「あっ、ハエ」
「うそっ!?どこどこ!?」
誰もが学校で体験したことがあるだろう。
教室にハエが入ってきて、授業そっちのけでハエを追い払うのに徹する事を。
だが、みんなの、俺の周りは反応が違う。
「ハエ様~!こっちへ、こっちへ来てくださ~い!」
「いいなぁ、俺もハエに生まれたかったなぁ!」
みんながハエを崇めている。
それも、昔のアイドル並に。
誰もが席を立ち、少しでもハエに近づけるように手を伸ばす。
「お前らやめろ!ハエ様に迷惑だろうが!」
「そうだぞみんな!見ろ、
「委員長人の事言えてないっすよ」
少年全員がハエに憧れ、少女全員がハエに恋い焦がれる。
ある日を境に、そうなってしまった。
俺が病気(多分風邪だろう)で倒れて、学校に行かなかったその日を境に。
空から大量のハエが進行してきて、その日から皆がおかしくなった。
たかだか、ハエ一匹に。
あの日の前は、嫌っていたハエに。
「やめろ!ハエ様に嫌われても知らんぞ!」
「「「「はぁ~い」」」」
先生が渇を入れ、みんなを席に座らせるが、未だみんなの頭はハエでいっぱいだ。
ハエの羽音がする度に、シャーペンがカタカタと震えている。
くそったれが。
内心でそう悪態をつく。
ニュースを見ても、やれ『ハエの発情期』だの、やれ『ハエ主演の映画が放送開始』だのとほざいている。
テレビショッピングでは『ハエの抱き枕』や『ハエの模様の服』などが売られており、バブル世紀よりも酷いことになっている。
学校の授業が終われば、未だ居座るハエの元にかけより、弁当を献上したりだとか、褒めちぎったりしている。
やってられないとカバンをもって外に出る。
この高校、もともとは由緒正しい高校だったのに、見てホラこの制服、校章がハエのシルエット。
なにもかもがハエ、ハエ、ハエ…。
おかしくなりそうだ。
「おい見ろ!ハエ様だ!」
「きゃーっ!ハエ様よーっ!こっち向いてー!」
俺はハエが好きなわけではないので、ハエが来たと言われるとビクッとなってしまう。
なんとか反応しないように家路につこうとすると、目の前をダンディーなおっさんがふさいだ。
「…あの」
「話がある」
「…はい?」
「さっき、アレが出たと言われたとき、お前さんの目には喜色が無かった。もしかして、お前さんは【常識のある人間】なんじゃないかと思ってな」
おっさんはハエの飛んでいる方向をチラリと見ると、少し顔を歪める。
…この人、もしかして。
「…聞きましょう」
俺と同じ、ハエの洗脳にかかってない人なのかもしれない。