「くふ……まさか僕を倒すなんてね……」
緑の血を口から吐き、ハエの王様……の、幹部が地に倒れ伏す。
「せいぜい油断しているといい……僕は三天王の中でも最弱……」
「それ自分で言うのか。言ってて悲しくないか?」
「だいぶ……虚しい……」
俺の言葉に律儀に答えてくれるハエ。
ずっと苦しむのも地獄だろう、俺はフェザーを取り出してハエの頭にぐりぐりと押しつける。
「言い残すことは?」
「……申し訳ありません、ベルゼブブ様……」
ハエは胸の前で手を組み、そして俺に撃ち抜かれた。
「ベルゼブブって、なんなんでしょうか」
「知らねえ。けど、一つだけ分かる」
コブさんは肩を怒らせ、俺たちに背を向けて車に向かう。
「ソイツを、殺さなきゃいけねえって事だ」
「コブさん……」
俺はその頼もしい背中に叫ぶ。
「出撃前から思ってたんですけど、チャック開いてますよ!!」
「ばっ、おま、それ先に言えよ!!」
◇
「お前なあ。どうしてこうもお前はシリアスをぶち壊すんだ」
「それはもう才能のレベルだからしょうがないと思います」
「ツッコミしてると思ったら今度はボケになるのか?なにか?オールラウンダーかお前は?」
「いやあ、照れますね!」
「褒めてねえよッ!」
はい、いつものバーで俺は正座で説教喰らってます。
ちなみに下には足つぼマッサージのアレが敷いてあるので、だいぶ痛い。
江戸時代の拷問かよって。
「お前、重り増やすぞ?」
「やれるものならやってみるがいい……。後悔するなよ?」
「よーし重り追加なー」
「スミマセンデシタ」
膝の上に弾丸等を作る際に使う鉄板が置いてある。
痛い、痛いよこのおちゃめダンディがよぉ。
「でもゴブさん、本当にベルゼブブってなんなんだろね?」
「ヒバリ。それ以上間違えるならお前もコイツと同じ刑に処すぞ」
「スミマセンデシタ。……いや、でも本当に。もしもそのベルゼブブがどこかからハエたちを召喚してるとしたら、中々に厄介だよ。忠誠を誓ってる相手らしいし、それに三天王とやらもあと二人いるんでしょ?」
俺は痛む脛を思いやりながら、コブさんを見る。
すっかり俺の事など忘れているコブさんは顎に手を当て、まだ見ぬ敵の事を考えているようだった。
「……とりあえずみなさん、飲み物をどうぞ」
「ん。こーひーぶれいく」
アシアちゃんは手にオレンジサイダーを持ち、ストローで俺の口に運んでくれる。
鉄板降ろしてくれるわけじゃないのね。
「んごく……なあコブさんやあ」
「んだよ」
「娘と奥さんになんかあったの?叫んでたっしょ」
「…………」
あれ。地雷踏み抜いたか。
と思ったが、コブさんはなんとかその重い口を開いてくれる。
「嫁はあの日から、毎日のようにハエに犯された。あいつもソレを受け入れていた。娘は……。いきなり俺の目の前に現れて、コイツが好きだとハエを紹介してきた。それだけならまだ耐えられるんだが……。あろうことか、あいつらは玄関先でヤり始めたんだ」
重ッ…………。
しかしそうか、コブさんにはそんな過去が……。
「……すまん、茶がまずくなっちまうよな。忘れてくれ」
「……コブさん。あなたがハエとの戦いに躍起になっている理由はわかりました」
「マスター……」
「……しかし、そのあとの『茶がまずくなっちまう』はいただけません。私も、一人娘をハエに捕られた過去を持っています。人それぞれ、理由はあるんです。あなたのその行動原理を、バカにする権利は私たちにはありません」
今明かされる衝撃の新事実。
マスターもそれなりの過去を追ってやがった。
「ん。私にはそんな理由はないけれど……。でも、ハエを倒したいって気持ちは一緒。一人じゃないよ」
「ったく、まだ若いくせに一人で背負い込もうとするでない。俺も、お前も、結局は同じってことだ」
「へいへいミスターゴブ!辛気くさいぜ!ゴブさんがそんなだと、この場が悪くなるんだよ!いつも通りのゴブさんで、気にせずにやっていこう!」
アシアちゃん、じいさん、ヒバリさんもコブさんを励ます。
……ヒバリさん?
ミスターコブは気にしてるからハエを倒してるんだよ?
理由忘れちゃだめだよ?
……とにかく。
「コブさんはコブさんです。こんな時なんて言ったら良いのか分かりませんけど……。そのコブさんの復習、お手伝いしますよ。いや、させてください」
「お前まで……」
「俺も、みんなも、手伝いますから」
「……ありがとな」
こらえきれない様子で後ろを向くコブさんに、俺はさらに声を掛ける。
「ところで鉄板外してもらっていいですか?」
「アシア。追加だ」
「ん」
「そんなああああああッ!?」