乗る事に入るのか?女の子を救済するのは主人公の特権だろう?

 

・・・目の前で所在なさげに佇む少女に1つ問い掛ける。

 

「ソーマファミリアを気に入ってるか?」

 

少女は少し面食らった顔をするも、即座に答える

 

「まさか!・・・クソッタレなファミリアだよ」

 

その言葉を聞いて、俺は心を決める。調子に乗らない程度に、俺に出来る限りのことをしよう、と。

 

「これから宜しく、俺は・・・、レイニーだ」

「え、ホントに?嬉しい!あ、嬉しいでございやす!」

 

さっきから度々忘れていた、絶妙におかしな敬語を再装備し、ぴょんぴょんと跳ねる。可愛い。1人では癒せなかった苛立ちが収まっていくのを感じる。前世では女の子と縁がなかったからこんな解消法があるなんて知らなかったわ。


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