火薬がはぜる音がする。
遠くには緑の液体にまみれたなにかとそれに駆け寄る女の姿。
いまだに震える腕を押さえながら、全力で家に走る。
最初のハエと合わせ、これで12匹は倒した。
順調だ。
前よりかは仮面を取り繕うのも上手くなってきた。
「さてと。そろそろ11時か。寝よねよ」
軽い言葉で平然を装い、ジョギングも兼ねて家に走る。
玄関の鍵は閉めてある。開けようとすると大きな音がするので、開けるのはよろしくない。
じゃあ、どうするのかって?
家の庭に回ると、そこにはベランダからロープが垂れている。
玉も作ってあるので比較的登りやすい。
「ハァッ…ハァッ…!」
それでも比較的登りやすいというだけで辛いには辛いんだけどね。
なんとか部屋までたどりつき、ロープを回収。
ふいに、ポケットの中に振動を感じた。
「ん、着信?」
見れば、古部さんからだ。
明日、会合を開くらしい。
そうと決まれば、今日は寝よう。
と、その前にお風呂お風呂~♪
◇
例のバーにて。
俺たちは自らの武装を持参していた。
「いいニュースと悪いニュース…っていっていいのかわからねえが、どっちがいい。良いニュースか、微妙なニュースか」
「えっと…じゃあ、いいニュースで」
おずおずと手を上げ、いいニュースからリクエストする。
リクエストを受けたコブさんは指をパチンとならした。
と、なにやらカウンターの奥から布の塊がやってきた。
この身長…アシアちゃんか!
「今回、アシアがお前らのコスチュームを作ってくれた」
「ええ!?わぁ、アシアちゃんすごーいっ!!」
「そのまえに…助けて…」
「家庭科の授業で作ったんだそうだ」
「え、助けていうてますけど。え、これ助けるべきなの?嬉しいけど」
よたよた、ふらふらとうごめく布の塊を持ち上げると、中からアシアちゃんがすぽんっ、と出てきた。
「あーっ、可愛かったのにー」
「む。ヒバリのだけ没収」
「すみませんでしたアシア様」
どうやら服であるらしいこれを分解、しっかり畳むとなるほど、ちゃんと全員分。
俺のは…
「ん。これ」
ほうほう、シックなコートと来ましたか。
内側にガンホルダーがついてる。
フェザーを入れるためのやつか。
「へぇーっ。すごい!可愛い!最高!」
「んふふ。はい、ますたー」
「…私の分まであるのですか?ありがとうございます」
「これも。じいさんの」
「ほほう。俺のこすちゅーむ、とな?」
にやにやしながらコスチュームを渡すアシアちゃんに癒されていると、ふいに古部さんが机をドン、と叩いた。
いきなりのことにその場に静寂が訪れる。
「コスチュームの鑑賞会は、後にしようや。それはいいニュースと関係ない」
「では、悪いニュースをお願いします」
「……最近、近辺で発見されるハエの数が極端に減っている」
「んぐッ」
オレンジジュースを吹き出しかけた。
俺じゃん。それ、俺じゃん。
そんな俺の内心を知らず、ヒバリさんはのんきに手をあげる。
「はいはーい。それ、いいことなんじゃないの?」
「いや、いいことにはいいことなんだが…目的がわからない。銃で殺されているようだし、ということは銃を作れる、もしくは手に入れられる環境にいる人物、ということだ。でも、俺のリストに正気を保っている軍の人間はいやしねえ。つまりは、俺たちの知らないところで、単独でハエに抵抗している人物がいるって事だ」
んんんんwwwww違うでござるwwwww
すべて拙者でござるよwwwww
そんなこと言えるはずもない。
必ず怒られる。
ハエ退治はリスクを伴う。
人に見られたらおしまい、かつその周囲にも被害が及ぶ。
よって、俺は仮面を被る。
「そんなやつが、いるんですね。できれば、ひきいれた方がいいのでは?」
「ああ、そうなんだがな…そいつは、狩場も時間も不定期なんだ。場所の特定のしようがない」
その日の課題を終わらせてから狩りに行くからだ。
「ニュース番組なんかをみると、最近ハエがよく殺されてるって話しか出てこないしよ」
「…ふむ…正体不明の暗殺者、ですか」
そんなビッグな存在じゃないです。
「でもなんか…憧れるよね。ハエに襲われそうになったところを、助けてもらう、みたいな」
「ん。ロマンチック」
そんな度胸ありません。
「ここまで殺って、尻尾を出さないところが良いのう。俺も、一目見てみたくなったわい」
だす尻尾がないです。
警察の庇護下で裏をかいて撃ってるだけです。
ああ、無情。
誤魔化すようにオレンジジュースを喉に流し込んでいると、急に店に電話が入る。
いつものようにヒバリさんが手に取り…
「みんな、出動だよ」
「応!!よし、すぐに行くぞ!」
「その前にッ!!」
出ようとしたコブさんをヒバリさんが声で止める。
「せっかくだから、コスチューム着ていこ?」