「そうそう、もうちょっと右……よし、ここで合ってる、アシアちゃん?」
「合ってる。ばっちぐー」
「おお、これだけで雰囲気でるもんだな」
「華やかじゃのう」
後ろからの声を聞き、体をそらして改めて引きから眺める。
『バー風喫茶アルカトゥーレ』。
アシアちゃん監修の元、俺とヒバリさんで作った看板だ。
これからこのアルカトゥーレを拠点にハエを駆逐して行く上で、泊まったりしている場所がバーという場所では、親からの評価も良くないだろう。
知り合いの家ってことにしてるけど、まあ慎重にね。
「でも本当に良かったんですか?マスター。わざわざ店の名目まで変えちゃって」
そう。バーであったアルカトゥーレは喫茶に変わったのだ。
マスターは当初は隠れた名店バーをやるつもりだったらしいけど……。
「……構いませんよ。ハエを殺すためならなんだってします」
この人たち、自分たちみたいな洗脳を受けていない人のことを【常識人】って呼んでるけど、大概だよなぁ。
いつもタバコくわえてるトリガーハッピー。
涼しい顔で斬撃飛ばす老人。
火炎瓶アスリート投げ店長。
いっつもハイテンションランチャーJK。
モノ作りの天才幼女。
あれ、常識人って俺だけなのでは?
「ま、それならありがたいです。そっち降りますねー」
「お?お?そこは降りさせんぞ?」
「邪魔wwwww」
ヒバリさんが脚立を揺らしてくるけど、本気で危ないから止めてほしい。
諦めて脚立の上からジャンピング、足を痛めながらみんなで店に戻った。
「……そーいやマスター、どうして『アルカトゥーレ』なんですか?」
「あ、それは俺も気になるのう。教えてくれや」
「……なんとなく、ですかね」
まさかの理由無し。
でもまあそっか、店なんてそんなもんなのかな。
アルカトゥーレ、アルカトゥーレねぇ。
「アルカトゥーレってどんな意味なんです?」
「……意味とかは込めていません。店を開いたときに、なぜかこの名前が浮かんだのです」
「へぇ……アルカトゥーレって既存の言葉にあるのかな。調べてみよ」
ヒバリが携帯をいじりだす。
が、何が書かれていたのか、急に顔を青ざめさせた。
「やばい、やばいよみんな!」
「どうしたんだよ、急に。またセールとか行かないよな?」
「今回ばかりはね……。ハエだよ」
全員の表情が強張る。
ごくりと生唾を吞み、ヒバリさんの次の言葉を待つ。
「場所は、ここ。二番目通りの、その先の……」
「路地裏じゃねぇか。なんでそんなとこがネットに載ってんだ」
「待ってね、今詳しく読むから……『名もなき暗殺者君、君を待つ。人はいないから来て欲しい、とコメントしている』……だって。もしかして、ハエの王の幹部じゃない?」
「なるほどのう。ここ最近で大量のハエを倒している暗殺者……。そんな存在がいたら、倒そうと躍起になるのもわかるわい」
やっべぇ。
暗殺者=俺って、完全に認知されてんじゃんかよ。
取り繕わねば。仮面はどこだぁ。
「……暗殺者に加勢するのはどうでしょう?彼らは一体でハエ何十匹分の力を持っています」
「確かにな。それも良いかもしれん」
「いや、やめときましょう」
「どーして?渡瓶君」
「文面だけ見れば、暗殺者は幹部と知り合いなのでは?そうすると、加勢した場合僕たちも顔バレします」
必死である。
「なるほどのう」
「暗殺者が広範囲に影響を及ぼす武器───ヒバリさんのランチャーみたいのを持っていたら、逆に邪魔になってしまいますし」
「ん?ちょっと待てよ。暗殺者って、基本的に銃を使って───」
「それはハエの周りに人がいたからじゃないですか?今回はハエのみ、しかも普通のハエより力が強い。だったら、他の武器を使ってもおかしくないじゃないですか」
「一理あるなぁ……」
よし、釣れた釣れた。
ってかあれか、これ、俺はいかなきゃいけないのか。
うわあやだなぁ……。絶対ワナとかあるよ……。
「……ん。高みの見物?」
「そんなこと言うのやめてアシアちゃん」
◇
「まさか本当に来るとは」
「テメエが呼んだんだろがコラ」
「普通は罠を警戒するだろう?」
「あぁ警戒したよ、警戒したけどなんも無かったじゃねえかよ」
うん、普通にワナなんて無かった。
ここまで無警戒だと用心して来た俺がバカみたいじゃんかよ。
「で?俺を殺すって?」
「というよりは、生け捕りにして研究したいところだね。君と同じ体質の女もいるなら好都合。知ってるかい?」
「知らねえな」
「ふうん、いるのか」
やっぱり、こいつに嘘をつくのは不可能なのか。
アシアちゃんとヒバリさんは、俺が守らねば。
「【無限の連隊】、正式に能力の名前になったよ」
「ああそうかよ」
「そうだ。…無駄話はここまでにして、本当に君は僕に研究される気はないのかい?」
「あるわけねぇだろ自己中ホモ野郎」
「交渉決裂だな。……ッ!!」
幹部の姿がブレる。
次の瞬間には目の前に現れ、俺の首が強制的に横を向くのがわかった。
痛みにたたらを踏むと、向いた視線の先にはすでに足を掲げた幹部の姿が。
衝撃が俺を襲う。
格ゲーがごとく、コンボを決められる。
ふぇ、フェザーを取り出さないと……!
バテる雰囲気が全くない。
高速で飛翔し、俺に蹴りを食らわせぶべっ。
ひ、人を蹴ったらいけませんって学校で習わなかったんですかぁ!
……ハエに学校ってあんのか?
とりあえずは、せめて一撃入れないと…………!
俺は向こうを指差し語りかける。
「あ、そこ」
「え?」
「オッラーン!」
「ふぐあ!?」
だまし討ち。
「はははははっ!人間に騙されるとは、お主もアホよのう!」
「きっ、貴様!」
「ハエさんこちら、手の鳴る方へだ!」
痛む体に鞭打ち走る。
あそこへ、あそこへ行けば……!